全20件 (20件中 1-20件目)
1
読売歌壇 読売新聞12月21日付より (*は、くまんパパ寸評)岡野弘彦選川崎市 大同きみゑ母の名は「こはる」と言ひき霜月の小春日和の日々を母恋ふ* 岡野氏評によれば、作者は94歳だという。ほのぼのとした中に人生の味わいを感じさせる佳作。「霜月」は11月のこと。京都市 高橋雅雄穴の開いたアルマイト弁当まん中に梅干し入れて行きし学校小池光選東京都 加藤あんぷおおつぶの雨にうたれてわらいだす何に勝とうとしてたんだろう佐賀市 草下弓子もう一度振り返ってみる扉とは開かれるためそこにあるのだ* 象徴的、暗喩的、黙示的表現。意味は曖昧模糊としているが、これでいいのだ。十和田市 久米新吉校庭の今朝の雪にはみちくさをせし山兎の足の跡あり* ルビは振ってないが、たぶん「山兎」は「のうさぎ」と読ませるのだろう。爽やかな叙景の歌。久喜市 深沢ふさ江風のやうに過ぐるマラソンの集団を見送つてゐる大根だいこ抱へて*「大根だいこ抱へて」が、まさに表現のドツボ。これで歌になっている。栗木京子選横須賀市 浜口祥子ようやくに熱の下がりし幼な子は椅子に坐りて医者の真似する* お孫さんだろうか。痛々しくていとおしい。いわば「いたおしい」?瑞穂市 渡部芳郎思ひ出し笑ひにあらむ風抜ける向かひのホームに妊婦微笑む俵万智選弘前市 竹内正史ぬけ道のある林檎園に少年の友を呼びゐる甲高き声大垣市 岡田薫人類が滅ぶ映画を見た後に君とカレーを食べる幸せ* 話題のSFXディザスター映画「2012」か。時事的要素を盛り込んで楽しい。八千代市 諏訪俊一会話なき住まいをいでて物言わぬスポーツクラブのマシーンと真向う
2009年12月22日
コメント(3)
読売歌壇 読売新聞12月7日付より* 久しぶりに新聞歌壇をチェックしてみたくなったが、14日(月)の新聞休刊日の関係か、今週の読売歌壇は休載みたいなので、先週掲載分から拾ってみる(適宜、ルビを振りました。*のあとは、筆者くまんパパ評)。岡野弘彦選滋賀市 若林豪秀かの果てに戦艦大和沈めりと凪なぐ海をゆきこころ波だつ長野市 上野ただし障子貼る母が鋭くかみそりを口にくはへてゐたる年の瀬小池光選福井市 佐々木博之木に止まり身体を揺する楽しさを椋鳥むくどりは知りわれは忘れき南房総市 小鷹美佐子猫も老いキャットフードの他ほか食べぬ早よ逝きませよ吾わが死なぬうち栗木京子選高槻市 上辻正七郎献金の記事読み捨てて八と九に溢れるスーパーへ自転車を漕ぐ* 鳩山首相は、実の母親から月額1500万円、少なくとも6年間で11億円の献金(お小遣い?)を貰っていたという。どこの世界の話かと吐き捨てつつ、99円や98円の数字で溢れるスーパーへ急ぐ。篠山市 清水矢一その後に妻の去る日のあるやなしいま定年の祝宴に居る* 定年後、ここぞとばかりに熟年離婚を切り出されて慌てる夫が世に多いらしい。そう思うと、これは針のムシロのような定年の祝宴である。俵万智選青梅市 諸井末男焼きたてのパンの香りも昇りゆくエレベーターの箱の形に
2009年12月16日
コメント(0)
朝日歌壇 朝日新聞12月13日付より馬場あき子選瀬戸内市 児山たつ子すみませんすみませんといいながら人かきわけて老いてゆくなり佐世保市 近藤福代おもしろき言葉ありけり「山笑う」「膝笑う」庭のコスモス笑う ** 山笑う:枯木ばかりだった山に花が咲き揃うさまをいう、言い得て妙なる春の季語。ちなみに、漢字「咲」と「笑」は本来同義。「膝笑う」は、24時間テレビで120kmマラソンを走りきったイモトアヤコのヒザ状態。高野公彦選気仙沼市 畠山登美子霜消えて大根を干し、柿を干し、白菜を干す 雪虫が飛ぶ松山市 曽我部澄江つけくれし廊下の隅の豆球を夜ごとにつけて亡き夫つまに逢う永田和宏選東京都 内藤麻夕子母だってなりたいだろう孫馬鹿と叔母を笑いし心の奥は ** 一読して、意味不明とまではいわないが、非常に意味が取りづらい難解晦渋な一首だと思った。キーワードは「孫馬鹿」である。こんな言葉があるはずがないと勝手に思い込んでいたので、ワケが分からず暗中模索だったのだが、JiM*NYさんのコメントで、「親バカ」に準(なぞら)えた「孫バカ」だと分かって、やっと一首の意味が解読できた。・・・思い込みって恐ろしいし、日本語って難しいとつくづく思う――作者から見て「叔母」すなわち母の妹を「孫バカ」だと母が笑った(嘲笑った?)が、母も内心(その「孫バカ」に)なりたいのだろうと、(子がいない?)作者が思っているということか。なるほど、そうして見ると、なかなか深い心理を抉った作品かも知れない。
