なかちゃん@那覇の日々のくすりばこ

記憶に残るバレー名勝負

さて、記憶に残る選手のことを書いていくと、どうしても自分の記憶の中に鮮烈に残っている試合のことも書いてみたくなりました。そこで、記憶の糸をたどって、自分の心に残っている名勝負を振り返ってみたいと思います。

1.2時間半の死闘!春高バレー史上に残る名勝負、就実(岡山)vs博多女子商業(福岡)
 第8回春の高校バレーの決勝戦で対戦した両校、就実は当時の高校ナンバー1セッターといわれた金重千紗を中心にした、速攻・コンビバレーで勝ちあがってきた。対する博多女子商業は、岡松初栄、木下淑子、西川美代子という大型アタッカーを軸に勝ち上がってきた。第1セット、第2セットは、ここぞというところで博多の大型アタッカー陣が爆発し、接戦ながらも連取した。しかし、第3セット、博多の守りの乱れに乗じて、超高校級のスピードとうまさを兼ね備えた就実のコンビネーションが本領発揮、一気に12-0と引き離してこのセットを取ると、第4セットは6-4の接戦から、大黒柱・須藤圭子のスピード満点のクイックとブロックで一気に引き離した。
 そして迎えたファイナルセット、就実の猛攻はとどまるところを知らず、8-1まで引き離し、コートチェンジのあとも12-7とし、就実優勝の色は濃くなっていた。ところがそこから、博多の1年生エース・西川の強打が大爆発。じわりじわり追い上げ、ついに逆転。最後はキャプテン・岡松のセンターからの強打を就実が拾いきれず、ゲームセット。勝負がついた瞬間、解説を務めた前田豊さんが「あ~、かわいそうだ」と絶叫したほど。フルセットの熱戦に、フジテレビは放送時間を2度にわたって延長するほどのおまけがついた。ちなみにその年、就実はインターハイと国体を連覇しており、この大会をもし制していれば、単独チームとして史上初の年間3冠を達成していたのである。

2.郎平と広瀬のプレーにくぎ付け!ワールドカップ’81、日本vs中国
 前年のモスクワ五輪はソ連が優勝したものの、当時世界の3強と言われていた日本・中国・アメリカがボイコット。そのため、このワールドカップが事実上の世界一決定戦と言われていた。前日までの試合結果で、6戦全勝の中国を星1つの差で追いかけていた日本。セット率の関係で、もし日本が3-0か3-1で勝てば優勝、仮に3-0で負けても2位以上を確定していたため、文字通りの世界一決定戦となったわけである。
 日本は、大エース・白井貴子の引退後を支え続けた横山樹理をキャプテンに、世界ナンバー1の技巧派センター・江上由美、「小さな巨人」と言われた名セッター・小川かず子、これまた「世界一」と謳われたサウスポー・水原理枝子、そしてこのワールドカップで人気が沸騰したセンター・三屋裕子と芸術的なレシーブで人気が爆発していた小さなエース・広瀬美代子がスタメン。対する中国は、世界ナンバー1セッターと言われる孫晋芳をキャプテンに、美人の誉れ高い周暁蘭とブロックのいい陳亜諒の両センター、セッターもこなせるバイプレーヤー・陳招悌に抜群の技術とスピードを持ち、ロサンゼルス五輪ではキャプテンも務めた張蓉芳、そして女子バレー界にその名を残す大エース・郎平がスタメンを張った。
 第1セットと第2セットは、郎平の強打と「天安門の壁」と称された高いブロックが炸裂!日本はまったく試合をさせてもらえず、中国にあっさり世界大会初制覇を許してしまう。しかし、本当の戦いは第3セットからスタートした。広瀬のサーブが走る。そして、横山に代わってコートに立った期待の新星・杉山加代子が、日本選手最高の高い打点から豪快に強打を決めていった。それに刺激されるように、江上と水原が世界ナンバー1の技を披露すれば、負けじと三屋もファイティングスピリッツを見せた。郎平や張蓉芳の強打を、広瀬がまさに「神がかり的」なレシーブで拾いまくった。第3・第4セットを日本が奪い、試合はついにファイナルセットへもつれこんだ。
 超満員の大阪府立体育会館の大応援をバックに、最後の最後までガチンコ勝負を繰り広げた両チーム、先にマッチポイントを奪ったのは中国だったが、ここから日本は広瀬が獅子奮迅の大活躍!もう決まったと思われた強打を拾ったかと思えば、またもやサーブポイントを取ったり、前衛で巧打を決めたり…。その活躍で今度は日本がマッチポイントを奪い取った。しかし、その熱戦に終止符を打ったのは、中国の「高さ」だった。郎平の強打で追いつき、水原の強打を周暁蘭が、そして広瀬の渾身の強打を孫晋芳がブロックして、試合終了。「守り」が「高さ」に敗れた瞬間だった。
 とはいえ、広瀬の活躍はまさに特筆ものだった。この試合でなんと8本のサーブポイントをマーク。「当然」のレシーブ賞と「納得」のベスト6を獲得した。もし広瀬が現役だったら、まぎれもなく「世界ナンバー1のリベロ」だろう。この大会のMVPは孫晋芳。ここから、中国の黄金時代がはじまる…。
郎平広瀬美代子
 左が郎平、右が広瀬。世が世なら、まさに世界ナンバー1のエースとリベロの対決になったはず…。

