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Pa 19「過去に繋がるもの」
~ スローライフ ~
Pa 19「過去に繋がるもの」
「あんたら、なにやってんの。」
侮蔑と脅しをかけた声音で、エドワードが声をかけた。
~ 人には誰しも触れられたくない思い出の1つや2つはある。
自分が、懐かしみ思い出すなら何の問題も無いことも、
現実に その目の前に突きつけられたときに
果たして 懐かしむ事が出来るのだろうか・・・。~
エドワードが、その通リを歩いていたのはたまたまだった。
いつもは、治安と風俗的にあまり良くない地区で、
ロイからも、近づかないようにと言われていた事もあり、
今までは 通ることもなかった。
今日は たまたま 急いでいた事と、出先から
その道が近道だった為に偶然通りかかったのだ。
その時に 前方を歩いている女性が、
いかにも『迷いました。』の看板を下げて歩いているのが目に入り
危ないな~と考えていた矢先に、
数人の男性に囲まれ、「あっ」と言う間に路地に連れ込まれてしまった。
「はぁ~」と頭を抱えたくなったが、見捨てておけるわけもなく
その路地に飛び込んで行ったのだった。
「ひょ~、こらーえらい別嬪さんの飛び入りじゃーねえか。」
最初に声を上げたのは、ガタイのでかい、品の無さが丸わかりの男だった。
「誰が、別嬪さんだ!」
男の言葉に憤慨して言い返すエドワードに、
男達は キョトンとした顔をしたが、
威勢のいいお嬢ちゃんだと、爆笑の渦を巻き起こしていた。
「いや~、いいねぇー。
これ位鼻っ柱の強ええ方が 俺は好みだね。」
いやらしいニヤニヤ笑いを浮かべながら、その男はエドワードを
無遠慮にじろじろと見回す。
虫唾が走るような視線に、不快感を湧き起こさせられ
エドワードが、忌々しそうに告げる。
「あんたらが、何を勘違いしているのかは
腹が立つ位 想像できるけど、
俺は お・と・こ・だ!」
エドワードの発言に、数瞬の間が空き
しばらくの間、男達の失礼な視線にも耐えた。
「どうりで、えれぇ胸が無いと思ったぜ~。」
と、ビックリしたと言う様に言う男に
あってたまるかとは思ったが、ここで敢えて口には出さずにいた。
「まぁ別に、俺ら性別には拘らない心の広~い持ち主だし、
あんた位 別嬪なら 問題ないしな。」
と 仲間に同意を求める。
「ああ、それに小っせえから女と変わりないしさ。」
と横の男が口に出したときに、エドワードのもともと太くない
堪忍袋のヒモが プチンと切れた。
「だ~れ~が、男にあるまじき小人サイズだぁ~!!」
その後は、エドワードをよく知っている者なら
何度も目の辺りにしてきた、阿鼻叫喚の図が繰り広がられた。
「いいか、お前ら。
今後、こんな事をしようと考えたら、どうなるか覚えとけよ!」
聞けるような状態ではないズタボロの男達に、
ふんっとばかり鼻息も荒く言い放つと、
隅で背を向けて小さくなっている女性に、やっと気がついたエドワードが
内心『しまった、忘れてた・・・。』と焦りながら、
倒れふした邪魔なモノを蹴り避けながら、
なるべく、脅かさないように傍に寄って声をかける。
「大丈夫か?」
出来るだけ、優い声音で声をかけてやると、
顔をおおっていた手を離し、躊躇いがちに顔を上げて
エドワードの方を向きなおした。
その瞬間、エドワードの世界が止まった・・・。
『母さん・・・。』
執務室で仕事をしているロイは、先ほどから
進まないペンを持ち、目に入っていない書類を眺めながら
物思いに耽っていた。
こういう時は、嫌いな書類仕事も ごまかすには丁度良い。
何があったんだろう・・・。と、
