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続「とりかへばや物語」時々「源氏」その2
友雅さんに見つかってしまった!
昼のおましに召されて、お話をしていたとき、友雅さんがいらしたの。
私、そっと席を外そうとしたのだけれど、
「中宮、二の宮のご様子はどうだね」
なんて、帝がお尋ねになるものだから、ご返事しないわけにはいかないじゃない?
御簾の外に聞こえないように小さい声でお返事したけれど、友雅さんにはわかったみたい。穴があくほど私の姿を見つめているのがわかったの。御簾って、外から中は見えないけど、中からは結構よく見える物なのよ。
扇で顔を隠して、御几帳の中に入ってしまって、その後は、どんなに帝がお話をふられても、身じろぎするくらいで勘弁していただいたわ。もう、お上も、私と友雅さんとのことはご存じのはずなのに。ひどい方。
今日、友雅さんから文が来たの。
何だかずいぶん何人もの手を経て届いたみたい。恋文みたいでなく、申し文みたいに、立て文に仕立ててあったけど、けっこうよれよれっぽかったの。 でも、中身は恋文。
逢いたいのですって。
そうよね。見つかったからには、いつかはそう言ってくると思ったわ。
久しぶりに見た友雅さんの筆跡……。若君の生まれた頃のことが思い出されて……。
でも、私、その文は燃やしてしまった。だって、これは、いけないことよ。私にも友雅さんにも、これは、破滅への道でしかないの。こんなこと、許しちゃいけない。二度と、文を届けさせないように、持ってきた女童にもよく言って聞かせなければ。
文が来たということは、本人が来る道もできあがったということよ。必ずやってくるわ。友雅さんだもの。
頼久にも言って、警固をより厳重にしてもらえるように。
どんな隙間も、友雅さんなら見つけて私の所にやってくる。
もし、来てしまったら、逢ってしまったら……。
私には、帝を裏切らない自信などないわ。
私が過ちを犯さないよう、頼久、守って……!
宇治の妹姫の語れる
私……失敗してしまったかも……。友雅様に……教えてしまった……。
中宮様がお宿下がりしてらっしゃること。
宇治から姉と共に京へ出て来ましたの。
姉の婿君となられた永泉様はとてもよくしてくださって、そのはからいで、橘中納言様とご縁ができましたの。中納言様は、宇治で大切な方をなくされたとかで、その宇治から来た姫、と、ゆかしく思ってくださって。
いつもなら中宮様は父上様のお屋敷の方にお里下がりなさるのですけれど、今回は、義兄上様が特にお願いをしてくださって、私どものお屋敷に里下がりしてくださったのです。おかげ様で、久しぶりに中宮様とおしゃべりができて、楽しく過ごしておりましたの。
はしゃいでいたのですわ。私。
分別がなさすぎました。
あんまり楽しかったので、中納言様にもお話ししてしまったのです。
お話ししたとき、中納言様のお顔色が、一瞬、変わった気がしました。
急にそわそわなさって、いつもならゆっくりして行かれるのに……。
いったい、どうなさったのかしら。急に帰ってしまわれた。
中宮様のお話をしてしまったからに違いないわ。
どうしてそうなるのかわからないけど、予感がするの。友雅様が、大きな過ちを起こされる。 だめよ、私、お停めしなくちゃ。
そちらの道は破滅への道! 私の予感を信じて、おやめになって!
どなたか、友雅様をとめて!
橘中納言友雅の語れる
もう、とめられないね。私は、走り出してしまった。
中宮様はお忍びでこちらにいらしたのだ。あかね、こんな機会、二度と作りはしないだろう? 今、逢わなければ、いつ逢えるというのだ。
「おやめください、友雅殿、お文だけというお約束でしたのに。」
命婦、 あなたは、私の気持ちを知っているはずだ。どきなさい、あなたに迷惑はかけないから。
お忍びだということで、警固もそれほど厳重ではない。以前、あかねに文を届けさせるために口説き落とした女房……籐命婦の所まではやすやすと入り込めた。あとは、あかねの部屋へ手引きさせるだけ……。
一度だけ、今宵一夜だけだよ、命婦。一夜、共に過ごせれば、今まで私が恋うていた気持ちに決着はつけられる。是非、お逢いしてお話し申し上げなければならないことがあるのだよ。さあ、通してくれまいか。私と中宮様の為に。
命婦はついに折れて、こっそりと、御帳台まで連れて行ってくれた。
私は、御帳台の中に滑り込んだ。
ああ、あかね! さがしたよ……どれほどさがし回ったことか。宇治川に身を投げたかと、もう、この世にはないものかと、私の心も世にないほどさがした。今、君を再びこの腕に抱けるなんて……。
あかねは私に気づいた。
「……友雅さん! どうして、ここに……」
喜んではくれないのかい? おびえているの? そんなにふるえて……
「罪です! 謀反ですわ。私は、今は……」
そんなこと、わかりすぎるほどわかっているよ。でも、私はあなたをさがし出さずにはいられなかった。そして、見つけてしまった。どれほど私が愛しているか、わかってはもらえないのだろうか。
あかねの目から涙があふれた。
「……私、いけなかったわ。私、待てなかった。四の姫のことは私が望んだことなのに、待てなかったの。もう少し待てば、あなたは戻ってきてくださったのかしら。信じられなかったの。私、友雅さんを疑ったの。ごめんなさい、許して……」
私も悪かったのだよ、あかね。もっと近いところにあなたを隠してあげられればよかったのだ。私たちは自然に抱き合っていた。久しぶりのあかねの手触り……今まで誰にも埋められなかった私の心の深い溝が埋められていくのを感じる。やはり、あかねでなければだめなのだよ。何故、私たちはこんなに隔たってしまったのか……。
情け容赦なく夜が明ける。放したくない。ずっとこのまま……
「いけません。お帰りになって。……もう、お目にかかりません……」
それは、君の心からのこと? それとも、帝への気兼ね? 体面? 私はもう、君さえあれば何もいらない。こんなに執着するなんて、以前の私なら考えられないだろう? 君が手に入るなら、身分も地位も名も、何もかも捨てられる。命さえも……。
でも、君がそれほど望むなら、今日は去ろう。君を困らせたくはないからね。 昔のように、「今宵また」と挨拶してもいいだろうか……?
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