妖精の館

妖精の館

   


 中学生の大会にしては、かなり大量のマスコミの間をすり抜け、ロッカールームに忍び込んだはじめは言葉を潜めつつ、勢い込んで話しかけた。
 他の中学の代表選手ならびに、同じ中学の部活の人間は、どこか遠巻きにしている。
 実際に試合をしてみて、或いは見て、レベルの違いを実感してしまったためなのだろうか?
 はじめには良く分からない感情であった。
 憧れ、或いは目標とするなら分かるが、ことスポーツの成績に関しては侮蔑、排除といった感情とは無縁な人間がここにいた。
 スポーツマンシップの塊である。
 彼が化け物呼ばわりする「渚カヲル」に関しても、土俵が「スポーツ」になったとたん「正々堂々」「対等」になってしまうのだから。
 因みに、光一は用があるからと、帰ってしまった。
 こちらはこちらで、双子の弟に対してコンプレックスが隠しきれないらしい。
「碇シンジ。そいつもイレギュラーだ」
 ほとんど感情のこもらない冷たい口調で、星夜が返す。
 同時に、絶対零度の視線を遠巻きにしている面々に向け、更に周囲に隙間を作っている。
(アイス・ドール、或いは雪女に冬の女王、本人嫌ってるみたいだが、ぴったりなあだ名だよな)
 因みに渚カヲルの呼び名は「冬の女王」に対応して「春風の王」(さむっ)といったものだった。
 彼の穏やかな笑顔が「春」を連想させるらしい。
「イレギュラー?」
「ああ、渚カヲルや俺と同じようにな」
「そういえば、何であいつ(渚カヲル)をここまでつれて来させたんだ?
 星夜だったら、同じ街中にいれば監視には問題ないはず…」
 どこか謎めかすような相手の言葉に、初めて疑惑を覚える。
 しかし、その疑惑に対して、相手はやはり冷たい微笑を返すのみだった。
 一卵性の双子という事で、よくよく見れば、確かに造作は光一とそっくり、というか、ほぼ同じである。
 しかし、ぱっと見では、その相似性には中々気づきにくい。
 どちらかといえば、「可愛い」「素直さ」といった印象を与える光一。
 それに対して、星夜は「美人」「冷たさ」(ついでに「色っぽさ」)といった印象を与える。
 印象が強すぎて、似ているという「形」に注意が行きにくいのだ。
 そこそこ短く切られた黒髪、冷ややかに光る、切れ長の瞳。
 常にかけている、ノンフレームの眼鏡が、感情を隠し、その印象を強めている。
 はっきりいって、光一より、全然美人である。
 カヲルと同じく、性別を感じさせない中性的な美しさ。
 性別どころか、人種すら、酷くあいまいだ。
 はじめは、この双子を見るたびに、『本当に双子か?』という疑問を覚えずにいられない。
 性格、容姿ともに、あまりにも違いすぎるためだ。
 才能も、かも知れない。
 先ほどの疑惑も手伝って、いつも思っている疑問を口の端に上らせてしまう。
『お前達は本当に双子なのか?』と。
「なんだったら、遺伝子でも調べてみるか?俺とあいつは全く同じ遺伝子配列だぞ」
「血は、全くつながってねーけどな」
「は?」
 血のつながっていない双子。
 そんなものがあるはずがない。
 同じ親から一緒に生まれるから、双子、というのに、だ。
 そんな、言葉の定義に喧嘩を売るような言葉を、まっとうな回答の後、ぼそり、と繋げる。
 血がつながっていないのに、同じ遺伝子。
 更にありえるはずがない。
 疑問符に中におぼれかけたはじめ。

「今はまだ、知らなくても問題ねーよ」
 淡々と慰めの言葉を口にする。
「まだ、知るべき時じゃ、ねーからな」
 かすかな、微笑。
 今までの、硬質な印象を溶かすような…。
 かすかにつり上がった桜色の唇に…。
(こいつは男だ!ちょっと得体は知れないが幼馴染だ!正気に戻れ、俺)
 惑わされている、少年、一名。

「先、いってろ」
 はじめの不埒な気持ちに、気づいた、というわけではないだろうが。
 星夜は、とうに人の引いたその部屋から、はじめを追い出す。
 いつもならば、素直に従いはしない。
 けれど、先ほど自分の中に思い浮かんだ思いに、かなり動揺していたはじめは「早く来いよ」とだけ残して、素直に従ってしまう。
 はじめを追い出した後。
 相手が確実に遠ざかったことを、耳を済ませて確認すると、壁の一角に目を見やる。


 そこには、『虫』がいた。

 あくまで『虫』としか、表現できないものが。
 よく見ようと視点をあわせようとすればぼやけ。
 時に、一匹にも、多数にも見える。

 形を、しっかりと確認することも出来ない。
 にもかかわらず、確かに『虫』というイメージを見るものに与える。

 不思議な『もの』

 その『虫』に星夜は鋭い視線を向ける。

 ばしゅぅぅ。

 視線とともに振るわれた手から、光が飛ぶ。
 それが、命中したとたん。
 はじけるような音を立てて。
一瞬で、それは消え去る。
 まるで何もいなかったのように。
 灰の一片すら残さずに。
 少なくとも。
 地球上に確認されている、まっとうな生き物ではないようであった。

「ネルフの奴等、何してやがる?」
 忌々しげな声音で星夜はつぶやく。
 まっとうでない生き物を、まっとうでない方法で消し去った彼もまた、まっとうではないのだろう。
 『虫』に命中したように見えた光は、やはり見えない。
 普通の武器を使用したわけではない、ということなのだろう。
 つまりは、「まっとうでない」方法。
 まあ、どう見ても普通ではない『虫』を見て表情一つ変えずに攻撃して時点で、普通ではないが…。
「それだけ結界が緩んできてる、つーことなのか?」
 険しい表情で一人ごちる。
「時間は、そう残されちゃいねぇ、か」
「ま、あいつらがあまり有能でもこっちがやりにくいしな。願ったり、ってとこか」


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