2009年12月13日
コメント(2)
大野城市 井出多佳子「そうですね」と答えるほかはなき会話 林檎も赤とは限らないのに【選者・小池光氏評】同感しているのではなくほかに言いようがないからそう言っている。話者と聞き手のおそろしいまでの深い断絶。リンゴは赤いとだけ思っている人。誰にも身に覚えがある。読売新聞7月20日付「読売歌壇」註日常生活でよくあることを捉えた、いわゆる「あるある」系の歌である。多少理屈っぽくはあるが、林檎の喩えが面白く、見事に決まっている。ちなみに、僕は青いまま成熟するリンゴの品種が大好きである。
2009年07月21日
コメント(0)
山形市 柏屋敏秋碁敵が石音もなく打った手は目から火の出る大逆転打【選者・小池光氏評】何事も決定的な一打はこのようにさりげなく、むしろ柔和な表情で成されるもの。大上段に振りかぶって渾身の力で振り下ろしたりするのは存外こわくない。読売新聞7月20日付「読売歌壇」註1句・2句目は「ごがたき」「せきおん」と読ませるのであろう。僕も囲碁を嗜むので、この愕然、憮然、顔面蒼白な気持ちは痛いほどよく分かる。また、その逆の「してやったり~」の有頂天も知っている。・・・これだから、碁は一度ハマったらやめられないと言われるのかもね~。作品自体もなかなか上手いが、歌人・小池光氏の選評が流石に的確で、身に沁みまくりです~
2009年07月20日
コメント(2)
下野しもつけ歌壇より 僕の好きな短歌 下野新聞(栃木)8月25日付星野清氏選検診に集つどふ農婦ら予診表を持つ手それぞれ日焼けしてをり真岡 橋本みち子炎天に牛の餌刈る山畑に湧き水汲みてひととき憩う酪農を継ぐと口には出さねども休日は孫も給餌して居り那須烏山 荒井キイ三歳の曾孫ひまごは園に馴れたるか話に友の名とみに増えたり塩谷 吉沢行子青葉風吹きくる畑に茄子を切るカナカナ蝉鳴く夕べとなりて宇都宮 青柳文子夕暮れに田への入水確かめんと儀式のごとく一葉を浮かす芳賀 藤沢久夫道草も出来ず児童ら付き添われ蓮華花咲く農道を行く鹿沼 矢野広* 難読と思われる字にルビを振りました。
2008年08月29日
コメント(0)
読売歌壇より 僕の好きな歌 読売新聞 8月25日付岡野弘彦氏選仏とも鬼ともなれず職退ひけり日焼の爺ぢいとなりて畑打つ御坊市 本田武【僕の寸評】人生の年輪にはかなわないね。「自分史」の末尾近くを彩る見事な作品。短歌ってまるで演歌ね熱心に啄木歌集見ていし子が言う佐世保市 近藤福代【僕の寸評】思わず哄笑してしまう。着眼点が抜群。この「短歌って」は、正確にいうと「啄木って」であろう。・・・だから僕は石川啄木が嫌いなのだもっとも、時系列的に言うと、演歌の作詞者たちの方が啄木的なものを摂取したというのが正しいだろうが。上手くて鋭い一首。小池光先生選ゴキブリは今ここにいる 問題はこの少し前どこにいたかだ川崎市 船山登【僕の寸評】軽妙にして奇妙な味がある名歌。何やら哲学味さえ湛えている。「ちよつと相談したいことが」と娘に言へば「離婚するの」と真顔に問ひぬ藤沢市 清島俊雄【僕の寸評】この娘は、テレビの見すぎではないか?それともそう問われるような深刻な状況が?・・・何かゾクッとくる異色作。観音経二千七十九文字の写経終わりぬ 夜が明けていた茨城県 木野内清太郎【僕の寸評】言葉遊び的面白さを感じさせつつ、爽やかな後味のある佳作。栗木京子氏選戦友の屍かばねを焼きし火の色とはじける薪まきの色を忘れず高岡市 北川俊雄【僕の寸評】戦時中、外地での出来事か。美しくも悲惨の極みの光景である。ただ、「薪の色」よりも「薪の音」の方がよかったのではないか。