Selfishly

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act 7 「最善の果て」



at the Truth in the Mirror Image


act7 「最善の果て」
H19,8/5 20:30


静かな人気の無い廊下を、急ぎ足で近づいてくる足音が響いている。
その足音を聞きながら、ベットに座っているエドワードは眉を顰め、
アルフォンスは、迎え入れる為に扉に近づいてくる。
アルフォンスが扉に手をかける前に、ノックも無く扉は性急に開かれた。

「鋼のは?」

淡々とした問いかけに、アルフォンスは内心ひやりとしながら、
答えを返す。

「すみません、大佐。 こんな夜分に・・・。
 あのぉ、兄さんならベットで起きてますから…」

それだけ聞くと、ロイは返答もせずに、ツカツカと衝立の向こうに足を進める。

「こんばんは、アルフォンス君」

その声に、ホッとしながら、アルフォンスが小さな声で挨拶を返す。

「すみません、こんな時間に…」

「いいのよ。 どうせ、大佐も私も司令部に缶詰になっていたんだから」

衝立を隔てた向こうには二人とも寄らずに、中の二人の様子を窺う。


「…君は」

それだけ言うと、深い嘆息を落とすロイに、エドワードも気まずさに直視できないでいる。
張り詰める空気に、誰一人言葉をかける者もいない。
が無言の時がその場を支配したのは、そう長い時間ではなかった。

「自己犠牲か? 
 ふん、君がしようとした事は、ただの傲慢だ。
 君は自分がしたいようにして満足だろうが、残された者はどうなる?
 そんな事も考え及ばずに行動しているなら、それはただの傲慢さで、周囲の傍迷惑だ」

冷たい厳しすぎる言葉に、俯いていたエドワードの顔が上がる。
薄暗い室内でも、光を反射する瞳が、ロイを睨みつけるように浮かび上がっている。

「あんたに言われる筋合いはない! 
 俺はアルを助ける為なら、何だってするつもりだ!」

反抗的に言い返したエドワードに、ロイの怒声が飛ぶ。

「馬鹿者! 君がそこまで愚かだとは思わなかった!
 君はそうやって、いつも無茶をする事で、どれだけアルフォンスの負担になっているかが
 わかってない!
 君が自己犠牲愛で身を挺して救ったとして、アルフォンスが本当に喜ぶと思っているのか!?
 そうやって救われた彼は、この先独りで罪悪感に悩まされて生きなくてはならないんだぞ!
 それで彼が、本当に幸せだと? そう思っているようなら、君は本当に愚かな、
 おめでたすぎる人間だ。
 人に罪を売っておいて、素知らぬ顔で去るつもりか?

 本当に弟の事を思うなら、何があっても二人で乗り越える方法を探すべきだろう!

 それも解らない、努力しない愚者には、元に戻るなどという事は
 土台無理な事だな」

叩きのめすような言葉の数々に、エドワードは唇が切れるほど噛み締めて、
顔を逸らして俯く。
だから気づかなかったのだ…、蒼ざめ、苦悩を、哀しみを湛えて言葉を吐き出している
ロイの表情には。

「いいか、1つだけ言っておく。
 私の管轄内で屍を晒すのは止めてもらおう。
 目障りだ」

「「大佐!」」

あまりの言葉に、衝立の向こうで息を潜めていた二人が、声を上げ回り込んでくる。

ロイの言葉にも、無反応なエドワードに、冷めた一瞥を送ると、
ロイは来たとき同様に、慌しく部屋を出ていく。

「に、兄さん…」

心配そうに窺ってくるアルフォンスにも、エドワードは強がって見せる。

「心配すんなアル。 あいつの言い分なんか、気にするかよ。
 面倒ごとが増えたから、不機嫌なんだよ、あいつは。
 本音は、聞いただろ? 管轄内で面倒を起すなってことさ。
 あいつは、そう言う奴だよ…」

エドワードが、受けたショックを消すように、
不貞腐れてロイの悪口をわざと言葉にする。
…本心ではないのに。

ピシャン

話している最中、エドワードの頬に乾いた音をたてて、
ホークアイの手の平が飛んで来る。

「中・・尉…」

叩かれた頬に手をやって、エドワードは茫然としたように、
ホークアイを見上げてくる。

「これは、あなたのお母様の代わりよ。
 今のあなたの言葉を聞けば、お母様がどれだけ嘆かれる事かしら?

