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17 苦悶する土門

17 苦悶する土門
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我孫子にいた頃、麗子の心の中には百パーセント土門が存在していた。しかし生計を立てるため水商売に入った麗子には百パーセント土門を思う余裕がなかった。土門と一緒に生きるのが『生涯の夢』は変わらないが、現在の麗子を取り巻く生活環境では『現実性のない夢』を追っている余裕がない。東京で生き残るため『夢より打算』を選択する麗子であった。

今の麗子には『男は生活の糧』であり、近づいて来る男との関連は避けて通れない。付き合い方一つで金の成る木に花を咲かせることも出来る。来日して結婚、出産、育児、土門との関係そして離婚問題と波瀾万丈の人生であったが、その間男の経験は夫と土門だけであった。しかし今まで人生を片目で見て来た麗子が、両目で周囲を見渡すようになると種々雑多な男の世界が見えて来た。

子供を中国の両親に預けて二年が経った。別居の際持ち出した預金や切り詰めて貯めた金を妹に託し利殖した結果、約一千万円の蓄えが出来た。麗子は生計に自信が持てるようになった。子供を呼び戻す時期が刻々と迫って来た。今のマンションでは手狭と感じた麗子は新たな住まい探しに東奔西走、錦糸町の近くに築十年の賃貸マンションを探し当てた。麗子の勤めるスナックから歩いて十分という好立地であった。六畳が三部屋の広さは親子三人の生活には手頃であった。麗子はようやく子供を迎え入れる態勢を整え終わった。

麗子は新小岩から引っ越した後、土門を呼んだ。奥の六畳間にダブルベッドが置かれていた。ところが麗子は畳に蒲団を敷き始めた。

「このマンションは親子三人が暮らす神聖な場所。だからけじめをつけたい。この部屋であなたに抱かれたくない。だからこの蒲団で寝て下さい」

土門は出鼻をくじかれた。麗子と別々に寝るためにわざわざ遠くから来たのではないと腹を立てたが、麗子の意外な決意に押されて渋々蒲団に入った。この日を境に土門と麗子のセックスは専ら近くのホテルでの行為となった。スナックの閉店まで飲み、その後ホテルでセックスというパターンが続いた。

今の麗子は子供たちとの生活が最大の望み。幼い子供には母親と土門の関係はわからないだろう。しかし物心が付けば母親の正常とは言えない関係に疑問を持つだろう。未来の不透明な関係は家族にとって決してプラスにはならない。麗子の恐れることがそこにあった。土門も麗子の心配は充分過ぎるほどわかっていた。『麗子の人生は彼女のもの。そろそろ解放してやろう』と理解を示す。そして人生を遠回りした麗子が自立した人生を歩もうとしていることに安堵した。

土門は『別離』の予感がした。麗子自ら離れて行くまでは『別離』を口に出すまいと思った。憎み合って別れて思い出に傷を付けたくない。何処かで再会したら互いに笑って逢える、そんな別れ方をしたい。そして麗子の決断を待った。

18 麗子と土門の葛藤



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