新潟  柏崎・刈羽観光案内

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岩之入の塩水井戸


 弘法大師は、あたりが暗くなった頃に、ようやく北条の岩之入の村に入られた。大師は一軒の農家を見つけ、一夜の宿を頼んだ。その家は、老婆が一人で住んでいるずいぶん古ぼけた貧しい家だった。
 夕飯がすむと、ばあさんは、
「今日はじいさんの命日なのでお坊さま、すみませんが、お経を上げてくださいませんか。」と、大師にお願いをした。
「なむあみだ仏」とへたな字で書いた紙がはってある粗末な白木の箱が、お仏だんだった。大師は「いいとも、いいとも。」と言って、お経を読んだ。
 翌朝、大師は、台所で朝飯のしたくをしている音で目をさました。
 あずきの煮えたった匂いがしてきた。
「あっ、塩がない。」と台所で声がして、ばあさんは隣の家へ、塩をもらいに出かけていった。
「塩を少しくらっしゃい。そのかわり、今日一日、お前さんとこの田の草をとるすけ。」
 ばあさんは、一つまみの塩を入れた小皿を、大事そうにかかえて帰ってきた。
「ゆんべは、お経をあげてもらって、ありがったかったぞえ。何もお礼ができんですみませんのう。」といって、温かい粥と、熱いみそ汁と、塩あずきでもてなした。
「少しばかりの塩のお礼に、このばあさんは一日隣の田の草を取らねばならんのか。」と思いながら心のこもった朝飯を一箸ずつ、おしいただいて食べ終わると、大師は庭に出て、「エイッ」と気合いもろとも、金剛杖を土に突き立てた。
 すると、土の中からポコポコと水が湧き出てきた。
 驚いているばあさんに、大師は、「その水なめてみなされ。」と言った。
ばあさんは、一口飲むと、「おう、これはしょっぱい水だ。」と言った。大師は、
「そうだ、それは塩水だ。けさ塩あずきをいただいたお礼だ。」
と言って、また旅立って行かれた。
 この水は、今もかれることなく、弘法大師の塩水井戸として知られている。
 今では、二月十四・五日に百八灯というお祭りが行なわれている


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