天上に得難き幸のあるごとく樹幹をのぼる蟻の一列篠山市 清水矢一俵万智氏選よく閉じるこの踏切や列車好きの孫の歓喜の途切れざる場所東大和市 板坂寿一【僕の寸評】交通は途切れるが、ワ~イワ~イは途切れない。実に微笑ましい歌である。ただ「踏切や」は、素直に「踏切は」でいいのではないか(俳句じゃないので)。君だけが充電されぬ表情のままケイタイをつかみ出てゆくさいたま市 中込有美【僕の寸評】ケイタイという、いかにもな小道具にからめて、「充電されぬ表情」、上手すぎ~。この一語の圧倒的な存在感。なお、個人的意見だが、短歌での表記は「ケータイ」では軽薄すぎるような気がする。この歌の「ケイタイ」は適切と感じる。足もとはいささか暗き盆踊浴衣の少女の白いスニーカー埼玉県 小林薫【僕の寸評】草履までは気が回らなかったか。浴衣と、未熟さの象徴スニーカーのミスマッチ。・・・可愛ゆいね~* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年08月27日
コメント(0)
日経歌壇より 僕の好きな歌 日本経済新聞 8月3日付岡井隆氏選あちらから来る若者は避よけるかな占いながら歩道を進む東京 小沼常子【僕の寸評】微苦笑を誘われる。こんなことあるあると思う。「占いながら」が面白い。なかなか思いつかない言い回しだ。果てしない宇宙の旅の遊星に子を生みたりし吾のあやしき山口 宮田ノブ子【僕の寸評】本当に妖しくて壮大な発想だ。連想させるイメージとしては、さながら映画「2001年宇宙の旅」の不可思議なラストシーンってところかな、こりゃ。ねじ花をのぼりつめ蟻は身を捩よぢるひき返すほかはないと知るまで東京 井上良子【僕の寸評】アリって愚直だなあ。融通の利かなさがもの悲しい。歌は写実だと思われるが、それ以上の含みが感じられる。穂村弘氏選生涯を雨にぬれずに終るのか家猫“たび”は窓を離れず東京 吉竹純【僕の寸評】猫を詠んでいるのか、自分の心象風景としての象徴的表現なのか、妙に身につまされる歌である。奥よりの燻れる風をとほしつつ土間ははがねのごとくに堅し横浜 石塚令子【僕の寸評】力強い。どことなく土俗的なものを漂わせつつ、男前な歌だ。「燻れる」は「けむれる」または「けぶれる」と読む。午前二時眠れぬ夜は焼酎の透明液を燈に翳かざしたり奈良 森秀人【僕の寸評】以上2首は、論理的意味を超えて美しい。* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年08月04日
コメント(2)
下野しもつけ歌壇より 僕の好きな短歌 下野新聞(栃木)7月28日付星野清氏選夕づきて雨になるらし早苗田さなへだの補植しをれば蟆子ぶゆおびただし真岡 橋本みち子【僕の寸評】上手すぎるほど上手い見事な作品だが、・・・やっぱり、地方紙歌壇は地味だな~との感想を禁じえないのも事実。ガラス戸に我が影見ればいつよりか窄すぼめたる身の貧しく歩む那須塩原 松本サキ【僕の寸評】ミスター・チルドレン「innocent world」(桜井和寿作詞)冒頭の歌詞を思い出した。類型的な発想だが、実感はある。洗濯物干しゐる吾の足もとに蟻の群れ追ふ二人のひこは塩谷 吉沢行子【僕の寸評】ほのぼの短歌の佳作。「ひこ」は、孫の雅語的表現、またはひ孫。シーソーもジャングルジムもなくなりて安全になった砂の公園那須塩原 那珂川喬科【僕の寸評】作者のシニカルなまなざしに同感。この「安全」は、いわばカッコ付き。冷ややかな皮肉が効いている。ある意味、文明病とも思う。*難読と思われる字にルビを振りました。
2008年07月30日
コメント(0)
山田雅巳(足利) 下野文芸前期賞(上半期)俳句部門下野新聞(栃木)7月28日付百五歳死を死に切りて桜散る酒蔵の屋号右読み初燕全身の麻痺を抱へて聴く初音ひきこもりやめて大根抜きに来よ* 山田氏は介護施設職員。自らも超未熟児として生まれ、20歳まで生きられないと宣告された病弱な少年だったという。「NHK俳壇」入選多数。作品には、真摯な人柄が滲み、情熱と繊細な感受性がみなぎり、圧倒的な力量と思う。初音:ウグイスなどの、その年に初めて聞く鳴き声。春の季語。