昨日から様子が変なエドワードの様子を思い浮かべる。
昨日、ロイが自宅に帰ると
いつもどうりエドワードが迎えてくれて
食事の準備が出来ている事を伝えてくれた。
今日は、何が食べれるのかと嬉しい気持ちでキッチンに入ると、
エドワードが、今日は先に休むと言って自分の部屋に入ってしまった。
その事に軽い驚きと衝撃を受けて、
ロイは しばらく呆然としていた位だ。
エドワードは、ロイが帰宅する日は よほどの事がない限り
待っていてくれ、食事を一緒にする。
美味しい手料理を食べながら、その日あった事を交換する時間は
ロイにとっては1日の癒しの時間だ。
何か不興を買って、また怒らせてしまったんだろうかと考えると
思いつくことが多すぎて、背中に冷や汗が流れるが、
エドワードの様子は、そんなロイの行いにたいする怒りのような感じでもない。
・・・なんとなく、酷く彼が落ち込んでいるようだが・・・。
何があったのか、エドワードの部屋の扉を叩き聞きに行きたいのを我慢して
まんじりと朝が明けるのを、熟睡も出来ずに過ごしていた。
今朝は、普通に振舞っていつもどうりの様子だったが、
あきらかに無理が見え隠れしている。
面と向かって聞き出したくとも、エドワードは自分が話さないと決めた事は
なかなか口に出してこない。
大学で何かあったのかと思うが、あったとしても エドワードなら
大抵の事は切り抜けれるし、問題にもならないだろう。
見えない不安を抱えるという事は、ひどくロイを疲れさせる。
自分の事なら、どんな不安にも恐怖にでも怯む彼ではないが、
エドワードの ほんの些細な事にでも感じる不安は、
ロイの心に動揺と焦燥を生み出して、広げてしまう。
今日、帰ったら さりげなく、聞いてみようかと力なく思っていると
扉をノックされる音が響いてきた。
「入れ。」
今まで きちんと仕事していましたのふりをしながら
ロイが入ってきた者に答えるが、
入ってきたのが、観察眼のするどいホークアイ中佐では
それが、効を奏する事は無理のようだ。
案の定、チラリと机の上の進んでいない書類を冷たい目で一瞥すると、
「中将、こちらが憲兵より上がって参りました。」
と、1枚の報告書を差し出す。
中佐の冷たい視線に、居心地悪く感じながらも
中佐が 差し出した報告書を妙に思いながら受け取る。
通常、憲兵からロイに直接報告書が回ってくる事等ありえない。
変に思いながらも、受け取った書類を読み進めると
ロイの顔に、納得したような表情が浮かんだ。
「おやおや、エドワードは 昨日、大活躍だったようだな。」
苦笑混じりに言葉を出すと、
中佐も、同様の表情を浮かべてうなずいている。
「憲兵の方から、過剰防衛だとの警告も入っておりました。」
可笑しそうな笑いを我慢しながら、ホークアイ中佐が告げてくる。
ロイも、笑いながら
「まぁ、どうせ 叩けば埃の十や二十も出てくるような輩達だろう。
対した問題でもないな。」
憲兵の警告など、全く歯牙にもかけずに
ロイは、読み終わった報告書をつまらなそうに「不要」BOXに
放り込む。
「はい、そう思いましたので、憲兵には その旨を伝えて
報告書の書き直しと、提出先を間違えないように注意しておきました。」
すました顔で、そう報告してきた中佐に
ロイは、にやりと笑い、
「ご苦労。」と一声かけて労を労うと、退出するように示す。
仕事の速い、優秀な彼女は ロイの行動にも精通している。
不要な仕事は 極力ロイに回さずにしてくれる仕事振りは
ロイにとって、本当にありがたい存在だ。
彼女が 扉を閉めて出て行った後に、
不要BOXに捨てた報告書に チラリと視線をくばる。
この件で、エドワードの様子がおかしかったのだろうか?と
思ったが、すぐに こんな事ではないだろうとも考える。
