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2、「縮まらない差」
「 縮まらない差 」
H18,2/19 18:00
パラリ・・・、パラリ。
室内には、紙を時たまめくる音しか聞こえてこない。
先ほどから、二人の間には その音以外が無くなった様に
無音のまま時間が過ぎている。
東方司令部のマスタング大佐の司令部室では、
先ほどから、任務を終了したエドワードが来ていた。
『豆台風』と密かに軍のメンバーにあだ名をつけられている彼は、
来れば騒々しさで 居場所がわかる位だと言うのに、
今回は 静かに入ってきて、今も ただ静かに佇んでいる。
「今回は 短期間完了だったようだね。」
報告書を読みながら、声をかける。
「ああ・・・、
素人の起こす事件だったからな、解決も簡単だ。」
「そうか。」
そして、また 報告書を繰る時にだけ室内に音が落ちる。
時たま ロイが報告書の内容を質問すると、
エドワードからは 簡単、明瞭に 言葉少なく返事が返る。
その繰り返しを、エドワードが部屋に入ってきたときから
続けている。
今回のエドワードに回された任務は、
とある街で起こっている 盗難の事件の解明だった。
最初は街の憲兵達が犯人を追っていたのだが、
どうにも捜査が進まない。
それと言うのも、目撃者や情報が まちまちで
混乱を生じ、犯人像が絞れなかったせいだった。
ある時は 単独犯かと思われ、次には複数犯とおぼしき事が判明する。
手口や 時間もまちまちで、共通点と言われれば
現金しか手を出さない事だ。
捜査の難航が続く間も、事件は繰り返し起きていた。
このままでは、軍の威信に関わるとの懸念が上層部に浮かんだ時に、
「錬金術関連では?」という根拠もない言葉の一言で
ロイのところに回されてきた。
上層部にしてみれば、やっかいな事件を押し付けれる対象が
めざわりなロイだったと言うだけだろう。
ロイにしてみても、対した事件でもないこの件に
さして重要性も、関心も持てなかったが
上層部の嫌がらせだとしても、対処に乗り出し解決に動かなくてはならない。
そして、ここ東方では 錬金術師は 自分とエドワードの二人しかいない。
事件の重度や その他もろもろの事を考えても
ロイが動くわけにもいかないなら、エドワードに当たらせるしかなかったのだが。
『・・・失敗だったな。』
解決の報告を聞いてから、ロイは ずっとそう考えていた。
事件は、エドワードが乗り出すと 「あっ」と言う間に解決した。
おかげで、ロイの評価が上がり、エドワードの能力の高さが また証明された。
この事件の目撃者や 情報が一貫性を見せなかったのも当然だ。
何故なら、それが全てグルの狂言だったからである。
憲兵達の捜査の盲点で、「まさか」な無害と思われていた年齢対象が
犯人だったのだ。
・・・それは犯人ではなく、犯人達だった。
自身も大人と呼ばれる年齢ではないエドワードには、
思い込みもなく、大人達には盲点であった犯人像を
考えられる予測から もっとも高い可能性をはじき出したに過ぎない。
・・・そして、それは当たっていた。
事件は、ごく単純な お金欲しさの犯行だった。
ただし、自分の為だけではない。
この犯行に及んだ子供達は、全て個人の孤児院の子供達であった。
人生を孤児の為に、資産も自分も 注いできた園長が
病に倒れ、闘病生活が長くかかる病で園内で患っている間に
園は傾き、苦しい事になっていった。
親とも慕う園長の治療費さえ出せなくなって来た時に
年長者の中から、今回の犯行計画が立てられた。
が、子供が忍び込めるような個人の家庭からでは
園に居る子供たちの生活費の1日分にしかならず、
犯行を続けるしかなかったのだ。
この事件の糸口を見つけたときに
エドワードは まずは、計画を立てている年長者の子供に
止めるようにと話にいった。
「お前達が している事は犯罪だ。
どういう理由があるにせよ、続けていいことじゃーない。
すぐに止めるんだ。
何も知らずにいる園の子供達も巻き込む事になるんだぞ。」
エドワードは必死に引き止める話をした。
今なら、知っているのは自分だけで済ますことが出来る。
事件は迷宮入りになるが、 エドワードにしてみれば
1度や2度の汚名位で、ロイもエドワードの評価が下がっても
どうと言う事もない。
ましてや、エドワードにしてみれば 軍部内での自分の評価など
上がらないほうがマシだと思っているので尚更だ。
エドワードの必死の説得も、相手は せせらわらって取り合う姿勢を見せなかった。
こうなれば 実力行使とばかりに 犯行が行われる現場に先回りして
犯行を止めさせようとした所、運が悪く
巡回に廻っていた憲兵達に発見され 今回の事件が公になったのだ。
連行される子供達を、寂寥感と共に見ていたエドワードに
説得に応じなかった子供が、冷ややかな目でエドワードに言い放つ。
「国が何をしてくれる?