2008年07月30日
コメント(2)
読売歌壇より 僕の好きな歌 読売新聞 7月28日付岡野弘彦氏選存分に使ふ水さへ奢おごりとぞ思ふこころを嫁には強しひず茅ヶ崎市 若林禎子【僕の寸評】げにおぞましきは嫁と姑か。ここはぜひとも強いないでいただきたいものだ。敵意、殺意さえ生まれかねないと思う。職を得て家をはなれし子の部屋のカレンダーまだ三月のまま仙台市 亀卦川房【僕の寸評】うわ~、この寂寥感は本物だ~ 端正な佳作。小池光氏選結核に蝮まむしが効くといふ蛇屋ながく栄えてやめてしまひぬ八王子市 皆川芳彦【僕の寸評】蛇料理屋というものがかつてはあったらしい。台湾・広東には今なお多い。ちょっととぼけたユーモアと哀愁が感じられる一首。「栄ゆ」はヤ行の活用なので、連用形は「栄え」(「栄へ」ではない)。テーブルの真ん中に置く衝立ついたてが欲しいと夫つまは呟きにけり茂原市 中村多美子【僕の寸評】この「夫」の気持ちはよく分かる。・・・が、それ以上はこの際ノーコメントとしたい なお、「つま」は、もと「偶(配偶)」の意味で、文語文脈では「妻」「夫」の双方に用いる。「夫」と書いて「つま」と読ませることも、短歌表現では普通。栗木京子氏選雨あがりアガパンサスに蜂群れてデッサンする手に涼しき風よ豊中市 作田千恵子【僕の寸評】これはもう、一にも二にも「アガパンサス」という、僕などは見たことも聞いたこともない花の固有名詞が芯になっている。それを歌として上品に生かしきっている。その花を「デッサンする手に風」だなんて、ま~なんてお上品な~(笑)・・・その風になりたい健康な若さの匂う看護師を疎む日もあり雨降りつづく篠山市 清水矢一【僕の寸評】ここは「看護婦」としたいところだが、時代の趨勢で、まして新聞歌壇では仕方があるまい。「匂う」は、古語としては「輝くように美しい」こと。嗅覚ではない。何事も信用できぬ国にいてそれでも手には国産をとる神戸市 塩谷涼子俵万智氏選白よりも青がよかった紫陽花もそういうことを思うのだろうか熊谷市 板倉愛子【僕の寸評】これは、面白さがじわじわ~っと来るね。何が言いたいのか今ひとつよく分からんような、すっとぼけた味がある。チョコボールの銀のくちばしつくるものではなく歌はこぼれでるもの和歌山市 助野貴美子【僕の寸評】名歌だと思う。おそれいりました。この連想はすごいわ。こう見えて「チョコボールの/銀のくちばし/つくるもの/ではなく歌は/こぼれでるもの」と、句またがりで韻律もほぼ合っている。森永チョコボールの金のくちばしの「当たり」が出て、「おもちゃの缶詰」をもらった感激をまざまざと思い出した。・・・中身が何だったのか、まるで記憶にないのが不思議。・・・あのチョコボールのスピード籤(くじ)は、まだやってるんだろうか?今ちょっとネット上で調べた結果、どうも今もやってるらしい。昔とくちばしの位置が変わって、上部になったらしいことも判明* 難読と思われる字に適宜ルビを振りました。
2008年07月29日
コメント(0)
日経歌壇より 僕の好きな歌 日本経済新聞 7月27日付岡井隆氏選自動ドアだけはいつでも歓迎し吾が存在を認めてくれる盛岡 藤原建一【僕の寸評】こういったいじましい、というか卑屈っぽいことを言う人は、現実にはあんまり好きじゃないが、歌としてはなかなか複雑な面白さを持っている。晴るる間も曇る日も部屋を風通り今年の梅雨は老おいにやさしも松戸 関根賢人【僕の寸評】そういえば、今年の梅雨は確かにそうだったかも知れない。短歌による実況中継。衆人の非難注がるるマスカラに存在賭けてをとめ子化粧けはふパリ 松浦のぶこ【僕の寸評】電車内などで化粧をする少女か。命短し恋せよ乙女。穂村弘氏選妻の仏茶碗の縁につくひと粒のご飯を舌で取りたり川口 菅野孝仁【僕の寸評】リアリティが底光りしている、なかなかの名歌と思う。ただ、上の句の字足らず破調は、「亡き(妻の)」か何かの書き忘れか、誤植か? また、「ご飯」は「飯(めし、いい)」の方がいいのではないか。水圧を分散させるためだったか縄文式土器のV底東京 松本秀三郎【僕の寸評】ああ、なるほどそうなのか、という論理そのものへの興味と、短歌表現としての掟破りな意外性がユーモアを醸し出している。紫陽花を鑑賞しつつ行く道の細き戸の奥老女の目あり横須賀 浜田節子【僕の寸評】単なる写実なのかも知れないが、ゾクっとさせる不気味な結末。・・・夏向きでいいかもしれない。モナリザは見返し美人とふと思ふ数限りなき視線に耐えて湖西 菅沼貞夫* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月27日
