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このお話では、ロイは非道で鬼畜な人間となっております。
人道的にも反している人格となっておりますので、
その点を苦手とする方は、読まずにいてもらえますように。
ハッピーエンドでも、楽しいお話でもないと思われます。
それでもお読みになられる方は、ご自身の判断でご了承頂き
下記へスクロールしてお進みください。
*性描写もややございますので、未成年者の閲覧はお止め頂けますように。m(__)m
・・・ 喩え、外道と堕ち果てても ・・・
「婚姻を結ぶ事になった」
さらりとついでにように告げられた言葉に、リザは思わず手を止め言った上司を
信じられない気持ちで凝視した。
言った本人はそんな部下の反応を気にする事無く、書類の処理の仕事を進めている。
思考が止まったまま暫くして、リザは乾いた口内に叱咤して何とか言葉を吐き出させる。
「・・・・・・・・何と、おっしゃられました―――?」
訊ね返した声が同様で震えているのは仕方ない事なのだ。
この上司から、生涯聞く事はなくなったと思っていた内容を告げられたのだから。
不審そうに視線を向けて、上司は再度あっさりと告げてくる。
「君にしては珍しいな、聞き落とすとは。
婚姻を結ぶ ――― 妻を娶る事になったと言ったんだ」
聞き間違い出なかった単語に、リザは今度は言葉も出せない。
そんなリザの態度にも上司は気にせずに、淡々と言葉を続けていく。
「日時を割けない事は判っているので、1日でいい。
スケジュールを調整して公休を作っておいてくれ」
告げた内容の大きさからは信じられないほど、軽い扱いの予定だ。
「――― 1日で宜しいのですか?」
どのような意図があるかは判らないが、知る為には聞かなくては進まない。
リザは自分の同様を無理やり押さえ込んで、ロイに問い返してみる。
「ああ、それで十分だ。・・・そうだな、無理なら夕方からの半休でも構わない。
私には面倒なだけだが、あちら側にも立てなくてはならない名分もあるとの事でね。
つまらん事だが致し方ない」
冷めた上司の態度に鼻白む。
「お相手はとお伺いしても?」
「当然だとも。クレバー財団の一人娘 ―――、名前は・・・ソフィア嬢だったな、確か」
妻の名前の方が性よりも後に出てくる。それは性の方が重要だと伝えているようなものだ。
クレバー財団はリザも当然知っている。
軍との繋がりも深く、強大な財閥で由緒有る家柄の一族だ。
・・・そして、以前からロイとのコネクションを築こうと画策していた筈だ。
が、ロイは過去の因習に身動きを取られて動けなくなるような事が無い様にと
上手く避けてきていたのではなかったか。
それが何故。今更・・・。
リザは納得できない感情を抱えたまま、上司、ロイ・マスタング少将を見つめ続けた。
*****
数年前まで、ロイには愛情を一心に注ぐ者がいた。
――― いた ――― と過去形になるのは・・・、その少女が亡くなったからだ。
いや、正確には亡くなった・・・では無いのかも知れない。
今でも彼女の生死は不明のままだからだ。
彼女にはその小さな身体に背負うには大き過ぎる願いを抱いていた。
幾多の苦難や辛酸を嘗めながらも、彼女と弟の二人は願いを達する為に旅を続けていた。
その兄弟の、特に姉のエドワードを支えてき続けたのが、ロイ・マスタングだった。
歳の差はかなりあったが、それでも互いを必要とし、支え合って戦い続けていた。
正直、自分の上司にそんな相手が出来るようになるとは、リザには思いもよらず
信じられなかったのだ。
イシュバールの戦いを機に、ロイ・マスタングと云う男は変わった。
人として生きる道よりも、使命を全うする人の形をした生き物へと。
そんな彼に慈しみ、共に未来を歩いて行こうと思える存在が現れた事を
リザだけでなく、自分の上司の薄倖感を薄々察していたメンバー達も心から喜んだ。
幼い少女は、その年齢からは考えられないような包容力と度量を具えており、
時に自分と云うものを忘れがちになる上司に、己もまた人として生きている事を
思いださせる存在でも有った。
そんな存在は、生涯に二度も現われるものではない。
唯一だと云っても過言ではなかった。
だから錬成に立ち会うと言った上司を、エドワードもリザ達も引き止める事は諦めたのだが。
錬成は成功した。――― 彼女の悲願だけは果された。
弟のアルフォンスの身体を戻すと云う・・・。
そして、それだけだった。
弟は戻り、姉・・・エドワードは戻っては来なかった。
