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『駄目な男』 act4「買物」


 ~ 駄目な男シリーズ ~



             act4 『買物』
              H18,10/8 17:00



そのフロアーでは、先ほどから小波のような緊張感が漂っている。

セントラルでも指折りの高級百貨店は、
訪れる人を選ぶような威厳があるが、
このフロアーは比較的、明るく庶民的な雰囲気がある。
小物にもこだわりを持つ上流階級の人々に混じって、
お祝い事に、好きな人への贈り物にと考える人々が集まってくるからだ。

そのフロアーに先ほどから、周囲の人の視線を一身に集めている人物がいる。
ふらりとやってきて、色とりどりの棚を眺めては
悩ましげに首を傾げる仕草や、
手にとっては、何かを呟いている姿は、
美しく着飾った余所行きの姿の人々の中にあっても、
その青年の空間だけ光を放っていて、
まるで別世界のようだ。

その青年が動くと、その姿が見れる位置へと皆が 
つられて引き寄せられるように動く。
大胆にも声をかけようとするものは居ないが
皆、遠巻きにチラチラと視線を送ったり
中には、はっきりとわかる程の秋波を送っている者もいる。

青年は、ごくシンプルな服装をしており、
それが、彼のスタイルの良さを更に強調している。
淡いブルーの光沢のあるシャツに、
細身の黒のスラックス。
足元は明るめのスニーカーを履いているカジュアルな服装なのに、
まるで、あつらえられた正装をしているような気品が感じられる。

青年が、手に取った商品を棚に戻しながら、
軽く首を振ると、美しい肢体を飾る金の波が揺れる。
あまりの眩さに、先ほどから熱心に彼を眺めている女性の一人が
くらりと揺れて、驚いた連れに助けられている。

気にいった物が無かったのか、周囲の棚に視線を彷徨わすと
その驚くほど純度の高い宝石のような金瞳の視線範囲にいる者は
動揺の余り荷物を手から取り落とす者、
顔を紅潮させて震える者、
フラフラと引き寄せられそうになり 同様の周囲の者に
叱責を受けている。

そんな周囲の状況には、全く目に入ってもいないのか
青年は変らず ゆっくりと棚を見ながら散策をしている。

そこに・・・、

周囲の人垣を除けて近づいて行く者が現れた。
『誰!』と言うような、周囲の驚きや 少しばかりの敵愾心を持ってその人物に
皆がきつめの視線を向けるが、
その多くの視線も、驚きと共に感嘆の視線に変る。

そこに現れた人物も、周囲の者には観賞の価値ある
すこぶる男前な人物だったのだ。

青年より少し年上だろう人物が、その青年に声をかけると
青年は、怒ったような顔を向ける。
苦笑を浮かべて近づく男性に、手に持った商品を見せると
男性は 軽やかに笑う。
それに、さらさらと音がしそうな金髪をゆらして首を振る。
男性は仕方なさそうに微笑みながら、
顔を寄せて 青年に一言二言囁きかける。
青年も、言葉を返すために 顔をさらに寄せて何かを呟いている。

この頃になると、周囲のお客のギャラリーだけでなく、
百貨店の厳しい躾を身に付けている従業員達の中にも
思わずカウンターに凭れる者、その場に座り込む者が続出する。
騒然となる不穏な空気が爆発しそうに満ちた瞬間、
話題をさらった二人の人物は、颯爽とその場を去って行った。

さすがに、その二人を追おうとする豪胆な者はいなかったようで、
残された者たちは、悲嘆にくれながらも
今日見た情景を記憶に強く刻んでおこうと固く心に誓った。


そんな周囲の騒ぎの元凶は、全く気づかずにフロアーを出た足で
高級老舗の百貨店を出て行く。

「エドワード、別に あそこで買えばよかったじゃないか?」

「じょーだん! 何だよあの店。
 高すぎるんだよ。

 なんで、皿1枚 カップ1個に あんなに0が付いてんだ?

