ミッドナイトドリーム

ミッドナイトドリーム

取引所の日々の泡風呂敷―PART7



部屋に来るなり、ミューが楽しそうに言う。

「生理になっちゃった。
 入れないよ。どうする?」

ミューは僕が『じゃあ口で』って言うだろうと期待満々。

「えーとね、ミューの股の間に挟んで貰って・・・」

僕を見つめるミューの表情が曇ってる。

ミューはこの所、
僕の物を口の中で行かせたいって思ってる。
でも、僕は口じゃ行かないタイプだし
ミューもあからさまにはやりたくないって考えてるし。
何より、ミューのその場所は
僕に取って、特別なものらしいし。

でも、今日は口実が有る。
ミューは思う存分出来る。
期待してわくわくしてたに違いないミュー。

「あんた、それでいいの?」

不満そうなミュー。満足そうに微笑んでる僕。

「本当にいいの?」

まるで小さな子が
値段の安いちゃちな色鉛筆を気に入ってしまい
母親がデラックスな奴を手にしながら聞いてるみたい。

「分かったわ。
 出来るようにして来る。
 汚れちゃうけどいい?」

微笑みながら僕は頷く。

ミューは盛んに生理を強調する。
「だから、負担をかけたくないの。
 出る寸前まで、お口でしてくれる?」

僕は頷く。

さあ、許可を取ったって、
いざその時に向けてミューの下準備の長い事、長い事。
僕はミューの口で延々とされてる。

そりゃ、無茶苦茶気持ちいい。
僕は全身をミューの心に包まれてるから、
ミューのイメージとミューの刺激が
ない交ぜになって僕に伝わってきてる。

ミューの刺激で僕が感じてる快感は
即座にミューにフィードバックして、
それがミューに次の刺激をイメージさせてる。
連綿と続く快感の波。
ミューの快感の海に浮かんでる僕。

ミューの存在その物が芸術的だから
ミューの創り出す快感も芸術的。

絶対間違いがないように
たっぷり過ぎるくらい、ふやけるくらい準備した後で、
ミューは喜び勇んで仕上げに掛かる。

でも、ミューが面食らってる。
やがて、ミューに打つ手がない。
何?これ。

永遠とも思える時間が過ぎた。
(ご存知、トリイの口癖)

僕の腰の上、ミューは頭を動かすことも出来ない。

ミューって遊び半分なら物凄いんだけど
マジな時はイマジネーションがまるで展開しなくなって
生真面目で素朴な乙女のよう。

遊び気分のミューにやられたら幾ら僕でもあっと言う間。
でも、ミューは僕を相手に
もう遊び気分になれないみたい。

僕はミューの魔法を是非もう一度、経験したい
と思ってるんだけど
もうミューは僕には魔法は使えないと思う。

あれはやんちゃなミューが男をたらすテクニック。
でも魔法を浴びせかけられてる時って
無茶苦茶、気持ちいい。そこは異次元の世界。

以前、一度魔法を見破られたミューが
女の意地をかけて、二度目の挑戦をしてきた。

術中にはまってくらくらしながら僕は、
感じてる快感の余りの凄さでミューの魔法に気づく。

口元に微笑を浮かべて
僕がたまらなそうに横を向いたとき、
今度も魔法は効かなかったと悟ったミューは
心底悔しそうに、とんと床を一つ踏む。

その瞬間、僕の体と僕の周りの空気を満たして
僕を閉じ込めてた官能の麻薬の霧が一瞬で晴れる。
快感を突然中断された切なさったらない。
泣きたいくらい。
出来ればあの麻薬の霧の中に、も一度身を晒してみたい。

幾ら口に入れてても、
さっきからミューの頭は動いてない。
僕はその時に移ろうとミューの頭に身を寄せる。

僕の気配にミューは慌てて顔を起こす。
ミューは焦って僕を見つめながら生理だからと言う。

ミューが僕の腰の横に顔を持ってくる。
生理の時はミューの口があそこなんだと
ミューは何度も言う。

「だから・・・」

ミューは僕の腰の横で口を開く。

-87-

横になった僕の腰の前にミューの頭。
僕はミューに言われるままミューの口の中を動いてる。

遠慮がちな僕。
ミューは盛んに僕に分からせようとしてる。

「ミューのお口はあそこなの。
 だから、あそこにするように。
 もっと激しく、もっと」

僕はミューに乗せられて
少しずつ、少しずつミューの思いに近づいてる。
動きながら僕は聞いてみる。

「ミューも気持ちいいの?」

「ええ、あなたが気持ちいいと思うと
 ミューもとっても気持ちいいの」

僕はゆったりと如何にもそこを突くように突いてみる。
ミューは僕の動きに大喜びして、
その時と同じように反応してる。

そうか、ミューがそうして欲しいなら。

僕は思い切ってミューの口をミューのそこだと考える。
それは即座にミューに伝わって
ミューは本当にされてるよう。

ミューは僕に誤解させようとしてる。
誤解した僕ならきっとミューの口に耐えられない、
ミューはそんな風に考えてる。その思考法、かなり無理。

僕は次第にイメージの中に入り込み
遠慮は捨てて激しく動いてる。
そんな僕に興奮しきってミューは艶やか。

ミューは期待でどきどきしながら
その時が来るのを待ってる。

やがて僕は、ミューの口がそこだと言うなら、
もっといい体位があると気づく。

「ちょっと体位を変えよう」

僕に口から抜かれてミューは大慌て。
ミューの口が必死で僕の物を追ってる。

僕はうつぶせになってミューの顔の上に腰を持ってく。
僕の意図が分かってミューが歓喜の声を上げてる。

僕は慎重にストロークを確かめてから動き始める。
ミューの喜び方が半端じゃない。

あれ?
ミューは気持ちいいんだ?
そうとしか考えられない。
だって、物凄く嬉しそうだもん。

僕の動きに合わせてミューは頭を振ってる。
僕の動きに合わせてミューの舌が大活躍してる。
僕は本当にしてるつもりになってて
僕の物が感じてる快感は凄いんだけど
ミューは一つ考え違いをしてる。