おかしいと言えば、この事をロイに伝えなかったエドワードの行動だ。
ロイの負担になるのをなにより嫌うエドワードが
憲兵沙汰になるような事を巻き起こせば
すぐさま謝ってくるだろう。
が、昨日は そんな事の欠片も口の端に乗せる事がなかったっと言う事は
それ以上に気にかかる事があったという事ではないだろうか。
『嫌な予感がする・・・。』
何とは言えない漠然とした不快感がロイの心中で広がって行く。
何もなければよいのだが・・・。
そう願いながら、優秀な副官の労を労うためにも
溜まっている仕事に手をつける事にした。
戻ったら エドワードに、昨日の報告書の件を聞くついでに
話を聞きだそうと思っていたロイだったが、
昨日は 帰る間際にトラブルが発生し、
結局、帰れたのは深夜もかなり回った時刻となってしまった為、
エドワードと顔を合わす事も出来ずに終わり、
今朝に至るはめになった。
「お~い、遅れるぞ~。」
そんなエドワードの声で、ロイは目を覚ました。
「・・・ああ、おはよう。」
いつもと変わらぬエドワードに ホッとしながら、
毎朝繰り返す挨拶をする。
「昨日、だいぶん遅かったんだろ?
お疲れさん。」
ロイを労わる言葉をかけながら、エドワードが部屋を出て行く。
キッチンでは 機嫌が良さそうなエドワードが
朝食の準備を整えていた。
食事をしながら、今日 やってくるアルフォンス達の話をする。
「夕方には、顔を見せるのかな?」
「うん、ウィンリーの荷物もちで来るから
二人ともあんまりゆっくり出来ないんだけど、
晩飯位は食べれる時間があるって言ってたしな。」
久しぶりに逢える弟と幼馴染を思い浮かべてか、
エドワードの表情も楽しそうだ。
「なるべく私も早く帰れるようにするよ。」
ロイが そう告げると、エドワードがじっとロイを見つめてくる。
「な、なんだ?」
もしかして、兄弟水入らずに邪魔だったろうかと不安になりそうに
なって聞き返してみる。
「いや、無理はするなよ?
あんた、こういう時は やたら無茶する事が多いから。」
ロイを心配してくれての事とわかり、ほっとなる。
「ああ、大丈夫だ。
君に怒られるのは堪えるんで、
無理しない程度に帰るようにするから。」
そうロイが言うと、エドワードも嬉しそうに
「わかった、待ってる。」と返事を返してくれる。
おとといの心配が杞憂だったのかと思うような
ほのぼのとした朝食の時間を過ごし、
それぞれが今日の夕方を楽しみに、家を出て行った。
「でさ~、ウィンリーちゃんともあろうものが、
とんだ失敗をしちゃったってわけ~。」
今回の急なセントラル訪問の理由を話してくれるウィンリーに
アルフォンスは苦笑し、エドワードはあきれた顔をして
話を聞いていた。
「お前、んじゃー その為にアルを荷物持ちに
呼び出したのか?」
「当たり前でしょ、こんな重いもの
乙女の私に持って帰れるわけないでしょ。
配達頼もうにも、納期が間に合わなくて
焦ったわよ~。」
やれやれという風に手の平を上に向けて、
肩をすくめて首を振る彼女に
エドワードの方が、やれやれという気持にさせられた。
この強い幼馴染の頼まれごとを断れたためしがない兄弟だった。
頼まれる段階から、すでに決定事項となっているのだから
逆らっても無駄な事は、長い付き合い上 見に染みている。
「アル・・・、お前も大変だったな。」
弟を慰める言葉をかけてやる。
「いいんだよ、おかげで兄さんに逢えたんだから
ウィンリーに付きあわせられるのも、悪い事ばかりじゃないしね。」
二人して慰めあう兄弟を、 侮蔑した眼差しで睨みつけ
ウィンリーは 嫌そうに言う。
「ま~た、あんたらは。
二人の世界に入っちゃって、何 言ってんのよ!
