がらくた小説館

ある夏の夜に

 物心ついたときから俺には霊感があった。そんなに強い霊感ではないと思う。
しかし確かにそこにいてはいけないものが見えたり、存在を感じることが今まで幾度かあった。
はじめの頃は霊の存在に萎縮していた俺だったがそういった現象に慣れてしまったせいなのいか、最近では恐怖というよりその存在に対して怒りをおぼえるほどだった。
なぜ俺にだけ見えてしまうのか?なぜ存在を感じてしまうのか?そして何よりうっとおしくて仕方が無い。
俺の生活の中に土足で入ってくる奴らの存在。これがもし人間だったとしたら、絶対に許されないのに。
奴らはどこにでも、もちろん俺の家にも度々現れる。そこで俺は長年温めていた計画を今夜実行することにした。

深夜二時、俺は異様な空気が廊下の方から漂ってくるのを感じた。来た!!
今夜こそ幽霊たちとの最終決着の時。
俺は寝たふりを決めこんで、すでに部屋の中にいる霊の動向を息を潜めて追っていた。
 奴は少しずつ俺に近付いて来ている。
一歩、二歩、三歩、今だ!

 俺は途端に布団を蹴って起き上がり、ズボンをするりと下ろして奴に向かってお尻を両手でパカッと開き、生の肛門を見せつけてやった。
 そしてここでキメ台詞「WELCOME~!!!」と高い声で言ってやった。

              決まった~!!

 そして俺は何事も無かったかのようにその霊の面を拝んでやろうと、振り返るとそこにはもう奴の姿は無かった。

 清清しい朝だった。もう何も気配も感じない。俺の計画は本当に見事だった。霊というやつは、こっちが驚くからつけあがるのだ。ビビリあがって、恐怖におののく。俺はそのシステムを変えるために、少々ぶっ飛んだことをやったと思う。しかしそのおかげで平和を勝ち得たのだ。どんな時代も人は戦わなくてはならない。勝利を勝ち得てこそ繁栄があるのだ。

 俺のそんな思いもよそに、祖母は洗いものを片付けながら背中ごしに
「あんた、早く出ないと会社に遅れるよ」と言ってせかしてきた。

「ばあちゃん、俺昨夜幽霊見たよ」

「あらっ、あんたまた見たのかい」

「うん。でももう見ないと思うよ」

「なんでだい?」

「まあ、ちょっとね」

「ふ~ん。そうかい。で、昨晩の幽霊はどんなやつだったんだい?」

「う~ん。顔は見てないな~」

「そうか。残念だったね」

「えっ?なんで?」

「忘れたのかい?」

「は?」

「昨日は、あんたのお母さんの命日だろ。たぶんお母さんが…。」

 俺は知った。どんな時代も平和を勝ち得るには、犠牲が必要なのだと。そして後悔もまた平和を勝ち取った後の不可欠な産物なのだと。




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