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9、口吻け
17WORD 『 9、口吻け 』
H18,9/24 14:00
扉を開けて入ったなら、絶対に最初に
こちらを眺めながら,嫌味な笑みを貼り付けて
デスクに座っているアイツの顔を見る事になると思っていた。
いつも、そうやって迎えられていたから。
だから、今の状況は 全くと言っていいほど思いもしなかった。
まさか、入っていきなり 言葉どころか、息まで奪い去られるような
口付けをされるなんて・・・。
前回イーストシティーを出てから、今回は少し長めの月日が過ぎた。
情報に振り回されて、電話もないような僻地をグルグルと廻され
挙句に 何も出てこなかったとは、ガックリくるより
ドッと疲れが押し寄せる。
トボトボと 荒野を歩くエドワードに、
アルフォンスが 慰めの言葉をかけてくる。
「仕方ないよ兄さん。
もとから、出所も怪しい情報でもって出かけたのは
僕達なんだから、元気出して。」
「わぁってるよ。
別に ガックリしてるわけじゃーないぞ。
また、次の情報を探さなくちゃって思ってただけなんだからな。」
空元気を出して答えるエドワードに、
アルフォンスは 力づけるように頷いてやる。
「そうだね、また 新しい情報を見つけて
次に出かけようよ。
それに、いい加減 1度イーストシティーに戻らないと
また、大佐に呼び出しをされる事になるよ。」
そちらの方が、より心配だと言う様にアルフォンスが気にかける。
「う・・・っ、イーストか。」
急に歯切れの悪くなった態度に、
アルフォンスは 妙に思うが、もとより
余り進んでは戻るほうでもなかったので、
特に気にせず話を続ける。
「そうだよ。
ここに着てから報告書も送れなくて
溜まってるんでしょ?
以前に頼まれた仕事も、急ぎではないって言ってたけど
いくらなんでも 時間が経ち過ぎてるんじゃないの?」
「へっ? 頼まれた仕事??」
そんな任務があったか?と首を傾げる仕草をするエドワードに
アルフォンスが 少し怒り気味で声を荒げる。
「兄さん、まさか 忘れてるんじゃないよね?
ほら、出てくる前に 兄さんが大佐の所にお世話になりながら
頼まれた事があったからって言ってたじゃないか。」
そう、アルフォンスに言われて エドワードは やっと思い出した、
と言うか、思い出させられた。
出来れば忘れていたかった事柄だけに、
エドワードの表情が 渋い顔になる。
「・・・別に、あれは急ぎでもなんでもないし・・・。」
むっりと言うエドワードに、アルフォンスはため息をつきながら
説教をしだす。
「兄さん。
いくら大佐が急ぎでないからと言ってくれても
軍の仕事でしょ?
約束は約束なんだから、きちんと終わらせないと。」
「解ってる・・・。」
アルフォンスには 事の真相を知らせていないので、
誤解されていても仕方が無いが、
実は 頼まれていた仕事なぞ、無いのだ。
が、なら 何故言わなかったのか、どうしていたのかを
追求されると、エドワードには やや拙い事が
あの時にはあったのだ。
(はぁ~、仕方ない。
1回ついた嘘は、貫くしか秘密は守れない。)
大切な弟に嘘をつく事は、エドワードにとっては
心に重いものがあるが、
かといって真相を知られるのは、とんでもない事だ。
『まさか、俺と大佐が あんな関係になっただなんて・・・、
まじ言えねぇ。』
ここで、余りにも躊躇っていると
勘の良い弟のことだ、エドワードの嘘もバレないとは限らない。
『しゃあねえか。』あきらめたように返事を返す。
「わかったよ。
とにかく、一旦 イーストに戻ろう。
