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数量指示売買と履行利益


最高裁昭和57年1月21日第一小法廷判決(昭和54年第1244号損害賠償請求事件)
(民集36巻1号71頁、判時1030号34頁、判タ462号68頁)

【事件の概要】
X1,X2(原告、控訴人、上告人)はそれぞれ昭和38年、43年に、Y(被告、被控訴人、被上告人)の代理人、訴外Aより分譲地を買い受けた。各土地の売買契約締結に際して、訴外Aが、昭和30年頃作成された実測図を提示し、X1,X2に区間部分を現地にて説明した。
その際、隣地との境界線が本溝西側であると説明を受け、実測図に記載された通りの面積で売買代金を定め、X1については坪当り2万円、171坪342万円、X2については坪当たり3万8千円、112坪425万円で売買契約に合意した。その後、X1,X2は、各土地に居宅を建築したが、実測図に記載された面積より狭いと思い、昭和49年に隣接所有者と境界を確認した上で測量したところ、それぞれ7.11坪、7.98坪不足していたことが分かった。
昭和52年2月、X1,X2は、Yに対し、本件各土地の昭和49年現在の時価に、不足分の坪数を乗じた金額を損害賠償として提訴した。
・一審(千葉地判昭和53年2月28日)
「数量不足による売主の担保責任は、いわゆる履行利益(不足が無かったならば、買主が得たであろう利益)の損害ではなく、信頼利益(不足を知ったならば、買主が被ることがなかったであろう損害)の損害の範囲に限られる」として、不足坪数に契約時の坪当たりの単価を乗じた金額の賠償だけを認容した。
・二審(東京高判昭和54年8月28日)
「民法565条による売主の担保責任は、売主の債務不履行という事態が発生する予知が存在しない場合において、法が信頼を保護するために直接に売主に課した責任である。すなわち、同条による売主の担保責任は、債務不履行による賠償責任が、売主が債務を本旨に従って履行したならば買主が得たであろう利益を賠償すべき責任であるに対して、買主が瑕疵を知らなかったために被った損害を賠償すべき責任であると解するのが相当である。各買受土地につき数量不足があることを知らなかった損害として、右数量不足とされた各土地部分につきその各土地の値上がりによって得るべきであった利益を喪失したことによる損害が含まれるものと解するのは、右担保責任の趣旨に照らして相当でなく、控訴人らの被った損害としては、その各売買契約締結の際に数量不足であった各土地部分の対価として被控訴人に支払った各金員を過払したものとしてその支払分に相当する額の損害を被ったに留まるものと解する」として一審同様不足分の代金相当額の賠償のみを認めた。
X1,X2は、代理人Aから受けた説明には契約締結上過失があるから、Yは担保責任として履行利益の賠償義務を負うと主張したが、565条の担保責任は売主の過失無過失を問わず買主の信頼の利益を保護するための制度であり、契約締結上過失があったとしても、そのことにより履行利益の損害を賠償すべきであると解し得るものではないとしてXらの主張を認めなかった。

【判旨】
・結論:上告棄却
「土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり売買契約の目的を達成するうえで特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わないものと解するのが相当である。しかるところ、原審の適法に確定したところによれば、本件の各土地の売買において売主である被上告人の代理人が目的土地の面積を表示し、かつ、この面積を基礎として代金額を定めたというのであるが、さらに進んで右の面積の表示が前記の特段の意味を有するものであったことについては、上告人らはなんら主張、立証していない。そうすると、不足する面積の土地について売買が履行されたとすれば上告人らが得たであろう利益として、右土地の値上がりによる利益についての損害賠償を求める上告人らの請求を理由が無いものとした原審の判断は、結局正当として肯認することができ、原判決に所論の違法はない。」



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