ねことパンの日々

ねことパンの日々

アイの物語 山本弘著

アイの物語 山本弘著 平成18年 角川書店



近年まれにみる、すがすがしい気分を味わわせてくれた本です。
平成18年10月に東京駅の本屋で購入。

舞台は近未来の日本。
マシンに支配された世界。ひっそりと生き続ける人々。
廃墟と化した新宿に、ひとりの若い男がやってくる。
そこで彼は、少女の姿をした戦闘用マシン「アイビス」に出遭う。
戦いの末負傷し、囚われの身になった彼は、アイビスから六つの物語を語られる。
ヒトが最も輝いていた時代に生まれた、ヒトと仮想世界、あるいはAIの交流のおとぎ話。
そして、最後に語られる「真実の物語」とは...。
そもそも、ヒトはなぜ衰退したのか?
マシンとヒトとは敵対しているのか?
そして「アイビス」の目的とは.....。


とまぁ、こんな内容です。
ジャンル分けすればSFなのでしょうが、それをほとんど意識せずに読んでしまいました。
少女型戦闘ロボット、と聞いて「うげ、オタクネタかよ」と思ったあなた、確かにその要素もちっとは含んでいるのですが、そんな陳腐なレッテルではすまされない面白さが、本書にはあります。

まず、アイビスが語る七つの物語が、じつに読みやすく面白い。
じっさい、現代の我々を取り巻く環境がベースになった物語が多いので、ふつうの現代小説としても読めます。

ネットでSF小説をリレー形式で書く仲間達の交流を描いた「宇宙をぼくの手の上に」
仮想空間でのふとした出会いが、リアルの出会いにつながっていく「ときめきの仮想空間」
女の子向けのAI玩具との対話を描いた「ミラーガール」
ブラックホールを数百年にわたって監視し続けるAIの「心情」を描いた「ブラックホール・ダイバー」
仮想世界から現実世界を照射した「正義が正義である世界」
老人介護用に作られたAIロボの成長物語「詩音が来た日」
そして、アイビス自身の謎に迫る「アイの物語」

この七つの物語がアイビスをとおして主人公に語られ、物語の間に挿入される「インターミッション」を交えながら、次第に彼らが生きる世界の謎が解き明かされていくという手法、なかなかです。

この本を読んでいて、思い返したことがあります。
1970年代、ちょうどアポロ計画が華々しかったころの余波を受けている時代、子供向けの科学読み物やマンガには、未来のすばらしい予想図がたくさん描かれていました。
月には人工都市ができ、多くのスペース・コロニーが地球を周回し、恒星間旅行の準備が着々と進む...。
(それを批判的に「戦争」というかたちで描いたのが「ガンダム」だったわけですが)
しかし、その後世界は、たくさんの戦争によって疲弊し、宇宙への夢はほとんど閉ざされてしまいました。
宇宙ステーションの建造すらままならない現代。あの頃の夢はどうなったのでしょう?

著者は、こうしたヒトという生命体の知的限界をふまえ、それを受け継ぐものとしてAIを登場させているわけです。
人類が到達できなかった高みに至ることを、AIじたいが意識し、それに挑む姿は、妙な現実味を帯びて読み手に迫ってきます。
と同時に、我々人間はこの限界を、はたしてブレイクスルーできないものなのか?とも考えさせられます。
著者は「おそらく無理」と考えざるを得なかったのでしょう。ラストは晴れ渡る空のようなすがすがしさと共に、もったりと胸の内にわだかまる悔恨にも似た想いが、ちょびっと残ります。
しかしそれもまた一興。

わたしたちの身近なところでいえば、
現代社会において、仮想世界というものの位置は何処にあるのか?
それを活用するのも悪用するのも人間。であるにもかかわらず、仮想世界という実在のないものに社会悪を押しつけようとするのは何故か?
という疑問について考える契機にも、本書はなるでしょう。

SF好きなかたはもちろん、ただ読み物が好き、という方にも、ぜひおすすめ。
ぜひ軽~いキモチで、トライしてみてください。
私はあっというまに、一晩で読み切ってしまいました。、(-_\)(/_-)(-_-)゜゜゜


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