Selfishly

Selfishly

limitation6









【注】!!

このお話では、ロイは非道で鬼畜な人間となっております。
  part2からは、エド子のキャラも歪んでおります。(平身低頭!)

  その点を苦手とする方は、読まずにいてもらえますように。
  ハッピーエンドでも、楽しいお話でもないと思われます。
  それでもお読みになられる方は、ご自身の判断でご了承頂き
  下記へスクロールしてお進みください。
   *性描写もややございますので、未成年者の閲覧はお止め頂けますように。m(__)m 






























・・・ 喩え、外道と堕ち果てても P6・・・




――― 嫌だった。

不安に胸を締め付けられ息をする事も出来ないほどの圧迫感に
腹の奥底から込み上げてくるモノが、喉からせり出してきそうだ。

じっとりと汗を掻いた掌をきつく握り締めながら、ロイは目の前で行われようとしていることから
視線を逸らすことが出来ないまま、漫然と立ち尽くしている。

止めて欲しい、と何度、何十度と叫びそうになるのを耐えるのは、自分の中の心力を注いで
引き止めておかなければならないほどだと云うのに・・・。

 カツリ とチョークが床を弾く音が止む。
ロイは煩いくらい鳴り響く鼓動が、さらに跳ね上がるのを噴出す全身の冷や汗と共に実感した。

「・・・・・出来た」

声は淡々と室内に零れる。今まで蹲っていた少女が、まるで蜃気楼のようにゆらりと立ち上がったのだ。

「エ・・・、エドワード」
最後の足掻きのように口を付いて出た呼びかけに、エドワードはゆっくりと振り返ってみせる。

「――――― 何て顔してんだよ、ロイ。色男が台無しだぜ」

場の緊張を解こうと云うのか、茶化すように言われた言葉は二人の上っ面を
滑り落ちていく。
いざとなったら女性の方が強い。そんな言葉を実感したのは、自分を見ている
エドワードの瞳に浮かぶ剛さを向けられてだ。

――― 彼女の意志は、既にもう決まっているのだ。
    もう揺るがない程の剛さで・・・。




 *****

2日前。今度こそ間違いないと言って旅立ったエドワードから直通ダイヤルに連絡が入った。
珍しい事も有るものだと思いながら電話を受ければ、半狂乱の状態の彼女が口早に捲くし立ててくる。

―― 大佐! 時間が無いんだ! アルが、アルが―――!!!

悲痛な訴えは彼女の切迫した心情が手に取るように伝わってきた。
直ぐにでも練成にかかると云う彼女を、必死に押し留められたのは自分が行った事柄の中でも
1番の手柄だっただろう。

「鋼の! 落ち着け。まずは周りを考えろ。
 そんな辺鄙な場所で、場当たりに練成をしたところで、どうやって戻ってくるつもりだ。
 練成に成功した後、直ぐに動ける状態かどうかは判らないんだぞ!

 ――― 君たち二人は、元に戻り生きていかなくてはならない。そうだろ?
 明日には私がそちらに行く。それまで決して、先走るな。
 ここまで来て、最後の詰めを怠るんじゃない」
叱責するように言ったのが彼女の頭を冷やす結果になったのか、エドワードは判ったと
苦渋に満ちた声で返答を返してくれた。


そして駆けつけてみれば、――― 概に彼女は練成の準備を始めていた。
人里離れた小屋はエドワードとアルフォンスが造ったものらしい。
地脈の流れから読んで、この場所が適していると判ってから二人で準備を始めていたと話してくれた。

「その頃からかな・・・。アルの奴が、少しずつ意識を閉じるようになったのは・・・」

夜中にふと目が覚めて傍に居る弟の気配が無いことを怪訝に思い、ふと視線を巡らせれば
そこにちゃんと居るのに、在ない。何度も呼びかけて漸く返事が返った時には、
泣きそうだったと力なく話す。

