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Pa 21 「 気づきの時 」
Pa 21 「 気づきの時 」
「えっ、借り出し中・・・か。」
大学の図書館で、お目当ての本を探していたエドワードが
調べてみると、借り出しの中の中に入っていた。
借り出し者の名前を見てみると、
ここ最近の馴染みの名前が書かれている。
馴染と言っても、別に知り合いではない。
こうやって、エドワードが読みたいと思ってる本が
借り出されているときに、名簿を調べてみると
その名前があるというわけだ。
エドワードは、結構な読書家で図書館利用率も高い。
ここセントラル国立医大の図書館は、
さすが、アメトリスに誇る大学だけあって
書庫の豊富さも充実している。
ここに通うのは、エドワードにとって 楽しみの1つだ。
「仕方ないな、他のを借りていこうっと。」
今日は、デイビットとアルバートを家に呼んでる事も有り
余り時間をかけれない。
待ち合わせの時間まで、そう間もない。
あきらめて、名簿を閉じて去ろうとしたところ、
「返却を頼みます。」
と横にやってきた青年が、本を差し出すのが目に入る。
すっと差し出された本の題名を目にして、エドワードが
場所に不似合いな大きな声を出す。
「あっ! その本・・・。
返却するのか?
なら、貸してくれ。」
今まさにエドワードが探していた本を、
ちょうど横の青年が差し出している。
横に立った青年は、そんなエドワードを見て
驚く事もなく、「わかった。」と返事を返した。
返却手続きを済ませると、司書にエドワードが借りる旨を伝える。
借り出しの手続きを終えると、エドワードは嬉しそうに
礼を伝える。
「サンキュー、ちょうど借りたいと思ってたんだ。」
エドワードが、そう伝えると 青年は 微笑みながら返事を返してくる。
「構わないさ、ちょうど返す時でよかった。
エドワード・エルリック君。」
名前を呼ばれたエドワードは、まじまじと相手を見ながら
納得したようにうなずくと、返事を返してやる。
「そう言うあんたは、レイモンド・ロウエル?」
エドワードが、自分の名前を呼んだ事を面白そうに方眉を上げて
肯定を示す。
最近、名簿で馴染の名前・・・レイモンド・ロウエル。
そっか、この男がと、エドワードが 奇遇にも本人と会う事になった機会に
確認をする。
エドワードに見られても、特に気にする風でもなく、
レイモンドは、穏やかに微笑を浮かべながら
エドワードを見つめ返している。
ひとしきり観察をすると、エドワードの好奇心も満足したのか、
「サンキュー」と声をかけて立ち去ろうとする。
「もう、観察は気が済んだかな?」
そう言ってくる青年の言葉が、妙に可笑しくて
エドワードは、笑いながら頷いてやる。
「あっ、気に触ったらゴメン。
名簿で あんたの名前を良く見てたんで、
ちょっと気になっててさ。」
青年が エドワードを促す感じで歩き出すと、
エドワードも 方向が一緒でもあるので、
そのまま連れ添って歩いていく。
「いや、構わないさ。
好奇心が大盛なのは、錬金術師なら当然だからね。」
そう、さらりと返された言葉に、エドワードは小さな驚きを
内心に浮かべる。
この大学で、エドワードが 鋼の錬金術師の称号を持つ
国家錬金術師であることを知っている人間は以外に少ない。
鋼の名称は、多くの人には良く知る名前だが
意外にも、鋼の錬金術師の姓名がエドワード・エルリックである事は
一般には広がってはいないのだ。
世間で公表をされる時には、名称での発表が通常で、個人名ではされない。
だから、鋼の錬金術師がエドワードである事は
実際に 関係があった人間だけ知りえる事なのだ。
エドワードの内心での驚きが見えたのか、
青年は 微笑を深くする。
「気にしなくていい。
俺は、もともと そちら方面にも興味があってね。
それで、人より詳しいと言うわけだ。」
「そっか・・・、まぁ 別に隠してるわけじゃないから、
知られててもおかしくないんだけどな。」
「ああ、少し詳しいものなら すぐにわかるだろうし。
まぁ、だからと言って吹聴する気もないから。」
やんわりと、広げない事を伝えられると
エドワードは、その心使いに感謝の気持ちを返す。
そうこうしていると、玄関先までやってきており、
エドワードが、待ち合わせの場所に行く為に
レイモンドに軽く挨拶をする。
「んじゃ、俺はあっちだから。」