3.奇跡が奇跡を呼んだ!ソウル五輪予選リーグ、日本vsソ連
 過去の五輪で、「日ソ対決」といえば、「決勝戦」だった。その組み合わせが、いきなりバレーボールのオープニングマッチで実現した。大会前の日ソ対抗では、対戦成績は五分五分。しかし日本は後半3連勝、しかも神がかり的な勝ち方を見せていた。そのため、両チームの力関係は本当に均衡していたといってよかったのである。
 いよいよ試合がスタート。日本は結婚後再度全日本に復帰した丸山(旧姓・江上)由美をキャプテンに、右ひざの大けがから奇跡のカムバックを果たした中田久美をセッターに、攻撃の中心には、これからの日本を背負って立つサウスポー・大林素子と、世界にひけを取らない高さとパワーを持つセンター・廣紀江、日本一の高さを持つエース・杉山加代子と新鋭・藤田幸子がスタメン。対するソ連は、巧者ニクーリナをキャプテンに、当時世界一のセッターと言われていたパルホムチュック(キリロワ)とキレの鋭い速攻を武器に持つオギエンコが2本柱。若手のスミルノーワとシドレンコをエースに据え、いろいろなプレー面(特にブロック)で、センターのチェブキナが締めるというスタメンだったのである。
 第1セットはあっさりと日本が先取。しかし、長年の勘から、中田久美は「これは大変な試合になる」と思っていたと言う。その勘は的中し、第2セットと第4セットはソ連が、第3セットは日本が取り、試合はファイナルセットにもつれこんだ。この試合で素晴らしい活躍を見せていたのは、丸山と廣の両センター。廣はブロード攻撃を面白いように決めていた。しかも、ソ連の選手顔負けのパワフルな破壊力を見せつけていた。かたや丸山は勝負どころでブロックポイントと縦のBクイックを連発、往年の「世界ナンバー1センター」のプレーを随所で見せていた。ファイナルセット、最後はお互いにマッチポイントの取り合いになった。ソ連が17-16で迎えた何回目かのマッチポイント、ブロックアウトを取り損ねた藤田が頭を抱え、オギエンコがガッツポーズを見せたそのあと、まず、最初の奇跡が起こる。なんと、オギエンコがタッチネット!ソ連のカルポリ監督は猛烈に抗議したが、判定が変わるはずもなく、サーブ権は日本へ。その直後、2回目の奇跡が!ソ連のエース・スミルノーワの強打を大林が1枚でシャットアウトして同点。この時点で、流れは一気に日本に傾いた。日本のマッチポイントも信じられないことが起こった。今度はソ連のセッター・パルホムチュックがドリブルを取られたのである。そして、その結末も、本当に「信じられない」ものだった。ラリーの応酬で、ふらふらっと上がったボールをオギエンコがパスしようとしたその時、なんとオギエンコの手の中でボールが滑って回転した。本当に、一つの奇跡が次の奇跡を生み、日本は勝利を収めた。オリンピックの魔物の存在を感じた一戦だった。

