娘のひらがなの作文を目にした日に、こんな記事が載っていました。
(日曜に想う)肩車の「凱旋将軍」見守りたい
編集委員・福島申二
2018
年 7
月 22
日 朝日新聞
二枚目俳優であるとともに、文は人なりを思わせる文章家でもあった。
加藤剛
さんの訃報を聞いて、8年前に頂戴した手紙を取り出して眺めた。
当時私は天声人語を担当していて、
ある日、加藤さんの随筆の一節を拝借してコラムを仕立てた。
掲載紙をお送りしたことへの、律義な返礼の手紙である。
話題は子どもへの虐待だった。
男の子が相次いで命を奪われた。
奈良の子は5歳なのに体重は6キロしかなかった。
埼玉の4歳は、水を飲ませてと哀願する声を近所の人が聞いていた。
胸のつぶれそうなコラムの中に、ともしびのように挿しはさんだのが、
加藤さんが幼いわが子を肩車する随筆の場面だった。
肩に乗って父親の額をしっかり押さえる小さな両手を、
加藤さんは「若木の枝で編んだ桂冠(けいかん)」とたとえていた。
その栄誉の桂冠を頭に戴いて、加藤さんは「凱旋将軍のごとく」誇らしげに歩むのである。
ごく短い描写ながら、子への情愛が文章からにじみ出してくる。
子にとってみれば、人から愛され大切にされた記憶が、
愛するという資質を耕すのだろうと感じたものだ。
虐待をしてしまう親は、自分もまた受けた愛情が薄かったという話を往々耳にする。
手紙をいただいて以来、痛ましい虐待のニュースに接するたびに、
ふと加藤さんの肩車が思い出された。
悲しいことに今年もまた、それは繰り返された。
*加藤剛さんを意識したのは、やはりこの映画です。
*
ひらがなはやさしい文字である。易しいうえに優しく、つづる言葉は角がとれて丸くなる。
そのひらがなを、これほど痛ましく読んだ経験はかつてない。
船戸結愛(ゆあ)さん(5)は、覚えたばかりのひらがなの文をノートに残して息絶えた。
親から悲惨な虐待を受け、まともな食事も与えられなかったという。
「 …… もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします …… 」
日ごろ凶悪事件を受け持つ 警視庁
捜査1課の幹部が、
記者発表でノートの一部を読み上げながら声を詰まらせた。
虐待されながらも親の愛情をただ求める、幼い必死な言葉が私たちを打ちのめす。
これまでも児童相談所や警察が虐待を認識しながら、
命を救えなかったケースは繰り返されてきた。
児童相談所は多忙が指摘され、
対応した虐待件数は一昨年度には全国で12万2千件と過去最多になった。
職員の疲弊は深い。
しかしながら脅かされる命の最後の守り手である。
仁王立ちのゴールキーパーの姿を、その仕事に重ねてみる。
「 どの社会にとっても、赤ん坊にミルクを与えることほど素晴らしい投資はない
」と
国民に呼びかけたのは英首相チャーチルだった。
その言葉を「社会で子どもを守り育てる」という意味に読み取りたい。
国も自治体も財布は苦しいが、増える虐待から子を守る体制拡充への十分な投資を、
惜しむときではない。
*
ひらがなの名前の詩人 まど・みちお
さんに「はっとする」という詩がある。
違法なゴミ捨て、大金ねこばば、下着泥棒、模範教師が 高山植物
盗掘 ……
新聞などでよく目にする、魔が差したような人間の過ちをまどさんは並べていく。
そして詩の最後をこう締めくくる。
ああ きりもなくはっとしては/ほっとする/よくもよくも俺のことではなかったなと
だれでも人間である以上、つい過ちをしてしまう危うさを内に抱えている。
虐待もその類いだろう。
ニュースに接して「よくも私ではなかったな」と自省の痛みを引く人もいるのではないか。
死に至る虐待は極端だが、無視する、暴言を吐いてしまう、衝動的にたたく、
それらはおそらく日々の育児と隣り合わせだ。
私たちの社会にも自省が要る。
結愛さんのひらがなには涙しつつ、子どもに向ける目はどうも不寛容だ。
子が泣けば周囲の不機嫌に親は縮こまり、遊び声さえ迷惑がられる。
そうやって親の ストレス
や孤立感はじわじわ嵩(かさ)を上げていく。
子育てという大仕事、もっと敬意を払われていい。
見守る。手を差しのべる。
加藤さんに倣って言えば、子どもという総体を社会で肩車できれば素晴らしい。
娘には手をあげた事はなかったですが、
息子にはそうではなかったことを反省する次第です。
単身赴任の時は、家内に任せっきりでした。
赴任先(四国、香港)など夏休みには、遊びに来ましたが。
反省パート2。
「
どの社会にとっても、赤ん坊にミルクを与えることほど素晴らしい投資はない
」と
国民に呼びかけたのは英首相チャーチルだった。
安倍首相は数か月前チャーチルの映画を見ていましたが、
こんなエピソードはご存知でしょうか。
酒盛りよりは防災、カジノよりは子育て支援です。
高級料亭通いはやめて、こども食堂に顔を出すような首相が登場しないものかと思います。
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