「エドワード君、俺は レイモンド・ロウエル。
まぁ、もう名前は知っているようだけど、
宜しく。」
と手を差し出してくる。
エドワードも、いきなりの自己紹介に驚いたが
互いに名前は知っていても、面前での紹介は まだだった事に思い当たり、
自分も挨拶を返す。
「あっゴメン。 俺はエドワード・エルリック、宜しくな。」
差し出された手を取りながら、エドワードもそう返事を返す。
「ああ。
俺の方は、レイと呼んでくれ。」
「OK、俺はエドでいいぜ。」
そう返して、握手をした手を離すと エドワードは
待ち合わせの時間に やや焦りながら、立ち去っていく。
「じゃあ、また。」
そんな声が届いて、振り返ってみると
図書館に戻っていく、レイモンドの姿が見えた。
彼が、エドワードを送り出す為に 玄関まで一緒に来たのだと気づき
不思議には思ったが、少々 変った青年のようだから
それも有りかと、思い直して 歩く足を速めた。
いつもより、賑やかな食卓で、エドワードの手料理に大喜びの二人と、
友人と楽しげに話す様子を嬉しそうに見ているロイの4名の夕食は
男4人という事も有り、多めに出された料理も
あっと言う間に、それぞれの胃袋に収められた。
リビングで、食後のお茶を楽しみながら
ロイが聞きたがるエドワードの大学生活の話に盛り上がっている。
と言っても、盛り上がっているのは 3人で、
当事者のエドワードは、渋い顔をしながら
大げさに話す二人に、時に修正を加えながら付き合っている。
「お前ら、いい加減にしろよ!
別に、そんなに対した話なんかないだろ。」
エドワード自身は、1生徒として大人しくしているつもりでも、
もともと台風の目のような存在感を出している彼が、
周囲に起こす風は、波紋を投げかけて広がっている。
それによって、周りにいる人間は 右往左往、一喜一憂しているのだが
本人は 全く気にもせず、関知もしていない。
「そうは言うけどな、結構 話はあるんだぜ。」
悪戯っ子のように、にやにや笑いをしながら告げてくるデイビットに
エドワードは、むっとした表情で睨み返す。
「気にしないで。
皆、君の興味を引きたいだけなんだよ。」
穏やかに 出されたお茶を飲みながら、アルバートが微笑んで告げてくる。
「そうだよ、エドワード。
人気があると言う事は、悪くないじゃないか。」
自分の息子を誉められた父親のように、ロイまでも
嬉しそうに話に加わっている。
「お前が、あんまり 周囲に興味なさそうにしてるから、
皆、ムキになるんだよ。
エド、自身興味惹かれる事とか、人とかいないわけ?
ほら、可愛い女の子とかでもいいんだぜ。」
「俺が、興味惹かれる人物・・・?」
う~んと首を傾げるエドワードの返答に、好奇心丸出しで
3人が聞き耳を立てる。
ロイは、他の二人のようにあからさまではないが、
もっとも、関心を持っている質問の内容に、
内心、身を乗り出さんばかりの心情だ。
「まぁ、皆 それなりに興味は持ってるぜ。
やっぱり、人も沢山いると それぞれ思考パターンや
行動パターンも変ってて面白いしな。」
データーの収集のようなエドワードの返答に
デイビットとアルバートは、がっくりし
ロイは ホッと胸を撫で下ろす。
「んでも、ちょっと変った奴だな~って最近思った奴なら
今日 合った。」
「ほう、君に変ったと言われるとはね。」
ロイは おかしそうに言葉をはさむ。
「うっせぇ、どうせ 俺も変りモンだよ!」
ベッーと舌を出すエドワードに、ロイは可笑しそうに笑う。
「でも、君が興味を持つ人物って珍しいよね。
一体、誰なんだい?」
アルバートの言葉に、エドワードは今日図書館であった一件を話して聞かす。
レイモンド・ロウエルの名前が出ると、
二人して一様に驚きを示す。
「へぇ~、あいつがねー。」
驚いた事を隠しもしないで、デイビットが大げさに表情を変える。
「確かに珍しいね。
余り、自分からは人に寄るタイプでもないんだけどね。」
少々、意外な人物の登場で、アルバートも軽く目を見開く。
「何? あいつ そんなに変な奴なのか?
まぁ、ちょっと変ってるな~とは思ったけど。」
二人の反応と今日合った青年の印象を照らしあわす。
「まぁ、変というのとは違うとは思うけど、
群れたがらない、孤高なところがある人物だよね。
成績は、エドワードには及ばないだろうけど
かなり優秀だよ。
多分、入学も次席位には入ってるんじゃないかな。」
「かっこつけなんだよ!
