とりかへばや物語 その4



 ばれちゃったわよ。
 友雅さんの眼はごまかせなかった。私も油断してたけど。
 あんまり暑いから、上着とか袿とか全部脱いじゃって、単衣と指貫だけで涼しい部屋で涼んでいたの。
 そしたら、そこへ友雅さんが遊びに来たの。四の姫のこととかあって、ちょっと気まずいんだけど、私は知らないことになってるし、友雅さんも話を逸らそうとするし、仲違いすると帝が心配したりするから、まあ、普通につきあってるわけ。
 でも、やっぱり、二人きりで顔つきあわせるのはいやだから、
「すごい格好してるので……」
って、几帳に隠れようとしたんだけど、
「こんなに暑いのはたまらないね。私も失礼して脱がせてもらうことにしよう」
とか言って直衣とか脱ぎはじめちゃうから、隠れられなくなっちゃった。
 涼しい床に二人で寝転がって……この辺は、私も油断したんだけど……おしゃべりしてるうちに、永泉の君の話になったの。私にそっくりなら美人だろうとか(うれしいわ♪)、一度声だけでも聞きたいとか、もう、相変わらずよ。その手とその声で、四の姫もたぶらかして。
 とか思って気がつくと、友雅さんの顔が私の上にあるのよ。
「ねえ、君が姫君の代わりになってくれないか。」
 え……? ちょっと、ちょっと待って、それって、やばくない? ばれちゃうじゃん、逃げなくちゃ、どうしよう!
「ごめんなさい、父上が呼んでるんだ、行かなくちゃ、すぐに」
 父上が呼んでることにして逃げようとしたけど、友雅さん、すごく思い詰めた顔をして、私を捕まえて放してくれなくて……上から押さえつけるみたいにして口づけして、肩から私の単衣を無理矢理脱がせて……胸が露わになっちゃった。もう、私、泣くしかなかった。だって、私、やっぱり女だもの。男の人の力にはかなわない。逃げるなんて、できないよ。
 さらしを巻いて、ふくらみが外にわからないようにしてたから、わかったときは、友雅さんもびっくりしたみたい。でも、その後、優しくしてくれた。四の姫にもこんな風にしたのかな……。なんだか、今まで男のなりをして突っ張ってた疲れが、全部ほぐされてとろとろととろけるみたいな気がして……。うん、元々嫌いじゃなかったし。もし、最初から女として会ってたら、きっと、もっと早くこうなってたと思う。だから、後悔はしてないよ。四の姫の気持ちもこれでよくわかった。こんなにまでとろかされてしまうんじゃあ、くせになるよね。わぁ、私、なんてこと言ってるんだろ。なんだかすっごく恥ずかしいじゃん。
 でも、こんなこと、二度とあっちゃいけない。友雅さんだから、お兄さまとも思ってた方だから、私の秘密を誰かに話すことは無いと思うし、鷹通さんにも黙っててくれるようにお願いしたからいいと思うんだけど、永泉の君に恋してる人って、けっこういるんだよね。その人たちがみんな、私に代わりになれって言わないとは限らないじゃない? これ以上ばれたら、私だけじゃない、父上まで破滅しちゃって、お家の一大事だわ。気をつけなくちゃ……



橘少将友雅の語れる

 あかねにはいつも驚かされる。
 四の姫の時も驚いたが、女の身では確かにどうにもしようがないね。愛染明王にはなれないよ。
 小さい頃から知ってるつもりだったのだが、まさか、姫君だったとはね。やはり、聞き間違いではなかったのだねえ……。でも、どこから見ても男の子だったからね。
 さあ、どうしたものだろう。
 あんまり意外だったから、私の心はもう、あかねでいっぱいになってしまった。あかね以外の姫など、顔も浮かばない。夜も昼も、あかねだけを見ていたい。昼間、公務をしているときなど、苦しくてたまらないよ。すぐそばにあかねがいるのに、抱きしめるどころか、手を取って口づけすることもできないのだから。あかねが帝と二人で話をしているときも、気が気じゃない。帝があかねの秘密に気づかれたら? きっと、今の私のように、おそばに引きつけてお離しにならないほどご寵愛なさるだろう。帝にあかねを取られてしまったら……! 私は生きていかれないよ。こんなに執着するなんて、私らしくない。自分でも自分をもてあましてしまうよ。これが、本当の恋なのだろうか?

 ところで、あかねの方が姫君だというなら、東宮の内侍の方が若君なのだろうかね。東宮がお側去らずにご寵愛だと聞くが、過ちなど犯していたりしてねえ……。私も、男と知らずにゆかしがっていたことになるね。あかねが自分の秘密を鷹通にも言ってくれるなというし、競争相手が増えることは私も望まないから、これは、私の胸一つにしまっておくことにしよう。

 四の姫と切れるわけにもいかないのだ。あかねが、四の姫を不幸にしてくれるなといって、逢瀬の機会をつくってしまうのでね。あかねの心はどこにあるのだろう……。私が想うほどには私のことを想ってくれていない、ということなのかな? 寂しいね。やはり、自分の力試さんとて、男姿で世に出てくる様な人だから、違うのだろうね。どこか、気丈というか、もっと私に頼りかかってくれても良いのじゃないかと思うのだが……。どうにも理解しがたいのだよ。あかねは何を考えているのだろう……。




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