Selfishly

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act6 「共棲」


at the Truth in the Mirror Image


act6 「共棲」

H18,12/3 21:00


「これが今回採血した分でございます。
 採血者のリストは、こちらに。」

厳重に保管されている箱とは別に
封筒にしまわれている書類を渡す。

「ご苦労だった。
 また、次に必要な時がきたら連絡する。

 それと、わかっているだろうが
 この事は、例え身内といえ黙っていたまえ。」

中将の言葉に、深々と頭を下げて
司令部に通じる扉とは逆の扉を通って通路に出る。

医療班のチーフは、誰も居ない通路に出ると
緊張しきっていた心身を休めるように深く息を吐くと
足早に執務室から遠ざかっていった。



ロイは、持ち込まれた保存用のBOXを大切にしまうと
渡されたリストに、ザッと目を通す。

発動しない練成陣を動かすきっかけを掴んだ彼は
時間が許す限り廃墟に降りては、
扉をくぐる事は繰り返している。

自分の血を使っての練成とは別に
錬金術者らしく、他の可能性も追求する事も忘れていない。

数度となく繰り返した結果、
あちら側の色々な情報も手に入れれた。
エドワードの姿は あれ以来見ていないが
時たま連絡を受けている自分の共棲者の思考が流れてくるので
元気にしている事はわかった。

共棲者・・・ロイは、その男の事を考える。
どうやら、向こう側の自分と瓜二つの男は
財団のトップをしているようだ。
自分と似て異なる人生を生きているのだと痛感したのは
時たま訪ねて来る、こちら側には もう居ない男の姿を目にした時だった。



「よぉ! 何だよ しけた面しやがって。

 エド達は もう、行っちまったのか?」

『ヒューズ!!』

共棲者の目を通して見た人物に、ロイは 驚愕を浮かべた。
思わず上げた驚きの声は、実際には発せられておらず
あちらにも気づいてはもらえない。

「ああ・・・。」

むっつりと返事を返されても
気にした風もなく、そりゃ 残念と軽口を叩きながら
ソファーに踏ん反り返っている。

「んで、今度は どこに行ったんだ?」

出て行く素振りも見せないヒューズの様子に
あちら側のロイが 渋々受け答えをしている。

ロイは、その光景に呆然として、
しばらく、我も忘れて食い入る様にヒューズをみる。

自分の夢に力を貸して、
そして、人が良すぎて 早々と去っていった友・・・。
2度と、今のロイには逢う事も出来ない。

それが、あちらでは 元気に過ごしてくれている。
それだけでも、今のロイにとっては 慰められる。
似ている同様の人物達は、こちらとは違って
それぞれの人生を過ごしている。
それを知ったとき、ロイは 無事に幸せに生きて行ってくれと
願わずにはおれなかった。
こちらでは もう逢えない大切な友に・・・。


ロイが、その時の事を思い出していると
隣の司令部に通じる扉からノックの音が耳に入った。
思考を切り替えて、入室の許可を出すと
神妙な顔をしたホークアイが入ってくる。

表情に乏しい彼女の面が、
厳しく引き締まっているのを感じて
ロイが 話すきっかけに声をかける。

「どうした?
 何か トラブルでも起きたのか?」

「いえ、業務には何も支障は出ておりません。」

堅い表情を緩める事もない返答に
なら、どうしたとロイが聞き返す。
長年付き合ってきたメンバーだ、
相手が何か言いたげな事もわかっている。

「中将・・・何をなされているのですか?」

「何とは?」

察しの良いロイに、ホークアイの指している意味がわからないはずがない。
が、惚けたように聞き返すロイに
ホークアイは、覚悟を決めたようにロイの顔を見、
話し出す。

「ここ最近、医療班のチーフが出入りしているようですが?