この格好だとミューの顔が見えない。
『夢ミュー病患者』の僕に取って
ミューの顔が見えないってのはね。

僕は時々快感に焦れて、
ミューの喉の入り口まで先を延ばしてそこに押し付ける。
大丈夫。ミューは平気。

僕達の最初の頃のミューは今よりずっと過激。
その時、仰向けに寝転んでミューの口でされてた僕は
ミューのとんでもない口使いにたまらず跳ね起きて
両手でミューの頭を満身の力で押さえてしまう。

ミューが苦しがってバタバタもがいても、
僕の物に快感がたまらなくて、
僕はとてもじゃないけどミューの頭を離せない。

やっと僕の力を振り払ったミューは暫く呼吸が出来ない。
それから、苦しそうなゼーゼーと言う息遣いになって
僕はとんでもない事をしちゃったと
苦しそうなミューの肩を済まなさ一杯で撫でてる。

ようやく話せるようになると
ミューは僕の方に顔を向ける。

ああ、怒られる。
僕は観念する。

ミューは柔らかく僕に身を寄せる。
ミューが僕の目を覗き込んでる。

「ねっ、お口でしてる時は
 女の子の頭を押さえちゃ駄目なの。
 じゃないと苦しくて、してあげられないの」

ミューの優しい声。

「だって、気持ちよくて我慢できない」

済まなそうに僕は答える。
僕の言葉にミューがにっこり微笑む。

『そりゃ、そうだ。
 この人にこんな事を言ってる私が馬鹿だった』
ミューがそう思ったのがはっきり分かる。

僕は焦れてミューの頭を弱々しく僕の物の方に押す。
ミューはそのまま僕の物に被さってく。

暫くしてミューが同じ事を始める。
余りの快感。何とか耐えようと必死の僕。

僕は自分にいい聞かす。
頭を押さえちゃいけない。
頭を押さえちゃいけない。
頭を押さえちゃ、いけないい!!

僕がミューの頭を押さえてた時間は
さっきよりずっと長い。
ミューのダメージもさっきよりずっと大きい。

でも、畳に両手を突いて苦しがってたミューは
息がなんとか整い始めると
何も言わずにそのまま僕の物に向う。

ミューの優しい口使い。
僕は何時あれが始まるかと警戒してる。
ミューは優しい口使いを続けた後、
苦しかった事なんて無かったように
柔らかく僕をミューの上に誘う。

ミューが喉を使ったのは分かってる。
その快感の凄さも分かってる。
でも、僕もミューもすぐにそんな事忘れちゃってる。

ある時期から、ミューの中に僕専用のミューが現れる。
このミューは僕から教わったこと以外は
なしにしようって考えてるらしい。

ミューの色んなテクニックが封印されて
僕専用のミューは僕のやり方だけを覚えてる。

もっとずっとエレガントでスマートなやり方を知ってても
ミューは僕らしいやり方を微笑みながら受け入れてる。

僕はミューの顔の上で動いてる。
ミューは大感激。
ミューのあげてる声のうれしそうな事。
ミューの体は発情して、全身赤く染まってる。
ミューの体は汗まみれ。

そうか。
感度の良すぎるミューに取って
これはうれしい事なのかも。
感度の良すぎるミューは
すぐに訳が分からなくなっちゃう。
でも、これならミューは、
何時もはっきりした意識でいられる。

