月夜の塔


朝に弱いはずの私が朝日と共に目覚めるなど、苦笑するほどの物でしか無かったが、ヤケに朝日が明るく感じたのを覚えている。何故なのかは解らないが私は棺桶に入れられていた。別に死んだわけではないのに棺桶とは、縁起でもないと思ったのだが、体の何処を見ても老いて皺が寄っている箇所もなく、銃弾の穴も、ナイフの傷さえも無かった。
ごとん、と思い棺桶の蓋をどかし広い部屋を見わたす。
発見した窓から外を見ると、いつも見ていた空からの風景が広がった。どうやらここは最上階らしい。
朝起きたときのように軽く伸びをし、記憶をたぐり寄せる。が、何も思い出せない。
まず自分の名前。ユーリ。これは良く覚えている。歳は…何時からだったか数えるのを諦めたな。
家族、は居ないのだろうか。兄妹、親さえ?
では友人。沢山居た気もするが、一人だった気も・・・
一人・・・
そう、私は一人。
急に心臓が重量を増した気がした。
外では早起きの小鳥たちがさえずっているというのに、このすさまじい寂しさは何だ。
私は吸血鬼。不死身とも言われ、ちょっとやそっとの傷では死まで及ばない。
まして歳さえもとらないのから、いつまで経ってもご隠居という暮らしとは無縁だ。
食物とするモノは長年生物の血液とされていたが、ニンニクさえ入っていなければ、雑食、と言っても間違いは無いはずだ。
そして体中に溢れる魔力。
魔法はごく一般的に使われているのだが、吸血鬼の魔力は魔女、魔法使いに次いで高いと言われる
私は考えることを止めた。
思い出せない思い出したい事以外にも、思い出したくない思い出までもが飛び出してきそうだから。
とにかく私は仲間が欲しかった。
新しい仲間。
私が眠っている間にきっと外では長い年月が過ぎているはずだ。昔の私の知り合いは、きっと皆その寿命を終え、黄泉への旅に出たのだろう。
階段を一段一段踏みしめて歩く。
乾いた靴の音が寂しく響く。
耳に突き刺さる静寂。
何時までも止まらない心臓。
自分でそれに杭を突き刺すことは不可能。
ならば突き刺してくれる人を作ればいい。

私は少しずつ戻ってくる記憶を頼りにある一室のドアを開けた。
おびただしい数の輝石の並んだガラスケースが置いてあるその部屋には、ぴりぴりと肌で感じるほどの魔力が渦巻いている。
全てはこの部屋の魔石によって発された物。
私はケースの中から一番魔力の強い石をとりだした。
金色に光るその石は透き通った中に黒い線が一筋入っている。
私は歩き回り、今度は紅い石を取り出す。
それを持ってその部屋から出、今度は塔の最上階まで上がる。
私の寝台に二つの石を並べて置き、頭の中に人を想像する。
私が逝った後でも生活出来るように。
男性が良いだろう。女性に杭を打て、というのは少し酷だ。
整った顔。
蒼い肌。
髪も肌に合う藍色に。
後は人種。
私は吸血鬼だ。そして私はそれを後悔している。やはりある程度の寿命は必要だ。
だからこそこの強い魔石を選んだのだから。
妖怪、神出鬼没な明るい性格。
イタズラ好きで子供のような。
ならそれを実現させることの出来る能力。
透明人間に。
私は魔石に意識を集中させる。
先ほど思い描いた「彼」の姿、生活の様子などを魔石に注ぎ込む。
輝きだした二つの石は「彼」の瞳になる。
少しずつ出来上がっていく体。
白く長い布は彼の体を形作っていく。
ふわり、とその体が浮き上がると、瞳が閉じられた。完成だ。
私はその眠っている体に布団を掛けると、服を取りに自室へ戻った。



ボクは眼が覚めた。
ボク、って何なのか解らないけど、ボクはボクなんだ。
ボクがどんな形をしているのか知りたくて、動かせる部分を動かしてみる。
まず手。これは何故だかボクにも解る。これは手だ。五本の・・・指があって、爪があって。
次に足。これにも爪も指もついてる。
それから首。ここを動かすと頭が動く。
この頭に付いてるのが、髪。
サラサラしてて、肩まで伸びていて、ちょっと鬱陶しい。
ここまで考えて、ボクは“生まれた”ってことが解った。
そしてボクは“生きていく”ってことをする。
生まれた物は生きないといけないんだ。
何でボクがこんな事を知っているのか解らないけど。



私が塔の最上階の部屋の扉を開けると、「彼」は起きあがって手を動かして何かしていた。
「あ…」
初めて聴く「彼」の声。
驚いているような、不思議がっているような。
とまどいの混じった声は、素直で綺麗だ。
「眼が、覚めたのか。」
「誰?ボクと、そして君。」
忘れていたが、名前を付けてやらねば。
「私はユーリという。そしてお前の名前は・・・」
名前は・・・
考えていなかったため、言葉に詰まる。
名前というのは一生ついて回る物。
良い名を付けてやらねば失礼にあたるというモノだ。
「ボクの名前・・・無いの?」
落ち込む顔は見たくない。
「そんな顔をしないでくれ。お前には笑顔が似合うはずだが?」
「笑顔?笑うの?」
作り笑顔だったのかもしれない。
「彼」は笑った。
白い歯を見せて思いきり。
明るいその顔。暗いこの部屋が一気に照らされる様だ。
そして私は決めた。
「お前の名前が決まったぞ。」
その太陽のような笑顔。それこそお前に相応しい。
「お前の名前はスマイルだ。」

吸血鬼がまだ、ひとりぼっちだったときのお話。


END☆

2003・09・01
私の大切な友人である夏来由宇ちゃんが、メルに添えて送ってきてくれたモノです。『題名つけてw』なんて言われて少々混乱気味になったりとか、余りのユーリさんの妖艶な色気にあたったりとか(ぉぃ)色々有りましたが、とってもステキなモノを本当に有難うとしか…www(*^_^*)www有りがたいですww…でもこれが短編だとはどうしても思えない私。…つないでくれよ。(笑)

本当に有難う御座いましたwww(ぺこ。
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