クッキーのおうち

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ないしょ話4

genkina-su



ないしょ話4

物静かなおばさんの話



 今回もちょっとまじめなお話。
 その女性は50代後半。ビルの清掃を仕事にしていました。
 糖尿病の教育入院と言って、食事療法のための栄養指導や、インシュリンという注射を毎日打たなくてはならないので、自分でできるよう訓練したり、ウォーキングなどの運動療法を自分でできるように練習したり。。。まあ、治療のための学校のようなことをするための入院をしたのです。
 その女性は、本当に物静かで、なんでも「はいはい」と素直に答えてくれました。その日、私は彼女の担当となり、入院中に勉強する様々なことをまとめたパンフレット(教科書ですよね。)を持って彼女のベッドサイドに行きました。案の定、「はい。はい。」と一つ一つうなずいて聞いてくれます。でも、なにかおかしかったのです。「あれ?わかってるのかな?」と説明しながら不安になってきました。でも、聞いてくれてるし、うなずいいてるからと、そのまま続けたのですが、やっぱりすっきりしません。
 最後に、「なんでも聞いてくださいね。何度聞いてもらってもいいんですよ。」と言ったところで、すべての疑問が解けました。
 「わたし、字、読めないから。。。。」
消え入りそうな声でした。私は、一瞬、なんのことかわからず、きょとんとしてしまいました。そして次の瞬間、『文盲』という言葉が浮かびました。まさか、この時代にこの日本で。。。。
 彼女は、名前と住所以外は書けないと恥ずかしそうに小さな声で打ち明けてくれました。お友達にも誰にも秘密にしていたことなのです。そういえば、外来に通っているときも、治療の説明をしても忘れてしまうという話を外来のナースが言っていました。何年も何年も通って来てくれていたのに、だれにも言えず、病気は悪化していってしまっていたのです。もっと早く気づいてあげられていたら。。という思いと、世の中のことをまだまだ知らなかったのだなということを思い知らされた出来事です。
 その後、彼女には、専用の、読める文字とイラストを使ったパンフレットを作り、時間をかけて自信がつくまで、様々なトレーニングをして、無事に退院し、毎日自分で注射できるようになったようです。
 それにしても、私には常識でも、世の中すべてには当てはまらない事がまだまだたくさんあるんだろうなと思います。この先、そんないろんなことにどれだけ出会うことでしょう。こういう出会いがあるのもナースの仕事の魅力の1つかもしれません。だって、こういう事でもなければ、真剣に、日本の文化や、教育のことなんか、ちょっと考えないもの。







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