・・・でも、まずは この荒野を出ないとな。」
そう言って、エドワードは目の前に広がる平原をみる。
「・・・そうだね・・・。
ちょっと まだ時間はかかるかもね。」
延々と続く平原は、いきにも相当な日数を費やした事を思うと
イーストに辿り着くには、もう少し時間が必要のようだ。
「全く こんな所、 師匠の下で修行した俺らじゃなかったら
生き残れねえって・・・。」
はぁ~と深くため息を吐き出すエドワードに、
今度は アルフォンスも同意する。
「全くだよね。
研究していた人も、頑張ったんだろうね。」
妙なところで同情しながら、
果てなく続く荒野を 黙々と進む事に専念した。
その頃のイーストシティの司令部内では、低気圧の風が吹き荒れていた。
荒れていると言うと少々語弊があるかもしれない。
激しく吹きすさぶと言うよりは、
日に日に暗く、重く圧し掛かってくるという表現の方が正しいだろう。
その圧迫の元凶は、隣の部屋に居を構える上司の元からやってくる。
「中尉、連絡は?」
「まだありません。」
「ハボック、手懸りは。」
「はっ! 足取りの途中で見失ってからは
見つけ出せていないようです。」
「各司令部への伝令は。」
「立ち寄った形跡なしとの報告です。」
それだけを確認すると、ロイは 難しそうに考え込んで
自室に引き戻る。
「はぁ~、参ったよなー。」
咥えタバコがトレードマークのハボックが、
ポリポリと頭を掻きながら唸りだす。
「全くエド達は、どこに雲隠れしたのやら。」
「僕、大佐が出てきて聞かれる度に
冷や汗がながれるようになりました・・・。」
数時間おきに、エドワードの行方を訊ねる大佐に
「成果なし。」の報告をするのは、
日に日に暗雲を濃くして背負っていく上司には
気の小さくない者達でも 出来れば遠慮したい程の苦行だ。
「大佐は エドワード君の事になると
少々、冷静さを欠かれるから・・・。」
少しづつ積もった書類は、すでに隣室の部屋ではさばききれず、
こうやって、自分達の所まで出回っている。
以前試した強硬手段も、お金の引き出しもされていない今は
効果が出ない。
彼らの事だから、大抵の事は大丈夫だとは思うが
完全に安全とも言えないのだ。
軍の威光が守るのも、街に近いか 司令部に近い近隣だけで
僻地にでもなると 逆に恨まれる要素にもなる。
頭の賢い子供だから、そこら辺は理解しているだろうが。
でも、やはり まだ子供である事も真実なのだ。
大佐に移された様に、少しづつ伝染していく不安が
皆の気持ちを重くしていく。
そんな時、
電話の1つが ふいに鳴り出す。
急かす様に鳴り続ける電話の音に、やれやれと言う風にハボックが電話を持ち上げる。
「はい、東方司令部マスタング司令室です。」
電話が鳴ったのを契機に、各々が不安を振り切り それぞれの仕事の続きに取り掛かる。
「はっ? あー、お前達 何してたんだよー!!。」
あきらかに 尋常でない電話の応対に皆が一斉に注目する。
「ちょっ、ちょっと待ってろよ。
いいか、絶対に電話を切るんじゃないぞ。」
早口で それだけ伝えると、通話口を押さえるのも忘れて
大きな声で皆に知らせる。
「大将だ! エドワード達から連絡が入りましたよ!」
それだけ叫ぶと、また電話を取り直す。
「お前達、一体 何してたんだよ。
えっ? 荒野を渡ってた~。
今、端の村に辿り着いたって?
で、いつ戻れ・・・。」
そこまで聞いていた時に、いきなり受話器を取り上げられる。
「あっ、大佐・・・。」
取り上げた本人を見て、ハボックも押し黙る。
「馬鹿者!
連絡もせずに、一体 どれだけほっつき歩いてたんだ!
言い訳はいい!
即、戻って来い!
列車がない?