特にその瞬間を、しっかりと味わうことが出来る。

-88-

性描写に意味有るのかって?
その行為のあれやこれやに意味なんてない。

でも、その最中のやり取りで
お互いがどんな人間なのか理解できる。

他人と裸で触れ合って
快感を与え合ってるんだから
他のどんな行為より分かりが早い。

「あんたって、まともなんだね」
ミューがしみじみとそんな言葉を漏らしたのも
セックスがらみだし

『僕以外の男がこんな事をしたら、
 ミューは絶対、許さないだろうな』
って僕が感じたのもセックスがらみ。

それはセックスに限定されずに
やがて二人の関係の姿になってく。

この世には
ただ肉体の快感のみを追求するセックスもあれば
心の快感も追求するセックスもある。

ぷっ。
いや、連綿とセックス描写が続いてるから
苦しい言い訳。

んな訳で僕はうつ伏せでミューの顔の上に腰を置いて
ミューの口をミューのそこの様に突いてる。

ミューはとても喜んで情熱一杯。
ミューがそんなに喜んでくれるならと
僕は頑張ってるんだけど流石に疲れる。

僕は腰を持ち上げて一息入れる。
ミューは慌てて僕の腰に張り付いて
激しく頭を使ってる。

ミューの両腕はしっかり僕の腰を抱いて
ミューの声も動きも艶やか。

でも、ミューがこんなに一生懸命なのは
僕の為だけじゃない。
ミューの様子、まるでその最中に
上に引かれて動きを止められちゃった時みたい。

って、事は、ミューは口でもそこ並に感じてる?
多分。
じゃ、ミューは結構切ないよね、この中断。

「もっとして。もっとして。お願い、もっとして」
激しく頭を使いながらミューが言ってる。

はい、はい。

僕は少しずつ腰を落としてく。
僕の腰に張り付いてるミューは大喜び。
ミューの頭が布団に軟着陸すると
僕はストロークの長さを確かめて動き始める。

たちまち部屋一杯にミューの喜びの声。
快感そのものになって歓喜してるミュー。
ミューの口もそこ並みの感度があるなら
そのつもりでしてあげないと。

そんな僕の動きに
ミューは益々、僕に口の中で行って欲しい。
そうなればミューには完璧。

僕は何度も腰を上げて休む。
その度にミューが僕の腰に張り付いてる。
「もっと、もっと、お願い、お願い」

絶対、僕に口に出して欲しいミュー。
ミューはさっきから手応えを感じて益々情熱的。
あと少し。あと、もう、ちょっと。

ミューの観察は間違ってない。
僕は腰を上げると
僕の腰に張り付いて元気一杯のミューに向って言う。

「ミュー、もう出す」

「あっ、はい」

あんなに渇望してたのにミューは僕の一言で
あっさり目論見を捨てる。
ミューは素早く横たわって大歓迎で僕を迎える。

よっ、久し振り。
僕はお気に入りのミューの顔と対面してうれしい。
ハイ、元気してた?
ミューもうれしくてたまらなそう。

愛情一杯にミューを抱きしめて
愛情一杯にミューに注ぐ。
ミューは愛情まみれでのけぞってる。

注ぎ終わって僕はミューの中。
下からはミューの感激の言葉。

僕は微笑みながらミューから降りる。
次の瞬間、僕は慌ててミューに向って叫んでる。

「ちょっと待って!動かないで!」

血の滴り。
僕の視覚が捉えてる。

ホタッ。ポタッ。
僕の物が血まみれで血はそこから垂れてる。

「あっ、大丈夫、僕のからだ。
 君、大丈夫?」

心配そうな僕。

「私は平気」

僕の慌てぶりにぼんやりした感じで答えるミュー。

「君を傷つけたかと思って一瞬、焦った」

ミューは微笑を浮かべて
「お布団汚しちゃったね」と済まなそうに言う。

僕なら絶対こんな言葉は出ない。
だってさ、生理なのにやらせてやったんだから。

大満足の僕の胸に甘えてるミュー。
抱かれた後のミューは何時だって
すこぶる機嫌のいい赤ちゃんみたい。
ミューの大きな目が下から僕を見る。
ミューが甘えながら言う。

「もう、一個する?」
「うん」

僕の腰の横でちょこっと口を使って
ミューが言う。

「ねえ、あれして」

-89-

値動きに重さが感じられない。
僕は画面を眺めてるだけでほとんど手を出してない。
確実に獲れる状況を待ってそんな場所でだけ勝負してる。

不用意に打ってマイナスを出しちゃうと
それを取り返すのに
手数勝負の殴り合いを挑まないとならなくなる。

殴り合いを挑むのは勘弁。
一日終わるとぐったりする。

と言うより、最近値動きにときめかない。
値動き見てるよりミューの顔を見てた方が
ずっと人生、有意義って気がしてる。

フロアからミューとブラッディ・マリーが
並んで歩いてくる。
壮観。
美の共演だものね。

って、こいつ等、結構仲いいじゃん。
これならどうみても仲のいい姉妹。
二人ともオーラが凄いからどでかく見える。

ミュー一人だけだとミューのオーラは
柔らかな春の日差しのようなんだけど
横にブラッディ・マリーが居ると
ミューのオーラが影響を受けて硬質な感じ。

僕は慌てて値動きに集中してる振り。
二人はカウンターに腰掛ける。

「ちょっと、見習いトレーダーさん。
 私達、貴方の訳の分からない味のコーヒーを
 味わってみたかったりするんだけど」

ブラッディ・マリーが僕に振り向いて言う。

なんか、ちょっと敬遠したい気分。
でも、仕方ない。
僕は席を立ってカウンターに向う。
ミューが人払いをしてる。

二人は取引所のトップ会議から戻った所。
トップ会議と言うのは身内会議みたいなもので
爺さんとミューとブラッディ・マリーと
本当に身近な側近達と。

でも今回、新たなメンバーが加わったから
今までとはちょっと意味が違ってるらしい。

新しいメンバー?
うん、スクリュー・ドライバー。
例の元絵描きの卵。爺さんの新妻。

爺さん、手が速い。
膨大な富、溢れる教養、センスとユーモア。
おまけにミュー並みの魔法を使う。
女の子は皆、爺さんの手管にくらくら。
ブラッディ・マリー以外、
爺さんのお手つきだって考えといた方がいい。
爺さん、恭子にまで手を出してるんだから。

実質引退して、爺さん、名誉職に甘んじてたんだけど
若い妻を手に入れて、
も一度現場に復帰しようなんて考えてるらしい。

爺さんはリュー、
つまり元絵描きの卵で今爺さんの嫁さんを
取引所の機能に組み込もうとしてる。

安定して機能してる所に
必然性のない新しいものを加えようって言うんだから
波風は立つ。

例の『ミューの打ち方解析ソフト』も
それを見越して爺さんが肝いりで開発させたもの。
ミューのソフトが有るなら多分ブラッデイ・マリーのも
アイスマンのも、太っちょサムのも有るだろう。

ああ、僕のはない。
断言できる。

いっそ、ソフトだけに仕事させたら?
いずれそんな日も来るかも。

外敵現るの気配に
ミューとブラッディ・マリーに団結心が目覚めてる。
って、二人はさほど脅威には感じてないらしいけど。

まあね。二人ほどの才能が有ればね。
この二人に組まれて新しい取引所を作られたりしたら
誰も刃向かえない。

仕事の事を考えてる二人に目の前に並ばれると
空気の壁に威圧される。
二人はルーブル美術館の柱の女の子達みたい。
ミューの顔つきもきりっとして神々しい。

僕は僕がこんな女の子を抱いてるなんて信じられない。
ミューがちらっと僕を見る。僕の見知らぬミュー。

あっ、立っちゃった。

ブラッディ・マリーがぷっと吹いて
手にしてたカップを受け皿に置く。
白地にピンクの花模様。多分、ヨーロッパの名品。

ミューが僕を見る。

「何とかならないの?」

僕はちょっと考えてみる。

「ならない」

「あんた、それしか考えられないの?」

僕はちょっと考えてみる。
ミューの言ってる意味とは違うけれど・・・。

「られない」

でも、ミューは別に怒ってない。


-90-

カウンターに「バトルつぶしの」ロイがやって来て
ブラッディ・マリーの横に座る。
つくづくいい男。感心する。
居るもんだよね、世の中には。い男がさ。
男の色気と言うより武闘派の匂いに近い。
心の芯がしっかりしてるんだろう。

プレイボーイと言うよりは一国の王子って感じ。
毎日修羅場を潜ってるから
自然とそんな雰囲気も身についてる。

普通なら気づく。
どう考えても僕がミューの男だって。
でも、ミューにいかれちまうと
そんな状況は全く目に入らない。
ロイはブラッディ・マリー越しにミューを見つめてる。