ちょっとばかし見た目が良くて、女どもに騒がれてるからって、
すましてるんだ!。」
鼻息荒く言い返すデイビットの言葉に、
アルバートは、苦笑しながらフォローを入れる。
「それは、君が 気にかかっている子が
彼のファンだからのやっかみだろ?」
ギャーギャーと騒いでるデイビット達の話をよそに、
エドワードとロイは、それぞれ 互いの思考に浸っていた。
『う~ん、なんだろう?
なんか、似たような記憶に引っかかるよな?』
そう言えば、どことなく初対面な雰囲気を感じなかったのも
彼の独特の雰囲気のせいだが、今日以前に知り合っていたと言うのでもない。
なんだろう?と疑問を浮かべる。
ロイは、さらに深く考え込んでいた。
エドワードは偶然だと思っているが、どうも作為を感じられる。
どうやら、相手は 自分と似た思考を持っているのかも知れない。
自分の行動パターンから当てはめて考えると、
相手の考えが読めてくる。
『どうも、気に食わないタイプのようだな・・・。』
と自分の結論を出し終えて、エドワードを見ると
すでに、違う話に移っているのか 3人で熱心に話をしている。
『まぁ、出来るだけお近づきにはなって欲しくない人物だな。』
が、似た思考を持つ人物なら これで終わりという事はないだろう。
そんな意味もない行動を、気まぐれに取るタイプでもなさそうだ。
そんな考えを浮かべながら、どうやら 厄介な人間を引き寄せてしまった
エドワードに やれやれとため息をつきながら、
楽しそうに話す彼らを見つめていた。
「やぁ、今日も本探しか?」
ふいに掛けられた声で、本棚をさまよっていた目を相手に向ける。
「ああ、あんたか。
この前は どうも。」
エドワードは、ごく自然に返事を返す。
その態度に、相手は 少し嬉しそうに頬を緩め
エドワードに近づいてくる。
「今日は、何を探してるんだ。」
「『生体と精神の関係』。
次に書くレポートの研究内容にしようと思ってるんだ。」
そうエドワードが言うと、なるほどと頷きながら
本棚に目を向ける。
「なら、こころ辺りの本も役になつんじゃないか?」
高めの背のおかげか、楽に上段にある本を手に取ると
エドワードに差し出してくる。
その光景に、エドワードが少々、悔しさと既視感を感じ、
記憶を辿ってみる。
そうすると、1つの映像が浮かんできて
「ああ! そっかー、以前もあったっけ。」
と、思い出した記憶と今の目の前の人物を照らしあわす。
「ああ、思い出したのか。」
うなずく相手に、エドワードは自分の記憶が正しかった事を確認する。
以前にも、エドワードが取れない本に悔しさを感じていると
横から あっさりと取って、手渡した人物がいた。
その時は、本に関心が行き過ぎていたのもあって
相手の事は忘れていたが、そう言えば、この目の前の
人物だったような気がする。
一つの事に集中すると、周りが見えないのは昔からで
あの時も、手に入った本を すぐに開けて読み出してしまい、
相手に きちんと礼を言ったかもあやふやになっていた。
「あん時はサンキュー、俺 ちゃんと礼言ってたっけ?」
エドワードの妙な問いかけに、レイモンドは 可笑しそうに首を振る。
「いや、本を開くなり 話しかけても返事もなかったんで、
そのまま立ち去らせてもらった。」
レイモンドの言葉を聞いて、あちゃーと顔を顰める。
「ごめん、俺 本を読み出すと、周りに気がいかなくてさ。」
申し訳なさそうに話すエドワードに、気にしなくていいと
言うように、手を振る。
「で、他に手伝える事は?」
気負う事もなく、自然と訊ねてくる相手に
エドワードも 自分が探している本の内容を話していく。
ひとしきり本漁りを終えると、今度は その内容に対する吟味が始まった。
アルバートが言っていたように、レイモンドは なかなかの博識で、
エドワードが知らない事も詳しく話してくれる。
高度な質問や内容にも、きちんと自分の考察を持って返答が代えるので
議論をしていく相手として申し分ない。
エドワードは、ここ最近なかった 知識欲が刺激され
議論に高揚している自分を感じる。
二人の話に終わりが来たのは、閉館を告げる司書の厳しい声でだった。
周囲を見ると誰もいない。