たまには、広い世界を見なさいよ。
そう思って、こうして連れてくる口実を作ってやっている
私の 広~い心に感謝して欲しいものだわ。」
私って、優しい~とか何とか自画自賛しながら
出された紅茶を飲み干している。
3人で過ごす、こんな懐かしい時間も エドワードが故郷を出てから
滅多に無くなった時間だ。
ウィンリーが はしゃぐように話に華を咲かせるのも
きっと、同様の事を彼女も思っているからだろう。
3人が そんな懐かしく、優しい時間を過ごしていると
玄関に止まる車の音で、ロイの帰宅を察したエドワードが
迎えに出て行く。
「戻って来たようだね。」
「エドって、いつも ああやってお迎えにでるわけ?」
何となく、自分の知っているエドワードと その行動が結びつかない
ウィンリーは 不思議そうにアルフォンスに訊ねる。
「そうだよ。
ウィンリー、これ位で驚いてたら 後が続かないよ。」
含みがある アルフォンスのセリフに、何が続かないのかと
聞こうとした時に、二人が一緒に入ってきた。
「やぁ、久しぶりだね。
二人とも元気にしていたかな?」
そうにこやかに挨拶をしてくるロイに
二人とも それぞれ挨拶と訪問のお礼を伝えた。
二人の挨拶を受けて、主としてお客をもてなそうと
その場に留まろうとしたロイに、
キッチンに入って行ったエドワードが戻ってきて、ロイに声をかける。
「ロイ、座る前に先に着替えてこいよ。
食事温め始めたから、もうしばらくしたら喰えるしさ。」
「いやしかし、折角 来て貰っているお客様をほおって置く
わけにはいかないよ。」
そう言いながら、ロイがエドワードの方をみると
「いいから。
俺がちゃんと相手してるだろ?
疲れて帰ってきたアンタが そんなとこまで気にしなくていいよ。
とにかく、着替えくらいしてこいよ。」
と、エドワードが笑って言ってくる。
「そうですよ、中将。
僕らは勝手に楽しくやってますんで。」
と、にっこりと極上の笑顔を見せながら、
言外に、中将が居なくても良いと含ませたアルフォンスの言葉に
ロイは ムッとした表情で「すぐに戻ってくる。」と行って着替えに行った。
「なんだ? 何、むきになってるんだ アイツ?」
アルフォンスとロイの関係が いまいち解らないエドワードは
首を傾げてつぶやいた。
そんなエドワードの傍で、アルフォンスは 澄ました顔で
「夕食、楽しみだね~。」とつぶやいている。
ウィンリーはと言うと、今の短い一齣で何やら察したらしく、
アルフォンスと、出て行ったロイの方を見比べて
『馬鹿みたい~。』と心でつぶやきながら、あきれていた。
食事は ある意味楽しいものとなった。
エドワードの手料理を、ロイとアルフォンスが交互に
褒め称えるので、エドワードも 褒めすぎだと言いながらも
嬉しそうにしていた。
4人の中で、唯一の女性である事に何の関心も払われずにいる
ウィンリーは、馬鹿な男達には混じらずに
ひたすら 料理を堪能する事に専念する事に決めたようだ。
「でも、エド。
あんた、料理が上手くなったじゃない。」
ロイとアルフォンスが、食べた事のあるエドワードの料理の事で
牽制しあって言い合っているのを横目に
エドワードに話しかける。
「そうか?
まぁ、作る回数が多くなってるんだから
下手になるよりいいけどさ。」
照れくさそうに言うエドワードに、
「これなら、すぐにでもお婿にいけるわよ。
なんなら、私がもらってやってもいいけど?」と
その場を凍らせるような発言をする。
今まで言い争っていた 男二人は、ピタッと口を噤み、
とんでもないことを言う娘を凝視する。
「冗談だろ~、
お前の婿になんかなって苦労させられるなんて
まっぴらゴメンだ。」
そんなエドワードの答えに、あからさまにホッとした
二人の男に、何やら腹が立つものを感じながらも
「こっちも、あんたなんかお断りよ。」と返しながら
心の中で悪態をつく。
『普通さ~、レディーに向かってあんな事言うのを
叱るべきじゃーないの?
