Selfishly

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1、『視線』ROYver


 1、『視線』ロイver


H18,2/12,19:30


「では、こちらを提出してから
 行って参ります。」

「ああ、頼む。」

やっと一段落した仕事にホッとして窓の外を眺める。
ふと視界に入った場所では、
暢気に寝そべって話しに興じているエドワードの姿が目に入る。

先ほど 到着した事は伝えられていたが、
どうにも急ぎの仕事があり手を離せなかったので
待つように伝えておいたのだ。

彼らが戻るのは久々で、
先の報告の際に立ち寄ってから、かれこれ3ヶ月は経っている。
報告書だけは、定期的に送られてはくるが
本人からの連絡は さっぱり。
戻ってくるときは、いつも急なのだ。

「少しは 私の予定も考えてくれると良いのだがね。」
ふぅーと、本人には聞こえないだろう愚痴を口に出してみる。
さっきの状態で合えば、報告を聞くギリギリの時間しか
優秀な副官はくれないだろう。
久しぶりに姿を見たのだから、
少しはゆっくりと話してみたいと思っても
ばちは当たらない筈だ。

先ほどから、表情をクルクル変えて話しているエドワードの姿を
見つめてみる。
弟のアルフォンスと話している時のエドワードは
歳相応の子供らしく、自然でリラックスをしている。
軍の大人のメンバーに囲まれていても、
特に意識せずに振舞っている所は彼の豪胆さを物語っているが、
やはり、信頼する弟の前での彼のほうが素なのだろう。

『ここからなら 気づかれる心配もないな。』
そんな事を思いながら、ひたすら視線の先の人物に
目を向け続ける。
件の少年は、どうやら 自分が苦手らしく
いつも、居心地悪そうに こちらを伺っている。
本人は、矜持に賭けてか そんな風には見せないようにしているが、
一回り以上も違うロイには、それがひしひしと伝わってくる。

他のメンバーとは、結構 仲が良さそうなのに・・・。
もう少し、打ち解けてくれても良さそうなものだが。
自分だけ弾かれてる様で、どうにも面白くない。

こうやって、探している自分の視線の先に、
常にエドワードがいる事には
もう、だいぶんと前にロイ自身気づいていた。
最初は 風変わりな子供に対する興味だろうと思っていたが、
知り合う年月が経ち、自分の視線に熱が篭るようになってからは
これがどういう事かは、大人なロイには理解できていた。

『全く何故私が、あんなチビガキに・・・。』
理不尽な怒りを自分自身に向けるが、
向けたところで、返って来るのは 
そう思っても目が離せなくなっている
自分の心の在りかを知るだけだ。

視線の先には、穏やかな光を弾くように輝く金色の子供がいる。
彼の容姿は、彼の内面を これ以上ないほど
良く現していると思う。
まじりっけない金糸は、彼のまっすぐな強い性格そのままで、
何事にも 染まらず、屈しない輝きを放っている。
見た目だけで言えば、
美少女と間違われるような容姿をしているのにも関わらず、
彼が 決して、護られる存在ではない事が
見て取れる強い意志を閃かせる金瞳には、
何にも揺るがない強さを湛えている。
その真っ直ぐと見据えられている瞳の前では、
どんな人間でも、道を譲らずにはいられない気にさせられるだろう。

最初は やたらと自分の視界に入る彼に気づき、
その後 視界に飛び込んでくるのでなく、
自分が それを追いかけていると
知った時のロイの愕然とした気分は、とても言い表せない。
『なぜ。』とも、『どうしてだ。』とも自問自答し、
視線を剥がすようにしてみても、
気づけば 追っている自分がいた。

好奇心か、ただの興味かと思い込もうとしたが、
エドワードが 人に親しそうに話しかける姿を見ると
錐で刺されたように痛む胸や、
自分以外には、惜しげもなく披露される笑顔を見れば
内側から焦がされそうな熱を持て余し、
その笑顔も 視線も、自分だけに向けられる事を望む心を
知った時、ロイは 自分の視線の意味を理解せざるえなかった。

そして、それは最初から決まっていた事でもあったのだと
達観するしかなかった。
最初に、凄まじい練成跡を見た瞬間「欲しい」と思った。
それは 純粋に、才能と力を兼ね備えている者に対してだ。
そして、それを成し遂げた本人を見た瞬間、
「やっと見つけた」と感じた。
何を見つけたのかは、その時のロイにはわからなかったが
彼が どうやら自分に必要な人間である事は理解できた。

そして、1年後。
逢いに来た彼を見た時には、「手離さない。」事を決めていた。
その後、ロイは 優秀な手駒を手に入れた。
それでロイは満足するべきだったのだ。
が、人の欲望には際限が無い。
身柄を手に入れるだけでは満足できず、
その瞳に自分を写し、
その心が自分に向けられる事を願ってしまった時、
すでに手遅れの状態だったのだ。