青筋を立てている司書の表情を見ると、かなり 辛抱強く待っていた事が伺える。
慌てて謝罪と共に退館の為に席を立った。
二人が出ると、すぐに消灯されたところを見ると
帰るに帰れなかったのだろう。
軍の書庫に入り浸っていた頃に、何度もあった情景が思い出されて
思わず、思い出し笑いをしてしまう。
「なにか?」
笑うエドワードに、レイモンドが問いかける。
エドワードは、彼の言葉を多く語らずに伝える話し方に
気づいていた。
頭の回転が速いのだろう。
余分な事を言わずに話すのは、エドワードにしてはやりやすい。
が、一般の人にはわかりにくいだろう。
「いや、昔も よくこうやって追い出された事があったな~と思ってさ。」
エドワードが 懐かしそうに話すと、
レイモンドも そうかとうなずく。
「軍に居た頃かい?」
さりげなく聞かれた言葉に、エドワードが相手の顔を見る。
「ああ・・・そうだな。
その頃が、1番 多かった。」
うなずくエドワードに、レイモンドは 笑ってうなずいている。
自分の素性も、過去もしっているようだが、
特に それに対しては何も思っていないようだ。
ごく普通の子供の頃の昔話のように、さりげなく触れてくる。
エドワードは、ますます このレイモンドという男が面白いと思う。
デイビットやアルバートのように、全く関係も興味も無い者になら
鋼の錬金術師がエドワードである事を知っても
意外には思うが、特に関心は払われない。
が、錬金術に興味があり 軍にいた事も知っていて
尚、自然に接する事ができる人間は そうは多くないだろう。
「で、どうする?」
レイモンドの問いかけが、今後の行動を聞いているものだとわかって
「う~ん、話が途中になったけど、
まぁ、そろそろ帰るわ。」
エドワードが そう告げると、レイモンドも そうかと返事をして
自分も 帰る事を示してくる。
「じゃあ、続きはまた。」
そんな彼の挨拶にも、エドワードも 特に不自然に思わず
「ああ、また次の時にな。」と返す。
返事を返した時に、レイモンドが 嬉しそうに微笑んでいる表情は
エドワードに 馴染み深い一人の男を思い出させた。
『そっか、なんか妙に馴染んでる気配だと思ったら、
こいつ、ロイに似てるんだ。』
容姿が似ていると言う訳ではない、ただ 相手に話す口調やら
取る態度や、雰囲気が 似ているのだ。
どうりで初対面の時から、妙に親近感が湧いてくると思った。
人に対する距離感の持ち方が、1番似ているかも知れない。
困っていれば さりげなく手を差し伸べてくるが、
かと言って、しつこく近づくのでもない。
付かず離れず・・・昔のロイのエドワード達への接し方に似ている。
そんな事を思いながら、家路についた。
それからの二人は、急速に仲良くなっていった。
レイモンドは、エドワードの知識欲を刺激するに値する人物で
話せば話すほど、この男の聡明さがわかってくる。
レイモンドにしても、対等に話せる人間に逢えた事を素直に喜んでいるようで
時間が空くと、エドワードを誘いに来るようになった。
長い時間を一緒に行動するようになると、相手の色々な面が見えてくる。
レイモンドと居る間に、何人もの女性が声を掛けてくるのを
彼は、そつなく返していっては流していく。
そんなところも、似てるんだと妙に関心をしてしまう。
確かに 彼は、なかなかの男前で 女性がほってはおかない雰囲気がある。
エドワードのように華があるというのではなく、
男としての色気があるというのだろう。
自然と、女性からの注目と 男性からの険のある視線を集めている。
今も、誘いをかけてくる美女に 失礼がない程度の対応をして
さりげなく断りをいれている。
ロイが 万人に愛想がいいのに比べると、
レイモンドの方が 節操があるように思える。
去って行く女性に、ため息をつくと レイモンドはエドワードの方を向き直り
話の中断を詫びる。
「すまない。」
「いや、俺は別にいいけど
邪魔してるんじゃないか?」
エドワードが気にかかって聞いてみると、レイモンドは苦笑しながら首を横に振る。
「いや、エドワードが居てくれるから
断るのにも助かるよ。」
彼は、エドワードの事をエドとは呼ばずに 名前のフルネームで呼ぶ。
エドワードは、エドと呼んで構わないと言ったのだが