そんな事は関係ない。
今日中に戻って来なければ、資格を剥奪すると思いたまえ!」
日ごろ 声を荒げて怒るという事を余りしない上司の剣幕に
エドワードからの電話に集まってきていた面々も
1歩2歩と後ろに引いてしまう。
大佐は、むっりとしたまま受話器をハボックに渡し
「ハボック、列車の手配をしてやれ。」と言い放つと
プイッと司令室に入ってしまった。
「あ・・・、まぁ なんだ。
大将たち今は どこにいるんだ?」
ハボックが エドワード達の会話を復唱しながら話してやると、
周囲のメンバーも、それぞれが反応して役割分担を分けて動き出す。
「ハボック少尉、その村から 2駅向こうでサウスシティーに出る列車があります。」
「列車のチケットは手配をします。
出発時刻は 10:30です。」
「サウスシテイーに出れば、丁度いい事に 本日初の軍用輸送列車が
イーストに向かう予定になってます。
ただし、13時発なのでギリギリですね。」
「わかりました。
サウスシティー司令部には 私から連絡を入れます。
エドワード君達が来るまでは、出発を延ばさせて待機させておきます。」
「って事で、とにかく そこから10:30までにそこまでいけ。
その後は、こちらで手配しておくから。
軍用列車なら、何とか今日中には こちらにつける。
急げよ。」
要点だけ伝えると、後は電話を切りホッと周囲を見渡す。
皆も それぞれが手配をしながらも、
安堵のためか、心なしか顔が明るい。
「全く~、あいつらには肝を冷やされるぜ。」
「本当に。
僕、大佐が あんなに怒ったのを始めてみました。」
大佐の剣幕を思い出したのか、
フュリーが フルフルと身体を振るわせる。
「まぁ、何にせよ 安否がわかっただけでも
ホッとしたぜ。」
皆が 安心の為に 軽口をたたいている間に
ホークアイ中尉は、静かにノックをして 隣に引き篭もった上司の部屋に入る。
「失礼します。」
中に入ると、上司は 不貞腐れたように足を組み
窓から外を眺めている。
「良かったですね、連絡がとれて。」
1番心配をしていただろうロイを思いやる言葉をかけてやる。
「全くアイツときたら、
人に迷惑をかけてる自覚が少なすぎる。」
まだ怒りが治まっていないのか、アイツ呼ばわりをしている上司に
微笑みながら、言葉を足す。
「そうですね、戻ってきたら その点は厳しく叱ってやって下さい。
でも、子供は大人に迷惑をかけるものですから。」
暗に 厳しくし過ぎない様にと釘を刺しておく。
「・・・解っている。」
やれやれとばかりに呟かれた言葉も、
口に笑みを浮かべて言われていれば、
それ程 この上司が怒っているわけでない事がバレバレだ。
多分 誰よりも彼らの事を心配していたのは
他ならぬ この上司だったのだろう。
怒りは安堵の為に湧いてきたのだ。
ホークアイ中尉は 静かに部屋を出ていく。
一人になった部屋で、ロイは ずるずると椅子にだらしなく凭れかかると
しばらくぶりで、肩の力を抜いて瞑目する。
「全く、何だってンだよアイツは~。」
2つ向こうの町までの足さえない状態で、
エドワード達は 村で馬車を持った人間に頼み込んで走らせてもらっている。
古い馬車には この強行軍は厳しいのか
ガタガタと揺れる度合いが大きくて、乗っている者には
居心地が良いとはお世辞でも言えない。
「兄さん、しゃべってると舌を噛むよ。」
「わかってるよ! っつつ、あいでて。」
噛んだ舌のせいで、涙目になりながらも
エドワードは 先程の電話のロイの剣幕を思い出す。
嫌味を言われる事は度々の事で、今更 驚く事でもないが、
あそこまで 激しく怒鳴られたのは初めてだ。
怒鳴られた本人が言う事ではないが、
エドワードは 最初、怒鳴られた事に気づけない程驚いた。
その後、猛然と腹をたてたが 相手は
言い返させるヒマさえも与えてくれない剣幕ぶりで
さすがのエドワードでも、言い返すには分が悪かった。
ガタガタと大きく揺れる中、
怒鳴られて落ち込むはずが、
何故か 心の中が温かくなっている気がするのは何故だろう?
