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駄目な男・番外編「みんなのアイドル」
★20、1月冬コミ無料配布本から
~ みんなのアイドル!! ~
『ここは・・・戦場だ・・・・・・』
眼前で繰り広げられる光景を、茫然と見ながら、
彼はそんな戦慄に襲われていた。
ロイ・マスタング。
過去はイシュバールの英雄と言う忌まわしき名を付けられ、
現在はアメトリス国の国家英雄と讃えられている、
国会議長を務める三十某歳・・・実はもう少しで四十路・・・。
「エドちゃまー、エドちゃまー。 トリシャも抱っこ~」
ウィンリーとアルフォンスの、良いとこ取りをしたような美少女が、
精一杯に小さな手を伸ばして、エドの足元にしがみ付いては、
お強請りをしている様は、何とも言えず微笑ましく、可愛らしい。
「わかったよ、トリシャ。 お兄ちゃんを降ろすから、少し待ってな。
ほらマース、トリシャと交代だ」
「やぁー、やだやだ!! 僕だって久しぶりなんだから、もう少し~」
賢そうな顔は、恐ろしいことにアルフォンスに瓜二つの甥っ子のマースは、必死にエドワードの首にしがみ付いては、頬擦りなんかしながら、
離れようとしない。
「ほらほら、また後で抱っこしてやるから、ちょっとだけ交代な。
マースは偉いお兄ちゃんだろ?」
子供二人に懐かれている状況を、相好を崩して喜んでいるのは、
甥・姪馬鹿に成り下がっているエドワードだ。
事あるごとに自分の甥、姪を自慢している彼にとって、
この状況は、幸福の絶頂の時なのだろう。
例え、最愛のハズの伴侶を、すっかりと置き忘れていたとしても・・・。
ロイは、玄関口でポツリと佇みながら、目尻に滲んだ雫を、そっと拭いた。
「こらぁー、そんなとこで我侭ばかり言ってたら、
エドが部屋に入れないでしょ! 寒いんだから、
早く部屋に案内して上げなさい」
救世主の登場で、漸く事態は展開の兆しを見せる。
「すみません、マスタングさん。 騒がしくて」
申し訳なさそうに謝ってくる彼女の様子も、
すっかりと幸せそうな母親の顔だ。
若々しく、実際まだ若いのだが、華やかな印象の彼女は、
昔と変わらず溌剌としている。
「いえ、こちらこそ。 家族水入らずの中をお邪魔してしまって」
社交辞令として、型どうりの挨拶を返す。
てっきり、向こうも型どうりの挨拶をしてくるかと、思っていると・・・。
「あはは、しょうがないですよ。 エドを呼べば、
ワンセットで付いてくるのは、判ってましたから」
と、朗らかに返された言葉に、妙な棘が・・・。
「どうぞ上がって下さい。 もうじき、アルも戻ってきますんで」
揃えられた来客用のスリッパに履き替えながら、
その言葉にもギクリとする。
内心の動揺を表情に浮かべるような馬鹿はしないが、
履き替えの為に上げた足が、ややブレた動きになったのは、
しょうがない事だろう。
前回の時に、ロイの家に泊まりに来たアルフォンスのブラコンぶりは、
ロイの血管を1度や2度等の少数単位ではきかない位、
切れさせたのだから。
「はぁ」と曖昧な相槌を打ちながら、案内された部屋へと進む。
「エドちゃま、どうして遠くで暮らしてるの?
