フィンとリーフのトラキア博物館

フィンとリーフのトラキア博物館

頂き物の部屋(特別小説編・その3)




『大きな従兄と小さな従妹』(第4話)

リーンの語り

「今日はついてないことばっかりだ!!」
砦から帰ってきたアレスは私、リーンがいる娘のマリーの部屋に来るなりそう言い放って私の向かいのイスにどっかりと乱暴に座った。

「もう、どうしたのよ。そんなに機嫌を悪くして」
また眉間の皺が増えるわよ、と私はアレスのお茶を淹れながら機嫌が悪い原因を尋ね、ひざの上に座っているマリーの頭をなでる。
アレスによく似た娘は嬉しそうに私に頬ずりをして、慣れた手つきで天井につるしてある紐を引っ張る。
そうすると天井から仕掛けられたタライがぽーんと降ってきた。
案の定、大きな音を立ててアレスの頭を直撃、しかもタイミング悪く紅茶を飲んでいたから、熱い紅茶が満遍なく顔面にかかっちゃった。
あらあら、熱そう。

「~~~!!」

重なる災難(?)に言葉に出来ない感情をむき出しにするアレスなんだけど、それに対して憎たらしいほどの笑顔で満たされている娘はただ一言、

「計画通りですわ♪」
と発言して部屋から颯爽と逃げ出していった。
相変わらず悪戯好きな子!でもアレスには悪いけど、そこがかわいいのよね。

「ごるぁっ!待てマリー!!」
アレスは顔も拭かずに急いでイスから飛び上がり勢い欲扉を開け放って廊下を右・左・右、とマリーの姿を確認しようとするが、マリーの姿は何処にもなく、廊下を歩いていた侍女や兵士を意味もなく驚かせてしまっただけに終わった。

「もう、アレスったら。いい加減に落ち着いたらどう?」
私はすぐにゼーハーと肩で大きく息をしている夫をたしなめる。
ぷくーっと膨れながらもあきれ果てている私の顔を見て、自分自身も大人気なさを感じたのか、アレスはさっきとは一変しておとなしくなった。

「リーン・・・分かったよ」
こうしてみると、何だかお姉さんに頭が上がらないやんちゃ盛りの弟みたいね。
思えば出会ったころからずっとこんな感じかも。
そうなんだけど、おとなしくなったはずのアレスは開け放った扉に小さく悪態をぶつけて思いっきり強く締めた。

「扉に八つ当たりして!もう、大人気ない」
そしてイスに着席したころにはもう一度私に飽きられて、ぶすっと拗ねるアレス。
けれど、そうしていてもどうにもならないので私が新しく入れてくれた紅茶を口に運ぶ。
何だか変な顔をしていたけど、それは気のせいであってほしいわ。
しばらくして、紅茶を飲んで落ち着いたのか、アレスはすっかりおとなしくなって、私に今日あった事情を話すまでに至った。

「実は、かくかくしかじかで機嫌が悪かったんだ」
「そ、そう・・・山賊に間違えられたの・・・」

アレスの機嫌が悪いのはいつものことだけど、、その予想だにしない原因に私は唖然としていた。

(鳥にフンを落とされたとか、川に落ちたとか、そんな感じだと思ってたんだけど・・・)
唖然として思考回路が止まりかけている私を無視してアレスは今思い悩むことを相談する。
「しかし・・・。次からあのちっこいのに会うときにはどうしたらいいんだ・・・。会うたびに泣かれては困る・・・」
「あ、確かに・・・」

思考回路が止まりかけていた私はアレスの相談を聞いてはっとした。
アレスとちっこいの--フィラスちゃんは親戚同士だから会う機会もこれから増えていくでしょう。
けれどフィラスちゃんがアレスを怖がって顔を見ただけで泣き出したらちょっとした騒ぎとなり、周りの者に迷惑をかけることになるかもしれないわ。
それにアレスはグラディーユ家とはこれからも仲良くしたいと思っているし、私もそう思っている。
だからなんとしてもフィラスちゃんに嫌われ続けるのは阻止したいところねぇ。
「早いうちにイメージチェンジをしておかなきゃ、ずっと嫌われっぱなしよ」