揺れる馬車に影響を受けたかのように
自分の中でも 想いが揺らいでいる。
『還れるんだ・・・』
そう考えている自分が、不思議で仕方が無い。
何とか強行軍を果たしてイーストに辿り着いたのは
もうすぐ日付が変ろうかという時刻になっていた。
出来れば このまま宿に入り
疲れた体を休ませたいところだが、
さすがに今日は 司令部を無視して通り過ぎる事はできない。
急ぎ足で 司令部の敷地に入ると、
無駄口もたたかずに、司令室直行する。
「疲れた~。」
勢いよく扉を開けて、手を扉についたまま
項垂れながら大きく息を吐き出すエドワードに続いて、
アルフォンスが そっと中を窺うように挨拶をかける。
「こんばんは~、遅くなりました。」
さすが、深夜に近い時間になると 中も閑散としている。
本日当直なのだろうブレダ少尉が、
「よお、久しぶり。」と変らぬ落ち着きで声をかけてくる。
「ちわ、ごめん・・・何か迷惑かけたみたいで。」
珍しく愁傷なエドワードの様子に、
ブレダは ポンと軽く頭に手をおく。
「皆も会いたがってて、残るって言ってたんだけどな、
大佐が 勤務終了した者は帰るようにつったんでな。
今度は しばらくは居るんだろう?」
「うん・・・、情報が無くなったんで
こっちで集めるつもりだから。」
「おう、じゃあ また明日でも顔を出してやってくれよ。」
髪をクシャクシャに撫でながら、ブレダが手を下ろした。
「えっ・・・とぉ・・・。」
言いよどむエドワードを察して、ブレダが先に言ってやる。
「大佐は奥だぜ。」
「・・・うん。」
やはり待っていたのかと、少し肩を落とすエドワードに
苦笑を浮かべると、ブレダはアルフォンスに一言二言声をかけて
二人で出て行く。
申し訳なさそうにエドワードを見ながら出て行くアルフォンスに
無理やり作った笑顔で頷いてやりながら、
開けるべき扉の前で、深呼吸をして覚悟を決める。
「よぉ・・、大佐 入っていいか?」
普段なら、返事が無くても勝手に押し入るエドワードだが
さすがに朝の剣幕を覚えているだけあって、
恐る恐る扉を開けて、中を覗き込む。
扉から見えた机は主不在で、エドワードが『あれっ?』と
思った瞬間に、強く腕を引っ張られ
扉は背中で 大きな音を立てて閉まった。
次に感じたのは、熱さだった。
覆いかぶさってきた熱は、唇で発火しているように感じられる程の熱さだ。
顔をすくい上げられ、身体を強引に抱きかかえられると
身長差の為、エドワードの足が床から持ち上がる。
辛うじてつま先が触れるか触れないかの不安定な姿勢は
相手にしがみつく結果となる。
そのエドワードの反応に気を良くしたのか、
ますます抱きしめる腕に力が籠もる。
抱きしめられる力の強さのせいか、
息もできない程に塞がれた口づけのせいか、
どんどんと苦しくなる状態を何とかしようと
エドワードは 手を突っぱって引き剥がそうと試みるが
ピッタリと合わさった身体同士には、腕どころか指さえ入りそうも無い。
仕方なく 肩に手をおいて押しやるようにしながら
嫌々をするように首を振る。
エドワードの滅多に無い、そんな可愛い仕草が
ロイを煽らないはずがない事が、
エドワードにはわかっていなかった。
ふいに足をすくい上げられ抱きかかえられる浮遊感の後には
どさりと柔らかい物の上に落とされる。
その後に男の体重が一気にかかってくるとなると
さすがのエドワードも、真剣に抵抗を始める。
『まじこのままじゃ、潰される』
対格差からの恐怖が、エドワードのコンプレックスを上回る。
「まっ、ちょ・・・待て!」
必死に顔を背けて言葉を紡ぐエドワードに
尚も 顔を手の平で包み込み、口付けを続けようとするロイに
エドワードは 何とかしなければと、手を周辺に彷徨わす。
その時丁度、手に何か堅い物が触れた。
何かを考える前に身体が動いて、エドワードは 勢い良く
それでロイの頭を叩く。
「・・・・っつ、
エドワード、何をするんだね・・・。」
叩かれた箇所に手をやり蹲るロイが手を離した隙に
エドワードは ソファーから起き上がり体制を立て直す。
「何をするんだじゃーないだろう!