軍なんか、俺らを助けてもくれない。
じゃあ、どうやって生きていけば良いってんだ。
それは、死ねって事と同じだろ。
俺らは 自分達が生きるために頑張ったんだ。
お前らなんかに わかるもんか!」
悲痛な叫びを投げつけられた時、
エドワードは俯きそうになる顔を上げたまま
無言で唇を噛んで耐えた。
このやりとりも、憲兵よりロイには報告が廻ってきている。
それはエドワードへの批判ではなく、
謂れの無い罵倒をかけられたエドワードへの同情の言葉と
毅然とした態度崩さなかったエドワードの寛容さに対する賛辞であったが。
この事件の解決の報告を聞いたとき、
短時間で解決を導いたエドワードに、最初はロイも喜んだ。
さすが、鋼のだと。
そして、内容を聞いたときに『失敗だった』と思ったのだった。
自身も 過去に親の為に罪を犯した彼の事だ。
今回の事件が、古傷になるには生々しい傷跡を
どれだけ、開かせたか察するに余りある。
罵倒を受けていた時のエドワードの心中を思うと
ロイの胸がえぐられる様な痛みを襲う。
そして、エドワードが報告書を持って戻ってきた。
いつもと変わらぬ様子で、動揺も受けた傷も
微塵に感じさせない素振りで。
報告書を読み終えたロイが
「完璧だな。」と報告書の感想を言う。
エドワードの報告書は、いつも 騒々しい。
報告書とは、明瞭・簡潔な事が望まれる。
そこには、余分な事は一切必要がない。
が、エドワードが いつも提出してくる報告書は
報告の明記の合間に、主観やら 希望的観測やら
考察の予想やら やたらと混じっていて
報告書と言うよりは、レポートか感想文に近い。
「もっと読みやすく書きたまえよ。」と何度か言った事があるが、
内心は エドワードの経験や考えに触れることのできる
彼の報告書が好きだった。
が、今日の報告書は完璧だった。
事件の概要、捜査の手順、解決までの経過。
それらが、淡々と書かれているだけで、
犯人達の助命も、感じた事の一欠けらも知ることができない。
その事が、今回彼が受けたダメージの大きさを物語ってている。
「完璧だな。」と言ったロイに対しての応えは、
「いつもだろ。」と素っ気無いものだった。
表情も 無表情のまま。
そう言えば、今日は1度も
表情が変わったのを目にしていないなと思う。
いつもなら、落ち着かない彼の性格を良く現している表情が
クルクル変わるのを楽しめるのだが、
今日の彼は、まるで1面以外の表情を
全てそぎ落としたようだ。
「もう行っていいか?
