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キム選手のジャンプの加点に男子でもつかなかった「2」がついたことについて、「流れがいいから」「男子並みだから」といった説明がされるのは、一般の人に質のよさをわかりやすく伝えたいからなのだろうけれど、実際にはGOE加点の要件は一見「客観的に」定められている。
1) 予想外の / 独創的な / 難しい入り
2) 明確ではっきりとしたステップ/フリー・スケーティング動作から直ちにジャンプに入る
3) 空中での姿勢変形 / ディレイド回転のジャンプ
4) 高さおよび距離が十分
5) (四肢を)十分に伸ばした着氷姿勢 / 独創的な出方
6) 入りから出までの流れが十分(ジャンプ・コンビネーション/シークェンスを含む)
7) 開始から終了まで無駄な力が全く無い
8) 音楽構造に要素が合っている
+1は、上の要件のうち 2 項目 に当てはまればよく、+2は 4 項目、 +3は6 項目またはそれ以上。
だが、よく読むとわかるように、「音楽との調和」など、かなりどうにでも判断できる要件も盛り込まれている。何にせよ、加点要件に当てはまるかどうかの判断は、結局は主観で決まるのだ。
キム選手のジャンプに「2」がついたのは、要は上の項目の4項目に当てはまると演技審判(おそらく全員)が判断した、というだけのことだ。ジャッジ団の総意があれば、こういう点が出てくる。
「キム選手のジャンプは飛距離があって流れがあるから加点が出るって聞きました。じゃ、真央ちゃんももっと遠くに跳んで着氷後に流れるようなジャンプをするようにすればいいのに!」などという短絡的な意見には、口がアングリとなってしまう。浅田選手のジャンプはああいう跳び方なのだ。高くあがり、細い軸で、クルクルッと速く回る。コーエン選手もこのタイプだった。抜群の高さと飛距離で滞空時間を稼いでトリプルアクセルを回っていた伊藤みどりと違い、浅田選手はコマのような速い回転力で回る選手。ああいったジャンプを跳ぶ選手は、リピンスキー選手もそうだったが、ローティーンのころはジャンプが得意でも、成長するにしたがって跳べなくなることが多い。浅田選手は19歳の今も、トリプルアクセルを跳んでいる。あの驚異的にすらりとした体形を保っているからこそだと思う。それだけで奇跡なのだ。
「加点要件」に当てはまるか当てはまらないかは、結局はジャッジの主観の問題。浅田選手だって、加点がつくように入り方を工夫するなど、対策を立てている。加点条件1つか2つに当てはめるためにジャンプそのものを作りかえるなど本末転倒な話だし、そもそも不可能だ(こんなアホな説明に、行を割きたくないわ、まったく)。
だが、直せる部分もあると思う。実際に、セカンドにつけるループは、ここにきてだいぶよくなってきた(本番では、心配したとおりの悪い結果になってしまったが。まあ、そういうこともあらぁな)。ルッツはやはり、矯正してほしいと思う。たとえワンシーズンを棒に振っても。トリプルアクセルを跳ばない世界女王・五輪女王は別に不思議ではないが、ルッツを跳ばない女王というのは、(突然のルール改正という汚いやり方はあったにせよ、それを割り引いても)やはり個人的には好ましくないと思っている。ルッツを跳んでこそトリプルアクセルが、トリプルアクセルを跳んでこそ4回転が、「水戸黄門の印籠」になる。
高橋選手のトリプルアクセルに、たとえば1.8点という加点がついたとしたら、それは上の要件の2から3項目にあてはまるから「1」、4から5項目に当てはまるから「2」とつけたジャッジがバラついて(もちろん、「0」にしたジャッジもいるかもしれないが)、計算上1.8点になった、ということ。
だから、「2」という加点が「妥当か・妥当でないか」などという議論も、まったく不毛なのだ。ただ、男子にすらつかない加点を、いきなり(たぶん全員の)ジャッジがこれだけたくさんのジャンプにつけてきたというのは、普通ではないことだと思う。加点というのは、だいたい格式の高い試合になればなるほど、抑制される傾向があったからだ。
加点要件が増えたとはいえ、男子のジャンプへの加点は昨シーズンと比べても、さほどついていない。むしろ、1点以下におさまるようにシーズン中の試合以上に抑制されているように見える。