してるのはアンタだろ!」
それだけ言うだけでも、酸欠気味の身体には酷だったようで
ゼイゼイと息を吐き出している。
「だからといって、灰皿で殴る事はないだろうが・・・。」
余程痛かったのだろう、涙目で恨めしそうに
エドワードが 持つものに視線を止めている。
「あっ、ごめん!
咄嗟なんで、確認する前に殴っちまった。」
確かに 重厚な作りのこれで殴られれば
かなり痛い事だろう。
「全く・・・、
何の連絡もなく行方を眩ませたかと思えば
久しぶりに戻ってきたのに、上司を殴りつけるなんて・・・。
一体、君は何様のつもりだ。」
ブチブチと不平を漏らす男が 余りにも大人気なかったので、
エドワードは 呆れるより、可笑しくて仕方なくなる。
「ごめんってば・・・。
嫌でも、戻っていきなり セクハラするアンタもどうかと思うぜ、俺は。」
ニヤニヤと笑いながら そう言い返してくるエドワードに
ロイは ムッとした表情で言い返してくる。
「君ね・・・、
一体 どれだけ心配したかわかっているのか!
電話も繋がらない、調べても形跡も見つからない
あまつさえ、金を出している形跡もないとなれば
心配にならないほうが、おかしいだろうが!」
それだけ言うと、まるで照れたようにそっぽを向いて
むっつりと黙り込んでしまう。
「・・・心配してくれてたんだ・・・。」
そうエドワードが呟くと、ロイは瞬間カッとなって振り向くが
エドワードの 表情を見ると、黙って腕を回してくる。
「当たり前だろ、この馬鹿者が。」
回された手が、優しく背中を撫でる。
「うん・・。」
「もう、こんな心配はこりごりだ。」
「うん・・・、ごめんな。」
「解ってくれたなら、それでいい。
だから、泣かなくてもいい。」
ロイは 片方の手でエドワードの頭を抱くと
コトンと自分の肩に落としてやる。
「・・・うん・・・。」
本当は 安堵の為、泣きたかった気分なのはロイの方だったはずなのに
おかしな事に、心配をかけたエドワードの方が泣きそうにみえた。
ロイは静かにエドワードの頭を、背中を撫でてやる。
大丈夫だと言う様に。
しばらくして落ち着いてきたのか、
エドワードが 我に帰って、羞恥のため身体を離してしまう。
それを少々残念に思いながらも、
彼の気持ちを慮って、ロイも素直に腕を外す。
「本当に今回はごめん・・・。
謝って済む事じゃないけど、俺らもまさかあんな僻地とは
思って無くてさ。
途中まで行って気づいた時には、
もう、戻れないとこまで進んじまってて。」
エドワードらしくない神妙な顔で、旅の苦労を語る。
ロイは 静かに頷いて聞いてやる。
「今回の事は 本当に悪いと思ってる。
明日には 皆にもちゃんと謝るから。」
「ああ、そうしてやってくれ、
皆も かなり心配して手を尽くしてくれてたからな。」
隣に腰をかけて、エドワードに回した腕を外す事無く
ロイは エドワードに答えてやる。
「うん・・・、
そのぉ・・・、特に あのぉ
アンタには心配かけたみたいで・・・。」
素直に『ごめんなさい』が言えないエドワードに
ロイは ふとした悪戯心が湧く。
「本当に反省しているかね?」
「う、うん。」
「私に対して、謝罪する気も?」
「えっ・・・、まぁ あるけど。」
何やら よからぬ空気が湧いて出てきたような気がして
エドワードは 顔を上げてロイをみる。
そこには、意地悪げに微笑まれた おなじみの表情がある。
「大佐・・?」
戸惑っているエドワードを感じたロイは
ニッコリと笑うと、エドワードにお詫びの品を要求する。
「お詫びの品~!」
まさか、そんなものを請求されるとは思っていなかったので
思わず声が大きくなる。
「そうだよ、鋼の。
今回の君の事では、少なくない費用がかかっているんだぞ。
言葉だけでなく、誠意を示すのは 当然だろ?」