レイモンドは、エドワードって名が好きだからと その名を呼ぶ。
「けど、レイは もてるんだな。」
自然に、感心したようにエドワードは思った事を声に出す。
「そうだな、まぁ そこそこだろう。
そう言う、君のほうが もてるんじゃないのか?」
「俺? いや、別にもててないけど?」
不思議そうな表情で返してくるエドワードに、
レイモンドは クスッと唇を少し上げて返す。
レイモンドが言うように、エドワードも かなりもててはいるのだが
本人自身が、周囲から寄せられる秋波に気づかないので
自覚がないのだろう。
エドワードの聡明な頭は、あまり自分の事には働かないようだ。
これは余程、周囲に構うものがいたに違いない。
自分の事を気に掛けるのを忘れるほど、気にかけてくれる人間がいる。
だからこそ、エドワードが自分自身の事に疎くなるのだ。
エドワードの話しに良く出てくる人物達は、
それぞれ、かなりエドワードを可愛がっているのは
話の端端から伝わってくる。
エドワードの気性からして、甘えはしないだろうが
嬉しく思っているのは、彼の表情から語られている。
これは、なかなか大変だな・・・とレイモンドは
話すエドワードに微笑みながら、心の中でつぶやいた。
「あれっ? 大将じゃないっすか。
学校の帰りかな?」
渋滞の車の中で、先ほどから ロイが熱心に見ている方向を眺めると
目に飛び込んでくる華やかな色に、エドワードの存在を確認する。
どうやら友達と話し込んでるらしく、周囲には目がいってない。
しかし、よく この短時間で見つけたもんだな・・・と驚きを通り越して
感心する上司を見てみると、
余り 機嫌よさ気には見えない。
『またこの人は、変な嫉妬心燃やしてるだろうな。』
ハボックは、大人気ない上司の心情に 思わず笑いが浮かんでくる。
以前、ハボックも そのせいで酷い目に合わされた事があるので、
ロイのエドワードに対する過保護ぶりには、苦い思いが浮かんでくる。
「中将、友達と遊んでるのまで監視したら、
エドの奴が可哀相ですよ。」
ハボックの忠告にも、ロイは耳を貸す素振りも見せずに
目に入る光景に見入っていた。
ハボックは、やれやれと肩をすくめながら そろそろ動き出す車の運転に
意識を戻した。
ロイは 偶然にも見つけたエドワードの相手をしているのが、
いつぞやに名前が出ていた人物だと直感で理解した。
遠目で、はっきりとは見えないが
熱心に話しているエドワードに、嬉しそうに頷いている。
別に、ごく日常みられる光景の1つなのだろうが、
ロイの中の警戒音が 鳴り響くのを感じる。
エドワード自身、すっかりと打ち解けているのがわかるのは
話している雰囲気でわかる。
彼は、1度心を開いた人間には いつでも、はらはらする位 無防備に自分をさらす。
相手が それをどう受け取るかは 別問題だ。
皆が皆、ハボック達の様に 純粋な保護者のような感情だけを持つとは限らない。
そう言う ロイとて、今の自分がエドワードに持つ感情を
素直に 純粋な想いからとは言いきれなくなってきている。
ロイにとってエドワードへの想いは、
すでに自分の生命に無くてはならない関係になっている。
空気を吸い込むように エドワードの存在が自分の生きる糧になり、
水を飲まねば生きていけないように、
エドワードが欠乏する事には耐えられない。
いつからそうなっていったのか、それとも最初からそうだったのか
明確に区分けできないほど、今のロイにとっては
エドワードが傍に居ることが
自然な事になっていた。
ロイの猜疑心の強い心は、それを妨げようとする事柄や
人間に、強く警戒心を呼びかけてくる。
今、エドワードの目の前の人物は
まさしくロイの警戒心に訴えてくるものがある。
離れていく光景を見つめながら、ロイは深くため息をついた。
「えっ、レイを連れて来いって?」
昨晩、遅くなったロイと顔を合わせる事のなかったエドワードが
朝食の席で、昨日 カフェで話していた事を聞かれて
素直に答えると、ロイは ぜひ、1度招待しておいでと言ってきた。
ロイが こう言って来るのも2度目でもあるから
そう、驚く事でもない。
ロイは 軍の重職に付く立場だ。
そこで、家政夫をしている人間の交友関係を気にすることは当然だろう。
