がらくた小説館

伝えたい気持ち

バイト帰りに立ち寄った昔馴染みの雑貨屋で、偶然俺は万引き犯を目撃してしまった。 
平日のこの時間帯なので客はまばらで、店員はレジでやる気なくカウンターにひじをついていた。それに万引き男がいるコーナーからは、完全に死角だった。

手当たり次第に商品を服の中へと隠す男。俺は思わずその強引さに目を奪われていたのだが、男もさすがにそれに気づいたのか、犯行を中断しそのまま店から出て行った。

そして俺は男の後を追った。男は早足で歩いてはいるが、それはとうてい目的地へ向かうためのものではなさげだった。

俺は間隔をあけながらも、ぴったりと男の後ろをつけた。男は時折、変則的に歩くスピードを変えた。それは俺の存在に気付いているに違いなかった。それでも俺はしつこく男の後を追った。

男はどんどんスピードを上げる。俺もそれに振り切られないように必死だった。

それにしても、誰があの男を万引き犯だと考えることが出来ようか。男は別にお金に困っている風体でもなければ、つけている時計を見ても、どちらかといえばお金には縁深いような印象を受ける。顔の印象からは、どこかの会社で管理職を任されていてもおかしくないだろう年齢には達していると思う。ではなぜそんな人が? 興味は募るばかりだった。

だが、ちょうど商店街を外れる角を曲がった瞬間、俺は男を見失っていた。

昨日の今日で、まさかとは思いつつも、俺はその雑貨屋に足を運んでいた。そしてまさかは起こった。あの男が今日も店内にいたのだ。お互い目は合わさないが、そこには二人にしか分からない空気が存在した。

男のお腹に膨らみはない。おそらくこれから犯行に移ろうとしていたのだろう。しかし俺がここにいる以上、もう勝手なことは許さないつもりだった。男もそれを感じているのだろう。俺にしか分からないようにお腹をポンッと叩いてそれを表現した。

だが、そんなことで俺はこのことを終わらせようとは思わなかった。なぜなら男がこれからもずっと犯行を犯さないという証拠はどこにもないからだ。


そこで俺は周りに人がいないのを確認した後、ゆっくりと男に近づき、少しひきつった表情のその男の前で、手当たり次第に品物をバッグに詰めた。



そして何事も無かったように店を出た。スピードをあげてあても無く歩く。勿論その後方には男の姿。昨日とはまったく逆の追いかけっこが始まったわけだ。

男から逃げる俺の姿。そしてそれを追う男。つまり男は俺という存在を追いかけることによって、それは昨日の自分を見ているのだった。彼はどう思うのだろう? 何を感じてくれるのだろう? そう思うと俺は足を止めるわけにはいかなかった。

そしてちょうど商店街を外れる角を曲がった瞬間、俺はダッシュで地下鉄へ向かう階段を下り、なんとか男を振り切っていた。

三日連続でその雑貨屋へ足を運ぶのは初めてのことだった。
そしてなぜか、いや、やはりなのかもしれないが男はそこにいた。

まだわからないのか? そう思うと無性に腹が立ってきた。それでも、今さら俺は男に対して何を言えば良いのだろう? 十分過ぎるほどに、俺の気持ちは伝えたはずだった。この男は馬鹿なのだろうか? それともやはり言葉でちゃんと伝えなかった俺がいけなかったのだろうか?

そんなことを考えていると、一人の若い女が俺と男の横を通り過ぎていった。手には口の大きく開いた手提げ鞄。どこかぎこちないその表情。俺はすぐにそれを悟ってはいたのだが、男も同じようだった。

女は思ったとおりにレジを横切り、店外へと姿を消した。そこで俺はすぐに女を追いかけ、店外へと走った。そして女の手を取った。女は一瞬戸惑いつつも、逃げ出そうとする素振りは見せず、観念したように首を縦に振った。

そこで俺が何か言おうとしたその刹那、男が横からしゃしゃり出てきて、女の鞄に手をかけた。俺はそれを許さず、男の手を鞄から振り払い、彼女に戻してあげた。


そして二人に向かって、初めて言葉で自分の思いを伝えることにした。




「一回だけは許すよ。でも、二度目からはもう許さない。とにかくここは俺の縄張りだ。やるなら他所でやってくれ」



あれ以来、二人の姿を見かけたことはない。




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