4.「え、どうして?」ソウル五輪女子準決勝、日本vsペルー
 東京オリンピックから、出場してきた大会では常に準決勝に進んできた全日本女子チーム。その準決勝の相手はペルーチームだった。その当時のペルーチームは、まさに黄金時代のチーム。小柄ながら素晴らしいバネとスピードを持つファハルドとマラガをレフトに据え、ライトにはチームの精神的な支柱・トレアルバと、国民的英雄のサウスポー・タイト、セッターにはその当時、中田・パルホムチュック(キリロワ)と並び称されたガルシア、その対角には世界の女子バレー界にその名を残した大型センター・ペレスを据えていた。韓国人の朴萬福監督は、アジアのコンビバレーにラテンのリズムバレーをミックスさせた素晴らしいチームを作り上げてきた。
 立ち上がりの2セットは完全なペルーペース。ペレスにいいように止められ、タイトとファハルドには打たれっぱなし。日本らしいバレーをまったくさせてもらえず、完敗の格好になった。
 第3セット、日本の名将・山田重雄監督は秘策に出る。ペレスに対し、日本の攻撃とブロックの中心・廣紀江をローテーションでぶつけた。この作戦が見事的中する。思うように攻撃が決まらなくなったペレスとは対照的に、廣は強烈なブロード攻撃と一人時間差を次々と決めていく。それに引っ張られるかのように、はじめの2セットでは鳴りを潜めていた大林素子の強打も決まる。攻撃の中心にようやく当たりが戻った日本がこのセットを奪うと、第4セットは、藤田幸子に代わって入った「小さな大黒柱」、佐藤伊知子が大活躍した。このセットも奪い取り、試合はついに2試合目の(日本にとって)ファイナルセットに突入する。
 ファイナルセット、序盤目だったのはキャプテン・丸山由美。ペルーチームの強打を的確な読みでブロックしたかと思えば、「世界一」と言われた縦のBクイックも見せた。また、トスを上げる選手が彼女しかいないという厳しい状況で、うまくブロックアウトを取ったりと獅子奮迅の働きを見せた。中盤では廣。自分の後ろから上がってきた2段トスを豪快に打ち込んだり、ペレスのクイックを1枚でシャットアウトしたり…。しかしながら、試合中にはどう見てもペルーに「甘い」ジャッジが続出!中でも、セッター・ガルシアのツーアタックは「これはホールディングでしょ?」と言われてもおかしくないほどだったのにセーフ。思えば、これが伏線だったのだろう。
 ペルーの激しい追い上げに遭いながらも、大林のサービスエースで13-12とリードしたあとだった。中田はサーブ権を確実に取ろうと、センターにいた丸山にトスを上げ、丸山はフェイント気味に落としてAクイックを決めた…はずだった。しかし、そのあと、主審の無情のホイッスル。なんと丸山はホールディングを取られてしまった。今までホールディングを取っていなかったのに、である。「え、どうして?」と言わんばかりに主審を見つめた彼女。のちに中田は、「試合が終わった後、ホントに主審を殴ってやろうかと思った」と述懐している。
 この判定をきっかけに試合の流れはペルーに行ってしまった。廣の渾身の力を込めたブロードが立て続けに拾われた。最後に押し込んだ選手のプッシュもややホールディング気味だった。ソ連戦でオリンピックの魔物に救われた日本女子チームは、ほんの少しのところでつかみかけた勝利を、魔物のせいでスルリと落としてしまった。