 あんなのが家にあったら、おちおち食器も洗えねえぜ。」

「そうかね?
 そんなに驚くほどの値段だったかな?」

不思議そうに首を捻りながら、先ほどエドワードが見せた商品を思い出す。
が、品は見たが 対して値札など気にしていなかったロイには
いくらの表示だったか、思い出せない。

首を捻りながら思い出しているロイに、エドワードが肩をすくめて
「高かった。」と言い切る。

「まぁ、そんなに気にしなくても構わないじゃないか。

 値段ではなく、自分が気にいった物を買って貰える方が
 私としては嬉しいんだが・・・。」

「俺が気にいる物なら、もっちっと気軽に扱える物がいい!

 お客様様は、あんた もう十分持ってるだろ?

 今日買いに来たのは、俺らが普段使うヤツなんだから。」

そう言いながら、ショッピングモールの店を品定めしていく。

「・・・そうか、自分たち用か・・・。」

感慨深気に神妙にうなづいた後に、嬉しそうに笑み崩れる。


エドワードがロイと一緒に住むことを決心してから
すでに、1ヶ月が過ぎていた。
当初は 出来るだけ早くに 越してきたかったのだが、
引き継ぐ仕事の内容や、今後の方針、
そしてなにより、アルフォンスを説得するのに時間がかかり、
やっと こうして、ロイの待つセントラルに来て数日が経つ。

エドワードが 家と言うより屋敷と言った方が良いロイの住みかに来て
すぐに始めた事は、まず 生活できる環境作りからだ。
ロイの家は決して汚いというのではないが、
まるで展示場のようで、生活の匂いがするものが殆ど無かった。

使われた事があるのかと疑いたくなるような
綺麗に整えられたキッチンにある、大きな食器棚達の中には
これまた 展示された調度品のような食器が展示されている。
エドワードは うっすらと埃が積もる食器棚を掃除した際に
当面不必要そうな物を片付け、自分達用の食器を置けるスペースを作った。

ロイは嫌がったが、沢山ある部屋の1つをエドワード用に荷物を運び
最低限持ち込んだ家財道具をおく。
生活サイクルの違う二人が住むには 各自の部屋がある方が良いと主張するエドワードと
そんなものは必要ない 絶対に一緒の部屋が良いとごねるロイの妥協が
寝室は1つにするという事でカタが付いた。

二人の部屋から行き来出来る真ん中の部屋を寝室にし、
その両側に互いが自分の部屋を持つ。
こうすれば、廊下に出ずとも 互いの部屋を行き来できるので
ロイも 渋々ながら承諾をした。
改装は、反則技ながらエドワードが錬金術で行い
やや、扉のデザインには目をつむる事で互いの部屋を持つ。
その時のロイの要望もあり、バルコニーも3つの部屋が
行き来出来る様に繋いでしまう。
集中すると、呼んでも気づいてくれないエドワードが
ロイを締め出す事になっても、姿が確認出来るようにとの事だった。