エドワードは、そう考えていたので 自然に肯定の返事を告げる。
「わかった。あいつの都合も聞いてみる。
ロイは、いつがいいんだ?」
予め考えられていたのだろう、答えはすぐに返ってきた。
「出来れば、少し遅くなっても良いなら 今日はどうかね?」
「今日!」
余りに急な招待で、さすがにエドワードが驚く。
「急で申し訳ないんだが、 この後は結構予定が多くてね。
しばらく、遅くなるのが続くと思うんで。」
済まなそうに告げてくるロイの言葉を聞いて、
エドワードは 少々思案の顔をする。
しばらくして、「わかった。」と頷いて
もし、相手の都合がつかなければ 連絡する事を話す。
「ああ、すまないね。
宜しく頼むよ。」
確かに時間の無いロイにエドワードが都合を合わす方が良い。
急な事で、レイモンドが都合が合わせれないときには
仕方ないだろう。
エドワードは、そう思いながら大学に足を運んだ。
「エドワードの家に?」
急な招待にも、驚きを見せずに確認の意で聞き返してくる。
「あー、うん。
もし、無理じゃなきゃでいいんだけど
俺のお世話になってる人が、挨拶した言って言うもんで・・・。」
済まなさそうに、苦笑を浮かべてくるエドワードを見ながら
過保護ぶりが目に付く保護者を思い浮かべる。
『まぁ、1度 エドワードの周囲にいる人物達も見たいと思っていたから
好都合か。』
そう考えて、返事をする。
「ああ、俺は構わないよ。
お世話になっていると言うと・・・、
ロイ・マスタング氏か?」
そう返してくるレイモンドに 驚きの表情でエドワードが見返してくる。
「そう驚く程でもないさ。
鋼の錬金術師の後見人の話は、有名だからね。」
エドワードも、事情を知っているレイモンドが 先に言ってくれた事で
気が軽くなり、説明が不要な事を喜んだ。
「そうなんだ。
まぁ、でも 別に畏まる必要はないしさ。
遊びに来るつもりで、気軽に寄ってくれればいいから。」
明るい笑顔で話すエドワードを見て、レイモンドはエドワードに
注がれている愛情を考える。
なんの邪気もなく そう告げれるほど、エドワードは ごく普通に
相手から愛情をかけられているのだろう。
後見人としての愛情と言うより、人としての触れ合いがなければ
これだけ、気負いもなく 軍の重職との付き合いを
軽く受け取れるわけが無い。
当の人物に会う前から、興味が湧いてくる。
『さて、どんな人物かな・・・。』
レイモンドは、エドワードの道案内に付いていきながら
思いを巡らした。
夕食後、エドワードのレポートに互いで議論をしていると
玄関先で音が聞こえる。
自然と迎えに出るエドワードを見送り、
この家の主がやってくるのを待つ。
扉を明けて、エドワードが先に入ってくると
後から、新聞などで その名を良く知り、
顔も頻繁に目にする機会のあるロイが入ってくる。
「ロイ、こっちがレイモンド。
レイモンド、こっちが 俺の雇い主」
そう、笑いながら互いを紹介する。
「はじめまして、ご高名はかねがねお耳にしております。
エドワード君と同じ医大に通います、レイモンド・ロウエルと申します。」
一般の学生が、軍の重職のロイに挨拶をするにしては、
堂々とした態度で、横に立つエドワードも感心をする。
「ご丁寧な挨拶を、ありがとう。
けど、そう気を張らなくても構わないよ。
今日は、急な無理を言って済まなかったね。」
ロイが、座ることを促すと レイモンドは 素直に好意に従う。
「しかし、エドワードと同じ学生とは思えない堂々ぶりだね。
やはり、名門のロウエル家の3男だ。」
「恐れ入ります。
まぁ、冷や飯食いの3男坊ですから、
家からはやっかいもの扱いですが。」
と、食えない表情を浮かべて返事を返す。
エドワードは、二人が分かり合ったように話をしているのに
不思議そうな表情はしたが、特に口を挟んでこない。
ロイが 知っていると言う事は、軍にも関係がある家柄なのだろうが、
エドワード自身が、余り そう言う事には興味を持たないので
なごやかに話し出した二人は置いといて、
お茶の準備をしにリビングを出る。
ロイは 目の前の青年をさりげなく観察する。
頭は確かに切れるようだ。
この、歳で年上との会話を ほごなく出来るのは