 確かに、大佐の言い方も悪かったと思うわ。
 でも、聞こえた言葉以上に、あたなを心配していた大佐の気持ちを
 あなたには汲んでやる事もできないの?

 大佐は、あなたたちの行方がわからなくなった3日間、
 ずっと司令部で捜査の指揮をされていたのよ。
 昼には自分も捜査に出ていて、夜は情報が一早く得れるようにと。

 あなたのお母様は、あなたを、そんな思いやりのない人間に育てたはずはないでしょ?」

中尉の言葉に、エドワードは項垂れて聞いている。
彼にだってわかっていたのだ。
大佐が、どれだけ自分達を案じてくれているのか。
それは、事件の時に、すぐにやってきた彼の行動からも察する事ができた。
そして…、多分、大佐にはわかっていたのだ。
エドワードが、自分の心に負けそうになっていた事を…。
だから、反発のように、己の弱さを隠すように、
思ってもいない憎まれ口を叩いてしまった。

消沈し項垂れたエドワードに、リザは今度は優しく諭してやる。

「エドワード君、大佐が厳しい言い方をしたのは、
 それだけあなたを心配しているからなのよ。
 もしあなたが管轄外で何かあったとしたら、
 それを目の当たりにしてしまえば、残された者は現実を突きつけられるわ。
 大佐は、それに耐えられないのよ…いけない事だけど。
 見てなければ、もしかしたらと希望が持てるでしょ?」

軍に居れば、死体の無い死人など沢山出る。
それでも、直視せずに済めば、気休めであっても、
生存の可能性を捨てなくてもよい。
自分の上司が、エドワードの不在には耐えれないのだろう事は、
この3日間で薄々気が付いた。
彼の死に物狂いの捜査のおかげで、エドワードはこうして、
何とか死地の危機を脱脂して間に合ったのだ。
エドワードが助かったとき、無心論者のはずの上司が、
神に感謝の言葉を呟いたのは、リザの胸の中だけに納めておいた。


「…ごめん。 心配かけた」

小さくポツリと吐かれた謝罪の言葉に、
自分の考えに浸っていたリザが、はっと気を取り戻す。

「わかってくれたらいいのよ。
 あんまり無茶ばかりしないでね。 大佐の業務が滞って仕方ないわ」

雰囲気を軽くする為に、茶化して伝えられた言葉に、
エドワードも微かに笑みを作って頷く。

そして、躊躇いながら窺ってくる。

「あのぉ…、それで大佐は?」

子供の聞きたい事を察して、リザが頷いて答えてやる。

「また司令部よ。 今回の件で、日常の業務がストップしてしまったんで、 
 本来なら私も残らなければいけないのだけど、
 大佐が自分がするからとおっしゃって下さったんで、私は一旦、家に帰させて貰うの」

そのリザの答えに、エドワードは再度、謝罪の言葉を伝える。

リザがゆっくりと休むようにと言葉をかけて退出して行くと、
ベットの上で、黙り込んで座っていたエドワードが、徐に
アルフォンスに声をかける。

「なぁ、アル…」

言いよどむ兄の様子に、心得たように頷いたアルフォンスが、
逆に聞き返してくる。

「兄さん、動ける?
 何なら、僕が送っていこうか?」

「えっ! あっ・・いや、大丈夫だ。
 ちょっと行って、すぐ帰ってくる」

アルフォンスの言葉に、一瞬驚きを示したが、
この弟に隠し事は無駄とばかりに、開き直って返事をした。



閑散とした司令部内で、ロイは闇に沈む窓の外を見続けていた。
が、別に闇の中に何かが見えているからでも、見たいからでもない。
彼の視線は定まらず、ただ向けているだけだったから。

この3日間、自分の中では生きた心地がしなかった。
消息をたったエドワード達を、必死で探し続け、
情報を求め続けた。
生死の境なぞ、一瞬で分かれる。
軍にいるロイにとって、それは当たり前の日常だ。
自分の大切な部下達も、自分さえも、一瞬後にはどうなっているかは
わかりはしない。
だから、軍にいる者達にとっては、別れは最初から覚悟の上で
関係が成り立っている。

なのに…、どうしてもそれが納得できなかった。
頭ではわかっていたのだ。 だが、自分の中で、強い反発心と
拒否反応のように起こる感情は、ロイを突き動かし、
エドワードの消息を知るまでは、気も心も休まる事もないままだった。