その後から暫くの間の上司の悲嘆振りは、見ていられないほどだった。
日に日にやつれやせ衰え、それでも任務をこなす姿は「休んでくれ」と周囲が
懇願したくなる有様だったのだから。
それがある日を境に、上司は以前と同じように落ち着きを取り戻し
今まで以上に職務にも精を出すようになり、漸く気持ちが落ち着いたのかとホッと安堵もしていた。
それからの数年は只管職務に務め、順調に出世もして将軍職も手に入れた。
が、今になってみればおかしいと疑問を持つべきだったのだ、その時に。
あれ程、心を、魂まで結んでいたような存在を失って、人が平静に・・・元に戻るなど
出来無いだろうと云うことを。
*****
そんな考えに浸っていると、またさらに掛けられた言葉にリザは目を瞠る。
「・・・ああ、それと。来月には階級が1つ上がる事になった」
「!? ――― 階級が・・・ですか?」
少将に昇進して然程月日が経ってもいないと云うのに。
そんなリザの驚きを見て取ったのだろう、ロイは暗い笑みを口の端に浮かべ。
「なに、婚姻を結ぶ代償だ。それ位あってもしかるべきだろ?」
その言い草には、したくもないものをと思っている心境がありありと滲み出ている。
「――――― 少将は、それで本当に良いと思われてるのですか?」
そう問う声が、自分でも驚くほど冷たく尖っている。
「何を言っている? 良いと思う選択だから選んだ。それが答えだ」
皮肉な哂いを湛えて語る言葉は、どこまでも冷たく・・・そして、哀しい。
――― この人は・・・恨んでいるのかも知れない。
この世を、運命を。自分の大切な分身を奪ったこの世界を。
彼の中の出口も当たる事も出来ない憤りは、ずっと彼の中でマグマのように煮え滾っていたのではないだろうか。
彼女の損失は、彼の中では世界の消滅と同義語だったのかも・・・それほどの存在だったのかも。
今更ながら気付かされた上司の想いの深さ。
が、今更知ったからと ――― どうにも出来ないのかも知れない。
既に時は動き始めている。
リザは背を這い上がる寒気に、小さく身を振るわせた。
*****
副官の不安を他所に、ロイの結婚生活はそれなりに順調だった。
彼はフェミニストな男性だったから、女性の扱いも長けている。
妻に娶ったソフィアと云う女性は、家柄も良く裕福な家系の深窓の令嬢とは思えないほど
控えめで慎ましやかな女性であった。
激務の夫を持った悲しさに不満を唱える事もなく、順従に主が不在がちの家を守って暮らしている。
ロイもそんな妻への配慮を怠る事はなく、帰れない日は連絡を入れ気をつけるようにと
声を掛ける事も忘れない。
結婚後、直ぐに子供を授かりその子供が男児だった事にも
大層な喜びを見せてくれた。
優しい夫に、可愛い子供。金銭的にも不自由もなく、社会的な地位も高い夫の妻。
誰もが憧れる地位にいることは疑いようも無い。
なのに・・・・・ソフィアの心は憂いで塞ぎ込む日々が続いている。
子供を寝かしつければ、彼女がすることは何も無い。
夫のロイが嫌がる事もあって、この邸には通いの手伝いの者しか勤めていない。
ひっそりと静まる邸内の外には、当然ながら警護の者が配置されて入る。
――― 何がいけなかったのだろう・・・。
灯りを小さくした部屋で、ソフィアは深く、重い嘆息を吐く。
それも一度や二度ではない。もう習性になってしまって、溜息を吐いてない独りの時間の方が
少ないくらいだ。
結婚の当初は幸福の絶頂だった。
心密かに憧れていた相手との結婚話が再度出た時には、自分の幸運に感謝した。
過去に父親がロイに持ちかけた時。彼はその話をあっさりと断って返した。
その当時、知っている者は知っていた。エドワード・エルリックと云う少女と夫の恋話。
一目を憚らぬ二人の熱愛振りは、いずれ来る近い将来像を思い浮かべるのさえ容易な程だった。
が、少女は亡くなった・・・と、ソフィアはそう聞いている。
詳しくは判らないが、不慮の事故で亡くなったのだと。
その後数年して、再び舞い込んだロイとの結婚話は、とんとん拍子に進んで行った。
その日から暫く・・・ 子供に恵まれたその後の頃まで、ソフィアは夢のような気持ち一杯で
暮らしてきたのだった。
・・・・・おかしいと気付いたのは、その後だ。
子供が出来た当初、無理はさせられないからと部屋を別にしようと言い出した夫の言葉に
特には疑問を挟む事もなく了承した。
夫は忙しく責任のある地位に着いている。
小さな赤ん坊がいる部屋での生活は無理だろうと判っていたから。
幸い赤ん坊は夜鳴きをする様子も見せず、すくすくと育っては夜は良く眠っている。
