塾生を怒鳴る


のひと言が頭にきた。
 社会の地図で南米のチリと書くところをその中学1年生は
「チソ」と書いた。
そこで私は、
答案にバッテンをつけて“リ”と赤ペンで書き直した。
「これ、チリや」と抗議する中学生。

 塾対象の入試説明会で中学受験でも高校受験でも
漢字の“はね”や汚い荒っぽい字は、
よく注意して指導よろしくと言われる。
言われなくても字というものは自分だけが
読めていいわけではないから
丁寧にちゃんと書くように日頃から指導しているつもりだ。
試験当日に、日頃のくせがでてしまって
自分では正しい答案を書いていると思い込んでいても
間違って判断されることがある。
それが小さな誤りであるかもしれないが
日頃の生活態度の要因からくる悲劇(不合格)という結末を招く
大きなミスになる。だから
人生の道をそこで踏み外すことにもなりかねないのだ。

 そのとき隣に座っている生徒が言ったのである。
「試験のときは、私らちゃんと書くよ。」
私はどなってしまった。机をたたいて怒鳴った。
「日頃からちゃんと生活しろ!試験の日だけちゃんとするなど
なんと言う態度か!」
教室中が静まり返った。隣の教室も静かになった。

 つづけて私は怒鳴った。
「そしたら、私はここで心を込めて君たちを教えているのは
意味ないのか!」
「そんな生徒はここへ習いに来るな。やめちまえ!」
私は、本当にそんな生徒を教えているのか。
勉強以前の心構えを教えていると自負している私の前に
そんな生徒がいる。彼らのような生徒は今までもいた。
だから、日頃の態度が大切であって、試験日だけが
君たちに重大な日ではないと言ってきたが、
何にも彼らに入っていないのなら、
私は何のために何を教えてきたのだろう、と
自分のほぉをたたく思いで机をたたいていた。

 怒れば怒るほど、私がどうして怒っているか、
分かってくれると信じて怒っていた。
これが教育だと思いながら、怒り心頭に達していた。

 しかし、いつ怒っても後味の悪いものだ。
砂を噛む思いとはこのとこだ。
怒鳴られている生徒は、黙ってペンをその後走らせていたが
怒られているのは、その生徒ではなく
その生徒の心構えであることをわかってくれているだろうか?

 私の心の中で、「そんなに目を吊り上げて起こらずとも
優しく諭せばいいじゃないか」
「それで分かってくれなければ、仕方がないじゃないか」
と言う。
 優しくするに時があり、怒るに時がある。
そう思っているうちに夜の9時がきて、
中学生たちは、
「先生、さようなら、ありがとうございました」
と帰って行った。

 わが塾には、教室に標語が掲げられている。
1.あいさつをする
2.うそはつかない
3.ゴミは拾う
これを守らない生徒が成績上がらなくても
当塾は責任をもちません。

 ちなみに、わが塾は高校受験で30年間
私学入試で落ちた生徒は誰もいない。
 中学受験合格率97%。


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