「っても・・・、何だよ 何を贈れば良いってンだよ。」
折角、ロイの思いやりに感動していたのに
金品を要求されるなんて、興ざめだ。
エドワードは そんな内心を表情に浮かべて相手を睨みつける。
「そうだな・・・、折角 君が侘びを贈ってくれると言うなら、
君からの口付けをしてくれないか?」
ロイの予想外の返事に、エドワードは 瞬間、呆然とする。
「・・・口付け・・・、俺から・・・?」
「そう、君から、私に。」
ゆっくりと繰り返し、エドワードに理解させるように言ってやる。
しばらくぼんやりと考えていたようだが、
段々と首から順番に紅くなっていくのを
面白いものを見たような目で、眺める。
「そ、そんな事・・・。」
「鋼の、等価交換だろ?」
「で、でも それとこれとは・・・。」
アタフタとするエドワードに、ロイは可笑しそうに詰めより
少々 意地悪い気分で、エドワードを急かす。
「それとも、私の心配は君の迷惑だとでも?」
「いや・・・、そんな事は・・ないけど、でも・・・。」
「でも・・。」
「でも?」
「いや・・・。」
「嫌?」
何を言っても、引きそうにないロイに エドワードは
あきらめたように息を吐き出す。
「・・・わかった、俺からする。
で、でも 目はつぶっててくれよな。」
決死の覚悟でエドワードが そう言うと、
ロイは 心底嬉しいという風に破顔した。
「目を瞑る!」
照れ隠しに命令するエドワードに
ロイは 「はいはい」と肩をすくめて返事を返す。
ゴクリと喉がなる。
じっと目を瞑り待っている男のまつげが
意外に長い事に気がついた。
そんな些細な事に 意識を向けると、カッと羞恥心が襲ってくる。
今までキスは一方的にされるだけで、
エドワードからする事も、当然 強請る事等有り得なかった。
いざ、こうやって自分からするとなると
なけなしの勇気を奮い起こしても、足りない位だ。
どうしようかと戸惑うエドワードの気持ちが見えたように
ロイは 黙って、エドワードの両手を握る。
一瞬、驚きで手を引きそうになるが
繋がれた手の温かさに思いとどまる。
そして、握られた手の温かさに勇気付けられたように
おそるおそる 顔を寄せていく。
ちょん・・・と触れたか触れない程度の口づけをしてみると
ロイは嬉しそうに口の端で微笑む。
それでも目を開けない男に勇気付けられて、
今度は もう少し長めに口付けてみる。
しつとりと重ねた唇からは、ほんわりとした気分が湧いてくる。
それは、戻る時の馬車で
叱られて尚嬉しいと感じていた自分の気持ちにも似ているかも知れない。
エドワードは気がつくと、熱心に口付けを施していた。
開かない唇にじれったさを感じて、
手でロイの頤を掴んでは開けるようにと促す。
あっさりと開かれた唇に、エドワードは たどたどしく
口内に舌を差し入れる。
それでも、応える事無くじっとしている相手に
持ち前の負けん気が頭をもたげてくる。
『クッソー、俺ん時はいつも翻弄させられてるってのに
涼しそうな顔しやがって。』
エドワードは 一生懸命に、記憶を辿る。
いつも、朦朧としてしまい どんな風にされているかなんて
覚えていない気がしていたが、
身体はちゃんと記憶していたようだ。
少しづつ、記憶を手懸りに 口付けを深くしていく。
そして、そんなエドワードの変化にロイが1番驚いていた。
無関心を装ってはいるが、それには多大な忍耐が必要だった。
嬉しくて すぐにでも手を回して口付けを返してやりたいのだが
そうなると 相手が逃げてしまう事もわかっていた。
快感を呼ぶには 程遠い幼戯だが、
エドワードからだと思えば、気持ちが高揚してくる。
たどたどしく始められた口付けは、
ロイが反応を返さない事で、段々と大胆になってくる。
どうやら、自分とのキスを模範しているようだが