そんなある夜。珍しく帰宅した夫の部屋へと足を向けた。
子供が居るからとソフィア達は1階の部屋を寝室にしたが、ロイは二階に部屋を設けた。
産後の体調も完全に戻り、普通の夫婦生活を過ごすにも全く問題がなくなっていたから、
羞恥を堪えつつも、ソフィアはそう夫に伝えようと思っていたのだ。
優しい夫の事だから、気遣う余りに言い出せないのではないかと・・・。
久しぶりの甘い夜を思って胸を弾ませドアに手を伸ばしたソフィアは、軽い驚きに打たれる。
「・・・鍵が?」
思わず呟いた声に気付いたのか。それとも気配で気付いたのだろうか。
「どうした?」とドア越しに問われた声音に、更に驚かされる。
不機嫌そうな苛立ったような話方は、初めてされた。
そんな相手の空気に押されながらも、ソフィアは懸命に勇気を振り絞って話しかけた。
「あ、あの・・・あなた? ――― ジュニアも良く寝てます。
そ、そのぉ・・・私ももう大丈夫だから・・・」
蚊の泣くような呟きも、深夜の寝静まった屋敷内では良く響き、ソフィアは自分の告げた言葉に
思わず頬を染めてしまった。
が、帰ってきた返答は沈黙だった。
すぐさま扉を開けて迎え入れてくれるだろうと信じていたのに、向こうでは動く気配も起こらず
扉は微動だにしない。
「あ、あなた?」
不審そうな問いかけを漸く口に出来たのは、随分な時間が経ってからだ。
「・・・疲れている。休ませてくれ」
そう扉越しに掛けられた言葉に、ソフィアは愕然となる。
疲れているなら、せめて添い寝位はさせてもらえないのかと問う言葉は、
相手の余りの冷たい声に萎んで消えてしまう。
「・・・判りました。お休みなさい」
そう返すのがやっとだった。
それから2年が過ぎる。
人前では優しい言葉をかけ、接してくれる夫に、皆は声を揃えて羨ましいと誉めそやすが
ソフィアは広い邸でずっと冷たいベッドで過ごしてきた。
他に愛人でもと疑ったのは一年過ぎた頃。
内密に夫の行動を調べる者を雇ってみたりもしたが、・・・結果は白だった。
ソフィア以外の女性と逢っている事も、通っている事実も無い。
なら、何故?
そう彼女が思い悩むのも当然だ。
そして・・・どこにも相談できずにいる。
何度か問いかけてみたが、返ってくる答えは「疲れている」の一言。
そして付け加えられる言葉が、更にソフィアを悲しませる。
――― 良き母親としていたまえ。―――
その言葉が胸に突き刺さってソフィアを苛んでいく。
*****
うとうととしていたらしい。
灯りを消したリビングで転寝してしまっていたソフィアの耳に、車が止まる音が微かに届く。
玄関が開かれる音に、ソフィアの鼓動が跳ねる。
帰ってきたのだと気付けば、素直に嬉しくなる。
何日ぶりの帰宅だろう。夫が戻らない日々は、もう当たり前のようになっていたから。
玄関から忍ばせて聞こえてくる足音に、軽い失望を抱く。
彼は真っ直ぐと自室へと上がっていく。
子供の顔さえ見ようとも、妻の存在を確かめる事もせず。
玄関から直通で自室に向かう彼にとって、その部屋しか存在しないかのように。
ソフィアは知らず知らずの内に涙を流し続けていた。
嗚咽を噛み殺し、自分自身の存在さえ消してしまうように密やかに・・・。
*****
「・・・ふぅ」
暫くぶりの帰宅にロイは疲れ切っていた。
自分が望んで身を置いているとは云え、こうも激務が続くと流石に堪える。
シャワーでざっと汗を流すと、部屋に備えたカウンターから気に入りの酒を取り出して呷ると
書斎のデスクの後ろの棚を慣れた手順で触れていく。
数瞬後に手元から閃光が溢れたかと思うと、そこに隠されていた扉が現われる。
ロイがその扉に手の平を触れるようにすると、それはまた光、カチリとした開錠の音が小さく響く。
開いた中には、敷き詰められたビロードの布の上に美しい水晶球が置かれている。
淡い光を発行しているのか、水晶球は扉の中を薄淡く照らしている。
「ただいま、エドワード。すまなかった、独りにしていて」
そう声を掛けながら、ロイは丁寧な手つきで珠を手の平に包み込むと、愛しそうに口付けを落す。
その瞬間、先程より大きな閃光が室内を照らすと、次の瞬間、ロイの腕の中には小柄な少女が抱かれていた。
まだ眠りの中にいるのか、少女の瞼は瞑られたままだ。
ロイは抱いた者を驚かさないように、そっと触れて声を掛けていく。
「エドワード、ただいま。戻ったよ?」
額に、頬にと口付けを落としながら、下ろされている髪を何度も梳く。
「・・・・・んっ」
小さな反応を見せる少女に、ロイは更に熱心に呼びかける。
「ほら、居眠りさん。いい加減に目を覚ましてくれないか?