ミューのこの態度。
何時しか恋する乙女のロマン。

でも、僕が目の前にいるから
一度に一人の男の事しか考えられないミューのキャパが
パンクしてる。
ミューはしどろもどろで
どうしていいか分からなくなってる。

ブラッディ・マリーが僕に向って
やれやれと言う顔をしてみせる。

さっきまでブラッディ・マリーのミューに対する態度は
こんな頼りになる相棒はいないって感じだったのに
今は完全無欠の相棒の致命的欠陥を思い出してる。

♪尻軽女。

カウンターの後ろの壁に取り付けられた
スピーカーでさえ声高に歌ってるのに
ミューには聞こえてない。

いや聞こえてるんだけどミューの頭脳の音声解析回路が
その事に関しては一時保留状態になってる。

ブラッディ・マリーとロイは持ち場に帰り
ミューも中の部屋。

カウンターにはニコ。
ミューに似てる子だからニコ。
ニコはめぐみと同じようにミューに惚れてる。
スカートを捲くったら太股に
『ミュー命』とか書いて有りそう。
マジックで。

ニコはミューに絶対の忠誠心があるんだけど
なんせミューに似てるから
ミューと同じ欠点も持ち合わせてる。

だからミューは僕とニコを
二人っきりにさせたりはしなかったんだけど
今日のミューは思考力が鈍ってる。

はて、ミューは中の部屋に居るんだろうか?
ロイは持ち場で仕事をしてるんだろうか?

調べることは簡単なんだけど
調べたところで仕方ない。

僕はトシのグループにちょっと顔を出してから
取引所を後にする。
トシは順調に資産を増やしてる。
あと、二十億。
あっと言う間さ。

このまま白い壁の前で
日向ぼっこなんて出来る気分じゃない。
心の何処かが空疎なのさ。

窮鼠猫を噛む。
空疎過去を食む。

♪アイ・ウアズ・ドリーミング・オブ・ザ・パスト
♪アイム・ジャスト・ア・ジエラウスガイ

嫉妬。
アラン・ロブグリエ。

女の子が二人道路に立って僕を見てる。
僕は彼女達に近づいて中の一人に聞いてみる。

「もしかして、君、去年、
 マリエンバードにいなかった?」

「いいえ」

「じゃ、じゃ君。
 君はデューク・エリントンに編曲されたことある?」

「いいえ。
 あのう、もしお時間をもらえるようなら・・・」

その時、後ろから荒い息遣い。
僕は振り向く。
恭子が駆けてくる。
僕は慌てて走り出す。

「まって。
 何で走るんですか?
 突然、消えられると、私、困るんです」

細い路地を駆け抜け、
視界を遮る洗濯物達の目くらましをすり抜け、
露天のアンちゃんは団扇で七輪を煽ってて
燃やしちまえばダイヤモンドはただの灰、
スタンドで牛乳とドーナツを買って
新聞紙の下に身を隠せば
王女はローマに出かけたそうな。


白い壁に寄りかかって、僕は日差しの中。
横で恭子の荒い息遣い。

道路には誰もいない。
僕は先生の言葉を思い出してる。

『夢からさめて戻ってきても
 昔なじみはもう居ない』

♪恋の炎が消えたとき。
♪君はしみじみ感じてる。
♪あああ、煙が目にしみる。

通りの角から、三人の姿が現れる。
空気を伝わって聞こえてくる聞き馴染んだ声。
たちまち目の前の道路は有機物に変化する。
僕の心が安堵する。
恭子は香を見て、これ以上運動は無理って感じてる。


僕の部屋。
ミューがにこにこしてると思ったら
僕の物を生で入れようとしてる。

ミューは部屋に入ってくるなりうれしそうに
「生理おわったよ」って、宣言したのに。

あの宣言は今ミューがしようとしてる事の前振り。
僕は慌ててる。

「だって、生じゃないともう我慢できないの」
「生だと、とても美味しいの」

ミューはそう言う問題じゃないのを分かってて言ってる。

「人に生の味を教えといて
 もう食べさせないなんて、そんなのひどい」

ミューに本気で甘えられると僕にはどうにもならない。
ミューは本気。
仕方ない。ここはミューの顔を立てるしかない。

「ああん、素敵。貴方大好き。愛してる。
 ミュー、貴方のこと本当に本当に愛してる」

生で入れて貰えてミューは大感激。

-91-

ミューはハイ。
ハイな時のミューは言葉が上ずってる。

ミューが「生で気持ちいいでしょ」って盛んに聞くけど
うーん、やはり僕にはその差が分からない。

「ミューはいいの?」
「凄い。最高」

やがて僕は行きたくなる。
何の気なしを装ってミューが言う。

「中でもいいよ」

僕は取り合わない。

「ねえ、中でいいのよ」

おいおいおいおい。

ミューは僕がうんって言うように
僕の目をじっと見つめ、心を込めて説得したいんだけど
僕に速く動かれてるから
感じるのに忙しくてそれ所じゃない。

結局、説得されないまま僕はフィニッシュを向える。

「ああん、中でえ」

「馬鹿言うな」

僕は引き抜き、それを失ったミューのそこはとても儚げで
僕はミューのお腹に出そうとして
それならもっといい場所があるって
ミューの乳房に擦り付けながらフィニッシュする。