自分の中に、これだけ強い感情がどこにあったのだろうと、
自分自身、驚くほどの…。

コンコン

と、控えめなノックがされる。
思考の並に流されながら、条件反射のように入室の返事を返していた。

静かに開けられた扉から、入ってきた者が、眺めていた扉に映り、
ロイは驚いたように、映っている影を見つめ続ける。

「大佐…」

小さく自分を呼ぶ声。
彼がまだ、生きてこの世に居てくれる証だ。
喉を詰まらせる安堵感は、ロイの声さえ封じたように広がっていく。

「そのぉ…、心配かけてごめん…ごめんなさい」

小さな影が、ペコリと頭を下げているのが映る。
ロイは、胸を詰まらせる思いを抱えて、その影に小さく吐き出す。

「馬鹿者が…」

全ての思いが積もったその言葉は、静かな部屋に溶け込むように消えていく。

「うん…、本当にごめん」

その思いを、ちゃんと拾い上げたエドワードが、
また、謝罪の言葉を伝える。

「鋼の。 目的を達成するだけの為に、手段を選ばず、考えずにやるのは
 浅はかな愚か者のする事だ。
 そんな事をして、どうなる? 一生、償えぬ罪を抱えて、罪悪感に悩まされて生きる事になる。
 それが君らが目指している未来ではないだろう?」

「…ああ、違う」

「なら、最善を考えたまえ。
 自分も、救われるものも、両方納得できる答えをな」

「わかった。 今度は間違わないようにする」

しっかりと頭を上げて、悩みを払拭させた綺麗な瞳で、自分の背を見返しているエドワードの様子に、
ロイは、漸く優しい笑みを浮かべた。

窓から視線を離し、くるりと向きを返ると、スタスタと部屋の端に歩いていく。

急に動き出したロイの様子に、怪訝そうに視線を付けて
エドワードが様子を窺っている。

ソファーにまで来ると、さっさと座り、エドワードを手招きする。
訝しそうに近づいてきたエドワードに、座るように声をかける。

「そっちじゃない、こっちに座るんだ」

自分の横を、ポンポンと叩いてみせるロイに、
疑問符を付けた表情で、それでもいわれたとうり、
大人しく隣に座ると…。

「えっ! な、な、何なんだよ、一体!」

驚き身じろぐエドワードに構わず、ロイがごろりと、エドワードを膝枕に転がる。

「君のおかげで、寝不足でね。
 しばらく、枕にでもなって反省していてもらおうか」

そう笑いながら告げて、目を瞑る相手に、
エドワードは、面白く無さそうに鼻を鳴らす。

「ちぇ。偉そうに」

そんな悪態を吐きながらも、ロイが少しでも休みやすくなるようにと、
寝ている相手に瞼に、軽く手の平を当ててやる。

伝わってくる温もりに、ロイは心からの安堵を浮かべて、
ここ久しぶりの穏やかな気持ちで、寄せてくる睡魔に身を委ねていく。






消灯された室内は暗闇で閉ざされている。
頼りは廊下に面した扉の、小さな窓だけだが、
その僅かな光も、防ぐように立てられた衝立のおかげで、
暗いままだ。
灯りが欲しいなら、枕もとのランプを点ければ良いのだが、
今のロイにとっては、そのスイッチを引くだけでも重労働だ。

死闘の末に、自分の焔で自分の身体を焼いたケガは、
一命を取り留めた代償として、酷い損傷を負うことになった。

暗闇の中にいると、無性に光を見たくなる。
ロイにとっては、光はたった一つだ。
今は遠く離れた場所で、彼もまた戦っている最中のはずだ。
互いの戦う場を違えても、自分達の道が繋がっている事は、
信じて固いが、それでも時折、不在に酷く心が痛む事がある。
ロイにとっては、自分の負傷のことよりも、
彼が、自分同様のケガなど負わないかが気がかりを占めている。