私が君に逢える時間はまだ短いんだ。早く覚ましてくれなければ、勝手に弄ぶ事にさせてもらうが?」
愉しげな囁きを少女の耳に吹き込んでいくロイの手は、既に言葉を実行に移し始めている。
「――― 勝手に・・・弄んなって」
眠そうな声でそう抗議すると、少女は琥珀色の綺麗な瞳を数度瞬いてみせる。
「おはよう。エドワード」
喜びを隠しきれない声で挨拶を告げる。
「ん・・・・。今度は、何日くらい経ってんだ?」
ロイは部屋のソファーに彼女を連れながら腰を落ち着ける。
「今回は少し仕事が立て込んでいてね。半月ぶりになってしまったよ」
膝の上に乗せるような形で抱きかかえられているエドワードは一糸も纏っては居ない。
「ふん・・・・・どうだかな」
不機嫌そうな声に、ロイが嬉しそうに相好を崩す。
「おや、拗ねてくれているのかな?」
からかうように囁いては、エドワードの唇に軽いキスをする。
「・・・・馬っ鹿じゃねぇの。呼び出されなくて清々していたぜ。
折角、ゆっくりと寝てたってぇのに叩き起こしやがって・・・さ」
それが照れ隠しの悪態なのは、彼女の朱に染まっている頬で判る。
「そんなつれないことを言わないでくれ。
君に逢いたい一心で、必死に頑張ってきたと云うのに」
回された腕に力が籠められる。
「あんたがそんなしおらしいタマかよ。逢いたいじゃなくて、抱きたいの間違いだろうが」
ツンとそっぽを向いて、そんな風に告げてくるエドワードに、ロイは苦笑を零す。
「それは勿論・・・それもある。――― 君は?
私に触れたくはなかったか? 寝ている間に夢の中で私に抱かれてはいなかったのかい?」
耳朶を甘く噛みながらロイがそう囁いてやれば、エドワードの肢体がサッと赤く色付く。
「・・・べ、別に・・俺はそんな夢は・・・――」
ムキになって否定すればするほど、エドワードの赤味が増している。
「寂しいな・・・。私は寝る時はいつも君を思い浮かべていたと云うのに」
「――― 何か、あんたが言うとやらしく聞こえる」
「当然だ。いやらしい事に及んでいるんだから」
嫌味を肯定で返されて、エドワードは唖然として口をパクパク開けて閉じて言葉も出ない。
「私の夢を叶えてくれるだろ?」
期待の籠もったロイの声に、エドワードは恥かしがりながらも小さく頷いた。
*****
その日は魔がさしたのだ。
いつもより寒く感じる室内の所為だろうか。
寒さに耐え切れず、ソフィアはふらふらと2階を目指していく。
意識が薄くなっている彼女の存在は希薄で軽く、闇に溶け込んでしまいそうだった。
扉の前に行ったとしても、開けては貰えないだろう。
それでも何度か扉の前まで行き、戻って行くしか無かった経験が
彼女を怯ませる。
それでも、今日は何としてでも傍に居たかった。
このままでは自分のこの家での存在意義を見出せなくなりそうだったから。
息さえ止めるようにして、ソフィアは階段を上り詰めた。
ずっと遠く長いと思っていた上は、足さえ運べばあっと云う間に辿り着けるのだ。
裸足のままカーペットの敷かれた廊下に踏み出せば。
――― 開いている。
その信じられない出来事に、ソフィアの足が浮き足立ちそうになる。
――― ・・・・・・・・ ―――
そんな彼女の耳に声とも思えぬ音が届く。
慎重に足を運び、耳を澄ませてみる。
子猫がミルクを嘗めるような水音が微かに聞こえ、ソフィアの眉が顰められる。
内緒で何か生き物でも飼っているのだろうか?と思う考えは、浮かんだ直ぐに消える。
不在が多い夫が自分に内緒で生き物を飼えるはずが無いのだ。
なら一体? そんな疑問がさらに耳をそばだてる事になる。
――― っふぅ・・・―――
吐息の良いに漏れ届いた声に、ギクリと身体が強張った。
――― そんなに美味しそうに頬張って・・・。妬けるな ―――
そう聞こえた声は、確かに自分の夫のもののはず。
――― ・・・・・・ ―――