「どうして中でしてくれないの?」

ミューは即座に僕の物を握り
素早く可能にしようと手を動かしながら怒ってる。

「どうしてって、お前な」

ミューの手管に掛かれば僕のものはあっと言う間。
入れる段になると、
又、生でしてくれってミューは大騒動。
まっ、しょうがない。

生の僕にひとしきり感激して、ミューは今度は
「中でして、中でして」
って、うるさい、うるさい。

ミューは何かを決意したんだろうけど
その決意は僕抜きでされたもので
この気持ちいいどさくさの中で
僕もミューと同じ決意しろと言われても。

ミューが余りにうるさいから
僕はミューを黙らせることにする。
何、簡単。
ミューは僕のが大好き。

ミューは僕の意図に気づいて慌ててるけど手遅れ。

「中で、あわわ、中、
 いや。やめて。ひどい。あなた、ひどい」

すぐにミューは可愛いミュー。
僕は気持ちよくてたまらなそうなミューを
少し速めに動きながら上から眺めてる。

これだけのめり込ませればもう大丈夫。
僕はペースを落とす。
たちまちうるさいミューの復活。

うわっ。
いい根性してる。
流石、「フロアのミュール」
無理やり快感の海に漬けられながら
ミューの意志はあえぎ声の下で反撃の機会を狙ってた。

なら、ミューの意志をくじいちゃおう。
そうすればミューは簡単に可愛くなる。

僕はミューの目を見ながら言う。
「ミュー、僕のに逆らう気?」

ミューは僕の言葉を相手にしない。
「中でして、あなた、お願いだから」

ミューは僕のに逆らう気らしい。
なら。

「中でして、お願いだから。
 中で、あああああ。
 いや、あなた、いや。
 いや、こんなのいや、ああああ」

ほら、逆らえない。
ミューはたちまち快感の海。

僕は念のためにミューを暫く
とても可愛いミューのままにして置く。

もう、いいだろう。
僕はペースを落とす。
その瞬間、ミューは上半身を跳ね起こす。

「中でして、お願い、愛してる、だから中で」

いい根性。
横たわったままだととても耐えられないって
ミューは上半身を起こしたんだけど
上半身を起こしたからって何とかなるもんでもない。

僕は生意気なミューに
ミューは僕のに逆らえないって
じっくりと、たっぷりと、あからさまに教えてやる。

ミューはどうにもならない。
ミューは何とか耐えようと必死の努力、努力、努力。
でも、努力すれば何とかなるってもんでもない。

とうとうミューは耐えられず
快感の海に仰向けに崩れて
大波小波に艶かしく弄ばれてる。

でも、ミューは根性娘。
僕が巡航速度に戻った途端、又、跳ね起きる。

「中で、中で、お願い、お願い」

よし、そっちがそうなら徹底的に教えてやるだけ。
二度と僕のに逆らおうなんて気が起きないように
徹底的に教えてあげる。

ミューは完璧に打ちのめされて
僕の物に全面的に白旗状態。
ミューは屈服してもう反旗を翻すなんて出来ない。

ミューが心の底から敗北を認めて
僕の物に体も心も開いたから僕はリズムを落とす。

このまま征服しちゃうと、
ミューは僕の物に今ほど素直じゃなくなる。
きっと何処かで、僕はミューの反発を食らう。

僕のペースダウンを感じてミューの体に喜びが走ってる。
勝った僕が負けたミューに勝ちを譲ったのがわかって
ミューはうれしくてたまらない。

「信じない。
 中でしてくれないなら、
 私のこと愛してるなんて信じない」

「中でしてやれば愛されてるって信じるんだな?」

「信じる。
 ミューなんでもする。
 あなたの為になんでもする」

僕から確約を取った後もミューは未だ半信半疑。
しょっちゅう僕に確認してくる。

「ああ、分かってる。
 いいから、ほら、もっとよろこべ」
僕はちょっと憮然としてる。

「よろこんでる。
 ミュー、こんなによろこんでる」

いざ、その時、思わずミューの両足が僕の腰に回ってる。
逃がさない。絶対、逃がさない。
僕の放出にミューは思いっきりの大感激。

終わった後、幸せでたまらなそうなミュー。
ミューは盛んに感激の言葉を溢れさせてる。
僕は微笑んでミューを眺めてる。

ミューが膝を立てて
両方の白い太股の裏側を僕に見せ付けてる。
その太股の付け根にはティッシュが二三枚、
ミューのその中には僕が放出したもの。

「幸せよ。
 こんな幸せ、女でなけりゃわからないわ」

ひとしきり幸せに酔ってるミュー。

突然、静かになったミュー。
僕は微笑みながら目を上げる。

そこに今までと打って変わって
淋しくてたまらなそうなミューを見つけて
僕はとても驚く。

なんでミューはこんなに淋しそうなんだろう?
淋しそうなミューが僕の視線に気づく。

「やだからね。
 もう、生じゃなきゃやだからね。
 生でしてもらえないなら
 もう、私、あんたに抱かれない」

僕は微笑んで頷く。

「えっ?!

 いいの?

 本当にいいの?」

淋しそうなミューが喜びで輝く。
あああ・・・、
ミューがハイになっちゃってる。
テンションが上がっちゃったミューはかなりうるさい。
機嫌が良すぎるちっちゃな女の子。

「愛してるの、大好きなの。
 ミューは貴方の事、大、大、大好き」

はい、はい。

-92-

ミューは自分に鎖をつけるつもりらしい。

ミューの中には
さまざまなタイプのミューが生息してて、
彼女達はミュー本体の固い決意なんて
都合でころっと忘れちゃう。

だからミューは何時も分身たちがとんでもない事を
やらかすんじゃないかって不安に思ってる。

もしミューに子供が居れば
いくら天真爛漫の分身たちでも
帰るべき場所を間違えたりしない。

何がきっかけで
ミューはそんな考えに至ったんだろう?

僕が好きで絶対別れたくないってしみじみ悟った?

それとも浮気して、
こんな事してたら何時か間違えをしでかすって考えた?

あるいは、浮気して避妊に失敗した?
これはない。

じゃ、ニューヨークの彼が帰国した?
なら、僕と彼のロシアンルーレット。
これかな?