5.1セットでブロック4本!奇跡の大逆転!バルセロナ五輪予選リーグ、日本vsアメリカ
 バルセロナ五輪のオープニングマッチとなったこのゲーム、日本にとっては、このオリンピックで勢いに乗るために、絶対に負けられない試合になった。アメリカは、エンディコットをセッターに、ライトに大ベテラン・ワイショフを据えた。センターラインはチームのキャプテン・キンバリーとチーム最長身・エレーナのオーデン姉妹、レフトには素晴らしいバネを誇るサンダースと、ファイティングスピリッツの塊、ケムナー。対する日本は、セッターに開会式で旗手として日本選手団を引っ張った中田久美、ライトにはいまや押しも押されぬ日本のエースに成長したサウスポー・大林素子。センターにはチーム最年少・多治見麻子と、年齢に似合わぬ技術を持った吉原知子。レフトにはレシーブの要・中村和美、そして日本人離れした強烈なバックアタックを引っさげて国際舞台にデビューした山内美加がスタメンを張った。
 両チーム2セットずつを取って迎えたファイナルセット。このセットに入って、アメリカはチームの大黒柱・ケムナーの強打が炸裂!9-5とリードを奪う。ファイナルセットはラリーポイント制、この点差は日本にとって、まさに絶望的な点差に思えた。しかし、この試合のハイライトはここから訪れたのである。サーバーに吉原が下がり、フォワードに多治見が上がってきた。日本にリズムが来たのはここからだった。まずケムナーを一枚でシャットアウト!さらに吉原のサービスエースで2点差に詰め寄る。10-7とされたものの、その直後まさに奇跡が起こった。なんと多治見が3本連続のブロックポイント!まず、サンダースのオープンスパイクを連続で止める。たまりかねて、エンディコットはケムナーにバックアタックを打たせた。しかしそのバックアタックを1枚で止めて、ついに逆転!さらに相手のサーブレシーブが乱れたところをダイレクトで叩き込んだ。その後、2点ずつ取り合ったものの、大熱戦に決着をつけたのは、大林のバックアタックだった。ほとんど負けゲームだったこの一戦を、日本は爆発的なブロックポイントで一気に勝ちゲームにしたのである。多治見はこの場面をこう振り返っている。「今から考えると、本当に怖いもの知らずだったんでしょうねぇ。この試合だけは、バレーの神様が、あたしの中に入ってきたみたい…」と。