廊下に現れた気配が近づいてくる。
見回りの時間も、まだ先のはずだ。
僅かな緊張は、静かに入ってきた馴染み深い気配で、
緊張から、瞬時に驚きと、喜びに摩り替わる。

衝立の向こうから、様子を窺っているのだろう、
動かない人影に、焦れたように声をかけてみる。

「どうしたんだね? 何故、こんな所に?」

ロイの言葉に、ひどくつまらなそうな声が上がる。

「何だ、折角きたんだから、思いっきり驚かしてやろうと 
 思ったのにさ」

声にはあきらかな安堵の気持ちが現れて、自分を気遣って来てくれた
エドワードの気持ちが伝わってくる。

気配を殺さずに済むようになってか、エドワードはズカズカと進んできては、
ベットから少し離れた場所で立ち止まり、ロイの様子を窺っている。

「大丈夫なのかい? 向こうは君が離れてても?」

「いや、あんま大丈夫じゃない。
 だから、朝にはすぐ戻るけど、まぁ、アンタが弱ってるってなら、
 少しばかり拝ませてもらっても、損はないだろ?」

言葉ほど勢いがないのは、エドワードの不安の現れだろう。

「確かに。 君が入院しているのは珍しくないが、
 私の方は、珍しいだろうからね」

努めて明るく返してやる。
そのロイの反応に、ホッと気を緩めた気配が漂う。

「そのぉ…、ケガの方は、本当に大丈夫なのか?」

心配してくれていたのだろう。 躊躇いがちに聞いてくる声が、
真偽を問う様に揺れている。

「ああ、死ぬほどの負傷ではないからね。
 が、しばらく動くのには不自由はするかな」

「そっか…」

この男がそう言うほどなら、傷はかなり深いのだろう。

「まぁでも、命があっただけでも、儲けもんだと思えよ。
 怪物相手に戦って、生き残れた方が珍しいんだからな」

「ああ、全く自分の運の強さには感心するよ。
 そして、君の悪運の凄さも、まざまざと痛感したな」

ロイはかろうじて生き残れたが、エドワードは毎回のごとく
あんな奴らを相手に勝ち残ってきているのだ。
彼の強運を思うよりない。

「俺のは実力。 あんたみたく、毎日デスクワークして
 怠けてないからな」

からかう言葉に、ロイも苦笑を浮かべる。

「まぁ確かに、少し反省したな。
 自分ではまだまだいけると踏んでいたんだが、
 やはり日頃の鍛錬に、勝るものなしだな」

「そう言うこと」

からからと笑い声を小さく上げて答えるが、
エドワードは一向に近づいてこずに、先ほどから離れた場所に立ち尽くしたままだ。

今は真夜中だ。
朝に戻るとは行っていたが、まだまだ列車が動き出す時間には遠い。

「鋼の、こちらに来て座らないか?」

そう声をかけてみると、やや躊躇う様子を見せながらも近づいてくる。
ベットの横にある椅子を、わずかな光で手繰り寄せると静かに座る。

エドワードの様子のおかしさに、不審に思うが、
聞いても素直に答える人間でもない。
薄暗い中では、エドワードの表情も見えないままなのを思い、
灯りをとエドワードに頼む。

「エドワード、ベットの横のランプを付けてくれないか?
 この暗闇では、君の希望の、情けない姿も見れないだろう?」

「えっ? いや…、いいよ。 ケガに触るだろ?」

心なしか狼狽した気配を浮かべて、エドワードが断ってくる。

「ケガは、灯りくらいでは何ともないが…」

数瞬考えて、ロイは素直に自分の願いを言葉にする。

「久しぶりの君の元気な姿を見てみたいんだ。
 だから、ランプを点けてくれないか?」

エドワードは昔から、下手に出られた願いや、相手の素直な言葉には弱い。

「えっ…、で、でも…」

それでも躊躇う様子に、最後の一手で押してやる。

「頼むよ」

ロイのその言葉に、渋々ながらランプのスイッチに手を伸ばし、
灯りを点けてくれる。

弱い光でも、暗闇の中では十分に視界が広がる。
ロイは、俯き加減のエドワードの顔色を見て、
エドワードが、どうして灯りを点けるのを躊躇っていたのか、
瞬時に理解した。

紅い目をさせ、その上、目の下には濃い隈を縁取り、
顔色の良くない面は、酷く憔悴している。

ロイは痛みに耐えながら、エドワードに近い方の腕を動かし、
手を差し出す。
ロイの行動に驚いたように顔を上げたエドワードが、
彼の意図を察して、おずおずと手を握り返す。