「気配を殺すことは訓練で出来るだろけど・・・。アルのはそれとも全然違う。
 まるで、――― 何にもないように在なくなってた」

それから何度かそういう事が起き。その度に弟が戻ってくるのに時間がかかるようになった時。
二人は刻限が迫っていることを、否応なしに突き付けられたのだ。
幸い必要な情報は手に入り、陣も完成していたから、後は実行する日を決めるだけで済む。

「―― ちゃんと、あんたにも連絡をする、つもりだったんだぜ」

そう云って小さく笑う表情が痛々しい。元々華奢だった体躯は、更にこの苦境で一回り痩せこけ、
眠れぬ夜を過ごしてきたことを示すように目の下には濃い隈を付けている。

「で、昨日 ――― から、アルは戻って来なくなった。
 何度呼んでも! 何度、練成を施しても! 
 手を引いても! 揺すっても!
 全然、あいつ・・・、全然、反応しないんだ!!」

自分の胸に拳を打ちつけ叫ぶ彼女を、ロイはただただ黙って抱きしめてやるしか出来ない。
部屋の錬成陣の中央に置物のように座っている彼は、――― エドワードの言ったとおり
全くの生体反応が感じられない。ただの置物と化していた。

(このまま諦めてはくれないだろうか・・・)

そんな考えが心を過ぎらなかったと云えば、全くの嘘だ。
どころか、このまま彼女を連れ去る算段を立てている自分がいる。
彼にとって何が大切か、は考えるまでも無い。
チラリと流した先には、彼女が大切にしていた弟ではない。ただの鎧が転がっているだけだ。
なら、・・・なら、それを失くしてしまえば。

誘惑と云う名の醜悪な女神が自分を手招いている。
彼女を抱きしめていた片腕が、思わず自分の上着に潜む物を求めて下がろうとした矢先。

「――― 大佐。俺、あいつを迎えに行って来るな」

その言葉に離れようとしていた手が、逆に彼女を引き寄せるように力を強くする。
そして、彼女の目を覗き込んで――― ロイは粛然とした思いで頭を垂れるしか出来なかった。





そうして、食欲が無いと言う彼女を諌めて食事を取らせ、宥めすかして眠りに就かせる。
こんな状態のまま大練成に望むなぞ無謀すぎる、と。

自分の腕の中でまどろむ寝顔を見つめながら、ロイはまんじりともしないで夜を明かした。
本当なら抱き潰してやりたいくらいだったが、そうまでしても彼女は行動を止めはしない。
なら、負担になりそうなことは極力控えて、少しでも彼女が安らげれるようにしてやりたい。
自分が胸を抉られる様な痛みを被うとも、今の自分に出来ることは彼女を信じて
見届けてやることだけなのだから。――― 彼女の邪魔にならないように・・・。



*****

「私が君の前で色男であれたことなど、なかったさ」
そう言って哂うロイに、エドワードはそれもそうかと笑い返してくる。

いつも滑稽なくらい、彼女を前にすると自分はただの愚かな恋男に成り下がってしまう。
そんな自分をエドワードは笑って受け止めてきてくれた。
だからこそ・・・、この時だけは自分が彼女の行動を受け止めてやらなくては。

「・・・じゃ、行って来るな」
軽く手を上げて、まるで散歩に出掛けるようにエドワードは微笑む。
「――― ああ。待って、いるよ・・・」
口の端を上げ笑みを象ったつもりだったが、それは上手く作れたのだろうか。
醜く歪んで、自分の本心を吐露したりしてはいないだろうか。

くるりと踵を返したエドワードが、円の中心に座る元アルフォンスの入れ物に触れる。
「アル、待ってろよ。今、迎えに行ってやるからな」
そう囁く彼女の声は、今まで聞いた声の中でも一段と柔らかく優しい。
こんな時だと云うのに、チリリと胸を焦がす微かな痛みはアルフォンスに対する妬心だ。

