がらくた小説館

世の中を思う

 新人の坂本はいつまでたっても成長しない。うちに来て、二か月もたつのにろくな戦力にもならないし、遅刻も毎度のことだ。普通の企業ならとっくにクビを切られているだろう。

 私は新人教育係を任されて十年たつが、あんなやつは始めてだ。今日も一時間以上遅刻している。

 こんなことでは私の地位も危ないし、周りにも迷惑がかかる。今日こそはちゃんと言って聞かせるつもりだった。しかし二時間たっても三時間たっても坂本は現れなかった。そこでさすがに頭に来た俺はやつに電話をかけた。

「もしもし、宮内だけど」
私は出来るだけ優しく言った。

すると「おはようございます」と、寝ぼけた答えが返ってきた。

私は怒りをなんとか抑えて「いや、もう昼だよ」と答えた。

「そうでした。こんにちわでした」

今時の若者はまず謝るということを知らないのだろうか?

「君は今日どうするんだね」

「ちょっと体調が悪くて休ましてもらいたいんですが」

「じゃあなぜ連絡してこなかったんだ」

「すいません…」

私はまるでアルバイト感覚の言い訳をする坂本に、ついに我慢出来ず「すいませんじゃないだろう。君のせいでどれだけの人が迷惑してると思ってるんだ」と、ついに怒鳴り声をあげていた。

「…」

「なぜ黙ってるんだ」

「いや、実はちょっと家でごたごたがありまして」

「またそれか。君の言い訳はいつもそれだな」

「いや、でも本当なんです…」

「だからと言って連絡のひとつもする時間がないのか」

「すいません…」

「すいませんすいませんっていい加減にしろ。今回のことは上にも伝えとくからな」

「…あの、僕辞めさせてもらいたいのですが」

「何?君はこんなことですぐ逃げ出すのか。社会をなめてるのか、いい加減にしろ」

「…」

返答がない。さすがの私も完全に呆れていた。

「わかったもういい。明日からもうこなくていい。ただこんなことを繰り返してお前は本当にいいんだな。お前のそんな甘い考えは間違ってると、今まで誰にもいわれなかったのか?」

「言われました」

「誰に言われたんだ」

「友人とか、親にです」

「それでもお前は男か。親を泣かせるようなことをしやがって」

「いや、それはもう大丈夫です」

「何開き直ってるんだ。なんでも途中で投げだすようなやつが」

「…」

「もういい。じゃあな。こっちも忙しいからお前の馬鹿話には付き合ってられん。最後に聞くが本当にいいんだな」

「はい…。あの…」

 そんな坂本の煮え切らない態度に私はかつてないほどの憤りをおぼえ「ふんっ、死んだらお前は地獄行きだよ」という言葉を残し、強引に電話を切った。

 本当にこの国はどうなっていくのだろう。自由をはき違えた現代人。個とは単に自由のためにある言葉だと信じる理解力の欠如。公の中で最低限の義務を果たし、そしてその中で自由を選択出来ない幼稚な発想力。

 あんなやつばかりじゃこの国、いや世界が滅びるのも時間の問題だろう。
もはやこの波は誰にも止めることが出来ない。

 唯一この国を救えるとするなら我らが偉大なる父、大上バベル3世大司教しかいない。

 大上司教の教えは絶対で、彼こそ真実の神なのである。そして坂本のように大上司教の教えに背いたものは、皆地獄への道を進むことになる。

 だから私は本当に救いたいのだ。出来るだけ多くの人間を。そして今日も明日もこれからもずっと私は『神の倫理教』の布教活動と資金集めに帆走するだろう。


 私はこんなことではめげない。

 そう、来るべきユートピアの復活のために。 






                 了


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