アルの奴を待たせてるんだ。」
無言で見つめているロイに焦れたのか、
そう聞いてくる。
「ああ、結構だ。
今から、どこに?」
「軍の資料室。
アルも入れる許可を貰えたんで、先に行ってる。」
「そうか。」
今回の任務の褒美として、何が良いと尋ねたら
『情報』と即帰ってきた答えに、答えてやれるものが
今は無いと告げると、
資料室のカギとアルフォンスが入れる許可を替わりにと要求され、
今回に限り ロイの責任において許可書を発行してやった。
「じゃぁ。」とくるりと踵を返す背中を見た途端、
このまま行かせてしまって良いのかと言う戸惑いが
名前を呼ばせてしまった。
「鋼の。」
退出しようとした矢先の呼びかけに
「何?」と不満顔で向き直ってくる。
『今日、初めて表情が動いたな。』と
微かな安堵が浮かぶ。
何かあるのか?とじっと見てくる彼に、
何を言おうと考えての呼びかけでもなかったので
ロイにはかける言葉がなかった。
ただ、傷ついている彼をこのまま行かせても良いのか?という
感情のまま、呼びかけてしまっただけなのだから。
無言で見つめるロイに、警戒の色を濃くしていくエドワードを見て
思わず、ずっと考えていた事が零れてしまう。
「今回は すまなかった。」
「何が?」
「君に後味の悪い思いをさせたのではないかと・・・。」
エドワードは、躊躇いながら告げられる言葉に、
一瞬、瞳を絞って相手を眇めるように見る。
ロイの言葉の真意を量るような目だ。
「別に。
これは任務だからな。」
そう返してくる時には、すでに瞳からはどんな色も消えうせ
無機質な輝きだけを浮かべている。
そんなエドワードを見てしまうと、
ロイは 自分の中にある 数少なくなった良心が
言わせた言葉を告げる。
「鋼の。
君のせいではない。」
その言葉を告げた時のエドワードの様子を目にした時に
ロイは、自分の愚かさを悟った。
無機質な瞳に、怒りの色を強く閃かせ
怒りのためか、頬を紅潮させた彼が、
何度か開きかけた唇を、自分が落ち着くために
呼吸をするのに動かすことを集中させている。
しばらくの間、そうやって自分の中の葛藤を抑えた彼が
吐き出した言葉は、
「あんた、何言ってんだよ?
当たり前だろ?
罪を犯したのは、俺じゃない あいつらだ。
どういう理由があるにせよ、人を犠牲にして罪を犯せば
報いを受けて当然だ。
俺は任務を果たしただけだ、あいつらとは何の関係も無い。」
忌々しい事を言わせるなとばかりに吐き出される言葉は
エドワード自身に向けられている言葉だ。
彼は わかっているのだ、自分達が行おうとしている事も
そして・・・、行ってしまった事も、
全て「罪」なのだと・・・。
そして、その罰を背負う覚悟でいる。
報いを受けたとしても、願いを叶えるまでは
地面をはいつくばってでも、耐え抜き生きていく。
そんな彼に、つまらぬ感傷の言葉など、役に立たない。
そして、それを受け付けない鋼鉄の殻で自分を覆っている。
そうでなければ、自分で立って行けないかのように・・・。
エドワードの背負っているモノは大きい。
世間一般の慰めや同情など、何の役にも立たないどころか
同情めいたロイの良心など、彼の生き様を否定するようなものだ。
ロイは、自分の認識が浅はか過ぎた事を痛感した。
最後に、射殺しそうな目でロイを見つめ
今度こそ背を向けて立ち去る。
扉を開けるためにかけた手が、一瞬動きを止める。
そして、かすかな声が届いてくる。
「で、あいつらの処分は?」
馬鹿な自分の思い上がりに、激しい後悔に襲われていたロイが
その言葉に はっとなる。
つとめて平静を装って答える。
多分、本当は 彼が1番気にかかっていただろう答えを。
「ああ、まだ未成年と言う事もあるし、事情が事情だ。
情状酌量の余地は大きいという事もあり、
余り重い罪には問われないよ。
それに、孤児院も・・・
国が援助して継続される事になったしね。」
その寛容な施策の裏には、
そこまで幼い子供達を追い詰めた社会への批判と反発を
逸らせる為のものではあるが、
それはエドワードに告げる必要はないだろう。
「そうか。」
何の感慨も感じさせない返事を返し