6.「吉原ここにあり」を印象づけたアトランタ五輪最終予選、日本vsクロアチア
 先のアジア予選で、韓国に悪夢の逆転負けを喫した全日本女子。アトランタ五輪出場の夢は、この最終予選に託された。オランダに1敗したものの、出場国中首位を走る日本は、このクロアチア戦で3-0か3-1で勝てば、アトランタ五輪の出場権獲得というところまでこぎつけていた。しかし、前年のワールドカップで、クロアチアにフルセット負けを喫しており、選手もスタッフも緊張感を持って臨んでいた。
 日本は「小さな大セッター」中西千枝子をキャプテン、その対角に昨年のワールドカップで人気爆発した佐伯美香(のちに、ビーチバレーでシドニー五輪出場)、ライトの対角に大エース・大林素子と当時弱冠20歳の大懸郁久美、そしてセンターは不動の吉原知子-多治見麻子というレギュラー。かたやクロアチアは、女子バレー界にその名を残す名セッター・キリロワと世界の大エースの座に上り詰めたイエリッチが2本柱。試合の焦点は、イエリッチの強打をどのくらい日本が凌ぐか、にかかっていた。6月2日、18時。運命の一戦がスタートした。
 第1セット序盤は競った展開になる。この試合、最初から目立っていたのは、大林でも佐伯でもなく、前日のイタリア戦で右目にボールをぶつけられたセンター・吉原だった。「世界一」と言われたスピード満点のクイックとブロード攻撃、さらにはポイント力の高いサーブでクロアチアを翻弄していく。イエリッチを中心とした高いブロックを、吉原は見事なまでに崩壊させていった。10-10と競ったものの、多治見のサーブポイントをきっかけに一気にこのセットを奪った日本は、続く第2セット以降、吉原が大車輪の働きを見せた。中西のトスを受けて、吉原がライトに回りこむ。クロアチアのブロックはわかっていてもついていけず、ほとんどノーブロックに近い状態で強打を打たれてしまう。このブロードで、大林・佐伯の強打がさらに生き、続く2セットを連取。圧倒的な強さをみせて、日本は五輪出場を決めた。中でも圧巻だったのは第3セット。イエリッチの渾身の力をこめたバックアタックを、吉原が1枚でシャットした場面。このとき吉原は、「どうだ!」とばかりにイエリッチを睨みつける強烈なガッツポーズを見せた。
 結局この試合で、吉原はなんと85.4%の驚異的なスパイク決定率を記録した。全試合を通しても、70%近い決定率を上げ、この大会のMVPとなったのである。これがきっかけとなって、吉原知子は名実ともに「世界有数のセンタープレーヤー」と言われるようになった。

7.試合終了後の大乱闘!アトランタ五輪準決勝、キューバvsブラジル
 アトランタ五輪最高の名勝負といえば、ほとんどがこの試合を思い出すに違いない。それは、これからの女子バレーの方向性を示したばかりでなく、試合そのもののレベルの高さ、そして五輪本番での駆け引きといったメンタル面まで含めた「名勝負」といえるものである。そして、試合後に前代未聞の不祥事が起こったという点でも…。
 実は、この対戦には伏線があった。予選リーグで、キューバはブラジルにストレートで敗れている。さらにロシアにも敗れているが、これはへオルヘ監督一流の作戦だった。組み合わせのいたずらで、この両チームは準決勝に再度対戦することになった。ここでベストメンバーをそろえて集中すれば、必ず勝てると踏んでいたのである。
 さて、運命の一戦が幕を開けた。キューバはご存知ツーセッターシステム。セッターには、いまやキューバの中心選手に成長したマルレニー・コスタとチーム最年長の大ベテラン、リリア・イスキエルド。センターには、世界最高の高さを持つレグラ・トレスと、世界ナンバー1のエースアタッカー、ミレーヤ・ルイスと並ぶチームの2本柱、マガリ・カルバハル。レフトには世界一のサウスポー、レグラ・ベルと、キャプテンのルイス。まぎれもないベストメンバーだった。まさに、この試合に照準を合わせてきたといってよかった。しかしブラジルは、本来のベストメンバーから、エース対角のイルマ・カルデイラとライトのマルシア・クーニャ、さらにはベテランセンターのアナ・イーダ・アルバレスが抜けていた。実はこの3人、ここまでの過程で、怪我や不調のため、メンバーから外れていたのである。それに加えて、チームの大黒柱であるアナ・モーゼに、持病である両膝痛が再発。まさに満身創痍でこの試合を迎えたのである。これだけメンバーに差があると、キューバにこてんぱんにやられてもおかしくないが、ブラジルはそのアナ・モーゼの頑張りと、世界ナンバー1セッター、フェルナンダ・ベンツリーニのトス回しからのコンビバレーで対抗し、試合はフルセットにもつれこんだ。
 最終セット、キューバはルイス、カルバハル、ベル、トレスの4人が強烈なスパイクを次々決めていったのに対し、ブラジルはアナ・モーゼの膝が限界に達していた。強烈なバックアタックがなかなか決まらない。さらに微妙な判定の連続で、ネットをはさんでバチバチ火花が散っていた。しかしながら最後は、ブラジルに自分たちのバレーをさせながら、それをしっかり受け止めて強烈なお返しを喰らわせたキューバの受けの「強さ」が勝り、キューバがブラジルに勝った。五輪女子バレー史上に残る事件は、このあと起こったのである。
 試合終了後、アナ・モーゼとカルバハルがコート上でお互いの胸座をつかみ合い、今にもガチンコの殴り合いが始まりそうな展開。そこはなんとかお互いのチームメイト同士が二人を抑えたものの、その事件は、ついに両チームの控え室前で起こってしまった。さきの二人が、本当に殴り合いを始めてしまって、さぁ大変!その輪に両チームの選手たちが加わり、通路はまさに修羅場と化してしまった。なんとか抑えたものの、素晴らしい名勝負の後に、とんでもない後味の悪さを残してしまった一戦だった。その遺恨は、次のワールドグランプリまで持ち越され、この時はなんと、コート上での殴り合いに発展してしまったのである。