幼少期から、そういう機会が多かったからだろう。
自分では 厄介者などと言っているが、
ロウエル家では、跡取り息子として一目置かれている。
直系相続が主流の中を、ロウエルでは 能力を重視している傾向が強い家系だ。
おかげで、落ち目になっていくばかりの領主達の中では
ロウエルは、世代と一緒に育ち 着々と力を伸ばしている。
その次代の領主達の中でも、このレイモンドは 特に秀でているらしく
幼少期から、その期待を一心に浴びていたはずだが・・・。
ロイは、調べたデーターを思い返しながら
目の前の人物を見る。
「しかし、ロウエル家の子息が 医大とは・・・。
よく親御さんが反対しなかったものだね。」
経済や、政治関係なら解るが 医大にとはえらく毛色が違う。
「そうですね。
まぁ、特に学びたいものがなければ
どこに入っても同じでしょうから、
自分がしたいことを出来る間に、興味を持った事をやってみるのも
悪くないかと。」
ロイの反応で、自分の事は 調べ済みなのに気づいたレイモンドは
隠す事でもないので、素直に話をする。
「なるほど、猶予期間と言う訳か。」
そう、微笑んでうなずくロイに、
レイモンドも 薄く微笑んで返す。
「なんか、あんたたち似てるよな~。」
そこに、お茶を準備したエドワードが戻ってきて声をかけた。
「似ている?」
ロイが 不思議そうに目の前の青年を見る。
「ああ、容姿とかじゃないぜ。
雰囲気とか、話し方とか、後 考え方も結構似てるぜ。」
悪びれもなく告げられるエドワードの言葉に、
内心、二人とも苦虫を噛んだような気になったが、
表面上、浮かべる事はない。
「ほらほら、そんな反応も似てるぜ。」
可笑しそうに、エドワードが告げてくる。
二人は、似ていると言われて あまり嬉しくないと思っているのだろうが
それを上手く隠して、出してこない。
エドワードにしてみれば、ロイの そういう反応は手に取るように解るので
同じように返しているレイモンドの事も同様にわかると言う訳だ。
なごやかに3人で話しながら、互いに相手を観察していく。
エドワードにしてみれば、そんな面倒くさい事が何故必要なのかが
解らない事だが、確かにエドワードが言ったとうり
ロイとレイモンドは、似ているのだろう。
ロイは、話のついでに聞くように
エドワードと知り合った経緯のきっかけを聞く。
レイモンドが、当たり障りなく話した事は
エドワードに聞いていた話と同じだ。
ロイは、なるほどと楽しそうに聞いている。
が、不意にレイモンドに質問を投げかける。
「それは、偶然かな?」
レイモンドは、投げかけられた問いに
人の悪そうな笑顔で聞いてくる相手を じっと見る。
しばらくの間があった後に
「そうですが?」と 平静さを装い返事を返す。
その一連のやりとりは、エドワードには気づかれず
噛み合っていない話には、さほど気に掛ける様子も見せていない。
エドワードには、含みのある会話術を理解することは出来ない。
なので、理解できない話が始まると 自分の考えに頭を切り替えてしまい
興味を失ってしまう。
多分、今 考えているのは、さっきから熱心に見ているレポートの事だろう。
「今日は、無理を言って申し訳なかったね。」
そうロイが、話の終わりを告げると
レイモンドも、辞去する挨拶を返す。
「いえ、こちらこそ 貴重なお時間を頂きまして
ありがとうございました。
これからも、エドワード君とは付き合いをさせて頂きたいと
思ってますので、宜しくお願い致します。」
願うには、少々 不遜な態度での発言だが
ロイが 構う程でもない。
相手は 引かないと言っているのだ、ロイが遠慮をする事もない。
「そうだね、友人は多いほど良い。
節度を守った友人付き合いを願いたいものだね。」
あくまでも友人として接するようにと話すロイに
レイモンドは、薄く微笑み 賛同したとも、していないとも解らない
返事を返す。
静かに険のある雰囲気を漂わす二人の間にいても、
何一つ気づかぬままで、自分の考えに浸ってるエドワードは
大物だ。
「エドワード、レイモンド君が帰るそうだよ。」
肩に手をやりながら、エドワードに声をかけると、
エドワードも、はっと気づいたように考えの淵から戻ってくる。
「あっそうか?