コメント(0)
下野しもつけ歌壇より 僕の好きな短歌 下野新聞(栃木)7月21日付* 地方紙、田舎新聞とあなどるなかれ。わが栃木の地元紙・下野新聞の歌壇は、けっこうレベル高い方じゃないかな~と日頃から思っている。全般的に見て、さすがに都会的・軽妙な発想に欠けるのはいかんともしがたいが、土の臭いのする秀歌力作が少なくない。長山園子氏選閉ざされし水車小屋の門口かどぐちに鉄則のごと山法師やまぼうし咲く鹿沼 沖遊【僕の寸評】恐れ入りました。短歌ってのはこう詠むのか~と、勉強になる。2句目「水車小屋の」の字足らず破調が、いかにも惜しい。工夫の余地あり。百面相する赤子の顔に血脈の面ざし見えてまた遠退とほのけり宇都宮 田巻千須【僕の寸評】赤ちゃんの巧まずしてくるくる変わる表情の中に、血を分けた(・・・あるいは、もうこの世にいない?)親族の面影が一瞬現われて消えた。お見事。たとふれば光の如き物なりき戦中戦後のゴッホの馬鈴薯真岡 細島裕次【僕の寸評】ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ「馬鈴薯を食べる人々」(1885)の絵に自分史を重ね合わせた重厚な作品。 老鶯ろうおうの縄張にある家にして朝昼夕のこゑ時報にす那須塩原 天空昇兵衛【僕の寸評】野生の小鳥もテリトリーを作る。この方の家は、どうやらその中にすっぽり入っているらしい。ほのぼのとした、とぼけたユーモアが楽しい。ジャズ・バーのベースのソロは梅雨深き地下のフロアを濃く弱く這ふ佐野 黒田嘉彦【僕の寸評】僕も個人的にドラムスやベースのリズム系の音が好きなので、何ともいえないワクワク感と梅雨時のアンニュイが上手くまとめられている。* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月25日
コメント(0)
読売歌壇より 僕の好きな歌 読売新聞 7月21日付岡野弘彦氏選おもかげのはるかになりし母なれど麦秋のころとなれば思ほゆ佐賀市 中島靖子【僕の寸評】平明にして端正な、正統派の佳作。巨匠・小津安二郎監督の映画の題名にもなっている「麦秋」(初夏)という言葉が、今は亡き母親への思慕と相俟って”セピア色”の抒情を醸し出している。活着のおそき植田を見守りて耐えよ耐えよとつぶやきているにかほ市 佐藤文雄【僕の寸評】「活着」は「かっちゃく」と読むのだろうか。農業(稲作)の専門用語なのだろう。早苗を植えた田に、無事な生育を祈る気持ちが見事に捉えられている。小池光氏選自然治癒できる女になりました虎尾草とらのおさげてぷうらりぷらり名古屋市 竹中美紀【僕の寸評】面白い。こういう巧まざるユーモア(・・・相当巧んでる?)、僕には絶対読めないのが悩み。「虎尾草とらのお」なんて言葉、なかなか思いつかないよね。わが「短歌人」総帥の小池先生も、たぶんお好きなタイプの歌である。帰宅して「あなた葱は」と言はれたりメモなどいらぬと言ひて出たのに東京都 森田厚【僕の寸評】僕も昨晩、近くのドラッグストアで「日東紅茶ティーバッグ」を買い忘れ、妻に嘆かれたばかりだ。微苦笑。(なお、ついでに申し添えれば「ティーパック」は誤り。「ティーバッグ」が正しいそうである。)電車内で男女の会話聞いてをり夫婦でないな楽しそうだもの【僕の寸評】理に落ちているが、面白いものは面白い。いわば現代狂歌。栗木京子氏選さびしさを詩歌によせて小夜のわれパン生地のごとふくらみており名古屋市 石黒清人【僕の寸評】上手いなあ。「さびしさ」なんていう月並な言葉を使う場合は、これほどまでに凝った発想と表現上の技巧を要するという好例のように思える。