足跡は・・・・相変わらず「マアくん」の数歩前を・・・ぺたぺたと歩いて?・・・・いや姿は見えませんから・・・足跡だけが残っていくんです。
「おばさんは・・・透明人間なのかい?」
「マアくん」は、目の前の足跡に向かってそう尋ねました。
だって、その透明人間の声が・・・少しかすれた女の人のような声だったから・・・
「おばさん?・・・おいらはおばさんじゃねえぞ・・・・それに透明人間でもねぇ・・・」
その姿の見えない人は・・・少し怒ったような声で言いました。
「あ、ごめん・・・・だっておばさんは姿が見えないから・・・」
「おばさんじゃねえ!!・・・おいらはマジャールっていうんだ」
今度は大きな声で怒鳴られました。
そして少し小さな声で・・・
「それにおいらは透明人間なんかじゃねえ・・・・おいらは・・・」
そう言うと、口をつぐんでしまったのです。
「ねえ・・・ごめんよ・・・怒ったの?・・・・・僕、わざと言ったんじゃないよ・・・ねえ?・・・なんとか返事してよ」
「マアくん」が謝ると・・・・「マジャール」は一言だけ・・・・
「あとは何にも言わず・・・黙っておいらのあとをついてきな」
そう言ってまた黙りこくったのでした。
ずいぶんと歩きました。
この不思議な「マジャール」と出会ったのが夕焼けのころ・・・・あれ?
「マアくん」は不思議なことに気付いたのです。
だって・・・あれから何時間も歩いているはずなのに・・・・空が真っ赤だったのです。
「夕日が沈まない・・・・・」
その時・・・・歩いている先の木陰から・・・・大きな鹿のような動物が・・・ぬーっと出てきたのです。
「よう・・・マジャール・・・・今日はずいぶん変わったものを連れて歩いてるじゃないか?・・・・お前のペットか?」
その動物・・・・鹿だと思ったのですが、真っ直ぐ尖った角が一本だけ・・・・鹿のように白い斑点がある茶色の毛皮の動物でしたが・・・・「マアくん」は思わず「ユニコーンだ」とつぶやいていたのです。
「ほう・・・お前は・・・・ユニコーンを知っているのかあ?」
その鹿のような動物は、まっすぐ「マアくん」の目を見て・・・・やさしい柔らかな声でそう言ったのでした。
「うん・・・僕が子供のころの・・・・絵本の出てたんだ・・・ユニコーン・・・」
「残念ながら俺はユニコーンじゃない・・・・俺は人間に見つかるようなへまはしないんだ。・・・・でもよく覚えておきな?・・・・お前に姿を見せたのは・・・・ここが俺たちだけの棲みかだから・・・・・ふつうの場所じゃ・・・絶対に見つかりやしないんだからな」
「俺たちだけの棲みか」
その言葉に・・・人間が入り込めない特別な場所・・・・なぜか「マアくん」はそう感じたのです。
「俺の名前・・・一本づの・・・・姿の通りの名前だが・・・・お前の知ってるユニコーンより・・・ずっと崇高な男なんだぜ?」
そう言うと、くるっと振り向き・・・・あとも見ずにそのまま、また木陰に隠れてしまったのです。
「マジャールさん・・・・ここってずいぶん不思議な場所なんですね?」
しかし・・・「マジャール」は何も答えず・・・黙って歩き続けるだけでした。
しばらくそのまま歩き続けましたが・・・相変わらず夕日はあたりを赤く染めたままです。
(おなかがすいたなあ・・・・)
なんとなく、そう考えていると・・・・「コロコロコロ」・・・・・
何かが転がってきたのです。
「食え」
「マジャール」の声がポツンといいました。
「え?・・・・いいんですか?・・・これを食べても・・・?」
土の付いている部分を、シャツの袖で拭き・・・「マアくん」はかぶりつきました。
それは・・・とても甘い「桃」のような味・・・・
水分もたっぷりあり・・・・一口だけで、のどの渇きも空腹も・・・一度に満足できたのです。
それと同時に・・・・
今まで見えなかった「マジャール」の姿が・・・・・
それは、足だけが異常に大きな・・・背の高さは・・・そう「マアくん」の膝ぐらいまでしかないのですが・・・・足の大きさだけは・・・とても大きな・・・・小人の姿が・・・うっすらと現われてきたのです。
その顔だちは・・・・どちらかというと、「キューピーさん」のような・・・・
着ている洋服は「麻を編んだ」ものを着ていたのですが・・・・・
かわいらしい「マジャール」の姿が・・・ぼんやりと見えてきたのです。
「マジャール・・・さん・・・ですか?」
「マアくん」は、初めて見るその小人に問いかけました。
「しんせん果実でようやくおいらの姿が見えるようになったようだな?」
「新鮮な果実?・・・・うん・・・確かに新鮮な果実ですけど・・・桃でしょ?」
「お前は勘違いをしてるだろうけど・・・今食べたものは桃ではない・・・神饌・・・つまり、神に供えられた果実なんだけど・・・神様はそれをどんな動物や妖精でも食べられるものに変えてくださる。・・・・だからそれは桃ではない・・・・」
「でも、桃の味がしたんだけどなあ・・・・?」
「それはお前がのども渇き・・・桃が食べたいと思ったからじゃろう・・・・この果実は・・・食べたいと思ったどんなものにでも味を変えられるんだ」
「へえ・・・便利ですねえ!!」
「もうしゃべるな・・・・これから行く先はまだ遠い・・・・・黙っておいらについて来い・・・・」
「マジャール」はそう言うとまた歩き始めたのです。
でも、今度は姿が・・・・うっすらだけど見えています。
「マアくん」は、なんとなく安心したように・・・あとをついていきました。
続く
Calendar
Comments