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プルシェンコの演技構成点を落とせなかったのは、「研修DVD工作」に対するクレームを始めとする「ロシアからの圧力」があったせいだろう。ジャンプ中心なので「つなぎ」が悪いといっても、それで点を落とせるのは演技構成点の5つのコンポーネンツのうちの1つだけ(「つなぎのステップ」とNHKで言っているトランジションの部分)。観客はプルシェンコの演技に沸いていた。あれだけのエネルギーにあふれた演技を披露し、レベル認定にもさほどスキがなく、ジャンプも最高難度の大技を100%決める選手を他のコンポーネンツでは落としにくい。
このいかれた採点を一番に糾弾したのもプルシェンコ。ロシアも国をあげてプルシェンコを後押ししている。糾弾するにふさわしい演技をプルシェンコはしたと思う。
だが、男子シングルが終わったとき、日本で「金メダルにふさわしいのはプルシェンコ」と言い切った関係者やファンがいただろうか? どちらかというと、傲慢な絶対王者が負けたことで溜飲を下げた日本人が多かったと思う。
ところが、浅田選手がトリプルアクセル2つを決めてもキム選手ほどの点が出ないのを見て、またパニックを起こしている人がいる。だが、浅田選手にはルッツがないのだ(そしてサルコウも)。
トリプルアクセルがないから、4回転2度に頼らなければいけないランビーエル選手と同じなのだ。キム選手がフリーで2度入れる、セカンドが3回転の連続ジャンプもない。以前はあったセカンドの3ループが使えないから、基礎点でキム選手を圧倒することができなくなった。だったら、加点をもらえる(度重なるルール変更で、同じことをしていてもさらに加点がつくようになった)キム選手が、明らかに、はるかに有利だ。
ランビエール選手は4回転がきれいに決まらずメダルを逃した。浅田選手はきれいに決めてメダルを手にした。しかも、格下の試合でなかなか決まらなかった大技をここ一番で決めるとは、勝負師・浅田真央でなくてはできない芸当だ。後半にミスが出て、ジャンプの点を失い、全体の印象は下がってしまう結果になったが、失敗したら即座に台落ちになってしまう危険もあったのに、銀メダルを獲った。立派ではないか。だが、トリプルアクセルのことはいいにしても、そのほかのジャンプにほころびが見えるのは、採点のおかしさがどうのを脇においておいても、非常に気になるところだ。
鉄壁だったフリップもあやうくなっているように見える。連続ジャンプの偏り、ルッツ・サルコウ(ルッツが入れば、3Aのある浅田選手にサルコウはいらないかもしれないが)・セカンドの3トゥループがない(セカンドは何がなんでも3ループ、と固執するのは返ってマイナスだと思う。一般には簡単なはずのトゥループができなければ)・・・といった、今のジャンプ構成は、五輪仕様としては仕方のなかった部分もあるし、実際ルッツもセカンドの3回転もなしに、銀メダルまで来てしまうところが浅田真央の凄さだが、今シーズンが終わったら、順当な順番での課題克服に取り組んでほしい。エッジの矯正が並大抵でないことは、世界のトップ選手を見てもわかるから、ファンも「常勝・浅田真央」を求めて、一戦一戦での勝ち負けに一喜一憂せずに、長い眼で浅田選手を応援してあげてほしいし、Mizumizuのところに来るメールを読むと、ファンもそのあたりはもう十分にわかっているように思う。
何度も言うが、明らかに特定の選手に利するための偏ったルールと異常な採点を肯定するわけではない。だが、これだけ突っ込みどころ満載の異様なプロトコルを見ても、後付けの理屈をつけて、当の日本人が肯定しているようでは、選手もコーチもどうにもできないではないか。それは選手が抱える個人的な克服課題とはまた別の問題だ。以前にも指摘したが、加点がついたダブルアクセルが3段階上の3ループと同等の価値をもつなど、常識的に考えておかしいだろう。「すぐれた高さもしくは距離」ではなく「十分な高さと距離」で加点がつくというルール改正は、それはそれで表面的な理屈は通っている。だが、浅田選手のようなタイプのジャンプを跳ぶ選手には不利だし(つけられないわけではないと思う。それは解釈の問題)、飛距離が出にくいループに加点がつきにくくなるという傾向にも拍車がかかる。なぜこうした、明らかに意図的なルール改正を止められなかったのか。おめおめとルールの包囲網を作られ、「いや~、完全に負けました」「浅田真央は絶対ではなくなった」「選手はルールに対応しないと」などと言っているようでは、ソチでまたどんな包囲網を誰に作られるか、わかったものではない。
すでに書いたように、今回の五輪の女子の1位と2位については間違いがない。だが、昨シーズンのロス世界選手権以前だったら「ありえない」点差が、ここまで短期でつくようになった理由は何か、それについてまったく知りもしないのに、3Aを3度という世界の女子で誰もできない高難度の技を決めた浅田選手を日本人自身が評価してあげないのは、情けない話だと思う。
去年からますます、なりふりかまわず露骨になってきた、「浅田真央はキム・ヨナに勝てない」採点について、「流れはキム・ヨナ選手。(でも)トリプルアクセル2つ決めても勝てないなんて、おかしい」とまがりなりにもテレビで発言したのは伊藤みどりだけだ。
