しーくれっとらば~’S

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Iwasbprntoloveyou-Ⅱ


I was born to love you

        司と洸一 ~Ⅱ~ litten by 副魔王


晴れ渡る宮崎の空。
その蒼空の下でルーキー国東と塔馬は練習メニューを黙々とこなしていた。
キャッチャーであり来期から4番を任される塔馬とルーキーだが先発を期待される国東が
バッテリー間の相性を深める為2人でのミニキャンプを命じられたのだ。
筋トレが主となる練習前半、塔馬は思っていた。

「こいつ..気づいてないな..」
かつて自分にも訪れた心境の変貌。
「好き」が「恋しい」に。そして「愛しい」...「愛してる」
数日前の出来事が脳裏をかすめる....

       それは鴻波がオリオールズに入ったとわかった晩の事。
塔馬、千堂そして堀田を囲んで国東がポツリと話し始めた。

「...あいつずっと俺と同じチームで皆の足引っ張って...」
「けど大学もずっとレギュラーだったんだろ?たいしたもんじゃないか」
塔馬が言う。
「運がいいだけですよ...司は。」

そんな国東になだめるように堀田が語る
「でも、好きな人と一緒にプレーしたいって言う気持ち、わかるよ」
「なんですか!その好きな人って!」
「国東だって塔馬さんが好きで一緒にプレーしたくてここに来たんだろ?
 同じ事じゃないか....鴻波は..お前の事が好きなんだよ」
「き..気持ちの悪いこと言わないでください!そんな..男同士で...」
国東が席を外したあと、残された3人は言葉を失った。
「国東がああじゃあ、この先暗いぞ..鴻波の恋は...」

「国東!」
「はい、塔馬さん。」
「筋トレ終わったらサインの確認して投球練習だ。それまでいったん宿舎で
 身体を休めて置け」
「はい。わかりました」

その日の国東のピッチングは見事な物だった。
150キロ近い速球に数種類の変化球。
塔馬の指示どおりにコントロールも申し分なかった。
......少しの違和感を残しては......。
塔馬の勘が何かを訴える。
練習後ピッチングコーチに何かを伝える塔馬の姿があった。


次の日、筋トレを終えたふたりの前に現れたのは...
「鴻波。よく来たな」
「司!なんでまたここにおるんや?」
「なんや、昨日コーチに急いで宮崎に来いって呼ばれたんやけど..」
「俺は塔馬さんに受けてもらうためにここまで来てんねんで!なんでお前に..」

「呼んだのは俺だ」すっくと立ち上がった塔馬が言う
「お前をリードしていてなんだか違和感を感じた。それがなんだかわからないんだが
 長年お前の球を受けていた鴻波なら分かるかと思ってな。
 遠いところすまなかったな。鴻波。
 悪いがちょっとこいつの球を受けて見せてくれないか?」
「はい。喜んで..」


鴻波にキャッチャーを代えた国東は次々と見事なピッチングを披露する
その様子を食い入るように見ていたコーチと塔馬は
その事に気づいていた。
「くにさ....」声をかけようとしたコーチを制し、塔馬が続ける。

「国東、もういい。止めろ!」
「あ、はい。」
「確かにお前のピッチングは凄い。すぐにでも使えそうな速球だ、
 だけどなあ、プロに必要な物が、大切なものが欠けてるんだよ。
 いいか、野球は自分一人でやるもんじゃない!
 お前は鴻波も、そして俺のことも信頼していない!
 独り善がりの投球なんだよ。
 キャッチャーを信じろ。チームを信じろ。
 今まで誰が支えてくれたかを思い返して感謝する事が出来ないと
 お前いつまでたってもマウンドに登る機会はないぞ!」