 彼に どんな指示をお与えになっておられるのですか?」

目ざとい彼女が、今まで面識もなかった者が頻繁に出入りしている事に
気づかないはずもない。
ロイも、いずれは気づかれる事は十分承知のうえだ。

「いやなに、彼には 私の研究の手伝いをしてもらっててね。」

「中将の研究ですか?」

「ああ、私も国家錬金術師のはしくれだ。
 最近は 査定も免除をされているが、
 たまには、本分を思い出してみるのも良いかと思ってね。」

あくまでも白を通し切ろうとするロイの様子に
本来、部下のホークアイの立場なら
頷いて、下がるしかない。
が、彼女の決意は固かったらしく
追求の言を止めるような事はなかった。

「僭越ですが、その研究の内容をお聞かせいただけませんか?」

その言葉に、ロイは 軽く笑いを上げると
厳しい眼差しをホークアイに向ける。

「馬鹿な事を。

 君も錬金術師の研究が、極秘扱いなのは知っている事だろう。

 それに、一般の君が聞いても理解できる事ではない。」

ホークアイは、ロイの否定の言葉に軽く頭を下げると
毅然と顔を上げて、ロイを見据える。

「はい、私ごときには
 中将の研究されている内容は、理解に及ぶところではありません。

 が、それが どのような目的でなされているのかは
 推測できていると思っております。」

ロイは面白そうに、片眉を上げて ほぉと相槌を打つ。

「中将は、前回の授与式に 何か地下の練成陣を動かす
 発見をされたのではないですか?

 そして、その為に 今回の医療班のチーフに
 頼まれごとをされている。

 そして、それは結果的に エドワード君を
 こちら側に呼び戻す事が目的で行われていると
 私は考えております。」

ロイは聞いている間、眉一つ動かさず
穏やかと呼べる表情を浮かべて
ホークアイの言葉を聴いている。

「・・・ホークアイ中将。

 もし仮に君の推測が当たっているとしたら
 君は どうするのかね?」

ロイは、静かにホークアイに聞き返す。

ホークアイは、冴え渡るロイの瞳にも怖じける素振りもなく
鮮やかに微笑んで、

「お手伝いを。」

と自分の意思を伝える。

その答えに、ロイは 僅かなりと驚きを感じたが
意思の変わらぬだろう彼女の表情を見て
満足そうに頷く。

「わかった。
 もし、私が そのように考えて行動を起こすときには
 君に助けを借りる事にしよう。

 ただ1つだけ伝えておく。
 もしかりに、私が君の言うとうりの事をしようと思っても
 間違っても 自分が向こうに行こうとは思っていない。

 必ず、彼らをこちらに呼び戻すようにする事は
 誓っておこう。」

ロイの その言葉に、ホークアイは引き締めていた気配を緩め、
ホッとした表情を浮かべる。

「わかりました、
 ありがとうございます。 

 お手伝い出来ることを、心よりお待ちしております。」

そう告げて、深々と頭を下げると
ロイに言われるまでもなく、退出していく。

ロイは、自然と微笑むと
良い部下に恵まれた 己の幸運に満足を味わう。


帰りに廃墟を訪れ、今日の研究の結果を見届けると
家に戻る間に、得た成果を整理していく。

血をキーワードに、練成陣を発動させれるようにはなったが、
ロイの試した結果、
血は誰の物でも良いと言うわけではないようだった。

前回、使用した一般人の血液には
練成陣は 全く反応を見せなかった。

そして、今日 持ち込んだ血液には
反応がマチマチで、ロイの時のように
扉を開くまでに至ったモノはなかった。

『と言う事は、錬金術者の力量に左右されると言うわけだ。』

扉を開き、膨大なエネルギーを取り込むことが出来る力量のある術者でないと
発動はしない。
そして、現在は それに適した人材は ロイ唯一人。
一人から採血される量は知れている。
血液の量と、扉をくぐっていれる時間が比例することは
自分で試して結果を得ている。

そうなると、扉を開いて固定するには
優秀な術者が多数必要だと言うわけだ。
・・・もちろん、命に関わりがない範囲でと言う制限をクリアーするには。

ホークアイが手伝いを申し出たのも
ロイの行動のストッパーになると言う意味合いもあったのだろう。
ロイは 自分一人なら、どんどんと軌道が修正できない
思考に囚われて行きそうな自分もわかっている。

今は、少しでも 情報が入るから
何とか 心の平穏を保っているが
これが、以前の自分で
キーワードだけ手に入った状態なら、
どんな妄執に取り付かれた行動を起こしていたかは
自分自身で自信がない。