それなのに、何よ あの二人の表情は。』
不満をぶつけるかのごとく食事を平らげるウィンリーに
彼女の心の葛藤など知る由もないエドワードが
さらに、追い討ちをかける発言を落とした。
「でも、お前。
よく食うな~、女のクセに。」
こめかみに青筋を立てるウィンリーの様子に、いち早く
危険を察知したアルフォンスが、
その場を取り繕うような言葉を告げ、
ロイも いつものフェミニストぶりを発揮して
ウィンリーのご機嫌を直す努力をしたおかげで、
エドワードは制裁を免れ、そして その後の食事はウィンリーを
中心に楽しく過ごせる事となった。
食事後、列車の時間までと リビングで団欒を過ごしていた時、
門から 玄関の来訪者のインターホンが鳴る。
「こんな時間に? あんたに軍からかな?」
不思議そうにロイに訊ねるエドワードに
「いや、それなら先に連絡が来てるはずだが・・・。」
そう答えて、ロイも首を捻る。
インターホンにエドワードがたどり着き、返事をする。
「はい、ええそうですが・・・。
ええ、俺ですが。
えっ、あの時の!
いや、別にたいしたことしたわけじゃないから、
お礼にって言われても、困るし。
わかった、とにかく 出るんで 待っててくれ。」
エドワードは インターホンを切った後、
無言で それをじっと見詰めている。
「エドワード?
学校の お友達かい?
なんなら、家に入ってもらっては・・・。」
様子のおかしいエドワードに、ロイがそう告げると。
エドワードは 黙ったまま 首を横に振ると
唇を噛み締めて立ちすくむ。
ロイがよく見ると、エドワードの手は固く握られており
わすかに震えているようだ。
「エドワード、どうしたんだい?」
ただならぬエドワードの雰囲気に、ロイは 思わず立ち上がり
エドワードの傍に歩み寄ろうとした。
が、足は止まったまま動かなくなる。
エドワードは、様子を窺う皆に 笑顔を向けて説明する。
「あー、ごめんな。
ちょっと、この前 困っていた所を助けた子から
お礼を伝えに来たって言われたんで、合って来る。」
そうたいした事ではないという様に告げてくるエドワードの顔は
蒼白だった。
その顔に無理やり笑顔を貼り付けて言うエドワードは
まるで、能面のような表情を自分がしている事には気づいていないのだろう。
「兄さん・・・。」
アルフォンスも 兄の様子をおかしく思っているのか、
躊躇いがちに声をかけてくる。
「へぇ~、助けたって 女の子?」
ウィンリーが興味津々に聞いてくる。
「ああ、そうだ。」
そう答えながら、出て行こうとするエドワードに
「へぇ~、あんたも捨てたもんじゃないわね。
どれ、私も見にいこぉ~かな~。」
軽い調子で、そう告げ終わるや否や、
「来るな!」
聞いている者 皆が驚くような強い否定の返事が返る。
言ってしまったエドワード自身、はっとなったような表情をし
そのまま、何かを言おうとして言葉を探していたようだが
何も 言わずに出て行った。
「な~に、あいつの態度~。」
憤慨するウィンリーの横では、
あきらかに様子のおかしいエドワードを心配した二人が
互いに顔を見合わせて、不安な表情を浮かべ合っていた。
エドワードは、玄関を出 門まで歩いて行く。
出て行きたがらない足が、門から玄関までの距離を
酷く長いものに感じさせるが、
今は 門まで長ければ長いほど良いと思う。
出来れば、そこには辿り着きたくないとさえ。
エドワードが出て行った後、残されたメンバーは
なんとなく、窓のほうに寄って行く。
このリビングからは、玄関は死角で見えないが
門は よく見通せるからだ。
真っ先に行動に出たのは、エドワードの態度が
照れ隠しだと腹を立てたウィンリーが
仕返しにと、やってきた相手を品定めしようとしたからだ。