それに返したような言葉は不鮮明で聞き取れないが、・・・信じられないが女性の、
しかも少女の声だったように聞こえ、ソフィアはガクガクと全身が震えてくるのを堪えつつ
薄く開かれた部屋を覗きこむ。
――― ・・・・・!? ―――
声は上げなかった。・・・いや、上げれなかったと云うべきか。
信じられない光景が部屋の中では繰り広げられていたからだ。
上半身の着衣を肌蹴ている夫は、ゆったりとソファーに腰を掛けている。
そして・・・そして、その足元に蹲っているのは。
――― 裸体のままのまだ若い少女が、懸命に奉仕を続けている。
「・・・くっ、う。 ―― エドワード、上手になったね」
満足そうな声でそう言ってやりながら、ロイは綺麗な金糸を撫でてやる。
褒められたエドワードはチラリと視線を上目遣いに寄越し、一旦咥えていたものを離すと、
チロリと先端を舌で嘗める。
「――― 気持ち好い?」
あどけない表情で嬉しそうに問いかけてくる少女に、ロイは愛しさを隠しもしない表情で
答え返す。
「勿論だ。君に触れてもらって、気持ちよくならないはずがないさ。ほら」
更に太さを大きくして、ロイのモノも快感を素直に伝えてくる。
「へへへ・・・。じゃあ、もっと頑張ってやるよ」
そう言って握り締めていたモノに、再び口を近づけようとして。
「いや、もう十分だ。こちらにおいで」
そう誘う声が情欲に濡れている。
「・・・ん」
恥かしそうに頷くエドワードも、この次に来る快感は判っている。
「そう・・・そのまま腰を落として・・・」
座っているロイを跨ぐように少女が膝立ちをする。
腕をロイに巻きつけ頭を抱えるようにして、ゆっくりと沈み込んでいく。
「ん・・・っ あっぁ はっ・・・―――」
腰を揺らめかしながらゆっくりと中へと取り込んでいくエドワードの動きは
扇情的で妖しげな舞いの様だ。
「くっ――― いいぞ・・・。もう、少しだ・・・」
狭い彼女の中から与えられる快感は、いつもロイに眩暈がしそうなほどの好さを与えてくれる。
特に今夜は久しぶりの所為か、ロイの我慢もギリギリに追い込まれる。
「はっぁ――・・・ふぅ・・」
全てを納めたエドワードが鼻に掛かった甘い声を洩らす。
「・・・エドワード、すまないが一度達かしてくれ。
その後でゆっくりと愉しませてやる」
その言葉を伝え終わるや否や、ロイの動きが激しさをみせる。
「ヒッ! アッアァァァー やぁーーー、ふか・・すぎる!」
ロイの動きに合せてエドワードの喉からは嬌声が迸る。
ガクガクと揺さぶられる勢いにエドワードの髪が空を舞い散っている。
美しい声で謳うカナリアの様に、その白い喉からは次々と喜びの声が奏でられ
ロイは応える様に一層動きを激しくさせて行った。
「エドワード!!」
振り絞るような声が彼女を呼ぶと。
「あっあ・・あっあっ ハッ ンンンーーー・・・」
と高らかな時の声を上げ、果てたのだった。
いつ降りていたのだろう・・・。
ソフィアは階段の下で蹲るようにして座っていた。
――― 先程見た光景は・・・嘘だと言って・・・・・ ―――
否定したくとも、目にも耳にも焼き着いてしまって離れない。
自分の夫があれ程情熱的に女を抱く・・・その事さえ、ソフィアは知らなかった。
彼はソフィアを抱くときには丁寧ではあるが素っ気がなかったから。
淡白な方なのだろうと思っていた夫が、情欲の全てをぶつけるように少女を抱いていた。
閉め忘れた扉からは、微かであっても濃厚な物音が流れ出して止む事を見せない。
ソフィアは両耳を押さえながら、その場に伏してじっとなき続けた。
*****
「・・・この家を出ようと思います」
やつれた様相を見せて妻がそう切り出した時、ロイは特に感慨も持たずに
「そうか」とだけ返した。
決死の思いで告げた一言にさえ、夫であった男は動揺も見せずに新聞を見、
珈琲を飲んでいる。
ソフィアは生まれて初めて、湧き上がる激しい怒りに声を荒げる。