今度こそ、その扉から出て行った。
そして、室内はロイの胸中が染み渡ったのかのように
どんよりとした鈍色が染め上げていった。
その日の昼休み、ロイはエドワードを探して資料室に足を運ぶ。
午前中の失言に対する詫びも兼ねて、
そして、本当は傷ついている彼に
少しは頼ってもらえないかと言う無意識の願望を抱いて。
広いエリアの資料室の中では、
彼を探すのも一苦労かと思われたが、
実際、エドワードが興味を引くような分野は限られており
余り 一般的なものでもないので
資料室でも 人気の無い奥まったコーナーに居る事は間違いない。
そう考えて歩を進めると、本に埋もれるように
床に座っている彼を見つける。
近くまで寄ってみたが、こちらに気づく気配もない。
「鋼の。」
最初は邪魔をしないようにと小さ目の声で呼んでみる。
が、自分の世界に入ってしまっている彼には
全く届いていないようだ。
「鋼の。」
今度は 少し大きめに呼んでみる。
それでも応え一つ見せない彼に
段々と声を大きくして呼びかける。
「エドワード・エルリック。」
「エドワード!」
「エド!」
いい加減気づいてもいいんじゃないかと
意地になって呼んでみるが、
まるで、意地悪く無視してるんじゃないかと疑うほど
反応を見せない。
そして、資料を読んで動く視線も
時折、つぶやくように動かされる唇も全く変わらないまま。
「聞いてはいたが・・・。
聞きしに勝る集中力だな。」
はぁ~とばかりに手近の椅子に脱力した身体を投げかける。
どさっと音がした事も、聞こえてないようだ。
「・・・襲うぞ。」
悔し紛れにボソリと不穏な言葉を吐き出す。
自分に、そんな危ない発言をされているのも気づかずに
一心不乱に資料を読んでいる彼を眺めている。
しかし、呼んで反応が無い彼だ。
見つめているだけでは、到底 気づいてもらえそうもないと
ロイは、資料を取り上げるという強硬手段に出ようとした矢先、
遠くからアルフォンスの声が聞こえてきた。
「兄さん、戻ったよー。」
広い資料室で、控えめにかけられた言葉では
到底、エドワードが気づく事も無いだろうと
弟の苦労を慮って、思わず苦笑を浮かべそうになったロイの
唇が、硬く引き締められる。
かすかに声が聞こえたと思った瞬間、
エドワードが ピクリと反応をした。
続いて、資料から目を離さないままとは言え
返事を返したのだ。
「お~う、ここだー。」
言いながら、ここまでと顔を上げて
その横にいる存在に驚きを見せる。
「な、なんだよ、驚かすなよ。
てっきりアルかと思うじゃねえか。」
驚きのあまり 座ったまま器用に後じさり
まじまじとロイを見る。
『な、なんだ こいつ・・・。』
エドワードは、凝視しているロイに戸惑いを浮かべる。
眉間に皺を寄せ、硬く引き結ばれた口元から、
何やら 大佐の機嫌が良くない事を見て取るが、
その不機嫌の原因には思いあたりがない。
「あっ大佐、お疲れ様です。
兄に用事ですか?」
礼儀正しく挨拶をしてくるアルフォンスの手には
どうやら買出しに行ってたらしい食料がぶら下げられていた。
「ほら、兄さん。
昼ごはん買ってきたよ。
ちゃんと食べなよ。」
アルフォンスに差し出された袋を覗いて
エドワードが嬉しそうに表情を緩める。
「お前、メシ買いに行ってくれてたんだな。
どうりで、気配がしないと思ったぜ。」
そう笑いながら言うエドワードに
「もう! 気配でわかってるんだったら
ちょっとは探してくれたっていいでしょ。」
「俺は 忙しいの!」
「はいはい、だからって食事抜きは許さないからね。」
アルフォンスに説教されて、渋々と立ち上がって
忘れていた大佐の存在に、やっと意識を向けてくる。
「んで、大佐。
何か用?」
どうでも良さそうに聞いてくる態度に
ムッとする感情を押し殺すのに苦労をする。
「いや、何度も呼ばせて頂いたんだが、
まるっきり気づいて貰えなかったようでね。」
そう言ってやると、エドワードは 大佐の不機嫌な面は
そのせいかと、自己完結した答えを導き出し、
ロイに答え返す。
「そりゃ、スミマセン。
んで、何か用なわけ?」
「兄さん!