ウィンリーは 窓辺に行くと、すぐさまエドワードの立っている門の外に
自分と同じくらいの女性が立っているのを見つける。
「へぇ~、やるじゃん。
助けられたお礼に挨拶ね~。」
そう言いながら、女性の顔を見て思わず黙り込む。
「えっ・・・、あの顔って・・・。」
急に黙り込んだウィンリーに 変に思ってアルフォンスも
女性の方をみてみる。
そして、目を見開いて その相手を呆然と見詰める。
黙り込んだ二人の様子よりも、エドワードと相手の様子が気になるロイは
嬉しそうにエドワードに話し込んでいる女性を観察する。
栗色の髪を背までたらし、優しそうな造りの顔に、
明るい笑顔を浮かべた その女性は、なかなか美人の部類に入る。
こうやって 並んでいるのを見ると、エドワードと雰囲気が似ているのか
妙にしっくりくる感じが、ロイにとっては癪にさわる。
ロイが そんな内心の苛立ちを隠し見ていると
横に立っていた二人から、小さな呟きが聞こえてくる。
「母さん・・・。」
「エドのお母さん・・・。」
エドワードの母親を知らないロイにはピンと来なかったが
この二人は違う。
「何だって?」
ロイが 詰問するように訊ねると
ウィンリーが、それでも門の女性から目が離せないまま
ロイに答えを返す。
「あの子、エド達のおかさんに そっくり・・・。」
「うん、おかあさんの若い頃って言われても納得できる・・・。」
アルフォンスが そう言いながら、懐かしさと苦しさを混ぜ合わせたような
痛む感情が目を絞らせる。
その言葉を聞いた瞬間、ロイには 今までのエドワードの変調の原因に
思い当たった。
そして、まるで憎む者を見つめるような目で 門に立つ女性に視線を投げると
ふいっと部屋を足早に出て行く。
「えっ、中将・・・。」
ロイの突然の行動に 驚いた二人が我に帰って声をかけるが、
すでにロイは その部屋を出て、その後 玄関の扉が閉まる音が
聞こえてくるだけだった。
アルフォンスとウィンリーは、急いで 窓から外を見渡す。
そこには、足早にエドワード達に近づくロイの姿があった。
「エドワード。」
そう自分を呼びかける声を聞いて、
その声が誰の声かを知ると、エドワードは体中の気が抜ける気がした。
そして、その声方向にの救いを求めるように視線をむける。
ロイは 自分の呼びかけに振り向いたエドワードを見ると、
今 彼が どういう状態なのかを一目で察した。
彼は、今 精神の限界ギリギリまで自分を追い詰めている。
まだ、懐かしがり その面影を追えるほど 癒されていない
体の奥底に沈めこんでいた傷が、パックリと口を開け始めている。
「エドワード、こんなに遅くに外で立ち話をするものではないよ。」
そう言いながら、さりげなくエドワードの肩を支える。
かすかに震えている肩は、ロイが手を置くと同時に
体中から ロイに縋るように擦り寄ってくる。
そして、ロイは その女性のほうを見、
「私は 彼の保護者のロイ・マスタングと言います。
あなたは一昨日の事件の時の?」
さりげなく、エドワードと女性の間に立ちながら
エドワードから 彼女が見えないようにする。
後ろにいるエドワードの気配が 緩むのを背中に感じながら。
「あっ、夜分に申し訳ありません。
私、ナタリー・ルブランと申します。
先日は エドワードさんに本当に助けられました。
ありがとうございました。」
はきはきと話、頭を下げてお礼を伝えてくる彼女には
普段なら ロイが好意を持てるタイプの女性だった。
が、今は違う エドワードを 少しでも脅かす者は
ロイにとっては 排除すべき敵であり、障害だ。
「そうですか、わざわざお礼をありがとうございます。
が、こんな時間に 女性がむやみに男性を訪問するものでは
ないでしょう?