そして円の淵へと戻ってくると。
「ロイ。あんたは扉の外で待っててくれ」
冷然とした声で告げられる。
「エドワード、私はっ・・」
慌てて上げかけた抗議の言葉は、エドワードの次の言葉に無情に打ち切られる。
「あんたは術師だ。何かの拍子に引っ張られないとも限らない。
 ―― 不穏の要素は・・・全て退けておきたいんだ」
冷たすぎる言葉にロイの顔面も蒼白になる。
が、それが彼女のロイに対する心配も含まれていることは伝わってくる。
なまじ優しく曖昧に言っては、ロイが聞き入れはしないと知っているからだろう。
「――― 扉は開けたままだ。それは譲れない」
自分が見えなくては、何かがあっても反応が遅れる。
自分が知らないところで、何か、が起きるのを見過ごすことなど、絶対に出来ない。

「――― 仕方ねぇな。・・・でも、絶対に足を踏み込むなよ、何があっても」
剛く鋭い視線を向けてくるエドワードに、ロイは不敵な微笑みを返すだけに留める。

――― 見縊らないで欲しい。君に何かあったとして、それを傍観しているような者になぞ。
    ・・・成れるわけがないと云うのに。

そんなロイの意志が伝わったのか、エドワードは困ったように眉を下げて溜息を落とす。
そして・・・。
俯かせていた視線を上げ、自分を見つめてきた時。
彼女の表情を彩るのは、慈愛溢れる微笑だった。
多分・・・、彼女が自分に見せた中で、最も優しい。自分の中の愛情を隠しもしない。

「大佐・・・。俺の今までの時間は、アルの為だけに捧げてきた。
 でも、今度帰ってきたら――― 残りの時間は、あんたの傍にいるよ」
そう告げ、彼女は一際美しい笑みを浮かべたまま両の手を打ち鳴らした。
「・・・エドワード!」
悲鳴のように漏れた声が、彼女に届いたかは判らない。
部屋は雷のような練成光が荒れ狂い、彼女を飲み込んで行ったからだ。
「エ、エド・・・。エドワードーーー!!!」





 どれ位の時間、そこで立ち尽くしていたのだろうか・・・。

ほんの僅かだったかも知れないし、日が変わるほどだったのかも知れない。
光が収まり、彼女が姿を消してからのことは自分ではよく思い出せないままだ。
まるで自分が世界と切り離され、時の流れから放り出されたように。
自分の思考と時は凍りついたままだった。

はやく はやくはやくはやくはやくはやくはやく 戻って来い!エドワード!!

そればかりが思考だけでなく、血液にまで言葉が溶け込んだかのように
体中を駆け巡る。
今にも踏み込みたい気持ちを抑えるためには、扉の淵が軋むほど握り締めているしか正気を保てない。
掌からは紅い自分の嘆きが滴り落ちていることさえ、気づけないまま。

そして、真っ暗だった部屋が仄かな光点を生み出し始めた時。
駆け出す足を、身体を、気持ちを、感情を。抑えることなど出来なかった。

小さな光点は徐々に広がり、部屋を明るく照らしていく。

――― その中に姿を現し始めた影は・・・2つ。

ロイは思わず伸ばした手を、強い力で弾き返される。
「・・・つぅ!?」
今ので更に傷口が開いたのか、手首を伝い袖口に吸い取り切れなかった血が
練成陣の引かれた床へと吸い込まれていく。
――― そう、溜まるのではなく吸い込まれて行ってるのだ。
が、今のロイにはそんなことにまで気を払っている余裕はない。
光の中を見透かそうと凝視している鋭い視線を、ただ一点にのみ向け
身体の全ての神経を集中し続けているからだ。