やっぱり、万葉時代とは違うわい・・・センチメンタルさを漂わせつつ、若干分かったような分からんような、軽い難解さもいい。難聴のわれは相手の顔を読む君はこんなに美人だったか千葉市 高梨満俵万智氏選星青く輝き始め岩陰に野生のヤクは身を横たえる高崎市 門倉まさる【僕の寸評】割とさらりと詠んだような歌だが、僕は好きである。寒天の気分で行った同期会帰る頃には煮凝にこごりとなる豊中市 原拓【僕の寸評】あ~分かる分かるって感じ。僕は母校高校同窓会幹事なので、当日ともなればはじめから、いい意味でも悪い意味でも煮詰まった煮凝り状態になってるのだが、一般参加者(?)の気分はこんな感じであろう。軽い気分で参加して、最後は甘美なるグチャグチャ陶酔状態
2008年07月24日
コメント(0)
朝日歌壇より 僕の好きな歌 朝日新聞 7月21日付永田和宏氏選これだけを己れの量とわきまえて遠き水汲みビルマの少女宮城県 中松伴子【僕の寸評】内容・表現ともに端正な短歌である。ただ、「ミャンマー」を「ビルマ」と呼ぶのは「日本」を「ジャパン」というようなものである。「ビルマ」は英語であり、この地を植民地支配した英国が用いた呼称である。この表記を、昔ならともかく現時点で使うことは、明らかに一定の政治的主張を含んでいる。作者に他意はないかも知れないが、これを掲載した朝日新聞には、底意があるといわざるを得ない。なお「己」を「己れ」とする表記にも、かなりの違和感を覚える。送り仮名が過剰である。馬場あき子氏/高野公彦氏共選螽斯ぎすが食い蜘蛛も食いいる野苺を吾も食うなり畑帰りの道伊那市 小林勝幸【僕の寸評】旧かなづかいで読みたい緊密な一首だが、朝日新聞は旧かなづかいを(旧字体も)認めていない。非常に偏頗であると感じる。なお、螽斯ぎすは、きりぎりすの類い。白髪の子に鰤ぶり大根をじっくりと煮ふくめており死ぬまで母よ岐阜市 棚橋久子【僕の寸評】これをどう読むか?老いた子に夕餉を作るほのぼのとした母の愛か?僕には到底そうは思えない。ねちねちとした粘着性が心胆を寒からしめる、グロテスクな歌であると思う。しかし、これもまた日本文化のコアな感覚の一つである。最大限好意的に見れば、ブラックユーモアだろうか?この倅は白髪の歳になっても相変わらずマザーコンプレックスなのだろうか。野際陽子と「冬彦さん」の顔が浮かんだ。「じっくりと煮ふくめて」が見事。ホラー映画よりコワイ。・・・まあ、「じっくりと煮ふくめた鰤ぶり大根」は美味そうだと思うが。佐佐木幸綱氏選明るくていい子でしたとたちまちに過去形にされ死者は死を死ぬ八王子市 向井和美【僕の寸評】朝日歌壇は、読者層がそうなのだろうが、頭の中でこねくり回したようなインテリ観念的な歌が多い。どうもピンと来ないのが多い。この歌も好例であるが、その中ではまあまあ上出来な方か。高野公彦氏選地蔵川の清き流れに浮き沈み梅花藻の咲く醒さめが井の宿堺市 高島重数【僕の寸評】醒ヶ井は、滋賀県米原市醒井であり、「醒さめが井」の表記には違和感がある。朝日新聞は、「エリート的啓蒙意識」のつもりなのか、固有名詞の表記に無神経すぎないか。* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月22日
コメント(3)
読売歌壇より 僕の好きな歌 読売新聞 7月15日付岡野弘彦氏選ただ一度肩だきくれて征きし人敗れしのちをふたたびは見ず船橋市 峯川花子【僕の寸評】今年も8月が近づいてきた。消ゆるなき戦争の悲劇。思いの深さが伝わってくる。疎うとまれて生くる余生と思ひつつ苦き薬を眼つむりて飲む茅ヶ崎市 若林禎子【僕の寸評】夫はすでに鬼籍に入り、本人は病がち、鬼嫁には虐待され、頼りない倅は当てにならず、嫁に手なずけられた孫たちも「早く死ね」と言わんばかり。独りあわれな余生である(・・・勝手な想像をたくましゅうし過ぎか)。1000万部読売にぶちまける筆誅の歌か、山上憶良「貧窮問答歌」(万葉集892)の現代版か。