分からない。
きっかけは何であれ、ミューは本気でこの先、
僕と一緒にやってきたいと考えてる。
なら僕には何も言う事はない。

何度も言うけど、隠さず言うけど、
僕の欲しいのはミュー。
それ以外の事はどうでもいい。

ミューの様な子と上手くやるには理屈じゃない。
とにかく傍にいること。
何時も傍に居た方が勝ち。

僕の部屋。
僕とミューは裸で寄り添ってる。
ミューは大きな海のよう。
ミューの柔らかな手が僕の髪を優しく撫でてる。

私は大満足なんだけど、貴方は不本意みたいね。
僕が一突きで行っちゃったから
ミューはそんな事を感じてる。
僕は柔らかくミューに微笑む。

「一体、何時になったら
 僕は君を行かせられるんだろう?」

「あら、すぐよ」

「そうかなあ?」

「そうよ。だって私も行かされたいんだから」

「君も行かされたいの?」

「ええ、行かされたいわ。
 貴方に行かされたくてたまんない。

 ねえ、貴方。貴方、全然弱くなんてない。
 私が幾ら口で行かそうとしても
 貴方、ビクともしないんだもの。

 その癖、私の中に入るともう我慢できない。
 私がちょっといい顔すると途端に貴方は行っちゃう。

 だからね、そう言う事じゃないの。
 私、最近、つくづく思うよ。
 私、処女だったら良かったのにって。

 私だけはこんな考えとは
 無縁の女だって思ってたのに」

ミューの言葉に嘘はない。
ただ、ミューの中には
色んなタイプのミューが生息してる。

本体に近いミューが心からしみじみ感じた事でも
色んなタイプのミューの分身たちに
切実に伝わってるとは限らない。

二人の話が途切れればやがて僕は
うっとりとミューの顔を眺めながら
ミューのそこを優しく愛撫してる。

猫にマタタビ。
ミューには僕の指使い。

さっきから深く蕩ける快感に全身を包まれて
濃密なオーラを溢れさせてたミューがふと、僕に言う。

「ねっ、乳首、噛んで」

僕はミューが
最適な快感環境に身を置いてるって確信出来てるから
これ以上不似合いな刺激なんて必要としてない。

「噛むの?
 痛いのはやだよ」

「大丈夫。軽くでいいの」

言われて、僕はミューの乳首を甘噛みする。

「ひーっ!!!」

ミューの体を下から上に電流がつっ走る。
ミューの体がきつく反り返る。
ミューのそこが僕の指をぴくぴく締め付けてる。

これ、面白いかもしれない。

僕は色んなバリエーションを考え出して楽しむ。

でも、すぐにやめる。
刺激が鋭利で排他的で
これじゃミューの柔らかな芸術性が台無し。

僕がなんで止めたかミューは分かってる。
ミューも僕専用のミューが一番気持ちいいって感じてる。

ミューが僕に乳首を噛ませた理由、僕には分かってる。
その最中にこうされたら、ミューは行っちゃう。

もし、どうしても私を行かせたいなら
貴方、こうしなさいってミューの提案。

ミューの提案が即座に却下されたのが
ミューは分かってる。

鋭利な刺激から開放されて
深く蕩ける柔らかなミューに戻った途端、
ミューがパニックになってる。

僕はミューの動きに呼応して
ミューを愛撫してる指の動きを強めてる。

ミューの腰が上がって、高い壁になる。
僕は壁の穴に激しく指を打ち込む。
すぐに僕の指に合わせてミューが強く腰を振る。

ミューの声が大きい。

ミューの腰がドスンと落ちる。
布団の上、ミューは失神してる。

ぴくりとも動かないミュー。
僕の指だけがミューの中で柔らかく動いてる。

やがて、途切れる直前と同じ艶やかなあえぎ声、
激しい動きが現実の世界に戻ってくる。

これなら、もう一度、出来るだろう。

ミューは全く同じように振舞って
同じように失神する。

次にミューが意識を取り戻したとき
僕は、これなら何度でも出来るだろうって感じてる。

そんな僕にミューはパニック。
ミューは僕を振りほどくと
慌てふためいて僕のものに突撃してる。

ミューの頭が延々と僕の物に動いてる。
僕は今日こそ、ミューを行かすんだと思ってる。

ミューは僕の物を何時までも口から離さない。
ミューが必死だから僕も譲歩を重ねる。
でも、もう、待てない。

逃げ腰のミューを僕は押さえ込む。
ミューは僕に行かされるのを恐れて
入れられる前からアップアップしてる。

「今日こそお前を行かせて上げる」

「いや、貴方、いや」

逞しく僕はミューを貫く。
ミューの上げた絶望の哀れな悲鳴。

突き入れられた僕の物を
何とか耐えようと必死で身構えてるミュー。

でも、ミューは何かおかしいって気づく。
ミューの体から逃げ出してたミューが
一瞬でミューの体に満ちる。

ミューが心と体で思いっきり僕に抱きつく。
苦笑いの僕にミューが下で情熱を溢れさせてる。

「貴方、愛してる。大好き」

ははは、ミューのそこには魔物がすんでる。

-93-

初めての快挙。
僕がとても満足そうだからミューは優しく微笑んでる。

「驚いた?」

「ううん。君に聞かされてたから」

「やじゃない?私が失神するの?」

「ううん、男に取ったら最高」

僕の言葉に嘘がないからミューは安心してうれしそう。

「今日は貴方の記念日ね」

僕は微笑みながら頷く。
下でミューの手が僕の指をそっと握る。

「私、指で行かされたの初めて。
 あんただけよ、私を指で行かせる事が出来るの」

「素敵だね」 僕は大満足。
「君は指じゃ行かないの?」

「うん。
 だから貴方に行かされたのはうれしいけど
 ちょっとひっかかる」

話しながら
ミューの指が無意識の内に僕の指を優しく扱いてる。

「どうして?」

「だって凄く淫乱だと思わない?
 指で行っちゃうなんて」

淫乱恐怖症のミュー。

「そんな事全然ないよ。
 指で行かす事が出来れば
 君を百回も二百回も行かせられる」

うれしそうな僕の言葉にミューが一瞬、変な顔をする。
僕ならやりかねない。ミューはそう感じてる。

微笑んで見詰め合って、
ミューが我慢できずに甘えてキスして
又、見詰め合って。

僕の顔に柔らかく微笑んでたミューが
にこにこしてる僕に見つめられてちょっと素になる。

「あんた、私を行かそうと思ってる」

「うん」

「まっま、待って。
 ちょっと待って」

「だめ」

「ねっね、あなた。
 ああん」

猫にマタタビ。
ミューには僕の指使い。

ミューはなんとか僕の指の邪魔をしようとするけど
マタタビに逆らえる猫なんていない。

ミューは気持ちよさに綿飴と蜂蜜の国をさまよってる。
♪シュガー、ハニハニ。

しかし、いざ行かされそうになると、
ミューの手がやって来て
僕の指に抵抗すること、抵抗すること。

僕は最初、『あれーっ、ご無体な』
って路線かと思ってたけどそうじゃない。
ミューは本気で嫌がってるらしい。

僕が思い通りにやるには
ミューを押さえ込まないとならない。
ミューを押さえ込んでると、僕は指が上手く使えない。

僕はシーラに無理やり算数の筆記テストをやらせてる
トリイの気分。

このミュー、ちょっと手に余る。
どうしたらいい?