ロイは、廃墟を訪れた時の恒例となった
ナイフを取り出して、自分の指を切る。
切り口から、球状の血液が膨れ上がってきたものを
無造作に屈んで、連成陣に手を触れる。

即座に反応を返す練成陣が青白く光りだすと
最近の馴染みになった浮遊感に
意識ごと身体を預けていく。



「エドワード・・・・、
 と、寝ているのかい?」

書類から目を上げて、ふと向かいのソファーを見ると
肘掛に凭れるようにして転寝しているエドワードの姿が目に入る。

ロイは 静かに立ち上がると、
エドワードの横に座り、手から落ちそうになっている本を取り上げ
机の上におく。

昨日まで、強行軍の調査をしての帰宅途中の報告だったから、
疲れが溜まっているのだろう。
頬にかかっている髪を撫で付けて
後ろに流してやると、
露になった白い頬に、ロイは 静かに口付けをする。

最初の頃は、こんな隙を見せるような事はなかったが
付き合う間に、次第と慣れが生じているのか
気を抜いている時は 今日のように
ロイに気を許して転寝するような事も増えてきた。

同じ空間に人がいるのに
こうして、気を許している姿を見ると
ロイの中に、温かい喜びが灯っていく。

エドワードを 傍に引き止めておく名目上に
市井の調査を頼んでは見たが、
まさか、エドワードが こんなにも熱心に
真面目に取り組んでくれるとは、
驚くと共に少々 予定外でもあった。
そして、調査書を見ると
いかに彼が優秀なのかもわかる。

「調査なんて、適当でいいんだよ。」

肩にかかる髪を撫でながら
そんな言葉を呟く。

出来れば彼には、自分が目に届く範囲でいて欲しい。
そして・・・、還っては欲しくない、絶対に。

もう少ししたら、アルフォンスの学校に通う準備が整う。
そうなったら、エドワードには 国々を探索させる仕事は止めさせて
この国内で、情報を手に入れれるようにさせよう。

戻らなくとも、ここで幸せな人生が得れるようにと
ロイは、心を砕いている。

そんな事を考えていると、
チリチリと心の奥でざわめく感情に、
ふと眉をしかめる。

「?」

何なのだろうと訝しく思いはじめた時に
転寝をしていたエドワードが
起きる気配に、考えるのを止める。

「起きたかい?」

「ああ・・。」

ロイが 横に座っている事を驚くでもなく
ファーと伸びをすると、
ヨイショと座りなおす。

「しかし、気持ち良さそうに寝てるな。」

「う~ん、何か 癖になってるんだよな。

 ソファーで待つ間にポッカリ空いた時間って、
 やたらと眠くなるんだ。」

「・・・それは、昔から?」

「う・・・ん、まぁ そうだな。」

ばつが悪そうに笑いながら、
すっかり冷めた飲み物に口をつける。

「しばらくは、こちらに居るんだろ?」

「あぁ、うん そうだな。
 調査したのも、整理しないといけないし。

 あんたの方に情報は?」

「まだこれと言うのは入ってないな。

 めぼしい所には探りは入れているんだがね。」

仕方ないか・・・という様に
ため息を付く。

「エドワード・・・。」

名を呼ばれて、顔を上げる。

呼びかけておいて、何も言おうとしない相手に
エドワードの方が怪訝になって、問い返す。

「なに?」

ロイは、逡巡した末に 心に引っかかっていた事を口に出す。

「もし、その情報が手に入って
 君が探しているものが見つかったら、
 君は それを使って、還る手立てを探すつもりなのかい?」

「いや・・・それは無理だろうな。

 何とか、それ自体を戻すことは考えてみるけど
 それを使って戻れるってモノじゃないからな。

 第一、こちらからは 門は開けないからな。」

「そうなのか?」

「ああ、あれをこちらから開くには特殊なキーワードが必要なんだ。

 今のこの世界に それは手に入らない。」

苦しげに寄せた眉から、
余り いい思い出ではないと察せられる。

「なら、あちらからは開く可能性は?」

「それもない・・・な。

 多分、練成陣自体が もう、ないはず・・だ。」

「どうして?

