月下美人

月下美人

独裁



「この間松本さんがさ」

 執務室に戻る途中の渡り廊下で、不意に飛び込んできた副官の名に思わず足を止めた。
 中庭で、九番隊あたりの隊員だったか、名こそ記憶にないものの、見覚えくらいはある男性隊員らが話をしているのが目に入る。
 目を引く華やかな容姿に、松本が男性隊員の噂にのぼる事はさして珍しい事ではないのだが、それでも気になって足を止めてしまうのは既に俺の中で松本がただの副官以上になっているからに他ならない。
 盗み聞きは男らしくねぇな、と後ろ髪を引かれつつも歩き出そうとして。

「うちの檜佐木副隊長と逢引してたんだよ~!!」
 興奮気味に続いた男の言葉に凍りつく。
 ・・・・・逢引?
「嘘だろ!?」
「いや、ホント!俺2人が接吻してるの見ちまったもん」
 接吻・・・・だと!?
「うげぇ・・・俺松本さん狙ってたのに~」
「お前じゃ無理だって。でも、美男美女でお似合いだよなぁ~。くーっ、檜佐木さんが羨ましい!」
 男達は興奮した口調で尚も続けていたが、後半はもう頭には入っていかなかった。
 ただ、ただ苛立ちを煽るだけ。
 思わず強まった霊圧に、隊員らは日番谷の存在に気づき、逃げるようにしてその場を去って行くのをぼんやり見送った。

 どういう事だ?あいつ、特別な男はいないって言ってたはずだろ?
 しかも、なんであいつなんだよ!
 そりゃ、背は、俺より高いけどよ?顔も、まぁ、悪くない方かもしれねぇけど!年の頃も・・・合ってるじゃねぇか。
 ・・・くそう!勝てるの力だけかよ!!
 支離滅裂な怒りに身を任せながらずんずんと歩く。すれ違う死神らが怯えたように道をあけるが気にしない。
 執務室にたどり着いて戸を開くと、随分と平和な声がかけられた。
「あら、お帰りなさい、隊長」
 ソファで菓子をつまみながら振り返る姿に一瞬力が抜けるが、
 -----2人が接吻してるの見ちまったもん----
 不意に蘇った言葉に息苦しい感情が沸いてくる。
「お帰りなさいじゃねぇよ、仕事しろ、仕事」
「私の分は終わってますよ。あとは隊長印が必要なものだけですもの」
 そういって笑う松本の唇には少しだけ菓子のかすがついていた。
 この唇にあいつが触れたのか、そう思った瞬間、無意識に体が動いた。


 左手で松本の飴色の髪を引き、近づいた唇をぺろり、ひと舐めし次いで口付ける。
「ん・・・・っ!」
 驚きで一瞬開いた唇を割り舌をねじ込むと、松本の手が胸を押し逃れようと抵抗を始めるが、空いた右手を頭の後ろに回して逃げられないように固定しその唇と舌を味わった。
 菓子の甘さを舌で感じつつ、逃げようとする松本の舌を追い執拗に攻め立てると、次第に抵抗の力が弱まってゆく。
 初めて触れた唇はどんな極上の菓子より甘く。夢中で貪り、胸を押していた指先が力を失った頃、唇を解放した。
「いきなり・・・っなにを・・・するんですか・・・っ」
 切れ切れの息で抗議する松本の瞳は潤んでいて、顔は今までに見たことが無いくらいに赤く染まっている。
 こんな顔、他の奴にも見せたのかよ・・・・!
 熱さで、胸が焼き切れそうだ。
「あいつは良くて俺は駄目だってのかよ」
 苛立ちのあまり漏れた理不尽な言葉に松本の目が大きく見開かれた。
「あいつって?」
「檜佐木だよ!」
「修兵・・・?なんで修兵の名前がそこで出てくるんですか?」
 わけがわからないといった風に軽く首を傾げる姿に苛立ちはさらに募ってゆく。
「お前、檜佐木と接吻してたんだろ!」
「は・・・・?」
「は?じゃねぇよ。七番隊の奴らが噂してたぞ。檜佐木と逢引して、接吻してたってよ」
「・・・・・?」
 やけになって怒鳴ると、松本は暫く考えこむように視線を泳がせ、少しの間を置いて手を合わせた。
「隊長、それ勘違いです」
 責め立てる権利は無いのは承知で睨むと、松本は小さく笑った。
「修兵、なんだか妙なコに好かれちゃったみたいで、恋人の振りして一緒に出かけましたけど、別に接吻なんかしてませんよ」
「は・・・・?」
「別に放っておいても良かったんですけど。相手がいいトコの貴族とかで簡単に断れないって拝まれちゃって。酒樽ひとつで一日恋人役引き受けたんですよ」
 酒樽・・・?恋人役・・・?
 予想してなかった展開にぐるぐると単語だけが頭を駆け巡り、次第に体の力が抜けて行くのが判った。
「お前・・・なぁ・・・」
 そうか、違うのか。なんだよ、酒樽って。ちくしょう。
 思わず漏れた安堵の息に、松本の口元が嬉しそうに緩んだ。
「うふふ、もしかして隊長嫉妬さなったんですか?」
「ば・・・っ何言ってんだっ」
「じゃあ、なんでこんな事したんですか?隊長、まさか嫌がらせで女性に口づけするなんて人だったんですか?」
 さっきの潤んだ瞳はどこへいったのか。目を輝かせて次の言葉を待つ松本。
 これだから、こいつには適わない。
「松本・・・・」
「はい?」
 再び髪を指で捕らえ、まだ緩んだままの口元に、不意打ちの口付けを。
 ふるり、一瞬だけ触れる柔らかな感触と、掠める甘い吐息に、日番谷は心の中で白旗を振った。
「酒樽くらい俺がいくらでも買ってやるから」
「から・・・?」
「もう振りでも他の男のもんになるな。俺だけみてろ」


 俺を本気にさせたんだ。絶対離さねぇから、覚悟しろよ。




「駄文倉庫」夏樹さまのフリー配布をいただいて参りましたv
あまりの萌えで倒れそうです(>_<)
一舐めし・・・というのが、とても好き。
嫉妬する日番谷くん、いいですね。
年下の魅力全開。
こういうお話が書けたらいいな、と思うのですが。
精進して頑張ろうかな~




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