つららの戯言

つららの戯言

見てみたら「荒神」





まずは脚本&演出から

 「中高生にも分かりやすい、ジュブナイルものを」という今回の趣旨。

 中島ものにしては、主人公及び、周りの登場人物の後ろに見え隠れする
影や因業、因果、そういった深みの部分は除去して、すっきりとした人間関係を作っている。

 主人公であるジンと彼を見守るものたち、ヒロインであるところのツナデ
と彼女を見守るものたち といった 少年期の人間と、かつでその時代を経た人間たちとの関係。

 ジンを見守るのは、壷という「規律」「規則」を教える役目のツボイ、
「強さ」「たくましさ」を教える役目のボラー。 今は亡きジンの父と親友である彼らが母となり父となりジンを時には厳しく、時には身をていしてまで彼を守る。

 ツナデを見守るのは、泥棒になりながらも育て上げた餅兵衛と、彼女の兄の新九郎。頼りなさげな彼らだけど、彼女を気にかけ、守り戦う。

 「頭の固い大人ばかりじゃないんだよ。あなたの周りにも、ツボイや、ボラー、新九郎や餅兵衛たちのように、あなたのことをちゃんと見ていてくれる大人たちがいるんだよ」 

 って中島さんはパンフレットでも言っていた。
 まぁ、とうの大人はそんな風になれなくて、じたばたしてるんですけどね。

 それと「信じる力」「信じてもらえるという力」
 ここらへんも、上の「見守る人がいる」ということに通じる部分があるんだけど、壷を手にしたことで振って沸いたような仲間だけれども、お互いを思い、感じあうことで団結して前に進むわけです。強い結びつきが「信じあえる」という結果を生む。

 その「信じる心」があるから、サラサーディーンは魔界地獄でも生きていける 「信じてもらえている」から、ジンは彼女の壷を探しの、ポイントカード達成の目標に向かって走っていけるわけです。

 なんかお尻がむず痒くなっちゃうようなことだけど、大人の方がこういうことは難しいかもしれません。

 脚本を読むと文字的には面白い趣向なものはあるんだけど、舞台化すると
わからないなぁといった部分があったのか、新感線の脚本本としては珍しいぐらいに大幅に演じられているものとは変わっている。

 ジンを魔界地獄から呼び出す方法や、サラサーディーンを吸い出そうと
思っている方法も。 ツボイさんの復活の場所も。

 それも「中高生に分かりやすい」という今回の目標からなんだろうなぁと。
いのうえさんに言わせれば

 「頭の固い芝居ばかりじゃないんだよ。面白い芝居だって一杯あるんだ」

 ってことなんじゃなかろうか。

 剛くんのファンだけじゃなくて、普通の中高生にも見てもらいたかったな。 学校で見る「演劇教室」というオモシロさのかけらもないような舞台を見るんだったら、こういう方が何倍も面白いし、芝居好きが増えるだろうに。

 キャストさんに関して。
 劇団員に関しては日記で散々書いているから、割愛。


 主役の森田くん

 最初にみた13日は彼のファンの悪態に、テンションは下がり、粗ばかりが目立った。
 腰の落ち着かない殺陣、一本調子の台詞回し、主役ながら目をひきつけるようなものがない華のなさ。そして彼の最大のネックの身長の低さ。舞台上でみる彼は非常にバランスが悪く見えた。
 でも、2週間後、2階席から見た彼はその時とは大きく変わっていた。確かに殺陣は腰の位置が高いのか、不安定な感じが見えるけどそれはジンの若さ、勢いという風に感じられるし、台詞回しにやっと感情の起伏が見えるようになってきた。
 彼に「ジン」という役が馴染んできたんだなぁと感じた。完全あて書きなんだからそりゃそうだろうけれど、初舞台の彼がちゃんとここまで作れたことは立派なんだと思う。あれだけ叫びっぱなしなのに、声もつぶすことなく東京を越えたのも。

 ただ、ものすごく、頬骨がくっきり出てしまうほどお痩せになってしまわれているようで、それじゃ今後、舞台に立つのは大変だよとお伝えしたい。今回は2時間という短い時間だけど、
 たいていの芝居だとあと30分、1時間はあるのだから 役者は身体が資本です。アイドルだってそうだろうけど、子供じゃないんだからしっかり自己管理をしてこれからも頑張っていただきたいものです。

 山口さやかさん


 彼女も公演中にぐんぐん伸びた。キャンキャンと犬のように騒ぎまくって、ウザイ印象だった彼女もジンがぐっと落ち着いてからは、彼を思う、信じる彼女の行動がなんか可愛らしくて。
 頼りない兄貴のお尻を叩きながらも、慕い合う兄妹。


 緒川たまきさん


 彼女も最初は、使い魔としての更紗姫と純真無垢なサラサーディーンの違いが不明確で分かりにくかったけど、サラサーディーンの思いをちゃんと受け止めてもらえるようになってからは、人間としての強さ、一途さとかが、一つ一つの少ない言葉から感じ取れる。
 大変声の綺麗な方なので、それだけで立派な武器だと思う。あの容姿と佇まいとあの声があれば、舞台じゃなくてもお呼びはかかりそうなものを。昔同じいのうえ演出で見た「広島~」とはまったくの別人のようだった。


 田辺さん

 悪くはないのです、ただほんとうに惜しむらくは川ちゃんの声とそっくりということ。
2人が並び台詞をいうと、台詞回しも似ているから本当にどちらがしゃべっているか分からない。
彼の屈折感とかが薄いのは、わざとなのだろうか?本当の意味の悪役であるべきの彼の役どころが思い人に心が届かない、受け入れられないという屈辱からということがその由縁なのかしら?
最後、「死」という形ではないのは、ジュブナイルだからなのかしら?「犯した罪は償う」という『規律、規則』をまっとうさせるという。
あの大きな背丈は団吾さんの衣装がとてもお似合い。舞台に映える。姫の白さと対極な感じで。


 客演陣が楽しんで演じているように感じられる舞台。ショートケーキのイチゴのように劇団員がベースをつくって客演陣がただの後乗せイチゴのようにお飾りのようになっていないのが今回の勝因だと思う。いのうえマジックなのか、それとも新感線という土壌なのか。
役者のおいしいところ、面白いところ、自分でさえ気が付いていなかった部分を引き出してくれる本当に奇特な演出家で劇団だ。


 最後のカーテンコール。思いのほかキャストが少なくて驚きます。あんだけ殺陣がいっぱいあって、舞台上で剣を交えることが多いのに。姫のシモベたちが何度も蘇るからかもしれませんが、登場人物が己のできる範囲で戦うからなんですよね。

 粟根さんが刀(サーベルぽっかですけど)を振り回すのは、とても久しぶりに見た気がします。アオは算盤ですしねぇ(笑) 

 それら全てを見ながら、自分は悪いチーム戦闘班隊長という川原さんには尊敬の念すら抱きます。



 なんだかんだで「荒神」という作品は最終的には好きな部類に入ります。
 適材適所な劇団員と、新感線初という方々ばかりなのにいいところにハマッタ客演陣 大人にはむず痒いけどまっすぐなテーマを持つ脚本、それを面白おかしくしながらもいつものごとく、いらぬところまで手を抜かない演出家とマイスターなスタッフの方々。


 得点 7点/10点満点中 こういうのもいいかなぁ。ジャニーズでなければもっといいかも。



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