 最初は、それを使って来たんだろう?」

「うん・・・、でも こっちに来るときに
 壊してくれるように頼んできたから・・・さ。」

「大佐とやらにかい?」

エドワードが頼れる人物など、数が限られているから、
聞かなくてもわかる答えを告げる。

「ああ、そうだ。

 アイツはあれでも優秀な錬金術師だったからな。
 きっと上手く壊してくれたと思う。」

期待する台詞とは裏腹に、
エドワードの表情が沈み込んでいく。

「けど、本当に壊したかはわからないだろう?」

変に拘りを見せるロイに、エドワードは横に座る男を見上げる。

「君は それが危険なものだとして壊すことを願ったとしても、
 それは確認したわけじゃないんだろう?」

念を押すように聞いてくるロイの思惑がわからず、
エドワードは戸惑いながらも、答えていく。

「ああ・・・そうだが。

 確認すると言っても、こちら側からは無理だし。

 それにあれは代償なしには開かないから。」

「代償?」

「・・・俺は何度か偶然に巻き込まれてこっちに来たことがあったけど、
 それも、もともとは 過去に門に近づいていた事があって
 そのせいで、門が反応しやすかったのもある。

 とにかく、あれは通常の人間には扱うのは無理な代物だ。
 だから、練成陣だけあっても門は開かない。」

「つまり・・・君が戻れる事は不可能だと?」

最後通告のように告げられた言葉に、
エドワードは 知らずのうちに 
目の前にいる男を見る目に剣呑な光を宿す。

「・・・戻れるとは、はなっから思ってない。

 つまんない事ばかり聞くなら、俺はもう帰るからな。」

机に置かれた本を手に取り、立ち上がろうとしたエドワードの手を
ロイが 素早く掴む。

「何すんだよ、放せよ。」

機嫌の悪くなる話題をふられて、
ご機嫌斜めになったエドワードが、
苛々とした態度でロイにあたる。

「すまない、エドワード。
 君の気持ちも考えずに、興味本位で色々と聞いて。」

心から 申し訳ないと思っている様子を見せるロイに
今度は、エドワードが驚く。

「いや・・・、あんたが興味持つのもわかるし。

 まぁ、誰でも不思議がる話だからな。」

「いや、興味本位で聞いていいような話しではなかったよ。

 お詫びに食事にでも行かないかい?

 いい酒を置いている店も見つけたんだ。」

ロイは、エドワードを傷つけたと思って反省しているのか
後悔している素振りで、お詫びを示してくる。
相手が 下手に出てくると、逆に強気に出れなくなるエドワードは
迷いながらも、ロイの詫びの気持ちに同意する。

「じゃあ、時間もちょうどいいし、
 出かけるとしようか。」

エドワードの背を押すようにして
部屋から出て行く。
先を歩かせているエドワードの見えない所で
ロイは、心からの安堵と喜びの笑みを浮かべて
エドワードの背を見つめて歩き出す。





ロイは、冷たい地面を感じ覚醒した事を知った。
そして、地面の冷たさを感じないほど
冷めた怒りを感じる。
身体を支える為に付いた手は、怒りの為に
ワナワナと震えている。

噛み締める唇は、色を失っている。

共棲の最初の頃は、相手の思考や感情は
小波の様に感じる程度だったが、
回数を重ねるごとに波長が重なるようになってきたのか
相手が考えていることが読めるようになっている。

『エドワードを取り戻す最大の障害はアイツだな。』

もう一人の自分。
アイツは エドワードを戻さないように手立てを考えている。
エドワードの弱点に気づいて、
そこから用意周到に絡めていく気だ。

エドワードが、戻れないことをを確認した時
表情では 済まなさそうにしていたクセに
胸中では、喜びに溢れていた。

ロイは 無意識に手のひらを握りこんで
その拳を 反応を返さない練成陣に突きつけるように力を入れる。

あちらでは、着々とこちら側から切り離す準備が進められている。
今は エドワードも戸惑っているが、
もし 完全にあちらで生きることを選んでしまったら、
ロイの声が届く事も、今 必死にやっている事も
無に帰してしまうかも知れない。
そう思いついて、ロイは全身を襲う怖気に震える。

今はまだ、アイツは向こう側の連成陣のある場所を知らない。
エドワードが 話していないのだろう。
が、もしエドワードが話してしまったら・・・、
間違いなく アイツは陣を壊すはずだ。

ロイは そんな確証を持つ。

『急がないと・・・。』

素早く頭を働かせながら、
今後の計画を組み立てる。
そして、計画をいち早く実行するために
もと来た道を足早に上がっていく。







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