僕はひらめく。
ミューの抵抗する指が邪魔なんだから
この指を利用すればいい。
僕はミューの指を掴むと
それでミューの中を可愛がり始める。

ミューが驚いて慌てて指を遠くに逃がす。
マゾの女の子ってとても恥ずかしがり屋さん。
ふふふ、これでミューのそこは僕の思いのまま。

ミューがも一度抵抗しようとするけど
大歓迎の僕に指を掴まれてミューは慌てて逃走。

「もう、欲しい。ミュー、貴方ので愛されたい」

このままだと行かされるしかないミューが
しきりに言ってる。

「ミュー、行ってから。
 逆らったんだから僕の思い通りに
 何度でも行かすからね。
 ほら、ミューにお尻振らせちゃう」

「いや、恥ずかしい」

「ほら、ミューは行っちゃう」

「やっ、だめ、あなた、うーん」

僕はミューが意識を取り戻した瞬間、
又、行かせにかかってる。
ミューは抵抗できずにあっと言う間。

次も同じシーンの繰り返し。

その次、意識を取り戻したミューは
慌てて僕のものを掴む。
それ掴んでも効果はないと思うけど。
ミューはあっと言う間。

その次、ミューは必死に僕の物を口にする。
それも効果ないと思うよ。
ミューはあっと言う間。

その次、ミューはもう欲しいと哀願してる。
僕は微笑みながらミューの目を見つめる。

「未だ、だめ」
「いや、あなた、だめ、ううーん」

その次、ミューはどうして
僕のでして貰えないのって聞く。

「未だ、ミュー、本気じゃない」
「本気よ、ミュー、本当に欲しいの、ああっ、ううーん」

その次、
「ミュー、本気なのに分かってくれない。
 ああっ、ううーん」

その次、
ミューの意識が回復するのに
少しずつ時間が掛かるようになってて
僕はちょっとぼんやりしてる。
そこを策士のミューに出し抜かれる。

それでも続ける意志満々の僕。
ミューは僕の手を握って、
僕の目をしっかり見つめて首を振る。

「愛してるの。
 こんな事しないで。
 もう、貴方が欲しいの。
 ミュー、貴方が欲しい」

ミューに目を見つめられて本気で言われたら
従うしかない。
僕は体から力を抜いて仰向けに横たわる。

「うれしい」
ミューが叫んで僕のに飛びつく。

長い。
ミューは僕の戦闘力を剥ぎ取ろうと必死。
僕はミューのやりたいようにさせてる。
これだけ行かせば
僕は充分責任は果たせてると思うから。
-94-

値動きは相変わらずイージーじゃない。
だから僕は気分が乗らない。
僕はずんだれて画面を眺めてる。

ミューのスカートが僕の横を通り過ぎる。
女のスカートの陰に隠れるのが大好きな僕としては
微妙にときめいて面映い。

ミューはちょっと行き過ぎてから
何か考え付いたように足を止めて
ふんわりと振り向く。

振り向いたミューの優しい笑顔。
小さく僕を手招きする。
「おいで」

ミューはすっかりお母さんのミュー。
この声の感じだと何かいい事、有るかもしれない。
僕は母親とお出かけする時の子供のように、
いそいそと席を立つ。

僕はミューと並んで歩いてるのが楽しい。
ミューが僕の恋人だなんて僕は未だ信じられない。
何時まで立っても慣れない僕。

ミューは何か気になることがあるみたい。
ミューの心は半分しか僕を見てない。

気楽な散歩のつもりで付き合ったけど
フロアの迷路を先に進むにつれて
どんどん警備が厳重になってる。
二人は機密の中心に向って進んでる。
そんな感じ。

で、機密の中心の金庫室みたいな部屋に居たのは
ブラッディ・マリー。

「小鳥ちゃん、連れ来ると思ったよ」
ブラッディ・マリーの爽快な声。

「ええ」
ミューは何か困ってる感じ。

すぐにミューの頼りなげな様子の原因が分かる。
ブラッディ・マリーは
値動き予測システムを完成させようとしてる。
それでミューにも検証して欲しい訳。

ミューはコンピューターのソフトと聞いて
すっかり混乱してる。
ミューの世界じゃ値動きと男の魅力以外は混沌としてる。
何が正しくて何が正しくないかなんて
ミューの興味の遥か彼方。

やがてミューとブラッティ・マリーは
シュミレーション画面を前に打ち始める。

「あっ、ここ」「あっ、ここも」
何だ、簡単じゃない。
ミューはそう気づいて生き生きしてる。

「ええ、そう。
 でも、ミスじゃないの。
 ミスじゃないんだけどもっとリアリティを求めるなら
 新しい次元を導入しないとならないと思うの。
 例えば緩やかな十次元が
 タイトな11次元とみなされるような。
 でも、あいにく私の手元には
 そんな計算式を立てられる頭脳がない」

ははあ、そう来ましたか?