小池光氏選ひと駅の僥倖なれどわが前に奇蹟の如き空席の生るる横浜市 水口信静【僕の寸評】サマージャンボ大当たり~ほどではないが、ちょっとラッキーな気分。ただ、「生るる(うまるる?あるる?)」は「生る」でいいのではないか。「旧約聖書・出エジプト記」の映画化「十戒(じっかい)」における、紅海が割れる「モーゼの奇蹟」のシーンも重ねているのだろう。常よりも酒の少なく帰る友病みゐる妻をさらりと言ひぬ八王子市 皆川芳彦【僕の寸評】あっ、こういう夫婦愛の発露もあったかと、さらりと感動。栗木京子氏選ばら園でばら色はどこと子に聞かれしばし戸惑ひあたり見回す横浜市 吉村晃一【僕の寸評】子供がしばしば無邪気に放つ根源的な質問。僕も先日、お風呂場で「どうして女の子はオマンチョで、男の子はオチンチンなの?」と聞かれて答えに窮した。一応「神様がそう決めたんだよ」と答えて納得してもらった(笑)ちなみに、薔薇色とは薄紅色のこと。「ラ・ヴィ・アン・ローズ」は「薔薇色の人生」。重要と書かれしファイルも焼き捨てて思ひ残さず職と縁切る高崎市 北爪蔵次【僕の寸評】凄い気魄、男の本懐。文語体・旧仮名遣いがビシっと決まった。こういうのは、詠もうと思って詠める歌じゃないよね。俵万智氏選桐の花を背に児とわれが写されるこの絵もやがて遠景とならん佐倉市 山本五美【僕の寸評】日本文化の本質としてよく指摘される「だんだんものがなくなってゆく」という、「もののあはれ」そのものの感覚が詠まれている。コワくて上手い。楽しみて朝朝のぞくさ庭べに親指ほどの茄子のなりたり東大阪市 山本隆【僕の寸評】1句目「楽しみて」が、いかにも不用意、凡庸、しろうと臭い。これを工夫すれば、正岡子規級のナチュラルな名歌になり得る。* 普段の「読売歌壇」は毎週月曜日掲載ですが、今週は14日(月)が新聞休刊日だったため、15日(火)の掲載となりました。* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月15日
コメント(4)
毎日歌壇より 僕の好きな短歌 毎日新聞 7月13日付河野裕子氏選茗荷みょうがの芽あまた出でたる庭の主「踏むな痛い」と書きて留守紀の川市 吉川建子【僕の寸評】これは事実だろうか?作者の創作だろうか?いずれにしても上手い。5句目、字足らずの破調は意図したものか?それとも初歩的ケアレスミスか?いずれにしても結果オーライ。加藤治郎氏選白球を追ふ少年ら叫びをり合唱させたいほどの美声で堺市 石井宏子【僕の寸評】少年野球の光景か。母性とユーモアが漂う。「二人っきりは嫌でしょ」なんて気を遣うきみのセリフに戸惑っている新潟市 吉川彩子【僕の寸評】優しさの発露ではあるが、聞かされる方はかえって迷惑なこういうセリフ、自信がない若い男は言いがちなんだよね。けっこう身につまされる。誰も彼もみな好き勝手言っているカピバラはただじっと見ている松戸市 原田由樹【僕の寸評】下2句のシニカルなユーモア漂う「じっと見ているカピバラ」のイメージ。まいりました。弱くなった弱くなったと言いながら前田部長に酔う気配なし相模原市 水野タケシ篠弘氏選罷やめてより音信なきを案じゐし後輩がけふの宴会に来つ東京 上田国博【僕の寸評】人生の哀歓、人情の機微。・・・もっとも、その後輩は何とも思ってなかったりしてね。伊藤一彦氏選父の声いまだこの世にあるごとく問へば応へぬわが耳底に枚方市 西山千鶴子【僕の寸評】すでに母を亡くしている僕としても、よく分かる感情である。端正で重厚な作品。麻痺残る足庇かばひつつ浜畑を打ち終へて見る沖の漁火いさりび京丹後市 浜岡芳朗* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月13日
コメント(2)
