小さな命を預かった責任は、その日からずっしりときた。たかだか犬のことで、と思う人もいるかもしれないが、私にとっては、初めての仔育てだった。
朝、起きて、冷たくなった仔犬の姿を見たくなかった。できるだけ、部屋を温かくして、夜中、何度も様子を見にいく日が続いた。数ヶ月は完全な寝不足状態だった。
仔犬はうちにきて、まる2日は昼寝もしないではしゃぎまわっていた。興奮状態だった。生後55日の仔というと、まだ赤ちゃんで、寝るばかりと聞いていたのに・・・。しかも、食がとても細いし、水ものまないので、うんちはいつもうさぎのふんのようにコロコロしていた。当然、便秘症のようで、うんちをするときは、ケージの柵にしがみついてふんばってくれる・・・。見ていて、かわいくもあり、おかしくもありで、なにをしていても愛しかった。
体重は800グラムあると最初にいわれていたが、実際、量ってみると、わずか600グラム弱しかなかった。きっと、ごはんを食べないで遊んでばかりいたので、他の仔にごはんをとられていたんじゃあないかなと思う。
仔犬がきてから、数日は、低血糖をおこすといけないので、薄い砂糖水を飲ませた。でも温めることまで、気がまわらなくて、冷たいのをそのままやっていたので、あまり口にしてくれない。ドックフードはほとんど手付かずだった。食べるよりも遊んでいたい仔だった。
思いあまって、ペットショップに相談にいくと、「(お昼ねしないで遊んでいるのは)新しいおうちで嬉しくて仕方ないんじゃあないですか。(ドックフードは)ヨーキーはグルメですからね・・・」と言って、仔犬用のフードとミルクを用意してくれた。
本当になにをするのも仔育て初心者で、本に書いてあること以外の状況になるとオロオロしていた。これが、人間のこどもだったら、物凄く大変だろうな~っと思い、親の有難さがこんなところでわかった。
Y.Tさんが、60日まで、仔犬を手元に置きたいと云われていた。
だが、年末も近く、帰省の予定のあった私は、少しでも早く、仔犬を家に慣らしておきたかったので、無理をお願いして55日でお迎えしてしまった。その5日間は、短い犬の寿命と照らし合わせると人間の数ヶ月分になるかもしれない。そう思うとこの仔に対して、親犬から早く離してしまった申し訳なさがあった。仔犬が親犬と離れるというのは、永遠の別れになる場合だってある。現に、この仔も親犬とは二度と会えなくなってしまったのだから。
こうして、この仔犬はますます私のなかで愛しい存在となっていった。