2008/12/29
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カテゴリ: 醸造所訪問
クリスマス直前の週末、プレゼント探しで賑わう市街地を抜け出して、ザールのヴァインホーフ・ヘレンベルクへ行って来た。2007年産ゼクトの御披露目試飲会とのことであった。

醸造所はザール川沿いの小さな集落ショーデンの中程にあり、見た目は普通の民家である。そこが醸造所であることを示す看板は一切無い。人目を避けるように裏庭に面した小さな試飲所が、かろうじて醸造所であることを示している。

マンフレッドとクラウディア・ロッホ夫妻は1992年に猫の額ほどの畑で趣味としてささやかに始めたワイン造は、のめりこむうちに評判が評判を呼び、やがて副業となり、現在は本業であった自動車整備工を辞め専業農家となった。所有する葡萄畑は約3haだが、来年はもう一区画増えるかもしれないという。葡萄品種は98%がリースリング、残りはミュラートゥルガウだが、後々リースリングに植え替えていくそうだ。平均収穫量は30~35hl/ha、2007年産は33hl/ha。ちなみにVDP加盟醸造所のエアステ・ラーゲの上限は50hl/haである。

Manfred Loch 2008
ザールの醸造家マンフレッド・ロッホ。

「本当は、もっと長期間瓶熟させたほうがいいんだけどね」と言いながら、マンフレッドは9ヶ月の瓶熟を経てリリースされたばかりの2007 リースリング・ゼクト・ブリュットをグラスに注いだ。原酒の持ち味がストレートに出ている、力強くクリアな酸味にミネラルのまっすぐなアクセントが効いた、マスキュランな発泡ワインであった。ちなみに、今回デゴルジュマンしたのは一部で、熟成を続けている残りは追々リリースしていくという。

それにしても、マンフレッドのワインは恐ろしくパワフルだ。ビオロジックで栽培した葡萄樹の生命力に、一房あたりの葉の数を出来るだけ増やすことで太陽のエネルギーが葡萄に思い切り凝縮して蓄積されたようなワインである。葡萄の果皮についてきた自然酵母を培養し、スターターとして接種し発酵するが、破砕した果粒を数時間放置してアロマと成分を抽出することはしない。果皮に含まれる苦みを嫌うのと「繊細に構築された澄んだ果実味と、ザールらしい酸味を持つスッキリとしたスタイル」を目指しているからだという。ステンレスタンクでゆっくりと低温発酵、生産年によるが約8割は辛口に仕上げる。

ショーデナー・ヘレンベルクのシーファーのストレートなミネラル感と明瞭な酸味の織りなす構造と力強さ、樹齢100歳というヴィルティンガー・シュランゲングラーベンの深みと滋味。素直で奥行きのあるアロマを持つ濃厚な果実味が見事なマンフレッドのワインを試飲するうちに、先日偶然収穫完了を祝っている所に出くわしたゴグレーヴェのワインを思い出した。二人ともワイン造りに魅せられて醸造家になり、どちらも自然酵母による発酵を行っている。ゴグレーヴェは伝統的な木樽で発酵する違いはあるが、それ以上に仕上がりには歴然とした差が存在し、マンフレッドの方が格段に素晴らしい。なぜだろうか。

「例えば、夜中にケラーでやり忘れたことを思い出したとする」と、マンフレッドは言う。「ベッドの中でちょっと考えて、まぁ明日やればいい、と思って寝てしまうのが普通だろう。一方、思い出したら片づけるまで眠れなくなってしまう醸造家もいるわけだ。私みたいにね。木樽を洗うにしても、洗い方でワインに差がでる。熱湯でなくちゃだめだ。そうしないと木肌の気孔が開かないから汚れが奥まで落ちない。それに少なくとも30分はゆすり続けてやらなくちゃだめだ。大変な重労働なんだけど、それを手を抜かないで徹底して出来るかどうかは人によりけりだね」

ワイン造りは畑から醸造に至る一年の作業の積み重ねであり、その一つ一つがワインの仕上がりに関わってくる。問題は最新のテクノロジーでも伝統でもなく、極めて平凡な日常の作業を徹底してやりぬくことが出来るかどうか。それが、優れたワインと凡庸なワインの差となって現れるのだと、私はマンフレッドの話を理解した。

彼のワインはそうやって造られたワインだ。職人気質のワインと言ってもいい。万人に好かれる味ではないかもしれないが、それで良いのである。ワインも人も、個性があるからこそ面白いのだから。

Weinhof Herrenberg
Hauptstrasse 80-82
54441 Schoden/ Saar
www.lochriesling.de





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Last updated  2008/12/30 09:51:42 AM
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