8.4年越しの因縁対決!シドニー五輪最終予選、日本vsクロアチア
 シドニー五輪の出場権をかけた最終予選、序盤3連勝と勢いに乗りかけた全日本女子も中国、イタリアに連敗、このクロアチア戦が勝負を決める大一番であることは疑いがなかった。というのは、翌日に分の悪い韓国との一戦を控えていて、もしクロアチアに負けたら、その時点でシドニーへの道は絶たれるといっても過言ではなかったからだ。
 この試合、僕は東京体育館で生で見た。あとになって、観戦したことをこれほど後悔するとは思わなかったのだが…。日本は、このメンバーで唯一のオリンピック経験者の大懸郁久美と、日本のエースに成長した熊前知加子がレフトの対角を組み、センターには新星・杉山祥子と、在日韓国人でありながら全日本にこだわり、帰化をしてまでの執念を見せた巧者・森山淳子、ライトにはユーティリティープレーヤー・満永ひとみ。そしてセッターには小さな巨人と謳われた竹下佳江というメンバー。しかし、やっぱり物足りない。キャプテンでブロックの要・江藤直美がけがでメンバーを外れていること、そして何よりも、現役選手の中で、誰よりも国際経験が豊富な名センター・吉原知子がいない…。対するクロアチア。これまで対戦したチーム以上にイエリッチのワンマンチームになっていた。そして旧ソ連からの帰化選手はチェブキナだけ。本来だったら、イエリッチさえ押さえれば、楽に勝てる…はずだった。
 序盤はイエリッチの強打をブロックや好レシーブでよくしのぎ、熊前や森山が巧打を決めたりしたこともあり、2セットを日本が先取して、セット間の休憩に入った。この休憩がまさに魔の休憩時間になってしまった。
 第3セットをクロアチアが取り、試合は「運命」の第4セットへ。このセット、日本はイエリッチの強打をよくしのぎ、21-17とリード。ラリーポイント制の4点差は、日本にとって圧倒的に有利なはずだった。しかしここからイエリッチはこれまで以上にヒートアップした強打を見せる。それに加えてチーム一の大ベテラン・チェブキナが、徹底的に大懸をマークしていく。じりじりっと点差が詰まる。必死に逃げる日本、追うクロアチア。しかしイエリッチの強打で同点に追いつかれた日本は、続く大懸のスパイクをチェブキナがシャットアウトしてついに逆転!セットポイントはイエリッチの強烈なサーブポイントだった。まさかの逆転劇。この時点で勝負は決まっていた。ファイナルセットを戦う気力は、この時点で切れてしまった。イエリッチにいいように強打を決められ、ついにマッチポイント。運命のポイントを奪ったのは、やっぱりイエリッチだった。彼女のサーブがネットにかかる。ネットにかかって弾道が変わった。ゆるいボールになって、レシーブに入ろうとした満永の前にポトンとサーブが落ちて、ゲームセット。敗れた瞬間、これまでの大声援が嘘のように静まり返り、シーンとなったあの光景を、僕は忘れないだろう。翌日、イタリアにも勝ったクロアチアは初の五輪出場を手に入れた。「吉原がいれば…」このメンバー選出の失敗は、いまだに全日本のメンバー選出にも微妙な影響を与えている。
森山淳子イエリッチ
 国籍を変えてまで、全日本選手として出場にこだわった森山(左)と、4年前の屈辱を乗り越えて、大きく成長して戻ってきたイエリッチ(右)。この2人をはじめ、この戦いにはさまざまなドラマがあった。

