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6 したたかな麗子

6 したたかな麗子
novel14

麗子との始まりが久子との終幕の日になったのが運命めいているが、久子との日々が強烈だっただけに平常心に戻るまでには少し時間を要した。土門には中途半端で終わった麗子との出逢いのやり直しが残っていたが、とてもそんな気にはなれなかった。ところが麗子には愛を追求するバイタリティーがあった。麗子の『幸福』は土門に賭けた人生そのものであった。

土門は相変わらず麗子のいるレストランに通っていた。非礼した夜のことは何とか許してもらったものの再度約束をさせられてしまった。仕方ないと思ったが気乗りはしなかった。強烈な激情に魂を奪われ、潔く別れて行った久子にまだ未練が残っていた。

麗子との約束の日、一人では間が持たないと悟った土門は会社の同僚を誘った。今回は徹底的に付き合う覚悟を決めていた。麗子の心情を二、三 日前に幸子から聞かされていた土門は、荻村夫妻の相手は同僚に任せて麗子の相手役に専念することにした。

土門は麗子に二人の子供がいることを初めて知った。四歳の女の子と三歳の男の子で保育園に入れている。

「子供を家に置いて来て大丈夫なの? 。早く帰った方がいいですよ」

気乗りしない土門はついこんな言葉が出てしまった。

「心配無用です。子供たちは妹に預けて来ました」

麗子は平然と言った。レストランの仕事を終えてから東京の上野に住む妹に子供を預けトンボ返りして来たという。土門はこの日に賭ける麗子の決意のすごさを垣間見た気がした。

約二時間が経った頃、酔いが回って来た荻村が『次に行こう』と騒ぎ始めた。今夜の荻村は機嫌がよかった。すぐ近くのカラオケスナックに繰り出すことになった。歩きながらはしゃぐ荻村の馬鹿でかい声に驚いたのか周囲の民家の犬たちが激しく吠えた。

郊外のスナックらしく店内はかなり広い。ほとんど満席に近い状態であったが、荻村の強い押しが奏効して何とか席を確保した。さっそくカラオケの競演が始まった。荻村の騒音公害とも言える歌には閉口したが、寛大なお客さんは拍手喝采を送ってくれた。

「土門くん麗子ちゃんと踊りなさい! 」

荻村はすでに命令口調である。土門は照れながら麗子を誘った。

「二人で照れてるんじゃないの。もっとくっついて」

荻村のペースに翻弄されながらも、時の経つのも忘れて盛り上がった。午前一時を過ぎると、さすがの荻村も疲れが見え始めた。今が潮時とばかり幸子がお開きを宣言した。

「土門さん、麗子ちゃんを家まで送って上げてね」

幸子は麗子に粋な計らいをした。土門は麗子を車に乗せ出発した。

「麗子さん、家はどの方向ですか? 道案内を頼みますよ」

麗子は一生懸命に道順を教えるふりをして逆方向を指さした。土門は以前聞いた方向とは逆のような気がした。あまりにも本来の場所から遠ざかって行くので車を停めた。

「酔って方向音痴になったの? しっかりして下さいよ」

「土門さん、お腹空いたでしょう? 近くのコンビニに寄って」

麗子は帰りたくなかった。二人だけになったこの機会を逃すまいと必死に時間を稼ぐ。土門は近くのセブンイレブンに麗子を降ろした。ハンバーガーとコカ・コーラを買い込んだ麗子は近くの公民館へ誘った。公民館の駐車場は照明がなく周囲は真っ暗闇である。

「あなたは奥さんが恐いですか? 」

ポツリと漏らした一言が妙に土門の胸に引っかかった。これからの人生麗子が何を求めて生きて行くのか、その言葉の中に凝縮していたことを土門は知る由もなかった。

「土門さん、私はあなたを生涯愛します」

はっきりした口調で麗子が言った。『また苦渋の人生が始まるのか。こんな男にどうして興味を抱くのだろう。どうして人生を賭けようとするのだろう』と土門は困惑の表情を見せた。

その夜、土門と麗子は結ばれた。しかし土門は久子に感じた『ときめき』をこの夜の麗子には感じなかった。そして『俺は何をしているんだ』と真剣に愛を求めて来た麗子と愛情のないセックスをしたことを反省した。

土門にとってその夜の出来事は大それたことではなかった。一方の麗子には生涯忘れることの出来ない蜜月の瞬間であった。麗子と関係して以来何となく気まずくなっていた土門であったが、麗子は喜色満面の毎日を送っていた。土門がレストランに入って来ると何処にいても飛んで来る。

「恥ずかしいことだけど、土門さんが側にいるだけで私は濡れてしまう。あなたが帰った後下着を取り替えるのよ」

土門の耳元でそっと囁く麗子であった。

ある日、麗子が車の免許を取ると騒いでいた。すでに教習所に申込を済ませてしまった。実技はともかく筆記試験の問題は微妙な表現が多く、外国人には無理というのが周囲の意見であった。しかしどうしても免許を取ると言って聞かない。

「土門さんに教えてもらうからいいわ。よろしくお願いします」

土門に教師役が回って来た。麗子と関わり合いたくないが断る理由もなく引き受けることになってしまった。

「免許なんてどんな心境の変化? 結構金がかかるよ」

「お金のことなど心配してくれなくていいの」

些細なことで頭に血が上る性格は車の運転には不向きだ、と周囲の人たちは心配した。しかしそんな心配をよそに、熱心に教習所通いをした結果、実技、筆記とも一発でパス、二ヶ月後には免許証を手に入れていた。『これで毎日土門さんを追いかけることが出来る』と麗子はほくそえんだ。

その後、土門はいろいろな場所で麗子の運転する車を見かけた。最初は『免許を取って嬉しいのか、ずいぶん乗り回しているな』と思ったが、冷静に考えると、自分の行く先々に麗子の車があることに気づいた。麗子は『あなたに逢うため免許を取ったのよ』と免許を取得した本当の理由を打ち明けた。

麗子の愛情表現は土門には新鮮であった。麗子は生活のサイクルを土門の行動に合わせ始めていた。

7 深い心は中国人の心情



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