なんか、二人が 仲良く話してるんで、
ほったらかししてて ごめんな。」
考えに 浸っていたのに気づかれて、照れたように言い訳を口にする。
こういう時の素直なエドワードは、歳より幼く見えて 可愛く見える。
ロイは、いつもと同じように ごく、自然にエドワードの頭を撫でて
やる。
「恥ずかしいから、それ やめろ!」と抗議はしているが、
エドワード自身も、照れ隠しなのが見え見えだ。
『どうやら、かなり重症だな。』
そんな二人のやりとりを見ながら、レイモンドは 観察の結果を出す。
ロイの愛情が、どれ程のものかはわからないが
少なくとも、エドワードに後見人以上の思い入れがあるのは間違いない。
エドワードにしてみれば、家族に対する態度と変らないようだが、
それこそが、絆の深さを表している。
なかなか、敵にしては手強そうだ。
が、レイモンドにしてみれば 簡単に引くつもりは無い。
滅多な事で興味を持たない自分が、興味を持って近づいた
この小さな錬金術師を、そう簡単にあきらめれるはずもない。
高嶺の花も、手に入れれば 憧れではなくなる。
レイモンドは、指を加えて 高嶺の花を眺めるだけのような人間ではない。
さらに、決意を固めて マスタング邸を後にした。
「どうだった?」
彼が 帰っていき、二人きりになったリビングでエドワードが早速聞いてくる。
「どうとは?」
問いに問いで返すロイに、エドワードは嫌な顔をする。
こういう話し方をするロイは、余り好きではない。
今は 自分と話すときには、そういう態度は取られる事はないが、
昔は 大抵がそうだった。
だから、エドワードは 読めないロイの考えには
イライラさせられた事も多かった。
が、今では そんな想いもきっちりと口に出来る。
「俺、そういう探りあいみたいな会話って
嫌いなんだけど。」
ロイは、はっとなってエドワードを見る。
レイモンドと会話をしていた余韻が残っているのか
少々、自分の中にも 大人気ないものがあるのを感じた。
「・・・済まない、そういうつもりではないんだが。
君の質問の意味を図りかねててね。」
素直に謝ってくるロイに、エドワードも許すように態度を軟化させる。
「えっ?俺の質問の意味って?」
「だから、私が どう思ったかを何故気にするのかだ。」
エドワードは、ああっと納得したように頷き返事を返す。
「だって、あんたの立場じゃー 一緒に住んでる奴の交友関係も
気になるだろ?」
「なるほど、そう言う意味でかね。
それならば、彼には何の問題もないよ。
君は、知らなかったようだが
彼は、大領主の名門の家の子息でね。
身元は安全だ。」
そうロイが話すと、へぇーそうなのかと相槌を打って
身元が保障されたのなら良かったと安心している。
「君は、彼の事を どう思ってるんだい?」
ロイの質問に、妙な事を聞くなと思っている表情を表しながら
「ああ、いい奴だぜ。
話ししてても、博識だから面白いしさ。
結構、気も合うからな。」
新しい友人の事を嬉しそうに語るエドワードの言葉にも
表情にも それ以上のものは感じられない。
エドワードの中では、友人の位置づけにあるのはわかった。
が、問題は相手だ。
今は、特に何があるとは言う感じではないが、
エドワードに 友人以上の興味を持っているのは確かのようだ。
その関心が、仲の良い有人で終わってくれれば良し、
終わらなければ、ロイも大人しく眺めてはいられないだろう。
「それはまたえらく、彼の事を気にいったようだね。」
棘のある蔦が胸から這い上がり、口から出そうになるのを
ロイは、押さえながら話をする。
「う・・・ん、まぁ 最初は レイの事を気にいったっていうより、
なんか、妙に馴染む雰囲気だな~と思ったからなんだよな。
で、その内 その感覚が、昔のあんたの事を思い出してさ。
そうなると、なんか 嫌いになれないだろ?」
ロイは、エドワードの言葉に 戸惑いを感じる。
エドワードが言っている事は、彼が素直に想った事のままなので、
嘘は無い。
昔の自分を彼に思い浮かべると、嫌いになれないと言う事は
エドワードが、ロイの事を好きだという事だ・・・が。
多分、言っている本人には その深い意味は気づいていないだろう。
それでも、そんな些細なエドワードの好意にも
ロイは、嬉しく思う自分がいる。
「それは光栄だと言えば良いのかな?
けど、彼は私ではないよ。」
曖昧な微笑を浮かべながら、それでも言葉には真剣な重みを乗せて話す。
「そんなの、当たり前だろ~。
似てる奴は、世間には沢山いるだろうけど
あんたはあんたでしかないよ。」
そうやって、自分の事のように自信を持って告げられた言葉は
ロイにとっては、根底を揺るがすような喜びを与える。
軍の中将としてでもなく、焔の錬金術師としてでもなく、
過去の英雄として見られた自分でもなく
ロイを ただの一人の人間として見てくれているからこその
その言葉は、ロイにとっては 何よりもの喜びを与え、
心の癒しにもなる。
自分が、自分らしく一人の人間として生きていくためには、
エドワードが居なくてはならない存在だと痛感される。
レイモンドの登場は、ロイに自分自身の気持ちを確認させる事となった。
誰が 現れても、この子を渡すわけにはいかない。
それは、ロイの我がままかもしれないが、
自分が生きるために必要な事なのだ。
後は、いかにエドワードに気づいてもらい
自分を選んでもらうかだ。
今は、家族に近い愛情を捧げてくれるエドワードに
家族の愛では足らないと伝えていきたい。
できれば、エドワードの信頼を裏切らないように・・・。
恋敵の出現より、その方が 何十倍も難しいと思いながら
ロイは、静かにため息をついた。
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