9.20世紀最後を締めくくった名勝負、シドニー五輪決勝、キューバvsロシア
 1990年代に入り、大エース、ミレーヤ・ルイスの強打と個々の抜群の運動能力の高さを武器に世界の女子バレー界でタイトルを独占し続けたキューバ。そのキューバ時代の締めくくりとして、シドニー五輪でも決勝にコマを進めた。対戦相手はロシア。平均身長で世界ナンバー1の高さを誇るこのチームは、予選リーグから全勝で勝ち上がり、今度こそ「打倒キューバ」の可能性が高くなっていた。
 キューバはルイスからキャプテンを受け継いだ世界一のサウスポー、レグラ・ベルと「ルイス2世」と言われる素晴らしいジャンプ力が持ち味のユミルカ・ルイザがレフトを組み、センターには、世界一の高さを持つレグラ・トレスと速攻が持ち味のアナ・イビツァ・フェルナンデス。そして、キューバ伝統のツーセッターには、マルレニー・コスタとアゲロ・タイマリスというメンバー。さらに、ルイスがベンチにどかんと構えるという豪華メンバーであった。対するロシアは、いまや世界のエースに成長したアルタモノワとゴーディナ、センターには「世界ナンバー1のCワイド」の持ち主・ティーシェンコとべリコワ、ライトには「近代女子バレー選手の完成形」といわれたリュボフ・シャチコワ。セッターはバシレフスカヤが務めた。「赤鬼」と異名をとるロシア・カルポリ監督の作戦では、ライトのシャチコワの存在があれば、必ず勝てると踏んでいた。実際、序盤の2セットは、シャチコワが大車輪の活躍を見せていた。彼女のおかげで、アルタモノワとティーシェンコのマークが甘くなり、攻撃面でキューバを大きくリードして、2セットを先取した。
 しかし、第3セット、7-7と競っていた場面で微妙な判定が続き、ロシアの選手は猛烈に抗議したものの認められず、これまではスムーズだったロシアのリズムに、微妙にずれが生じた。そこをキューバは逃さなかった。キューバはここから、センターのトレスとキャプテン・ベルが大車輪の活躍を見せていく。さらに、ピンチになりそうなところではルイスが登場して、チームをピシッと締めていく。悲しいことにこの場面以降、ロシアがリードするシーンは全くなかった。ロシアはシャチコワが徹底的にマークされて、アルタモノワの負担が倍増し、ブロックに引っかかるようになった。そこをキューバに強烈に切り返された。さらに、アゲロの強烈なサーブに崩されて、ティーシェンコのCワイドが全く機能しなくなる。最後はトレスの強打を高い3枚ブロックの上から豪快に打たれてしまい、ロシアは90%以上手に入れていた金メダルを逃してしまった。試合終了後、ベンチに座り込んで人目もはばからずに泣いたアルタモノワ・ティーシェンコ・シャチコワの姿が印象的だった。この試合の活躍で、トレスは「20世紀最優秀選手」の称号を手に入れたのである。190センチの身長に、最高到達点340センチ、そして抜群のレシーブ力を持つという運動能力の高さのなせる技だった。    
トレス

このたたずまいは、まさに「20世紀」を代表するバレー選手といってよいだろう。なにしろ、初めて金メダルを取ったバルセロナ五輪の時は、まだ17歳!恐るべき存在だ。



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