「済まなかったね、心配をかけたようだ」

ロイの労いの言葉に、エドワードは声を詰まらせ、
俯きながら、首を小さく横に振る。

繋がれた手の平から、微かな震えが伝わり、
この子供が、どれだけ自分を心配していたのが伝わってくると、
重態の身ながら、喜びを感じれるから不思議だ。

戦いが終わって、全精力を使い果たした後、
おぼろげになっていく意識と、弱っていく気力を奮い起こせたのは、
絶対に死ねない、生きて戻って見せると思わせた、この子供の面影だ。
『もう駄目かも知れない』と思い始めたとき、
瞼にエドワードの姿が浮かんできた。
いつもの生意気な表情や、笑い顔だったら、ロイも、その表情を胸に
闇に落ちて行ってたかも知れない。
が、瞼に浮かんでいた彼の表情は、泣き顔だった…。
悲しそうで、哀しそうな表情で、寂しげに自分を見つめる彼の表情に、
ロイは、この子供を独りにはさせないと言う強い意志が生まれてきた。
ロイを失えば、この子供を理解して守ってやれる者が、
他にいるだろうか?
自惚れでなく、エドワードを1番理解してやれるのも、守ってやれるのも
自分だと思っている。 アルフォンス以上に。

なら、二人してまた再会できるようにする為にはと考え、
浮かんだ最善の手段を高じた。
思ったより手酷い痛手は被ったが、こうして再び会えたのなら、
対した事でもない。

そして、それは正解だったのだ。
束の間でも、離れた距離を埋めるチャンスも得れるオプション付きの。

それから、明け方までの短い時間を、ポツポツと近況を話し合い、
立ち去るエドワードと次の再開を約束する。

「じゃあ、もう行くけど、あんたもフラフラ出歩いて、
 無用な喧嘩を買うなよ」

「それを言うなら君は、喧嘩を売りに出すような事は
 慎み給えよ」

「俺は売ってない! あいつらが、売りつけてくるんだよ」

不愉快、迷惑千万と表情に刻んで、エドワードが顔を顰める。
これから暫くはまた、互いに離れて戦わなくてはならない。
弱った体が、気を弱くさせているのか、
自分でも思わなかった質問を投げかけてしまう。

「君は…、もし私が、また攫われたら、探してくれるかな?」

「大佐…。

 甘えんな! と言いたいところだけど、まぁ、アンタには借りも多いから
 ちょっと面倒でも、探してやるさ」

「どこまでも?」

「ああ…、果てまでな」

「そうか…、なら安心して迷子になれるな」

甘えに付き合ってくれた彼に、心からの感謝の笑みを浮かべる。

「だから、甘えんな! いい歳して、迷子になるような事すんなよ」

言い聞かせるように念を押すのに、クスクスと笑いながら了承する。

「わかった、わかった。 私も、出来るだけ気をつけよう。
 それとお礼だ。 等価交換に、君が迷ったときには、私が探し出して助けてやるさ。
 …どこに迷子になろうともね」

そう付け加えた言葉を聞いて、呆れたような表情を見せる。

「ば~か、俺が迷子になるわきゃないだろうが。
 あんたは、人の心配より、自分の身体の心配だけしてろ。

 じゃあな…、また」

小さく最後の言葉を付け足して、エドワードは姿を消した。





あの日々から、どれ位の時が過ぎたのだろう?
夢は残酷だ。
思い出せば辛くなるような事ばかり見せてくる。
もう2度と戻らないと解っていて見る夢は、懐かしいを通り越して、
辛さと虚しさだけを生んでいくと言うのに。

エドワードは馴染みになった、この世界の自分の部屋で、
今みた夢に、胸が潰されるような痛みを抱えて、
開いた瞼を、固く閉じ直す。
一筋の水滴と共に…。



夢から覚めて、ロイはベットから身を起す。
「警告か」
大きく息を吐き出しながら、そんな言葉を呟く。
そして、床に足をつけたまま、立ち上がる事もなく
今の夢を振り返ってみる。

あれは、過去の自分からの警告なのだろう。
自分が取ろうとしていた手段への。

「最善を尽くす…か」

確かに昨日、遺跡から戻ってきて考えた手は
確立も高く、時間も最短で済むだろう。
…多少、人道には外れるかも知れないが、
昨日までの彼は、それさえ押してでもと真剣に考えていた。
エドワードがこの世界を去ってから、ロイの世界に光はなくなった。
順調に出世し、野望に近づいているにも関わらず、
日増しに広がる心の無気力は、砂漠のように侵食し、
ロイの心を蝕んでいる。

