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Pa 3 『等価の練成 1』
『 心に願いもつ者は
いざ、強く想い願わん。
等価の願いを潅ぎし者のみ
願いを叶えん。
さすれど心せよ。
等価の願いを持たざる者は
戻ること適わず。』
~ スローライフ ~
Part 3、『等価の練成』 H17、11/20 13:00
食事が終わりリビングに席を移して、
互いに向かい合って座った。
エドワードは、どこから話すかを考えているのか、
ロイが渡したコーヒーにも口をつけずに
カップを持ったまま、ややうつむき加減に
顔を下を向けている。
彼が話し出すのを待つ間、
じっと、1年間見なかった彼を見つめる。
引き絞られた瞳孔が、金色の瞳の中で
時に輝(ひかり)きらめいている。
焼けない体質なのか、白皙の顔には表情は浮かんでないが、
陰影をつけるように、
金の糸がほつれ、 人口の灯りの中でも輝きを放ちながら
彼の顔を彩っている。
自然の紅みを引いた唇からは、
今は何も語れる事は無いというように
硬く結ばれている。
こんな雰囲気を漂わせる彼を
以前も何度か見かける事があった。
思考を深く没頭させている時には
彼は よくこんな雰囲気を見せていた。
ロイは このエドワードを見ると
静謐な冒しがたい存在に彼がなってしまったような
気がして、不安になる。
彼は こうしていると まるで、
姿は若いままに封じられた老成した賢者のようだな。
時の呪縛から離れ、
静かに全てを見渡す。
何ににも干渉されず、
そして、自ら干渉する事を拒んだような・・・、
哀しい賢者。
こんなエドワードを見ると、ロイは無性に
その肩を掴んで揺り起こしたくなる。
「還って来い!
君は 私たちと同じ人間なんだ。」と。
ロイがそんな物思いを抱えながら
エドワードを見ていると
ロイの心中の焦燥を知らずに、
エドワードは静かに語り始めた。
「俺達が その手懸りを見つけたのは
その研究者の日記の中だったんだ。」
そう語りだしながら、
喉を潤すために、渡されたカップに口をつけて、
『あっ』と言う表情をした。
「覚えてくれてたんだ・・・、
サンキュー」
少し照れた風に、そして嬉しそうにロイに伝える。
エドワードは、コーヒーよりも ミルクの多いカフェオレが
好きだった。
ロイは きちんとミルクも温めて作ったカフェオレを
エドワードに渡してやっていた。
そんな彼に微笑んでやり、、
「手懸りとは、『賢者の石』のかい?」
と話を促した。
「そう。
その研究者自身は、ある日 忽然と姿を眩ましたんだけど
その研究室は家族の人が、いつ戻ってきても良いようにと
管理して、そのまま在ったんだ。
で、俺達は その研究室に入る許可をもらって調べてたわけ。」
エドワードが言うには、
その研究者が生体練成を研究しているとの情報があり、
何か手懸りはと訪ねたところ、
数年前に 姿を消したままとなっていた。
家族の許可を得て、研究室に入って見たところ
膨大な 生体練成の研究書と資料が溢れていた。
屋敷が 無人になっていた事もあり、
しばらく そこで寝泊りをさせてもらいながら、
残された資料を調べて行くうちに、
彼が どうやら、人体練成を試みようとした事が判った。