「でもどうすればいいんだ・・・」
どうしようかと気持ちが焦る中何も浮かばないアレスと私。
そんな中、
「母様-。おやつを四つくださいな-」
午後三時を知らせる時計の音と共にマリーが帰ってきた。

「あら、もうそんな時間なのね」
娘の要求にあわてて立ち上がった私。
アレスと一緒にいると時間が早く過ぎていくわ。

すぐに私はお手製のおやつが入っている引き出しを開けて、4つも要求するマリーに一つずつ手渡しする。

「誰かと一緒に食べるの?」
「そうですの-。景色がいいところで、皆で頂きますのよ」
ご機嫌な様子のマリーは人数分のもらうんだけど、両手いっぱいに抱えたおやつが落ちそうでちょっと心配。
そこで私は一つひらめいた。

「そうだわ!アレス、あなたがおやつを持って行ったらどう?」
「俺が?」
「そうよ。餌付けの間隔でフィラスちゃんを手懐けしたらいいのよ。そうしたらアレスは怖い人じゃなくておやつをくれる人になるわ」
「え、餌付けって・・・」
そういって私は早速会話の内容を理解できないマリーからおやつを返してもらい、運びやすいようにバスケットに入れてからアレスに返答させる暇を与えずそれを渡した

「マリー、お父さんがおやつを持ってくれるから、ちゃんとお父さんを皆のところへ連れて行くのよ」
「わかりましたわ-」
マリーもそれに了承し、素直に返事をすると、父親の服を引っ張って部屋を出て行った。
私はそんな2人を見送って残っていた自分の紅茶を飲む。

何処からか聞こえてきたたらいの落ちる音はきっと気のせいよ。

第4話・完
第5話に続く・・・

『大きな従兄と小さな従妹』(第5話)

マリー(アレスとリーンの娘)の語り

お母様からお菓子をもらったわたくしマリーはお父様と共に見晴らしのいい塔を目指して歩いていきました。
そういえば友達になったばかりのフィラスが父様を怖いといっていましたけど、大丈夫かしら。
むむーっと考えながら歩いていきますと、塔の階段が見えてきました。ここの階段とても長いんですのよ。
『父様ー。抱っこしてくださいな』
『自分で上がれるだろ・・・。仕方ないな・・・』
だから父様に抱っこしてもらって塔の頂上を目指します。だって登るのが面倒なんですもの。
そのかわりにわたくしはお菓子が入ったバスケットを持ちます。働かざるもの食うべからずってどこかで聞きましたからね。
父様はわたくしをしっかりと抱えて会談を二段とばしで上がっていきます。落ちないようにしっかりと捕まっておかないといけませんわ。

『いででっ。マリー!髪はつかむな!』
『だってそこしか捕まる場所がないんですもの。我慢してくださいな』
『ぐぐ・・・』

あーだこーだしているうちに、塔の一番上までつきましたわ。わたくしは父様から降りて扉を開け、父様を置いて中に入ります。

『おやつを持ってきましたわよ』
『わーい。ありがとうお姉ちゃん』
真っ先に飛びついてきた弟にバスケットを渡すと、わたくしは機嫌が良くなったフィラスの隣に座ります。

『わたくしがいない間に何を話していましたの?教えてくださいな』

ここに来る前は泣き顔だったのに、すっかり元気になっているフィラス。何のお話をしたか気になりますわ!
気になってしょうがないわたくしに、フィラスは恥ずかしそうにもじもじしながら少しずつ話してくれます。