日経歌壇より 僕の好きな短歌 日本経済新聞 7月13日付岡井隆氏選いくたびも遠ざかりゆきぬそれなのに近づいてくる沈黙しじまの欅仙台 平野由美子【僕の寸言】謎めいた象徴的表現だが、分かる。僕にもこのケヤキがあるような気がする。ひよどりに毀こぼたれつづけ五度目なる巣づくり急ぐ燕悲しき和歌山 勝山佳子【僕の寸言】こういうことがあるのかと、はっとさせられる。まことに哀れ。写実(リアリズム)の佳作。銀行のATMの列の中悲しい顔の君を見つける京都 奥田順平【僕の寸言】こういうシチュエーション、あるあると思う。声をかけようか、どうしようか。・・・この「君」は同性だろうか、異性だろうか。穂村弘氏選水中の生きもの何の動くらむ水は浮葉をすべりて消えつ横浜 石塚令子【僕の寸言】繊細な観察眼がそのまま歌になったようだ。個人的には、1句目は「水底(みなぞこ)の」とでもしたい。翼生えても差し障りなき服と背中見て行く夕映えの街横須賀 丹羽利一【僕の寸言】面白い。日常の一齣の中の、ちょっとしたシュールな幻想。この夕映えの中に僕も身を置いてみたい。「翼生え/ても差し障り/なき服と」と句またがりだが、韻律も合っている。技あり。ガラ沢に足とられたり一瞬のくるり傾き虚空を掴む仙台 平野由美子【僕の寸言】この平野さんという方、ものすごい競争率の新聞歌壇で、同一日に2首掲載。並々ならぬ力量である。普通なら、「ガラ沢に足とられたる一瞬に」とするところだと思うが、この文法的な微妙なギクシャク(脱臼)感は、おそらく意図的か。「ガラ沢」という言葉が生きている。* 難読と思われる字に、適宜ルビを振りました。
2008年07月13日
コメント(2)
しもつけ歌壇より 僕の好きな短歌 下野しもつけ新聞(栃木)7月7日付星野清選草刈機に刈りたる草のふさぐ堀浚さらへば蛇が手元を掠かすむ夜水引く田に月光の明るくて懐中電灯使ふことなし真岡 橋本みち子久々に蔵の二階に野良着見ぬ老いたる母の手織りの布の塩谷 吉沢行子我とともに生き来し猫は二十歳草取る老いの傍らにねる小山 藤川孝【僕の寸評】きわめてハイレベルな大新聞の歌壇もいいが、地元紙の素朴な味わいの短歌も、これはこれで捨てがたい。読んでいてホッとする。橋本氏の一首目なども、非常に上手いとは思わないが、清冽な詩情を湛えている。
2008年07月08日
コメント(0)
読売歌壇より 僕の好きな短歌 読売新聞7月7日付朝刊岡野弘彦氏選母の日に子が買ひくれし服を着てまづ見せにきぬ夫の奥津城おくつき秦野市 深石ヒロ*奥津城おくつき:墓。 なお、「夫」は「つま」と読むのがいいか。【寸評】素直な詠みぶりながら、よく整えられた力作。感涙。重箱の蓋をあければ餅草の香りゆたけし早苗饗さなぶりの餅新潟市 山田彦徳【寸評】ゆかしい。玉手箱みたいだね~。さすが、米どころ新潟の作者。小池光氏選掃除機にいきなりボタン吸ひこまれカタカタカタと管のぼりゆく東京都 阿部洋子【寸評】こういうことって、あるあると思うよね。観察眼が光る。下2句の表現もユーモラスでナイス。のそのそと夕べの庭をよぎりゆく蛙よお前はどこへ行く気か茅ヶ崎市 水田芳文【寸評】素朴に面白いが、小池先生は「ガマ(蝦蟇)」の方がいいのではないかと示唆しておられる。同感。たたかひの肯定をして詠ひたりしにんげんとしての茂吉をおもふ市原市 井原茂明【寸評】短歌の巨人、斎藤茂吉の一生の不覚だった「戦争協力」を、人間的な視点から温かく照射した。間違いのない人間はいない。表現がなかなか凝っている。ただ、「詠ひ」は「詠み」でいいのではないか。我に見えぬもの見えるらし双眼鏡に春の海覗く少年の笑み坂東市 本間猛【寸評】なるほどな~と思う。なんか好きである。こういうのを読むと、海に近いところの人はいいな~と思う。字余りの破調がちとキツイが、まあ詩的許容、ご愛嬌かな。栗木京子氏選クコ昆布松の実くるみ掌てのひらに載せられ試食す鳥の気分で南あわじ市 山田恵子【寸評】デパートかスーパーの試食。可愛らしくて微笑を誘う。体丸ごと泣いているんだこの子らは「きんぎょのおはか」と大きく書いて米子市 植村ゆかり【寸評】こういうのは、詠めそうで詠めないよね。たくまざる秀歌。俵万智氏選畦道を行けばかなたの点ひとつこはれてふたつの蝶々となる佐倉市 小林雅典【寸評】ポエムだね~。イメージの愉悦。冷蔵庫のケースに卵立てておりチャイルド・シートにおさめるごとく池田市 今西幹子【寸評】とぼけたポエム。こんな比喩、なかなか思いつかないね。
2008年07月07日
コメント(2)
全20件 (20件中 1-20件目)
1