そう、今のロイの成り行きは
すでに、最初から決まっていた事なのだ。
多分、出会った最初から 自分自身が選択していた事・・・。
そう思えば、自分の今の心情はあきらめもつく。
ただ、問題は相手だ・・・。

ロイの強すぎる想いが視線にも現れていたのか、
見ている先では、エドワードが起き上がり
周囲をうかがっている様子だ。
第六感が発達していそうな彼は、驚くほど勘がいい。
視界から去る彼らを見送り、迎える準備をする。


「エドワード・エルリック入りま~す。」
そう、無作法な程の来客に、
ロイは待ちわびていた事等露にも出さずに
落ち着いて迎えてやる。

「やぁ、久しぶりだね。」
自分では にこやかに返したつもりだが
どうやらお気に召さなかったらしく
鼻に皺を寄せて、胡散臭げに見返している。
これだけでも、彼が自分に抱いている印象がわかるようだ。
内心でため息をつきながら 相手を伺っていると、


「ああ、あんたも相変わらず仕事を溜め込んでいるみたいだな。」と
小憎たらしい言葉を吐いてくる。
そんな暴言を吐かせたままの自分自身も 問題なんだろうが、
言葉を交わせる喜びの方が 勝るというやつか。

嫌味を皮肉で返してやると、案の定 機嫌斜めに
拍車がかかったようだ。
3ヶ月も 電話1つ寄越さなかったんだ
多少、意地悪をしても許されるんじゃないか?
が、本当に機嫌を損なわれても面倒だから
仕事の話に切り替える事にする。

「わかっているなら、結構だ。
 鋼の、こちらへ。」

そう呼ぶと、一瞬 躊躇う様子を見せるが、
その次には、そんなそぶりも見せずに
不遜な態度で 机の前に立ち、こちらを睨むように立つ。
彼が どうやらこの時を苦手にしているのは
解っているが、私の方も止めてやる事ができない。
見なかった間に、何か変化や、もちろんケガ等もだが、
無いかを じっくりと観察する。
何の変化も見られないとわかり気が済むと
書類に視線を落として仕事の話を始める。
エドワードが、あからさまに 
ほっとした気配を滲ませるのが伝わってくる。

報告書をたたんで、終了の合図をするや否や
すぐにも出て行きそうな彼を引き止める為に
とっておきの切り札を出す。


「鋼の。
 今後の予定は?」

「しばらくは、こっちに居て
 情報を集めるつもりだ。
 その後の事は、情報次第かな。」

何かない?と目で伺ってくるのに
肩をすくめて返してやる。
「君が こちらに居る間に、集めれるようにしよう。」
実は、すでに手に入れてあるのだが、
渡せば すぐにも飛び出して行く事はわかっているから
時間稼ぎに そう言ってやる。

「まじ!
 さっすが、大佐~。」
今までの無愛想が嘘のように、
満面の笑顔で机に乗り出してくる彼の現金さに
思わず笑いが込み上げてしまった事に
彼が気を悪くしたのがわかるが、
情報と天秤に賭けて、押さえ込んだようだ。

「なぁ、どんな話しなわけ?」
上目遣いで こちらを見上げてくる。

本人は気づいていないのだろうが
こうやって擦り寄ってくる彼は、
普段の可愛気のない様子が嘘のように
素直で無防備になる。
普段は 取り付く暇もないのだが、
こういう時の彼は、大抵は従順にこちらの要求を聞く。

ソファーを指し示し
「まぁ、長くなるから お茶でも飲んで話そう。」
と立ち上がると
内線でお茶の準備を頼んでいる時間も
待てないとばかりにエドワードが 大佐の後を付いて話しかける。

「お茶なんか、別にいいよ。
 それよか、どんな情報なんだよ。」
焦れた様にせがんでくる様子も可愛いと思っていると
伝えれば、一体 どんな顔をするのだろう。

「まぁ、落ち着いて座ったら どうかね。
 私にも一息いれる時間をくれてもいいだろ?」

「あんた、仕事中じゃなかったわけ?」
不承不承 言われるとうり 座りながら、
そう言ってくる。

「ああ、だから 予定外は休憩中に入れてるわけだ。」
と、言わないでおこうと思った事を口を滑らせてしまえば
気落ちする彼に気づく。
不遜な態度の彼だが、本質は 思いやりも深く
人への気遣いもできる彼の事だ、
気にしないわけがない。
自分の失言にほぞを噛んだが、言ってしまった事は
どうしようもない。