もう、夜も遅いですから 気をつけてお帰りなさい。」
ロイに冷たく そう言われると、はっと気づいたように
ナタリーは 頬を紅くし、申し訳ありませんと頭を下げて
帰る旨を伝える。
「じゃあ、本当にありがとうございました。
あの・・・、また お会いする機会があったら
仲良くして頂けますか?」
ロイの陰で見えなくなったエドワードに、最後にと挨拶をする。
声をかけられたエドワードが、ぎこちなく笑い
「ああ、また逢う機会があったら・・・。」と
力なくうなずいた。
そのエドワードの言葉に 嬉しそうに帰っていくナタリーの姿に
ロイは 心配そうにエドワードを見る。
が、ロイのそんな気配や目線も 今のエドワードには気づけないようだ。
足早く家に入ると、気丈に振舞って 待たせた侘びと
列車の時間を告げてやる。
「兄さん・・・、
僕 今日、ここに泊まろうか?」
無理をしている兄を見ていられなくなったアルフォンスが
エドワードに声をかける。
「な~に、言ってんだよ?
明日までだろ、納期!
ちゃっちゃと帰らないと、ウィンリーに仕事の手伝いさせられて
朝までこき使われるぞ。」
「エド・・・、いいんだよ。
別に納期は遅れても問題ないし、
ここに泊まらせてもらうから。」
そう、ウィンリーもエドを気遣って言ってくれる。
「ば~か!
なーに心配してるんだよ。
別に 何もないし、どうってことないぜ。
ほら、さっさと帰る。
もう 出発まで、30分しかないぞ。」
そう言いながら、アルフォンス達の荷物を持ち上げ 押し付けて行く。
彼らを追いやっているエドワードに、ロイが小さく声をかける。
「エドワード・・・。」
その声が聞こえたのか、エドワードが ロイを睨む。
「何も言うな、何も聞くな。」と拒絶の色を浮かべて。
そして、その瞳の色に ロイは さらに哀しい気分に落ち込んでいった。
二人を追い出すように家を出させた後、
エドワードは 「休む」と一言告げて部屋に引き下がってしまった。
扉を閉める音が、まるで ロイには関係ないと告げているように聞こえる。
自分の立ち入れられない領域なのだとしらしめるように・・・。
「でも、驚いたな~。」
帰り道、アルフォンスが しみじみと言う様にウィンリーに話しかける。
「そうね、この世の中には 自分と同じ顔が3人いるって言うのも
あながち嘘でもないのね。」
「うん、お母さんに似てるのに驚いて
それどころじゃなかったけど、
大人しそうな綺麗な人だったよね。」
「大人しそう・・・・ね。
だから、あんたは 女の子を見る目が無いっていうのよ。」
アルフォンスに フンと鼻を鳴らして そう告げるウィンリーに
アルフォンスが 不思議そうに眺めていた。
『いくら助けてもらったお礼を言いたいからって、
電話連絡して相手の都合を確かめるでもなしに
突然、家を調べてやってくるってんだから、
大人しい人間なわけないじゃないの。
全く男は馬鹿だから、外見に騙されやすいんだから。』
そんな事を考えながら、後ろ髪を引かれる様な思いで
二人は セントラルを離れて行った。
誰もいなくなったリビングで、何をするわけでもなく
ロイは ソファーに腰掛けていた。
出来れば、エドワードの傍に行って 傷ついているだろう彼を
慰めてやりたいと思うが、
エドワードの拒絶した雰囲気が、ロイの足を打ちとめていた。
ぼんやりと、先程の事を思い出す。
ロイが 『エドワード』と呼びかけると
エドワードは、まるで縋りつくようにロイを見た。
自分では どうしようもない感情や、考えを持て余して
体中で悲鳴を上げていた。
『助けて、助けて下さい。』と音にならない声の無音の叫びを上げながら。
