[救急外来]



[救急外来] 
夜間の病院はいつもよりも混んでいなかった。
混んではいないと言っても、待っている人は5~6人居た。
(待たされるんだよな。夜間って・・・)
隠しようが無い程血だらけの自分が恥かしくて、うつむいて顔を隠して待っていた。
いつもの様に待つのを覚悟していたが、すぐに名前が呼ばれた。
(申し訳ないな・・・あとから来たのに・・・)と思う。
診察室ですぐに看護士に聞かれる。
「どうしましたか?」「切りました」あくまでも冷静に。
「血はずっと出てますか?」「はい止まりません」
タオルをどかして「まだ出てますね」と看護士が言う。
「何で切ったんですか?」「剃刀で」
「じゃ、診察台に横になってください」「はい」
まず血圧を測られた。私の血圧は至って正常。
どんどん体が寒くなって、震えて来た。
(何か掛けてかけてくれないかな)と図々しくも思う。
医師を待っている間、私は泣いていた。情けなさに。
傷口の怖さと、後悔で。泣いたら余計に恥かしいのに・・・
暫くして医師が来た。女の先生で寝起きだった。
申し訳なかった。こんな馬鹿な人間の為に休息を邪魔した事が。
「どうしました?」「切りました」
「切る前に何かありましたか?」「べつに・・・何も」
これは唯一私が付いた嘘だった。何も無ければ訳がない。
傷跡は見えても、心の中までは見れない。だから付いた嘘だった。
話した所で、精神科や心療内科を進められるだけだ。
「手を握れますか?グーパーしてみて下さい」「はい」
動かす事の恐怖に怯えながら、手を握ったり開いたりした。
腕は痺れていて、思ったように強く拳を握る事が出来ない。
それ以上握れませんか?」「はい、痺れていて」
「痺れてますか?どこから?」「肩から手の平にかけてです」
「結構切れてますね。縫いますから」「はいすみません」
医師と看護士のやりとりと器具の金属的な音しかしない。
私はここで何日か前に自分が考えていた事を思い出した。
私は数日前に医療用のメスを買おうと思っていたのだった。
剃刀が余りにも切れないので、何回も切るのが嫌で、
メスなら一回で綺麗に切れると思ったからだった。
自分が今居る場所で気づいたのだ。メスなんて買わなくて良かった。
もしメスで切っていたら、まずこんな傷じゃ済まなかったのは確かだ。
メスは命を救うための物。自傷行為に使う為の物ではない。
又しても愚かな自分に気づいた。





[救急外来2]






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