「そういや、あんたは何を買いに行ってたんだ?」

エドワードが食器を見に行くと言うと、
先に自分の買い物を済ませてくると出かけたロイに
エドワードが、手ぶらな男をみて聞いてみる。

「ああ、私の方は 運んでもらうようにしたからね。
 かさばるのも、嫌だろう。」

「車で来てるんだから、ちょっと位構わないだろう、
 わざわざ、運んでもらわなくても。」

渋い顔をするエドワードに、ロイは そうかなと首を傾げる。

「余り買い物を持ち歩いた事がなかったんでね。
 大抵は、持ってきてもらうんだが・・・。」

不思議そうに言うロイに、エドワードは 贅沢者と吐き出す。

その後、大量の買物を持つはめになったエドワードが
やっぱり、運んで貰うのもありかもと後悔しながら
車への往復をする事になった。

「はぁ~、結構買うものがあったよなー。」

この後、これを運び出す事を考えるとうんざりする。
反対に、ロイは始終ご機嫌な様子で
運びますと言ってくれる店員を断り
何度も 荷物を運び込んでいた。

「そうだね、私の家には 最低限な物しかなかったからね。」

年齢的に言うと、今回の買物という過酷な労働が響いているはずなのに
当の本人は 甚くご機嫌だ。
ロイにしてみれば、エドワードが『自分達用』と言った言葉を聞いて、
それなら、出来るだけ 人には触れさせたくないと思う気持ちが湧いて
嬉々として、運んでいた。

「片付けは 明日だな。
 もう今日は動きたくない。」

助手席の背凭れに だらしなくずり落ち腰を落とすエドワードに
微笑みながら視線を流す。

「まぁ、片付けは 急がなくていいじゃないか。
 ゆっくりとやってくれればいいさ。」

「そうだな。
 1週間の休暇ももらった事だし、
 ぼちぼち片付けるよ。」

「ああ、そうしてくれ。
 手伝える事があるなら、私も手伝おう。」

エドワードが リゼンブールを出ても
変らず 市議長を続ける事。
それが、アルフォンスが妥協したラインで
住民も、その方針を強く希望した事もあり、
エドワードは 当面は、セントラルで職務を続ける事になる。
何度か行き来はしなくてはならないだろうが、
それでも月の大半は、セントラルのロイの元にいる。
それだけでも、ロイにとっては 十分喜ばしい事で、
今までの状況では、望むべく事も出来ないほどの環境だ。
嬉しさでにやける表情を引き締める事等
はなからあきらめて、ロイの運転する車が屋敷の近くに戻ってくる。

「あれっ?
 なんか うちの前に来てるぜ?」

門の横にしずかに寄せるように置かれているトラックに
エドワードが 訝しげに話しかけてくる。

「ああ。
 きっと、私が頼んだ物が着いたんだろう。」

訝しむエドワードをよそに、ロイは平然としている。

「買物って・・・、あんた 一体何を買ったんだよ?」

あんな大型のトラックに詰まる程の買物・・・、
いくら部屋が空いてるから片付ける場所には困らないだろうが。
片付ける自分が困るだろう・・・。

そんなエドワードの思いが、表情に表れていたのだろう
ロイが 事も無げに言う。

「ああ、片付けるのは業者がしてくれるさ。
 数自体は 対したものではないしね。」

先を聞きたそうな様子のエドワードをよそに
ロイの運転する車は、門の前で止まる。

「お待たせしたようで。」

ロイが会釈をしながら車を出ると、
業者の他に、店の者だろうか スーツをきっちり着た
上品な老齢の男性が 深々と頭を下げて
ロイにお礼の言葉を告げている。

その後は、ロイが 何言か指示らしいものを伝えると
手馴れている者たちが テキパキと荷物を運び入れていく。
エドワードは、トラックから 次次と現れてくる
いかにも高級な家具たちを 唖然とした様子で眺めるしかなかった。

エドワードが 即席で練成した寝室には、以前からロイが使っていたベットがあったが
それは 持ち運ばれ、部屋の半分を占めるような大きなベットが新たに置かれる。
そして、老齢の男性の指示で ソファー、チェストとランプ数個づつ、
絨毯にカーテン、枕やシーツに至っては その紳士手ずから準備をしてくれる有様だ。
ついでにとばかりに、気を利かせた紳士が エドワード達の車に入った買物まで
男達に指示して運び込んでくれた。

ものの数十分もすると、殺風景だった寝室は
どこから見ても 品良く居心地の良い部屋に様変わりをする。

ロイが紳士と談笑しながら バルコニーに出て行くと、
ロイに話しかけられた紳士が、頷きながら バルコニーの採寸をはじめる。
何度か ロイに確認をしながら、手帳に書き記していく。
そこら辺にくると、さすがに呆然としているだけだったエドワードも
二人が 次に何の話をしているかを察して、
あきらめたように自分も話しに加わるように歩いていく。