夢に出てきた自分自身を忌々しげに思い浮かべ、
諦めの嘆息を付く。

「仕方ない…、最善を尽くすとするか」

そう独り言を呟きながら、早いながらも出かける準備をする。




勤務開始にはまだ時間の余裕がある中を、至急にと執務室に呼ばれた面々は
緊張した面持ちで並んでいた。

「朝早くから集まってもらってすまないが、君らに助けてもらいたい事が出来た」

そう切り出した中将の表情を見て、皆が内心、おやっという思い浮かべる。
久しぶりに見る、以前の上司の表情だ。
ここしばらくは、どこか退廃的な雰囲気を醸し出す表情が多かったが、
今日は、それを払拭したように、気が入った表情を浮かべている。

「鋼のが、練成陣をくぐって、向こうの世界に渡った事は、
 このメンバーなら周知の事だと思う。
 もちろん、軍には知らせても居ないし、ごく1部の人間のみが
 知っている事実だが。

 そこで、極秘に行ってもらいたい事が出来た。
 まずは、ドクターマルコーを探し出して欲しい。
 医術・治療の第1人者の彼に、極秘で行って欲しいことがある」

ロイがエドワード達の事を話しにしたのは、
居なくなってから初めての事だ。
集まった面々は、息も詰めて、話に聞き入る。

「遺跡に通ううちに判明した事がある。
 あの練成陣を発動させるのには、血液が必要だ」

ロイの予想外の言葉に、思わず口ずさむ。

「血液…?」

「そうだ。 事実、私の血に反応して、精神だけだが
 扉が開かれたのは、数度経験している」

ロイの話に、半信半疑の表情を浮かべる者と、
ここ最近の中将の様子を思い浮かべ、目配せしている者もいる。

「だが、血液なら誰のものでも良いと言うわけではないようで、
 錬金術が扱える者で、しかも、出来るだけ術者レベルが高い者が良い。

 練成陣の反応の大きさは、登用した血液の質と量に比例するのは実験済みだ。
 問題は、扉を固定するだけに必要な血液の量だ」

不穏な話の流れに、恐る恐る問いかける者がいた。

「あのぉ…、どれ位必要なんですか?」

上司の話の最中の質問と言う不敬も、さして気にすることもなく、
答えてやる。

「開いておく時間にもよるだろうが、短くて数十人分、長くなれば百人単位位にはなるだろう」

淡々と返された返事に、皆が動揺を浮かべる。

「そこでだ、マルコー氏の協力を仰ぎたい。
 彼になら、私の血液を人為的に作ってもらう事も可能かもしれん」

「それが成功すれば、大将たちは戻ってこれるんですか?」

その問いかけに、ロイはしっかりと首を横に振る。

「違う。 連れ戻すんだ」

そう言い返して、にやりと笑いを作る。

「迷子を連れ戻すのは、大人の役目だろ?」

そのロイの返答に、皆が力強く頷き返す。

その後、簡単な説明と分担を指示して、それぞれの任務にあたってもらう。

「成功の確率は、どれ位なんでしょうか?」

部屋に残った副官が窺ってくる。

「そうだな…、5分位の賭けだな」

「5分…」

「ああ、まずは造られたモノで扉が反応するか否かが半々の賭けだ。
 と言うか、それが要で、後はさして大きな問題ではないだろう。

 もともと、マルコー氏は治療で、その手の練成を行ってきたから、
 血の造血自体だ可能だろう。
 問題は、その血液が使えるかだな」

考え込んでいる表情に、更に問いかける。

「もし、その手が無理なようなら…?」

その問いかけに、視線を合わせたロイが、ゆっくりと口の端に笑みを作る。

「当初考えていた方に、手段を変更する事になるかな?」

「…どのような?」

ロイの笑みに、不穏な気配を感じて、躊躇いながらも聞かずにはおれなかった。


そんな副官の様子に、苦笑を浮かべながら、首を横に振る。

「聞かないほうが君の為だろう。
 それにそれは最終手段であって、最善ではない。

 だがもし…、最善の策で駄目な事になれば、
 最終手段を高じる事にもなりかねないな…今の私では」

それだけ語ると、黙り込んでしまった上司を見つめ、
リザは、出来るだけ、今回の手段が上手く行くことを神に祈る。
そうでなければ、この世に、一人の恐ろしいモノを生み出してしまう予感に。



[あとがき]

久しぶりの「ミラー」の更新です。
リクエスト頂きました方に、少しは喜んで頂けましたでしょうか?
アニメと原作が、時間軸をゆがめて話が進んでいるのはお許しください!
都合よいように、エピソードを使わせてもらったおります。
今回は、過去の振り返りばかりで、現在進行形ではちびっとではありましたが、
徐々には、進んで行く事と思いますので、気長にお付き合いください。




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