きちんと謝りなよ。
すみません、兄さん 集中していると
他に意識が向かなくて・・・。」
不遜な態度の兄に替わり、丁寧に頭を下げてくる。
「いや、私も聞いていたんで構わないが
すごい集中力だな。」
「そうなんですよー。
もう少し気を配って欲しいって何度も言ってるんですけど
没頭しちゃうと、全くダメで。」
やれやれという雰囲気を滲ませてアルフォンスが言う。
「いいの、俺が気づかなくても
お前が気づくんだから、問題ないだろ。」
そんな事をサラリと言ってのけるエドワードに
ロイは愕然とした気にさせられる。
エドワードが、ごく自然に言った言葉は
自分達 二人がいれば問題はないと言う事だ。
他人は 必要ないと・・・。
それを聞いたロイの心に広がる
ほの暗い感情に名前をつけるとすれば、
「嫉妬」だろうか。
兄の全幅の信頼を得ているアルフォンスに対しての。
そして、他者を入れようとしないエドワードに対しての
わずかな怒り。
『馬鹿な。 実の弟に嫉妬するなど。』
そんな自分に嫌気が差して、
ロイは気分を変えようと、エドワードを昼食に誘う。
「いい、俺 アルに買ってきてもらってるの食うから。」
そう答えが返る事は、アルフォンスが戻ってきてから
解っていた事なので、ロイもあっさりと引き下がる。
兄に代わって、気遣いに礼を言いながら
去って行く二人の姿を見送るロイの心情は
暗鬱としか言いようがなかった。
一人での味気ない食事を終えて、司令室に足を向けるロイの視界に
昼食をとりに出た兄弟の姿が目に入る。
二人は、兄が食事を終えたのか
一見、食後の休息を取っているように見える。
エドワードは、アルフォンスに背を持たせかけて
上向きにむけた姿勢で、目を閉じてじっとしている。
アルフォンスはと言うと、
そんな兄の邪魔をせぬようにと
膝を抱えて、座り込んでいる。
何も会話もなく、ただただ 二人は 流れる時間に身を任せている。
その姿は、襲い来る嵐の中
身を庇い合って縮こまりやり過ごそうとしている
雛のようだ。
飛ぶことに疲れ果て、しばしの休息を得るために
互いの翼を重ね合わせて、お互いを守る。
彼らは そうやって、互いに癒しあった後
また、旅立つことを繰り返してきたのだろう。
ロイは、その光景を見ていたくなくて目を背けて立ち去る。
早く あの光景を見なくてすむところへと。
その胸中には、先ほどより はっきりとした感情が
激しくのたうち廻っていた。
強い嫉妬と、それを手に入れれる立場の彼に対する羨望。
押さえることも出来ないほど膨れ上がる感情に
居ても経ってもおられないロイの足は 速度を上げて
二人から遠ざかっていく。
「んじゃー、行くな。」
夕刻、資料室の鍵を返しにきたエドワードは、
すっかり いつもの彼だった。
「ああ、今度は どこに?」
そのエドワードの変わりようにも、
軽く打ちのめされる。
わずかな時間で、彼は癒され立ち上がっていく。
何もなかったように・・・。
「う~ん、今んとこ 情報もないし、
資料室であった事例を確認するのに出かけてみようかと思う。」
「そうか、定期報告だけは忘れないように。」
そう、今の自分には それ位しか 彼と繋がる方法も無い。
案の定、嫌そうな顔をして
「わかった。」と返事を返して去って行く姿を見送る。
過去、何度も繰り返された行動。
それは、ロイとエドワードの関係を
よく表しているように思う。
今だ ロイとエドワードは
ただの上司と部下。
それ以上でも、それ以下でもない。
縮まらない差は、今だ埋められることもない・・・。
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