だから、キム選手への加点には、そこになんらかの意識合わせがあったとは思うが、だからと言ってそれが不正とは言えない。シーズン中からキム選手のジャンプに対する加点は、昨シーズン以上に高くなっていたと思うし、今回のキム選手のジャンプは平均して、「2」を取るに値する高い質のものだったからこそ、そういう加点が出た、とも言える。それが納得できるかどうかは、またまた主観の問題になってしまう。
だが、「男子並みの流れがあるから、加点2がつく」「高さと距離が素晴らしいから、加点2がつく」という説明は、おかしいと思う。前者が要件の(6)番、後者が(4)番に当てはまることは事実だが、どんなに流れのスムースネスが際立っていても、また距離や高さが凄くても、そのこと自体では当てはまる要件の数は増えないからだ。
個人的には、ジャンプの質を判断するGOEは、基礎点をないがしろにするものであってはならないと思っている。だから、もう少しダブルアクセル以上のジャンプの加点・減点の反映割合を少なくするべきだ。そうすれば、ジャッジのさじ加減、もとい主観による判断で大きく点差が開くことはなくなる。
もちろん逆の考えもある。質のいいジャンプこそ、回転数が上のジャンプ以上の価値をもつというもの。キム選手に気前よく与えられる加点は、どちらかといえば、こちらの考えに沿ったものだと解釈もできる。もちろん、それもアリだと思う。だが、個人的には、2回転と3回転は、その考えで行ってもいいが、世界でも跳ぶ人の限られるトリプルアクセルと4回転に関しては、もっとそのジャンプの価値が評価されるべきだと思っている。現行のルールではむしろ逆で、2回転はどんなに質がよくても3回転以下の価値しかもたず、逆にトリプルアクセルや4回転はリスクが高すぎるものになってしまって、ちょっとでもミスるとやらなかったほうがマシというような点になる。「質」重視で行くにしても、現状のこの点はスポーツの精神に反していると思う。
ロスの世界選手権のあともそうだったが、キム選手の演技構成点が「発狂」したあと、辻褄を合わせるように、男子のほうでも、理解不能の花火が上がりだした。今、「男子につかないような加点がキム選手のGOEについた」ことが異常に見えても、男子のほうにも「2」がついてくれば、「異常が常態化し、異常ではなくなる」のだ。
加点に話を戻すと、高橋選手の単独トリプルアクセルや単独トリプルルッツ(特にショートの)などは、「2」がついてもおかしくない質のものだと思う(2、3、4、6に当てはまっていると思う。7を入れてもいいかもしれない。もちろん失敗しなければだが)。彼の欠点は連続ジャンプにしたときのセカンドのジャンプ。飛距離が出ず、小さくなりがちだ。
高橋選手の場合は、やはりジャンプミスをしないようにして技術点での減点をなくせば、世界トップに仕分けされた「表現力」と単独ジャンプやステップへの加点で、もっと点が出ると思う。五輪をみても、技術点で足を引っ張っているのは、明らかに4回転。
皆は、「高橋選手が4回転を決めれば、堂々とプルシェンコを破れる」と思っていると思う。それはそうだが、現状ではそれはかなり難しい。というか、今シーズン4回転に固執することで、高橋選手は点を失い続けているというのが本当のところだ。
シーズン中よりはよかったが、五輪でも後半体力がもたなかった(あれで笑顔で滑っていられるのが凄い・・・)。スケーティングで気になったのは、後半の3+3のジャンプに入る前の滑り。あそこで曲のテンポが速くなる。そこで得意のスムーズな加速で盛り上げて・・・と思ったところが、
アリッ?
いつものような気持ちのいいスケーティングの伸びがなく、音楽に遅れていた。スピードにのれなかったことが、連続ジャンプのミスを招いたと思う。高橋選手のジャンプミスは、今季常に4回転を入れることによる体力消耗とリンクしている。
キム選手への点数の与え方から見ても、「スケーティング技術」「ジャンプ」「表現力」に偏りや欠点の少ない高橋選手が非常に有利で、キム選手への加点を正当化しようとしてジャッジが男子にも「2」をつけるなら、その対象にまっさきになりそうなのは、やはり高橋選手の単独ジャンプではないかと思う。
<続く>
しかし・・・こんな個人ブログに1日12万件(1万2000ではなく、12万件・・・)のアクセスとは。みなさん、一体どこからいらっしゃるので?
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