「ええ、そうみたい」
ブラッディ・マリーがにやりと僕を見る。

もしかしたら琴美と先生にとってもプラスかも。
多分、二人が『時間と空間を否定する計算式』を編み出すには
今のままじゃ何かが足りない。

「で、二人の自由は保障されるの?」

「さあて、そこね。
 全く別な物だって信じさせるしかないわね。
 例えば時間の経過と共に変化する
 アメーバーの心の揺らぎとか」

取引所も変わってく。
僕はしみじみそんな事を感じてる。

ミューやブラッディ・マリーの時代が過ぎたら
誰も二人の代わりなんて勤められない。

後世の人たちはきっと
ルーブル美術館の柱の女の子達を眺めるように
ミューやブラッディ・マリーの彫刻を眺めるに違いない。

-95-

「リューがアトリエに来いって」

ダイヤモンド色のグラスに入った琥珀色の液体を
先っちょにルビーの球の付いたかき回し棒でかき回してる
ミューの横顔に僕は言う。

「あんた、そこ迄、鈍感?」

「いや、そうじゃなくて
 そろそろリューにも存在感を与えとかないと
 読み物としてまずいんじゃないかって
 気がしなくもなくて」

「読み物としてねえ。
 あんた作家なんだ?」

「いや。僕はそんなやくざな人間じゃない。
 あえて何かと聞かれるならトレーダー」

「トレーダー?」
ミューが顔を傾げて僕を見る。

「いや、間違えた。
 多分、ロックン・ローラー。
 ブッ、ブルースも歌う」

「そうなんだ?
 今度、聞かせて」

「僕は僕が歌うより、
 君に歌わせるほうがずっと好きだし
 君の可愛い歌声にはどんな女の子だってかなやしない」

「あら、あんたの歌う声も最高に可愛いよ。
 私うっとりしてじんじん痺れちゃう。
 ご免。
 こんな所で言う事じゃなかった」

「僕もご免」

「あら、いいの。
 私は女の子だから。
 ねっ、分かってると思うけど
 あんた浮気したらあんたのそれ、ちょん切るからね」

「うれしい」
僕は心に感じたそのままを素直に述べる。

「うれしい?
 まっ、いいか。
 私、あんたの事、甘やかし過ぎみたいね。
 出かけてもいいけどいい子にしてるのよ。
 それで出来るだけ早く帰って来てね」

んな訳で、僕はリューのアトリエに出かける。
僕の体の何処かに
小さな、小さな、小さなチップが埋め込まれてる。
それなしじゃフロアの海を泳ぐのは不可能。
たちまちセイレーンの怪しげな歌声に誘われて
フロアの外にはじき出されちゃう。

んな訳で、僕の正確な位置をリューは知ってる。
リューの豪勢なアトリエに僕は近づいてる。
ドアの三歩前、二歩前、一歩前。
僕はドアをノックしようとして
つい今までドアがあった空間をノックしてる。

別に悪くないよ。取引所のシステム。
前に居た教室と同じ位、悪くない。
ただ、飲み物の注文システムと
ノックしようとすると開いてるドアだけは
どうも戴けない。

アトリエに踏み入るとリューは白い絹のドレス。
ドレスと言うより一枚の美しい布。
その布を体に巧みに縛って、結んで、からげて
ドレスとして着てる。

バックミュージックは『青春の光と影』

リューはちょっと疲れた顔で僕を見てる。
あっと言う間に
リューは権力階級の人間の匂いを身につけてる。

「友の遠方より来るあり
 またよろこばしからずや」

リューが芝居じみて僕に手を差し出す。
僕は身をかがめてリューの手の甲に唇をつける。

誰も昔には帰れない。
リューの手の甲に唇を触れながら
僕はそんな事を感じてる。

でも、トシなら上手に下界に同化できるだろう。
その違いはなんだろう?

-96-

「貴方、確信犯?
 世の中の右も左も分からないおぼこ娘を
 あんな人に引き合わすなんて。
 しかも飛び切りの餌付けて」

リューの言葉に僕は考えてみる。

「今となればそうだったかも知れない。
 あの頃は僕も未だ状況が読めてなかったし
 爺さんに嫁さんが必要な状況でもなかったし
 爺さんがあんなに手当たり次第だとは
 予想外だったし」

「あの人、別館にセクシーな芸術家の卵達を囲ってるの。
 養育費も教育費も持って
 家じゃ、兎ちゃんの格好させて共同生活。
 その子達を雑誌にまで載せてご満悦。
 その癖、子供の時のブラッディ・マリーと
 モスコミュールにしか本気になれないの」

「まあね。
 ミューもブラッディ・マリーも爺さんの娘だから。
 しかし、僕がミューと結婚したら君は僕の母親。
 ブラッディ・マリーは僕の姉か妹だし」

「なんか迷惑そう」

「しがらみと言う単語が持ってる響きが少し気だるい。
 これじゃまるで同族会社。
 って、同族会社か」

リューが目だけで笑う。

「やはり貴方と話して良かった。
 貴方には下界の人のびんのほつれよ、
 じゃなくて、下界の人の匂いがしてる」

「君はもう下界には戻れないって嘆いてる」

「ええ、そうね。戻れない。
 私の中の何かが変わってしまった。
 もう、私には世界が同じようには見えないの」

「世界はそこに住んでる人の数だけの表情を持ってる」

「所で、私は貴方のいい母親になれそうかしら?」

リューが冗談を言う。
僕は首を振る。

「僕の母親はミュー。
 でも、子供が出来るまでだけどね。
 子供が出来たら子供に僕だけの場所を取られちゃう。
 それが分かってて僕達は子供を作ろうとしてる」


僕の部屋。
抱かれた後のミューはご機嫌で僕に寄り添ってる。
僕は聞いてみる。

「君、行くとき、分かる?」
「うん、分かる」

「じゃ、行きそうになったら合図してくれる?」
「なんて言えばいいの?」

「そうだね。愛してるって言ったら?」
言いながら僕は妙に恥ずかしい。
もしミューがそう言いながら行ったら
なんて素敵だろうって感じてる。

「うん、分かった。
 行きそうになったら愛してるって言う」

ミューが大きな目で恥ずかしそうに僕を見る。

「私、壊れちゃったのかな?
 あんなにほいほい行かされちゃって」

「どうして?
 素敵じゃない」

「ねえ、玩具みたいに私のこと抱かないで」

「抱いてないよ。
 何時でも僕はミューの事、可愛がってる」

「ねえ、貴方の指、
 今までに色んな女の子を狂わせたんでしょうね」

ミュー、本気。
ミューは本気で誘導尋問してる。
本気だとミューは哀れなくらいたどたどしい。
思わず僕は吹く。

「君だけだよ。
 それに、他の女の子には効果ないと思うよ」

「嘘、ばっかし。
 他の女の子はあんたの指に感じないって言うの?
 じゃなんで私があんなに感じるの?
 まさか、あんたの愛が
 指先から私の中に入って来るとでも言うの?」

「うん、そう」

分かりきった事と言う雰囲気の僕に
ミューが呆れ返って目を丸くしてる。

指でミューを行かす事が出来るようになったのは
とても素敵なんだけど
昔のミューは何でも僕のすることが大好きで
自分から進んで僕がしたいと思ってるように
動いたんだけど
今のミューは僕のしたいことに
一通り拗ねて見せないと収まらない。

でも、ミューの中に
僕の指を嫌がってるミューと
僕に助けを求めてるミューがいて
可愛いったらない。


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