とりかへばや物語 その3



 子どもって、結婚したらおしゃべりしてるだけでできるもの……?
 んなはずないじゃない! じゃあ、一体、誰なのよ!
 て思ってたら、何だか友雅さんが怪しいんだ……。
 四の姫の話になると急に話逸らすし。つっこむとすっとぼけて逆につっこんでくるし。
 四の姫の様子も変なんだ。宮中の話とか、話して話してってせがむのに、友雅さんが出てくると、顔を真っ赤にして。一体どうしたっていうんだろう……。
 そしたら、ついにわかってしまった。証拠を見せられちゃった。
 月が満ちて赤ちゃんが産まれて、まあ、あり得ない話だけど形式上は私の子だから、祈祷とかいろいろして右大臣様と話を合わせてたんだけど、やっぱり、あり得ない話だから、喜び方が足りないって、それで、赤ちゃん抱かせたら実感わくんじゃないかって、抱かされたの。
 女の子だったんだけど、生まれたてなのに、友雅さんそっくりの顔! きれいなのには違いないから、きれいですねって、ほめれたし、でも、やっぱり怖かったりしてすぐに乳母に返しちゃったから、赤ちゃんに冷たいって思われちゃったみたい。ま、仕方ないよね。だって、私の子のはずないんだもん。
 生まれてすぐは、お祝いの宴会が続いて、赤ちゃんの血縁が幹事でほとんど2~3日おきにするんだけど、私が当番のとき、友雅さんは招待したのに来なかったの。具合が悪くてってお使いが来たから、じゃあ、お見舞いとかしなきゃなあって思って、とりあえず宴会は始めて。
 いろんな人が芸をして、それがすてきだと、ご褒美に自分の来てる衣をあげるのね。それで、気前よくいろいろあげちゃって、寒くなったから、姫のお部屋へ着替えに帰ったの。
 そしたら、御帳台から、大慌てで逃げてくみたいな背の高い人影が見えて、どこかでかいだ香の薫りが匂ったの。友雅さんご愛用の侍従の香の薫り。うっそー! と思って姫の側へ行ったら、姫は布団にぎゅんぎゅんにくるまってまるで隠れてるみたいで、そばに扇が落ちてたの。男持ちの蝙蝠だけど、私の持ち物じゃない。血の気の引く音がしたよ。ほんとに。手がふるえてきたけど、開いてみた。それで、わかっちゃったんだ。四の姫の相手は、友雅さん。赤ちゃんの父上も、友雅さん。私、どうしたらいい?
 友雅さんは、お兄さまみたいで優しくて頼りがいがあって、大好きなんだ。何で姫が友雅さんと知り合うことになったかはわからないけど、きっと、そういうとこに惹かれたんだと思う。女として、姫の気持ちは分かるし、責められないと思う。でも、夫として、ちょっと許せない。
 大好きな友雅さんとこんなことで仲違いはしたくない。どうしたらいいんだろう……。



永泉の君の語れる

 女東宮様は、とてもかわいい方でした。
 私と同様、ものすごい恥ずかしがりでいらして、限られた女房にしかお会いにならない。
 私も危うく目通りかなわないところだったのですが、
「私も恥ずかしくてたまらないのです……」
という一言が東宮様のお心をとらえたらしく、今ではお側去らずでお仕えしていますが……。
 罪を犯してしまいました。
 私は、東宮様を愛してしまったのです。
 愛しさがつのれば、男として出る態度は一つ。
 毎夜、東宮様と共に休んでいるうちに、私は耐えられなくなってしまいました。
 私たちの大好きな人形たちにそっくりの小さなかわいらしいお手を取り……
 柔らかくあたたかい唇に触れ……

 ……気づいたら、私と東宮様は一つになっていました。いったい、どうしたことでしょう。
 東宮様は、何もご存じない方ですから、私が犯した罪をお責めになるようなことはありません。むしろ、今まで以上に、私を慕ってくださいます。そのお心に応えなければ……お幸せにして、罪を償わなければ。

 私も、男だったのだと、気づきました。
 こんな生活をしていてはいけないのかもしれない。でも、今更、あかねの姫と交代して私が世に出る訳にもいかない。私たちは、それぞれの道を歩みだしてしまった。もう、手遅れなのでしょうか?
 あかねの姫が、女だとばれないように、祈っています。


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