セカンドの3ループ。これは安藤選手を世界女王にしたジャンプであり、浅田選手がキム選手に基礎点で有利に立てる礎だったのだ。トップ選手でこれができるのは、安藤・浅田・フラット選手だけだった。それが「厳しいダウングレード判定」で使えなくなってしまった。ところが一般のファンにも「判定の不公平感」がバレてYou Tubeにさかんに「疑惑の判定」ビデオがアップされるようになると、肝心の五輪で急に全体のダウングレード判定を緩くし、「疑わしくは罰せず」にしてルールに詳しい(そしてダウングレード判定に眼を光らせている)ファンからの批判を最初から回避するとは、汚すぎる。
中野選手が世界選手権を辞退し、引退という報道にも、なんとも言えない寂しさを感じた。今回の五輪への鈴木選手派遣については間違いはなかったと思っている。だが、前回のトリノ五輪選考では、明らかにスポンサーの力学(表向きは昨シーズンを含めたポイント制)で、シーズン絶好調だったのに代表入りをさせてもらえなかった中野選手への理不尽な扱いは、忘れることができない。2季前の世界選手権では、ヨーロッパの観客がスタオベで演技を称えたのに、ダウングレードと「低め固定」の演技構成点で台にのれなかった(それについては、 こちらの記事 参照)。国内のショーやどうでもいいイベント試合には借り出され、まったく無意味なジャパン・オープンで亜脱臼のケガ。Mizumizuは常々、「国別」だの「オープン戦」など、意味のないイベント試合はすべきでないと主張してきたが、オリンピックを控えてのこの2つの無意味な試合は、明らかに日本選手にとって悪いほうに出てしまった。来季の世界選手権は東京、佐藤信夫コーチの殿堂入りのセレモニーもある。ずっと佐藤コーチを信じてついてきた中野選手がそこで有終の美を飾ってくれたら、こんなに嬉しいことはなかったのだが、本人がここで引退と決断したことなら、ファンとしては、「ゆかりん、長い間、ありがとう」としか言いようがない。
浅田選手に話を戻すと、今回の五輪の露骨に「仕分け最初にありき」の採点がどうあれ、間近に迫ったトリノの世界選手権に出るなら個人としてまだできることがあるはずだ。ここで気持ちを折らないようにすること。 個人的には、キム選手の「目を惹くポーズ」中心の躍動感に欠けるフリーよりも、浅田選手の荘厳なフリーのほうが、依然としてはるかに芸術性が高いと思っている。スピンやスパイラルは、さらに美しくなったと思うが、どうだろう? あの天に向かってすらりと伸びる脚のなんと華麗なこと!
以前、伊藤みどりが、「キム選手は、ポーズはカッコイイと思うんですけど、技術的に見るとちょっともの足りない」と本当のことをポロリと言ったことがあった。キム選手の表現力をバカ上げする今の風潮の中では、もうそういうホンネは誰も口に出せないかもしれないが、この伊藤みどりのキム・ヨナ評は本質をついていると思うし、キム選手は今も基本的に変わっていない。「妖艶」と「可憐」にパターン分けできるあの表現は、「一度見るだけならインパクトがあって楽しめる」アメリカ映画のようだが、どこか生気がない。一方の浅田選手の演技は、動作の中に華麗さがあり、見れば見るほど良さがわかってくる。
今季はとにかく、ロシア的な芸術性は徹底的に否定され、淡白でも伸びやかさのある滑りばかりが持ち上げられている。そのトレンドに合わなかったからと言って、Mizumizuは自分の眼で見て感じた審美性を、ジャッジの意味不明の「点差」を見て放棄するつもりは毛頭ない。
浅田選手は、気持ちの入った、ミスのない演技をすることだ。彼女にとっての完成でいいと思う。誰かに勝つためではなく、自分の「鐘」を完成させるために。ジャッジの「仕分け」が適切か適切じゃないかなどということは誰にも証明できないし、今さらどうにもできないが、自分でやれることがある限りは、やれることを精一杯やるべきだ。とにかく、音楽の世界に入ること。
フリーの最後、地の底からわきあがってくる何かを、天空に向かって解放するような、あの迫力あるポーズをもう一度見れられる、そう思うと、Mizumizuはまた心が躍ってくる。
そういう意味では、長洲選手が素晴らしかった。「誰がどういう点を出して、どういう演技をしようと関係ない。これは私のオリンピック」。名言ではないか。こういう図太さが日本選手にも必要だと思う。日本選手はいい子でいないとすぐ叩かれるものだから、自分を自ら殻に閉じ込めすぎるけらいがある。
Mizumizuは、日本女子はショートのジャンプをすべて鉄壁で行って欲しかったのだが、それができたのは日本女子では浅田選手だけだった。
五輪でのキム選手のジャンプの着氷は素晴らしかった。あのまとめ方ができた選手はほかにいない。キム選手の個人演技史の中でも最高の出来。ショートもフリーも完璧。微妙に回転不足気味のジャンプはあり、フリップもエッジが中立からややアウト気味だったと思うが、それらは些細なキズだ。もともとわずかな回転不足や中立気味のエッジなど、微小な微小な問題のはずだ。
<続く>
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