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小説 「 scene clipper 」 Episode 19
軽やかに爽やかに「ブリージン」が着信アリを告げる。
リョウの夏の定番だ。中野通り沿いにあるレコードショップで買った。
オーナーと奥さんが二人で経営してた。
ジョージベンソンがギターを抱いたアルバムをレジに持っていくと二人してとても嬉しそうに笑顔満面で迎えてくれた。清算ではなく、歓迎してくれたという印象を持てた買い物は初めてだったから今でも鮮明に覚えている。
わずかに戸惑った俺に先ず奥さんがこう言った。
「あなたのような若い人がこのアルバムを買ってくれて嬉しいな」
「え?」若干驚いたリアクションした俺に隣にいたご主人が奥さんの言葉をフォローした。
「本当に嬉しいんだ。最近の若者はロックが殆どだからね」
「だから、本当に嬉しいの。このアルバムはフュージョンでジャズとは言えないって言う人もいるけど、ちゃんとスウィングしてるし、ね」と夫を見る。
「ああ、立派にジャズだよ・・それにあまり小さいことに拘るのは音楽を楽しむのに邪魔になるのさ・・・あ、気にしないで・・楽しんで」
「そう、楽しんでね」
「分かりました、有難うございます。」て頭を下げた。
「お礼を言うのは私たちの方だわ、ね」
「ああ、ありがとう、楽しんでね」
ドアを開けて出る前に振り返ると夫婦が優しい笑顔いっぱいで手を振ってくれていた。温かい気持ちで胸が一杯になったなあ、あの時は・・・。
「リョウさん、りょうさんったら!電話出ないの?」
いつの間にか水城が来ていて驚いた。
急いで [ 通話 ] をタップする
「もしもし?」
「何だよ居ないのかと思ったぜ」
「あ、上妻・すまん、今ちょっと過去と繋がってて・・・」
「ほんとにお前は良く疑似タイムトラベルするよな~」
「へへ、で何?」
「そっちに行って目を覚ましてやろうか、お前がパスタの店を探してくれって言ったんだろうよ」
「あ、それそれ。どこかいい所あったかい?」
「ああ、パスタでいいんだろ?」
「うん、お前も食べるだろ?」
「おう、だから値の張る店を見つけてやったぞ」
「え、おれの予算聞かないでか?」
「噓だよ、美味しくて安価な店が近くに出来てな、そこにするべ」
「おどかすなよー俺ほんとは気、ちっちゃいんだからなホントは」
「そんなことは大昔から知ってるって、大丈夫もしも予算オーバーしたらその分は俺が持つから」
「そっかー持つべきものは、だなあ」
「・・・でだ、下北沢駅の西口2を出て目の前にローソンがあんだろ?」
「知らない、最近下北ロフトにも行ってないから」
「・・・まあいい、とにかくそのローソンの前に11時でどうだ、で、パスタの店に俺が電話して混んでるようなら予約を入れとく、それでいいだろ?」
「おう、それで頼むよ、こっちは俺入れて 4 人だから」
「分かったじゃあ明日な」
「うん、ありがとな」
慌ててかけ直す。
「おい、上妻、店の名前は?」
「俺が知ってるからいいだろけど・・・まあ知っといた方がいいか
『デリツィオーゾ パスタ』という店だ」
「デリ・・何だって・・・デリ・・
ツィオーゾ?変わった名前だな、何語でどういう意味だ?」
「イタリア語で『歓喜』という意味らしい」
「ふーん、じゃあ歓喜のパスタってことか、大袈裟な名前だな。分かったじゃあ明日な」
「水城、お前夕子ちゃんに知らせてくれ、俺はマリちゃんの・・・番号知らなかったんだ・・・」
「いいですよ、そっちも僕がやっときます、けど何時にどこに集合っすか?」
「そうだな・・・明大前、井の頭線 4 番ホームに 10 時でどうだ?」
「 10 時ですか・・・早くないすか?」
「何があるかわかんねえだろ、いいから電話しろ」
「分かりました。で、リョウさんは何するんですか?」
「俺は・・・下でコーヒー買ってくる・・・なんだその目は?お前のも買ってくるから・・・モカだったな」
「有難うございます、お願いします」
「よし、やっと『オス!』が出なくなったな」
水城は照れながら頭をかいた。
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