光は部屋を包むように溢れ、唐突に消滅した。
薄暗い室内は始めの頃と同じ静寂が戻っている。

そして・・・。

ロイは双眸に溢れる涙を堪えることなどせず、好きなだけ伝わせてやる。
光の終局の後、見慣れた人が横たわっているのだ。
今泣かずして、いつ涙を流すというのか。

「エド・・・、エドワード? エドワード、エドワード、エド・・・」

馬鹿みたいに愛しい人の名を呼びながら、ロイは震える足を動かし傍へと這うようにして近づく。
そして、触れるのが怖いと云う様にそっと血塗られた手を伸ばす。
力なく横たわる身体を抱きかかえれば、そこに温もりがあることを感じて
体中の力という力が流れ出してしまうかのような脱力感を感じた。
そして、そっと頬に手を触れ彼女の無事を感じようとする。

――― 白い、透き通るように白い頬に触れた時。
    ぞっとするような悪寒が背を這い上がる。

 『 彼女の命が尽きかけている 』

どうしてそんなことを自分が感じるのだろう。
今、腕の中で意識を閉じてはいるが、ちゃんと温もりも、鼓動も、吐息も感じれるのに
何故、そんな不穏な思いを自分は感じているのか。

気の迷いだと否定する傍から摩り替わる確信に近い思いは、どうあっても消えてはくれない。

「・・・エドワード! 頼むから、頼む目を開けてくれ」
軽く頬を叩きながら、ロイは必死になってエドワードを起こそうと。目覚めさせようと躍起になる。

――― 目を開けて。そして、言ってくれ。大丈夫だと、練成は成功したのだからと。

何度か叩いた後、彼女の瞼が小さく震えだすのをロイは縋るように見つめ、
名前を呼び続ける。

ゆっくりと開かれる瞼に、ロイは――― 愕然とそれを見下ろした。

「た、いさ?・・・ア、アルは?」

弱弱しい声に問われて初めて、ロイは彼女以外の存在に思いいたる。
ロイはのろのろと頭を巡らせて、彼女と少し離れた人影をちらりと目に留め。
「ああ、・・・大丈夫だ。よく、やった。彼は無事に戻ってる」
「ほ、んと?・・・・・よかった」
確認もせずにそう告げた事に良心は痛まなかった。彼が無事かどうかなぞ、
エドワードが無事かの次のことだ。

「エドワード・・・。君は、――― 何を引き換えに・・」

震える声が、解り切っていることを確認するように紡いでいく。

「――― 俺は・・・どうしても、あいつを戻したかった・・・。
 けど宿命を覆すには、足りなかったんだ。
 だから、・・・だから、俺の持つ、――俺の中の力をあいつに・・・」

やったと云うのか! 自分の生体エネルギーを全て!?
そんなことをすれば、自分がどうなるかは判っていて!

ロイは希薄に感じるエドワードの存在を強く掻き抱く。
エドワードにはそれに応えて腕を上げる力も残されていない。

「でも、・・・・・最後にどうしても。
 あんたに一目会いたかった・・・。
 ――― ごめん・・・って、残りの時間が、無くなちまって・・・て」
話していくたびに、声はか細くなっていく。それでもエドワードは、必死にロイに
胸の丈を伝えようと言葉を吐き出していく。
「しゃべるな! しゃべれば更に体力を失う」
ロイはエドワードを気遣いながら、怖ろしい程の速さで思考を巡らせて行く。
そして、1つの陣に思い当たりエドワードを床の上に横たえる。
抱きしめられていた温もりが離れ、エドワードは哀しそうな目をして自分を見上げてくる。
が、今はそれよりもエドワードを繋ぎとめる為の策を講じなくてはならない。
ロイは急く手つきでエドワードの服を寛がすと、胸元に自分の滴る血で陣を書き上げていく。
そして、エドワードの胸に書き終わると、今度は自分の胸にも同じ陣を書き込むと。
双方の陣に片方ずつ手を触れた。




*****

真っ白な世界だった。
そこには何も無い。そしてその世界に埋もれるようにして自分は眠り、再生される。
時がゆっくりと巻き戻されていく。
喜びも哀しみも辛さも。――― 全ては一色に塗り替えられていく。
彼の存在と共に・・・。






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