そして、そこには...茫然と立ち尽くす国東の姿があった。


夜も更けたサロン。塔馬に誘われた鴻波がグラスを片手に緊張気味の面持ちで
座っている。
「なあ、鴻波。おまえいつもあいつに対してどんなリードしてたんだ?」
「いやあ、俺、塔馬さんみたいに頭良くないですから、俺のリードが気に食わんときは
 あいつが良いと思うところに勝手に投げてましたけど..」
「じゃあ、立て直すのに苦労する事もあったろ?」
「いや、あいつが思うところに投げてくれればええんです。気持ちよう勝ってもらわんと
 次の出だしから狂うヤツですから...」
「おまえの気持ちの問題でもあるみたいだな」
「塔馬さん?」
「鴻波、おまえ国東の事好きだろ?」
「えっ....?」
「お前の気持ちがいま、不安定だからなおさらヤツが安定しないんだ。
 鴻波の気持ちが通じてプライベートでもパートナーになるか、
 もしくはきっぱりとただのチームメイトとしてヤツを見ることが出来ないと
 国東のいいところはこれ以上引き出してやれない。」
「塔馬さん、どうして...」
「俺はだてにキャッチャー長くやってないぜ。それにそっちのほうも先輩だしな
 あいつは自分の気持ちに気づいてないだけだ。認めたくないんだよ。」
「でも、司はそんな素振り見せたこと無いです」
「お前たちには昔から築いた信頼がある。今まで調子の浮き沈みをフォローしてきたのが
 鴻波だということにも薄々気づいているはずだ。
 それが別の感情だと気づかせるのはお前しかいない。」
「そうでしょうか...俺の一方的な気持ちで..」
「その気持ちが通じるかはこれからのお前次第だ。
 その気持ちを吹っ切れる自信があるならば別だけれどもな」


コンコン...国東の部屋のドアが鳴る
洸一がドアを開けると...
「なんだ、司かよ...」
「やあ、ちょっとええか?」
広い部屋にはダブルベットがひとつ中央に備えられていた。
スポーツ選手には広いベットが用意されるのは常識となっている。
その端に腰掛け二人はいつものように話し始めた。

「洸一、今日たくさん変化球投げよったろ?肩張ってんのやないかと思うてな」
「アレくらいでまいってたらプロ野球選手勤まらんて」
司が洸一の肩を撫でていく。
「...言わんこっちゃない。熱くなっとるやないけ」
「大丈夫やて」
「ええから。ここに寝てみ。解したるわ」
「大丈夫やて!!」

目にいっぱい涙をためた洸一が振り返る。
心臓の鼓動が大きく波打った司だが、冷静を装いやさしく洸一に寄り添う。

「泣いてるのかいな。よっぽど応えたんやな。塔馬さんの言葉..」
「なんでや、俺はこれまで俺なりにがんばってきたで。誰の力も借りんと
 いい成績残して来たやないか」
「そや。洸一はいつも凄かったで。俺は知っとる。」
「小さい頃からずっと凄かったで。負けたことあんまりあらへん。
 中学も、高校も、大学も負けなかった!」
「そや。全部知ってるで。洸一は凄いやつなんやで。凹む事ないで...」
「誰も...誰の力も.....」
すすり泣く洸一の声が部屋に響く。
先ほどの塔馬の言葉が胸に突き刺さって鴻波は押しつぶされそうだった。

「なあ、洸一。おまえはお前でええんや。それはこの先ずっと
 変わらへん。ただ....。
 塔馬さんには俺らの見えてへんもんが見えてるんかも知れへんのや。
 少しでもバッターの近くにおるキャッチャーにしか見えへんもんもある。
 どうや..ここでいっぺん組み立てをまかしてみたらどないや?
 お前の才能ならもっとこの先花開く事も出来る。
 わかるで....ずっと見てきた俺には....。
 お前の事を誰よりも考えてるキャッチャー陣に、
 思い切ってぶつかってみぃへんか?」

司のぬくもりが心地良い。
こいつは「俺が..」って言わないんだな。いつも。
いつだってそうや。
こんな時くらい「俺が面倒見て来たんや」って言わな。
こんな面倒くさいヤツをずっと支えてきたんって威張らな!
そやさかい...俺。いつまでたっても
お前の掌で威張ってるだけやないか.....。

「うっ..ううう。司のバカ!あほ~!!」
涙が溢れて止まらない。
司の胸をたたきながら国東は泣いた。
入り乱れた感情と己の情けなさにさいなまれながら。

「わかった。わかったから。ほら横になり。マッサージしてやるから
 今日はもう、寝たほうがええで。」

慣れた手つきで国東の身体を解す。
いつもの心地よい感触に国東はすすり泣きながらもすぐに眠りに落ちた。
相当疲れたのだろう。
こいつにとってこのような精神的な山場は初めてと言っていい。
しばらく手を休めなかった鴻波がその寝顔を見つめながら
そっと呟いた....。

「洸一...俺...。お前の役に立てたか?
 少しは俺で安らぐ事が出来たか?」

静かに眠る洸一の唇にそっと自分の人差し指をなぞらせて
名残惜しそう鴻波は国東の部屋を後にした。

二人にとっての扉が少しだけ緩んだ瞬間だった。


I was born to love you-Ⅲへ続く



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