ロイは、何度も 何度も その時のエドワードの瞳を思い出す。
限界まで絞られた瞳孔は、
まるで 自分の感情が出るのを防ぐようしているように見えた。
その瞳には、涙は浮かんではいなかったが、
それは ただたんに、もうすでに無き果て 枯れ果てたからだろう。
時間と共に忘却の彼方に去るはずだった事を
現実として 突き詰められて、記憶は 生々しいほど蘇る。
思い出したくないのではない、見たくないだけなのだ。
痛みに慣れる事はなく、繰り返す痛みが 感覚と心を麻痺させていく。
まるで麻薬のように、その痛みが馴染んで行く。
エドワードのそれは、もうだいぶと奥深くに沈んで行ってて
本来なら、思い出す位では 簡単に浮上してくるようなものでは
なかったはずだ。
が、視覚から入るものは容赦がない。
見ずに済むようにしていた事を、気づかせ、知らしめる。
麻痺していた感覚と心が、また 新たな痛みに
脅かされる。
もう、2度とあんな痛みは御免だと願っていても・・・。
しばらく、浮かぶ エドワードの瞳を何度も繰り返し思い、
ロイは まるで床に縫い付けられていたような足を
引き剥がして、2階へ、エドワードの部屋へ向かう。
部屋の扉の前に立ち、静かに深呼吸をし ノックをする。
そこには、先ほどまでの躊躇いはない。
寝ているわけではないだろうが、中からは 何の応えもない。
「エドワード?」
静かに、はっきりと彼を呼ぶ。
中からは、静寂が返るだけ。
ロイは ノブに手をかけて回すと、
鍵がかかっていない扉はアッサリと開いた。
ロイは 開いた扉から、ロイがエドワードの為に用意した聖域に
足を踏み込んでいく。
この部屋は、エドワードの為だけの部屋で
ロイとて、おいそれと足を踏み込んだ事はない。
室内に入ると、暗がりが広がっていた。
暗闇に目が慣れてくると、ベットの中央が盛り上がっているのが見て取れる。
ロイは 静かに歩いていくと、
躊躇いなくベットに上がり、エドワードの形をしたシーツを
抱きしめてやる。
触れた途端、中にいるエドワードが ビクリと震えたが
ロイは構わず、さらに強く抱きしめてやる。
何も言わない・・・、
何も聞かない・・・、
何かしてやれる事もなく、
うろたえる事もなく
それでも離れず、
ただ、ただ 強く、受け止めてやる。
その体ごと、抱える想いも、痛みも、辛さも・・・。
君ごと 全て・・・。
小さく振るえ出した華奢な人型のシーツを、
ロイは 何も言わず、何をしてやるでもなく
ただただ、強く、優しく抱きしめ続けた。
やがて、小さく震えていた体が 静かに寝息をたてるようになるまで。
ロイは 健やかな寝息を聞きながら、
エドワードの眠りが妨害されることのないように見守る
守護者のように、じっと 傍に居続けた。
「起きろ~、遅れるぞ~。」
いつもの朝のように、エドワードの 少々 乱暴な起床に
ロイは、ガバッと起き上がる。
「おはよう!
早くしないと、朝食 食いっぱぐれるぜ。」
ニパッと笑いながら部屋から出て行くエドワードを見て、
昨日の事は夢だったのかと思うが、
ふと周りを見回すと、いつもの自分の部屋でなく
エドワードのベットの上だということが、
昨日の事が夢ではなかった事を告げる。
そして ロイは、安堵のため息をつく。
彼の瞳の言葉をきちんと聞け、理解できた自分の幸運を思い・・・。
~ 懐かしむには痛い思い出は、一人では見ることが出来ない。
ただし、自分を支え、守る人が抱きしめてくれるなら、
向かい合えるかも知れない、
乗り越して行けるかもしれない。~
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