トリシャ、エドちゃまに会えなくなって、悲しいよ・・・」
「トリシャ・・・」
「エド、僕も! 僕も寂しいよ! エドが居ないリゼンブールなんて、
リゼンブールじゃないよ。
ねぇ、こっちだとエドが一人になって寂しいなら、
僕一緒に暮らして上げるからさ~」
愛らしい子供が、寂しそうに訴えてくる様子は、かなりエドワードの心を
揺さぶっているようで、彼の表情も曇っている。
「・・・ごめんな、マース、トリシャ・・・。
俺、あっちでやらなくちゃいけない事があってさ・・・」
申し訳無さそうに話している言葉を聞いて、
ロイは内心で安堵の吐息を付いた。
まさか・・・、まさかとは思うが、もしエドワードが、
この子供たちに絆されて、やっぱりこっちで暮らすなんて事を言い出しら、
今度はロイが発狂する事になる。
子供たちも、辛そうに説得してくるエドワードの様子に、
渋々ながらも、お強請りを引っ込める気になったようだ。
「仕方ないよな、エド、お仕事忙しいって、ママも言ってたしな。
俺、早く大きくなってエドを助けれるようになるから、
そしたら一緒に暮らそうな」
マースの言葉に、大人しく出されていたお茶を飲んでいたロイが、
思わず口に含んだ飲み物を噴出しそうになる。
「え~、ずるいー。 トリシャだって、エドちゃまのお嫁さんにしてもらて、
ずっとずーと、一緒に暮らすんだからー!」
「バーカ、一緒に暮らすってのはな、ヤシナウカイショとかがいるんだぞ。 ママがいつも言ってるだろ? パパはカイショナシだから、
エドと暮らせなかったんだって。
俺は、大人になったらカイショ持って、エドと暮らすんだ!」
力一杯、明るい未来を語るマースの話の内容に、
思わず固唾を飲んで聞き入っていたロイが、
今はキッチンに居る彼女の方に視線を廻る。
「トリシャだって、ママみたいにお仕事バリバリして、
カイショウ持つんだから! お兄ちゃんになんか、負けないよ」
小さな子供が、大好きな叔父を挟んで、牽制しあっているのは、
どこの家庭にでも見られる光景の1つに過ぎず、
普通はパパやママの愛を奪い合うものだ。
この家では、ややバージョンが違う形なのだ。 と、
ロイは自身を納得させるように、内心で言い聞かせる。
「ほらほら、あんた達。 手を洗って来なさい。
でないと、おやつ食べれないよぉ」
キッチンから、焼きたてのお菓子を持ってきたのだろう、
トレーから湯気をたてて、ウィンリーが子供たちを嗜める。
「「はぁ~い」」
さすが母親の言葉は、良く聞くようで、子供たちも渋々ながら、
手を洗いに部屋を出て行く。
「はい。 エド、アップルパイ好きだったでしょ」
トレーをテーブルに置き、ウィンリーが腰をかける。
腰を・・・かけた。
それ自体は、おかしい事でも何でもない、ない筈なのだ。
エドワードの横に座ったと言う事以外。
ロイは、思わず周りを囲むように置かれている椅子達を見回す。
テーブルを囲むように配置されているのは、3人位が
ゆったりと座れるソファーに、一人用の椅子が数脚。
大家族用のテーブルなのだろう。
なのに何故、隣???
ロイさえも、子供たちの勢いに押されて、エドワードの向かい側に
腰をかけている状態だ。
が、この広いセットには、今は三人しか座っていないと言うのに・・・。
ロイは、甲斐甲斐しくお茶の代わりやら、お菓子を切り分けて
エドワードと談笑している彼女の様子を窺う。
そこに、バタバタと先を争うように走りこんでくる、
小さな足音が押し寄せてくる。
「あ~、またママがエドちゃまの横を取ってるー。
だから、トリシャ、部屋を出るの嫌だったのにぃー」
泣きべそをかきそうな表情を浮かべて、少女が母親を責めている。
「俺、じゃあ、こっち取ったー」
さすがに兄は要領が良く、妹が文句を言っている間に、
さっさと空いている片側を占領する。
「あー、お兄ちゃんズルイー」
子供二人が、片側で揉め合っているのに、母親は悠然とした態度で、
エドワードの横を動こうとしない。
「マース。 そっち側はダメって、いつも言ってるでしょ?
もうじき戻ってくるわよ」
ロイにとっては意味不明なその言葉も、この家族達には通じ合っているか、
不満たらたらの様子で、争っていた片側を離れ、
仕方無さそうに脇の一人用の椅子に、それぞれが腰を落とす。
ロイは言葉を発する事も忘れたまま、目の前で繰り広げられる
家族団欒・・・?、エルリック家のと限定した方が良いかも知れない・・・ そんな事も加えて思いながら、唖然としたまま見ているしか出来なかった。
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