妙なところでも、天才とは違うものだと感心させられる事になった。
確実にロイが感じるポイントを突きながら上手くなっていくキスに
そろそろロイの我慢も限界に近くなっていく。
そろりと寄せた身体からは、微かだが エドワードがこのキスに
ちゃんと感じている兆しが感じられた。
その瞬間、ロイの忍耐と なけなしの理性が
劣情の焔の消し炭になったのを感じた。
咄嗟に抱きかかえ、強引に主導権を握る。
不服そうに唸る声さえも嘗め取るように
相手の口内に侵入する。
まるで異議ありとばかりに遮るエドワードの舌を巻き込み
二人で攻防戦を繰返す。
相手が進入してきたら、より深く巻き込み
相手が下がれば、こちらから攻める。
色気とは無縁な所で行なわれているこの口付けが
体中を奮わせる程感じてしまう。
それもこれも、エドワードが自分に許してくれての行為だと思うからか。
うっとりとする程の高揚感の中、
遠くから足音が聞こえてくる。
ロイは舌打ちしたい気分を抑えて、
エドワードを離したくないというようにきつく抱きしめる。
エドワードがわかっていると言う様にロイの回した手を撫でる。
本人は そんな気なくやっている行動だろうが
そんな些細な事にも、どんどん欲望は膨れ上がり
ちゃんと止めれるのかが不安になるほどだ。
コンコン。
控えめなノックの音が響くと、
エドワードが驚いたように顔を離して、
立ち上がろうとする。
離れる身体に、咄嗟にロイは 腕を腰に巻きつけて引き戻そうとする。
「兄さん・・・、大佐。
あのぉ~、夜食を買ってきたんですけど。」
遠慮がちにかけられる声に、エドワードは 完全に我に帰り
ロイに離すように腕を叩いて促す。
「おう、アル サンキュウー
すぐそっちに行くから、用意しといてくれよな。」
「うん、わかった。」
そう聞こえると、足音が扉から遠ざかる。
「大佐、大佐ってば。
おい、もう離せよ。」
回した腕を緩めず縋る男に、エドワードは苦笑しながら
言葉をかける。
「嫌だ。」
「嫌だって言われてもな・・・。
大人気ないぜアンタ。」
腰に手を回された状態では、
エドワードにはロイを引きずって行くほどの力がない。
「ほら、行けないだろ?
手え離せよ。」
「行かなくていい、ここに居てくれ。」
駄々っ子のように言い張るロイに、
余り気の長くないエドワードは苛苛と言葉を告げる。
「離せってーの。
いい年して甘えるんじゃねえ。」
そう言いながら、グイッと肩を押しのけると
渋々、不平たらたらの表情で、エドワードを見上げてくる。
回された手を離させないと夜食にありつけない。
だから、仕方なくだ、と自分に言い聞かせながら
少し屈んで、ロイの唇に小さく口付けを落とす。
驚くロイに、仕方ないな~とばかりに苦笑いをみせ、
「アルには、アンタに頼まれた仕事が終わってないって言ってるんだ。
だから『 』。」
顔を真っ赤にさせながら、最後に呟かれた言葉は
ロイを満面の笑顔にさせた。
やっと離された手に促されながら、隣の二人の待つ部屋に歩き出す。
小さく呟かれた言葉は 『家に帰ったらな』と紡がれたときに
ロイは 心から嬉しいという思いを噛み締めた。
行くのでも、来るのでもない。
エドワードは 帰ろうと言ってくれたのだ。
二人で過ごすあの部屋を。
帰ったら また我侭を言ってキスを強請ろう。
そして、どれだけ心配したかを知らせてやろう。
言葉だけでなく、小さな愛おしい体中全てに。
[あとがき]
久しぶりのODAI 17WORDの更新でした。
シリアス書いても、何故か ロイさんが情けなくなるのは何故?
本当は 大人なかっこいい大佐が希望なんですがね~。(苦笑)
↓面白かったら、ポチッとな。
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