「ああ、エドワード。
 どうだい、部屋の感じは?」

「うん・・・、いいんじゃないか。
 凄く立派になって、驚いたけど。」

嬉しさを隠せずに満面の笑顔で話しかけてくるロイに
エドワードは 苦笑と共に、そんな言葉を返す。

「そうか、気にいってもらえたなら大丈夫だな。
 今度は、彼に このバルコニーも内装を頼もうと思ってね。」

「ありがとうございます。
 頑張らせて頂きますので、宜しくお願い致します。」

紳士は 深々とエドワードにも頭を下げる。
買う主はロイだが、決定権はエドワードが持つことを察したのだろう。

紳士に 宜しくと挨拶をすると、エドワードがロイに向き直って
自分の要望も ついでに頼む事を口にする。

「希望?
 もちろんだよ、君が好きなように伝えてくれれば
 私としても、それが1番嬉しいよ。」

滅多に 願いを口にしないエドワードからの言葉に
気を良くしたロイが、嬉しそうに返してくる。

「うん、バルコニーは あんたの好きにしてもらうんで
 構わないからさ、出来たら リビングを作りたいんだ。」

「リビング?
 確か、向こう側にあっただろう?」

ロイが数回しか使った事はないが、
公の招待をしなくてはいけない時に足を運んだ部屋を思い出す。

「いや、あっちの いかにも招待しましたって部屋じゃなくて
 もう少し 内輪のメンバーが気にせず入れるような
 リビングが こっちに欲しいんだ。」

「内輪のメンバーの?」

ロイ自身は エドワードと寛ぐなら キッチンのリビングでも
十分だと思っていたので、エドワードの言葉に意外に思う。

「うん、これからは リザさんとか、ジャンも来てもらいたいし
 多分・・・アルの奴も来るだろうから。

 そういう人が来てもいいようなリビングもあった方がいいだろ?」

そうエドワードが言った言葉に、
ロイは自分が考えもしてこなかった事に内心 驚く。

今までは、ここに誰かを招くなど公の行司の時以外に
思いもつかなかったし、考えもしなかった。

が、考えてみれば 自分達は ここで生活をするのだ。
互いの友人の行き来があってもおかしくない。

生活がきちんとなされているホームとは、そう言うものだったと
長く忘れていた感覚が思い出されてくる。

「・・・ああ、そうだな。
 これからは、そうなっていって貰えれるんだな。」

ロイは胸中に広がる喜びを噛み締めながらエドワードを見つめる。
彼が 自分の傍に居てくれる。
それだけで、これだけ変っていけるものなのだ。
寝泊りするだけの箱が、暖かく人を迎える家になる。
ロイは それを与え、作ってくれるエドワードに
感謝以上の想いを向ける。

エドワードと紳士が、部屋に対してのプランを話しだしたのを
嬉しそうに聞きながら、どんな部屋が出来るのかと
子供のようにワクワクする自分を感じる。

エドワードが作る家なら、さぞかし 皆が寛げる空間になるだろう。
人に対して 深い思いやりを持つ優しい彼だ
きっと、温かく優しい空間になるはずだ。

こうしてエドワードが 傍に居てくれれば、
今まで 捨て置かれていた部屋が1つ1つ生き返っていく。
その度に、ロイの心の中も温かい思いが増えて行くのだろう。
自分の為には 多くは望まずにきた事を疑問に思わなかったが、
今のロイは 少しづつ欲張りになっていく自分を感じている。

今日よりももっと、明日はエドワードと幸せになりたいと
強く願う自分がいることを。


[あとがき]
駄目な男シリーズ4.
エドワードの買物シーンが頭に浮かんで、
思わず書いてしまいました。
二人の買物シーンが見れるなら、私も客になって野次馬したかったよ~!



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