『・・・ヘズル様にお話を聞きました』
『ヘズルに?何を聞きましたの?』
『黒騎士様の・・・お話です。沢山・・・聞きました。とても・・・素敵なお話です』

フィラスが言った『黒騎士』は伝説の『黒騎士ヘズル』か、『黒騎士アレス』と呼ばれる父様かは分かりませんでしたけど、フィラスはとても気に入っているようですわ。

『フィラスは伝説のお話が好きですの?』
『はい。でも幻の生き物の方が好きですいつか・・・いつかユニコーンの背中に乗って空を飛ぶのが・・・夢なんです』

そういってフィラスは窓から少し身を乗り出して空を見上げる。
『素敵な夢ですのね。わたくしもユニコーン、大好きですわよ』

わたくしもフィラスの隣にいって窓に手をかけます。今日は、とてもきれいな青空ですわ。フィラスと同じ色の空が、笑っています。

『フィラスー、マリー様ー。おやつ食べないんですかー?』

そこにアースがわたくしたちに声をかけました。おやつの存在をすっかり忘れていましたわ。

『今行きますわ!』

アースに振り返って返事をし、わたくしたちのおやつに手を出そうとしているヘズルに仕掛けておいたタライを落としてから、フィラスに振り返りました。
けれどそのときにハプニングが!

フィラスが手を滑らせて塔の外側に落ちてしまいました!!

『キャー!』

びっくりして駆けつけると、フィラスは頑張って窓の隣にあった旗につかまってぶら下がっていました。
けれどこれではいつ地面に落ちてしまってもおかしくありません。早く助けなければいけませんわ!!

『フィラス、頑張ってくださいな!』
窓の近くにいたわたくしが手を伸ばしますが、どうがんばってもわたくしの手は空をつかむばかりでフィラスには届きません。
悲鳴を聞いてフィラスのピンチを知ったアースとヘズルは大人を呼ぼうと塔から降りようとします。
けれど、そんな2人の隣を誰かが通り抜けて私の隣に来ましたわ。

『そこから手を離すなよ!』

父様ですわ!あのまま帰らずに扉の外で待っていたのですわ!
父様はわたくしを窓から引き剥がして身を乗り出し、フィラスを抱えて無事に救出を成功させました。

『フィラス、大丈夫だった!?』

双子の兄のアースが真っ先にフィラスと父様に駆け寄って無事を確認します。

けれどフィラスは何が何だか分からないといった表情で、まだ混乱しているようですわ。
そんなフィラスに父様はわたくし達が持ってきた焼き菓子を一つとって一口サイズにちぎってフィラスの口に放り込んだ。
フィラスはびっくりしたまま、もぐもぐと口を動かして口の中に放り込まれたお菓子を食べて行きます。

『窓から身を乗り出したら危ないだろう』

一度怒鳴って嫌われた経験があるせいか、今度はなるべく優しい声で父様はお説教をして、フィラスにお菓子を与えていく。

『ここから落ちたら痛いどころじゃないんだ。分かってるだろ?』

父様の言葉を一つずつ受け止めて、フィラスは口元を動かしながら小さくうなずいていきます。
でも優しい声の父様、何だか気持ち悪い気がしますわ・・・。ヘズルなんか、父様が別人過ぎるあまり信じられなくて泣き始めましたわ。

『もう、危ないマネはするんじゃないぞ。分かったな?』

そんな私たちに気付かないまま父様はお説教を終えました。
お説教されたフィラスはよくかんだ焼き菓子を飲み込んで、怒られたにもかかわらずはにかんだ笑顔でこういいました。

『はい。ごめんなさい、アレス様。・・・ありがとうございました』

その笑顔に父様は満足したようにフィラスの頭をわしゃわしゃとなでて、それを見たアースに攻撃されました。

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おまけ

お茶を終えてお散歩にやってきたリーンが子供たちが遊んでいるだろう塔の下までやってきたとき、塔に寄りかかって座っているレンスターの若い騎士を見かけた。

『あら、こんなところで何をしているの?』

記憶が正しければ、彼はレンスターからやってきた小さな双子の護り人のはず。
なぜ彼がこんなところにいるのか気になって声をかけてみると、若い騎士は空を見上げて不思議なことを言った。

『天使が落ちても大丈夫なようにここで待機していました』
『天使?』
『えぇ。羽がないのに空を飛びたがる、かわいい天使です。落ちてこなくてほっとしましたよ』

そういって立ち上がった騎士は軍服についた土や草を払って気楽に伸びをし、リーンに礼を言ってからこの場を立ち去っていった。
残されたリーンは騎士の姿がすっかり見えなくなった後、小さく呟いた。

『不思議な人・・・』

第5話・完
第6話(最終話)に続く・・・

リーフ:ぱーと3はここまで!!最終話はパート4に続くよ!!


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