「あなたはそれで良いんですか!?」
叩きつけるように言った言葉に、ロイは漸く新聞から目を離しソフィアの方を見る。
「君が望む事に私が反対する理由が無い。
離婚さえしなければ、どこで暮らそうと君の自由だ」
「・・・!?」
信じられないと目を瞠る妻に、ロイは淡々と言葉を続ける。
「それは別段、君の父上と交わした条件には触れない」
「・・・・・父と――?」
「ああ。君との間に一子を、後取りになる男児を儲ける事。
その子が成人するまでは軍の後見人として離婚はしない事。
それが私を助ける条件に提示された内容だ」
真っ白に染まる思考の中、茫然とソフィアは言葉を吐き出していた。
「――― あの娘は・・・、あの少女は一体!?」
ソフィアの口から叫ばれた言葉に、ロイは一瞬表情を険しくし次には
嘆息を吐きながら肩を竦めた。
「急にどうしたのかと思えば・・・。――― 昨日の夜は、覗き見かね」
怒りに身体を震わせている妻に、ロイは冷めた口調で説明をしてやる。
「彼女は・・・、エドワードの一部と云うべきかな」
「・・・エドワード? ――――― そんな! 彼女は・・・」
絶句して続けられなかった言葉を引き継ぐようにロイが話す。
「・・・そう。彼女は亡くなっている事になっている。
が、全てが無くなったわけではない。彼女の精神の1部と、身体を実体化させる
エネルギーが極度に減ってしまっているだけだ。
私にとって彼女を失う等と、考えられもしないし耐えられもしなかったんでね。
彼女が消えかかった時に封じたんだ。
・・・が、それも完璧にはいかず彼女の精神の一部は持っていかれた、記憶とともにね。
何とか実体をこの世界に安定して繋ぎとめようと焦ってた時に、君の父上から助力を
申し出て来たんだ。――― その条件は君が先程聞いた通りだ。
実体化の研究には莫大な金に情報が必要になっていく。その点は君の父上には
感謝しなければいけないな。私の情報網では限界があるが、国を又に駆けた商売を
されている財閥だけあって、国内外を問わずに集める事が出来ている。
お蔭で研究も飛躍的に進んでいる」
――― そう。もう少しで実体を安定させるエネルギーを集めれる処まで・・・。
今の彼女の世界には、過去の事は何一つ残ってはいない。
彼女の世界の知識はロイが教え、伝えたものだけだ。
弟も、辛かった旅の日々も、錬金術の知識も・・・何一つ、残ってはいない。
――― が、それで良いのだ。彼女は生まれ変わったのだ。
そして、今後はロイの為だけに存在する。
もう、彼女を悲しませるものも、辛くなる経験もさせる必要など無い。
ずっと――。これからはずっと、ロイの傍で自分の愛に包まれて笑っていてくれれば。
――― それで十分だ。
妻の座にいる女性が何事かを叫んでいる。
が、ロイの耳には何一つ入らず、心には届かない。
あの錬成を行った時から、ロイは欲しいものは唯1つで良いと決めていた。
多くを望めば全てが無くなる。
だから自分にはエドワードだけ居ればいい。
子供を連れて去っていく姿にも、ロイは特に感慨も持たずに見送った。
どうせ苦労知らずのお嬢様の事だ。実家に戻るのが関の山だろう。
なら、余計な気遣いもせずに済むようになったのだから、都合もが良い。
自分の娘の幸せより、未来に得る利権を貪る事に固執している父親だ。
ロイとの離婚は時期が来るまで認めはしないだろう。
時期が来たら ――― 自分はエドワードの為に身上を綺麗にしておこう。
それまでの間は仕方がない。愉快ではなくとも他人がその座にいることを我慢しよう。
「エドワード、行ってくるよ」
玄関から二階に向けて言葉を贈り、ロイは颯爽と邸を出て行った。
その中に残るのは、桃源郷で眠る愛しい少女唯独り。
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