がらくた小説館

痴漢


今、目の前の若い女性が痴漢にあっていた。車内は満員で、女性の顔はここからでははっきりとは分からないが、多分苦痛の表情をしているに違いなかった。

 周りの数人はそのことに気付いているはずなのに、皆がいちおうに目を背けていた。そして自分がそれを見てみぬ振りが出来ないことも分かっていた。

 そこで林は当然のように、目の前で脅えきって、何も言えない女性に助け舟を出すことにした。

「勇気をだしなさい」
 林は女性の耳元で囁いたが彼女は何も答えない。

「何をやってるんだ。大声で助けを呼びなさい」

「…」

「痴漢男の手をとって、叫んだらいいんだ」

「…」

 何度も女性を励ましたが、彼女は口をつぐんで耐えるばかりだった。

「頑張れ!!」
 林はそれでも諦めずに女性を励まし続けるのだった。








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