そして、上手く行かなかった事も・・・。
「あんたも、知っていると思うけど
人体を練成するのに必要な材料は、
ごく有触れた物ばかりだ・・・、
唯1点を除いて。」
過去の自分たちが行った事を思い出しているのか、
そう語るエドワードの表情は苦しそうだった。
「ああ、ただ1点を除いてだな。」
そして、自分も過去に何度か考えた事がある人体練成を
思い出し、そうつぶやき返す。
「そうだ。
人体は、集めた材料で形成する事が出来るはずだ。
ただ、唯一で全ての魂の記憶以外。
それを補えさえすれば、理論上は可能なはずなんだ。
けど、それはあくまでも理論上ではだ。」
理論上では、過去にエドワード達が創り上げた練成陣も
完璧だった。
が、失敗した。
人体の形成さえ、理論上どうりには行かず、
魂は 戻ることは無かった・・・、
わずかな記憶以外。
人は死すれば、魂もリセットされて白紙に戻るのだろうか、
記憶の残像を わずかに残す以外には。
そこから先は、人の子には及ばぬ領域なのかも知れない。
「それで そいつは、俺らと同じ考えに至ったってわけだ。」
自分では出来なかった事にあきらめきれず、
他の可能性を探して行く内に、不可能を可能に出来る存在を知った。
「それは、古ぼけた伝記の中の ごく短い1章に書かれていた。
『 心に願いもつ者は
いざ、強く想い願わん。
等価の願いを潅ぎし者のみ
願いを叶えん。
さすれど心せよ。
等価の願いを持たざる者は
戻ること適わず。』
その伝記は、西方と北方の境の果てにあるような
村の物だった。
今は もう、誰も住んでない。
そいつは、そこを調べ上げてて、 そこに行くつもりだった。」
エドワードは、その事が記されていた日記を思い浮かべていた。
『マーカス! やっと見つけたよ。
これでやっと、君を取り戻せる!
もう少しだけ、待っててくれ。
僕は 君にずっと伝えたかった事があるんだ。
おお神よ!
30年に渡る私の願いがやっと聞き入れてもらえる時が!』
その研究者の日記は、全て
そのマーカスに語りかけるように書かれていた。
研究が上手く行かなかった事も、
調べた事が空振りだった事も、
過去の思い出を楽しそうに語るのも。
煩雑な部屋の中で、 そこだけがまるで聖地のように
きちんと置かれていた写真たて。
中には、仲良く肩を組み合う そっくりな男性が二人。
色あせた写真の中で、幸せそうに微笑んでいた。
「そいつが そこにたどり着いたかどうかは、
俺らには 判別はつかなかった・・・。
何故なら そこには、お仲間が多数有ったからだ。」
エドワードは、その光景を思い出したのか、
カップを持っていない手で反対側の腕を握り、
ぶるっと身体を震わせ、語り続ける。
広い洞窟の中は、壮絶な有様を見せていた。
おびただしいかずの白骨が、所狭しとひしめき合い
狭い洞窟の床を覆いつくし、もとの地面は見えないほどだった。
そんな中で、中央部分だけが
紅く光ながら ぽっかり空いている。
仄かに紅く浮かび上がっていた光は、練成陣の光だった。
そして、
その練成陣の真ん中には、鈍く光る紅い石が在った。
「兄さん、あれ!」
アルフォンスの驚きにうなずき返しながら、その石を見る。
そこには、見た事もない位に大きく成長した賢者の石が在った。
「アル、練成陣には 絶対に触れるなよ!