「なに、構わないさ。
 君が戻ってくるのは 滅多にある事でもないし。」
そう、フォォローの言葉を告げていると
お茶を持ったハークアイ中尉が入ってきて、
その場を救われた気がして、ほっと息を吐く。

「こんにちは、エドワード君。
 元気にしていたようね。」
と挨拶をする彼女に、
エドワードも嬉しそうに挨拶を返す。
自分との対応の違いは癪に障るが、
今更過ぎて、何も言う事もない。


「うん、中尉も元気そうで良かったよ。」
ありがとうと受け取りながら、
出されたケーキに目を輝かす。

「うわー、すっげ上手そう。」

「気にいってくれると嬉しいわ。
 大佐お薦めの店だから、味は保障つきよ。」

「大佐の?」
そう聞くと、躊躇うようにしている。

「どうしたんだね?
 ケーキは嫌いじゃなかっただろう。」
と食べないエドワードに声をかけてやると
驚いた事に、素直に礼を口にして食べ始める。

「うん・・・、
 じゃあ 頂きます。」

「どうぞ。」
そんなエドワードの態度に、優しい微笑で返してやると
妙な表情で、ケーキを口に運びはじめる。

「上手い!
 これ、めちゃくちゃ美味しい。」

驚いた後に満面の笑顔を感動を伝えてくるエドワードに
嬉しくなって、

「そうか、それは良かった。
 良ければ、沢山あるから お替りをするといい。」
と勧めてやる。
その後は、上機嫌のエドワードのおかげで
珍しくも 世間話に花を咲かせる事になった。
彼が こうして旅の話を聞かせてくれるのは
そうそうはない事だ。
他の面々には、結構聞かせているようだが、
私が聞くときには、報告絡みの事ばかりで
彼の日常を知るよしもないが、
今の彼は、私が問うままに話してくれる。

自分の傍で、彼が自然に話してくれる事自体が
嬉しくて ついつい話しに熱中をしてしまう。
何個目かのケーキを食べ終えたエドワードが
ふと時計に目をやり、弟を思い出すまでは・・・。

「やべ、アルを待たせてたんだ。」
あたふたと立ち上がるエドワードに、
逢瀬もこれで終わりかと、諦めと共に立ち上がる。

「んじゃ、情報が入ったら頼むな。

 ・・・・、ケーキご馳走さん。上手かった。」

照れたように口早に告げて立ち去ろうとする彼に
驚いて その背を見つめる。
いつもと違う 素直な彼を見せられると
思わず引き止めてしまい衝動に襲われるが、
行動に移す前に、無理やり書類に視線を落とした瞬間、
背に投げかけられていた視線に気づいたのか
エドワードが立ち止まり、こちらを伺ってくる。

中庭の時といい、今の時といい
なかなか鋭い事だ。
まぁ、そうでなければ 生き抜いても来れないだろうが。


「どうしたんだね?
 まだ何か言い忘れた事でも?」と聞いてやると、
浮かんだ疑問をあっさりと切り捨てて去って行く。
その潔さに、感心と 幾許かの腹ただしさを持ちながら
去った扉を睨みつけてやる。

そうやって、全てを切り捨てて去っていくつもりか、鋼の。
自分が得る未来も、向けられる想いも、
感じる心も、全ては 唯一の弟の為に。
そして、私の存在も 君には過ぎ去り、切り捨てれる刹那の事に?

ふらりと窓辺に立つ。
その下には、ちょうど弟と並んで去って行く彼の姿が見えた。
『私は過去などにはされないよ、鋼の。
 君が切り捨てたものと同じ扱いは ごめんだ。
 君が捨てたものも含めて、君自身も
 全て手に入れて見せる。』

漆黒の瞳に、闇く燃える炎をちらつかせ
獲物を見つめるかのごとく、その背に投げかける。

そして、それに答えるようにエドワードが
ロイを振り仰いだ。
ロイの投げる視線の意味は、
まだ エドワードにはわからないだろう。
視線の相手に気づいて、戸惑っている様子が手に取るようにわかる。

『いくらでも戸惑うといい。
 その時間だけは、君に与えよう。

 戸惑った後に、この意味に気づいた時
 君は どうするのだろう?

 今までの事の様に切り捨てるか?
 なかった事として封じるか?

 が、私は今まで君が捨てたもののようには
 従順には行かないよ。

 君が私に気づいたんじゃない。
 私が 君を手に入れたんだ。

 いつか近いうちに、それを身をもって
 知るときがくるさ。

 それまでは、戸惑って過ごすがいい。
 が、決して逃げることは叶わないのだから。』

無邪気に手を振るアルフォンスに、
闇らい笑みを浮かべて答えてやる。

そう、その日は そう遠くない・・・。



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