こいつにうっかりと触ると、全部あの石に吸収される。」
賢者の石は、成長しているのだった。
願いを叶えに来た人々を吸収して。
人は皆、自分の中に扉を持っている。
通常は開かないはずの扉だが、
錬金術師達は、その扉を開ける事が出来る。
錬金術を使う事によって・・・。
石は、その扉を開けさせて膨大なエネルギーを
吸収していたのだろう。
「とにかく、この練成陣を調べるぞ、アル。」
「うん、兄さん。」
長居したいような、出来るような場所でもないが
自分達が行おうとしている事は、
失敗して簡単にやり直せるような事ではない。
慎重に進めないと、ここで終わるわけにはいかないのだ。
二人は ゆっくりと練成陣の周囲を回った。
複雑な膨大な構築式が組み立てられている練成陣は
簡単には理解出来るようなものではない。
が、二人は 1つ1つを気が長くなりそうな時間をかけて
解読をしていった。
その7日間は、二人の妄執とも言える強さだけで
乗り越せたと言っても過言ではない。
異様な空間で、全て解読できる事があるのかと思わせられるような
練成陣を解読していく。
一人では 到底、耐えれない時間が過ぎて行く。
疲労の色を濃くしたエドが、最後の構築式を解読し終えた。
「終わった・・・。」
「解ったの? 兄さん。」
「あぁ、この練成陣は 間違いなく発動する。
石に繋がって力を引き出す事も出来る。
ただし、繋げれなければ 全ての力を逆に吸収される事になる。」
じっと練成陣をにらみながらエドは答えた。
「そして・・・。」
言うべきかを悩んでいる口を閉ざしたエドに、
「一人では発動させられないんだよね?」
「アル・・・。」
エドは、のろのろとアルの方を向いた。
解読は、1つ1つの構築式を判別するのをアルが、
そして、その構築式が何の役割を果たして、
どこに繋がるかを確認するのがエドの分担だ。
ひらめきや 勘が必要な錬金術では、
天部の才を持っているエドの方が読み取る力が大きい。
「僕にも、それ位はわかったよ。
だって、この練成陣の中には いくつも 全く同じ構築式が交差して
組まれていたからね。」
二人は、一旦 この場所を離れる為に出口へ向かった。
道すがら、エドが解読した内容を話す。
「あれは、連鎖で動く練成陣だ。」
「連鎖?」
「そう、互いの力を交差させ、
増幅させて石に繋がるようになっている。
それだけなら、そう難しい事じゃーないが、
やっかいなのは、交差させる要に「等価の願い」が組み込まれている。」
「等価の願い?」
「あぁ、普通 錬金術は純粋な力だ。
だから そこには、想いは存在しないし 必要は無い。
けど、あの練成陣には それが必要不可欠になっている。」
まるで、願いを叶えたくば
身体だけでなく、心も差し出せとばかりに。
けど、人とは自分自身でさえ矛盾して生きている生き物だ。
純粋な等価の願いを持っている者も、
複数で 等価の願いを持てる者達もいない。
そこには、わずかながらも邪心や願望、欲望等の
願いが混ざり合う。
が、あの練成陣は それを受け付けない。
全く純粋で、1mgの違いも無い等価の願いでないと
術は失敗に終わる。
暗い洞窟の道を出ると、明け方に近いのか
うっすらと東の空が明るくなっている。
エドは 久しぶりの外の清浄な空気をすいこみながら、
明け行く空を見つめていた。
「兄さん、良かったじゃないか。」
エドの物思いを破るように、不意にアルが明るく声をかけた。
「アル?」
「だって、等価の願いだろ?
僕達は それ以外に持ってないんだから、
大丈夫だよね。」
表情の見えない鎧の姿のアルの気配が微笑んだように
エドに語りかける。
「兄さん、戻るときは二人で一緒にだよ。
確かに兄さんくらいの力なら、
もしかしたら、一人で発動させる事ができるかも知れない。
けど、僕達は二人で探し続けてきたんだ。
二人でないと、兄さんの想いも半分になっちゃうよ。」
優しく賢い弟は、兄が何を思い、どんな事を考えるかを
きちんと理解していた。
そして、絶対にそうさせないつもりだった。
「兄さんが 一人で術に望んだら、
僕も その後に一人で望む!
兄さんを取り戻すために。」
「アル!
あの練成陣は 一人では危なすぎ・・・。」
言いかけて はっと口を閉ざした。
「そうでしょ?
やっぱり二人でないとね。
兄さんを一人になんて、危なすぎて。」
かすかに笑いを含んだ声で揶揄ると、
誰が お使いも一人で出来ない子供か~!と突っかかってくる。
僕別に そんな事まで言ってないでしょと返す二人の日常。
登ってきた朝日を眩しそうに見たエドが、
迷いが無い瞳でアルを見つめる。
「そうだな。
俺達は ずっと二人で願いを叶える為にやってきた。
戻るときも一緒だ。」
そう言い切って、アルに向けたエドの笑顔は
アルの記憶に深く残る 綺麗で強い微笑みだった。
[あとがき]
な・長い・・・。
すみません、長くなりすぎたんで 一旦切ります。
続きは 『等価の練成 2』で!
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