型をこよなく重んじるも、嵌ることをめっぽう嫌がる作曲家の日記

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2020.11.14
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カテゴリ: 作曲家


お話を聴くつもりでお会いしましたが一献交えることとなりました。
ウイスキーがお好きだということで持参しましたが、
行ったら既に潤沢なお酒がありました(笑)

これまで呑む時にあえて音楽をかけることはほとんどありませんでした。
わざとかもしれませんが、ずっとBGM的に音楽をかけられたのです。
曲目はSPレコードを復刻したモノラル録音でフランクのピアノ五重奏曲、
ショーソンの​ヴァイオリン、ピアノと弦楽四重奏のための協奏曲など​でした。

酒の肴に現代音楽ということはあまり考えられませんが、
本当はどんな曲がお好きなのかがよくわかました。
演奏が1950-60代の往年のヴァイオリニストやピアニストのものであること、
フランスの室内楽であったことなどとても新鮮に感じました。

その昔は録音物自体が多くなく、曲の内容は楽譜から紐解くことが当たり前だったと考えられます。
聴衆も演奏される曲を日頃から録音物で聴くことはなく、
楽譜どおりであるかどうかがわかる人は少なかったと想像できます。
演奏者の個性と共に新鮮さ溢れる表現で常にセンセーショナルな感動があったでしょう。

しかし、年月と共に録音物を聴いて曲のイメージが予め刷り込まれることが前提になりました。
曲のイメージは初めて聴いた演奏のイメージが最も大きくその後の印象に関わります。
聴衆は曲目によってコンサートに行くかどうかを決めることは多いと思います。
演奏者は憧れている演奏家が採り上げたことや既に知っている人が多いことが選曲の根拠です。
演奏者の満足感とお客をたくさん呼びたいということが理由になります。

また、音楽に関わる人口が増えたこともありますが、
何の分野でもオーディションかコンクールで決める風潮になりました。
この方法は安定した力のある逸材を永く育てるうえではいい方法とは言えません。
ミスをしない安定性が求められると同時に、職人的で無難な演奏が求められやすく、
最近は特に審査する側の意見が分かれないような選曲と非個性的な演奏が推奨されます。

オーディションやコンクールはミスが明らかに出るような場合は減点法ですが、
力が拮抗している場合でも演奏スタンスや曲へのアプローチによって採点がよく割れます。
審査する側が相対評価をするか絶対評価をするかでも大きな点の差に繋がることが多く、
演奏自体はそれほど悪くないのに採点者によっては点差が開くことは意外に多いです。

オーディションによっては曲へのアプローチとしては時間制限や条件、
編成に合わせて音を減らしたり、小節をカットすることは普通に行われるようになりました。
クラシックでは時間制限などで演奏する箇所を指定する試験はありましたが、
今は選曲の幅が広がってしまい、審査する側が演奏されている曲を知らないこともあります。
つまり、音を省略されたり小節がカットされても審査側が気がつかないことがあります。

作曲している側から言えば省略やカットは曲を大きく損ねられていることになります。
作曲は和声学と対位法的見地を伴った調性や形式を緻密に考えた構造物ですから、
完成度の高い楽曲ほど音の省略や部分のカット、楽器の変更は論外となりますが、
吹奏楽や電子オルガンにおいては旧知の楽曲ではなくあまり知られていない曲の開拓と共に、
曲の中で聴き映えのする部分を抜粋して聴き手を驚かせることで競われるようになりました。

知られていない曲の再評価のきっかけにはなりますが、あくまで勝ち抜くための手段であり、
既知の曲では名演が皆の意識に刷り込まれているため、それを避けるためと言えます。
半端な抜粋やカットではなく、完全に別物に変えれば編曲として成り立ちます。
最近は、クラシック音楽をジャンルを変えてリメイクされることも増えました。
ただしその芸術的エッセンスも損なわれることがよくあります。

調性的で旋律が断片的にでも存在する音楽は和声感覚だけでは名曲にならず、
必ず対位法的要素が和声の中に意識されなければ質が上がらないと考えています。
旋律に対してバスのラインが残っていれば、有名な曲は記憶によって原曲の良さを認識します。
しかし、バスのラインを変えてしまったり、対位法的要素を減らすと質は変わってきます。

例えば、一般的に人気の高いラフマニノフやレスピーギの曲は対位法的に凝っていることが多く、
かなり混みいった声部進行を見せますが、それを特異な編成に編曲されていることがあります。
近代音楽では単音を1オクターヴのユニゾンにしたり、
2オクターヴのユニゾンを1オクターヴにしたりするだけで音色や意図が変わるわけで、
楽器編成の音域の都合によるフレーズの省略や変更、フレーズの交錯や上下の逆転はNGです。

ラフマニノフの交響曲第2番の第3楽章は人気の高い曲ですが、
とても混みいったテクスチュアと精緻な和声進行が相俟って存在感を高めています。
またレスピーギのローマ3部作は広音域の分厚いオーケストレーションが信条です。
原曲のイメージがあってこそ成立する編曲や、演奏のカッコよさを共有するだけのための選曲、
残念ながらそれらは曲が本来持っている要素を犠牲にしていることが多いようです。

食に例えれば、何時間も手間をかけて作られたラーメン屋さんの味を、
簡略化したインスタントラーメンで再現してそれを美味しいものとして満足することです。
あたかも今のコロナ禍において格差が広がる中、人同士の接触をテレワークに変えること、
本来の食の楽しみや旅行の楽しみに規制を受けることで代替することと似ている気がしています。

真似ではなく、雰囲気を味わうだけではなく、人の奥底に直接触れられる瞬間を求めた時、
それが数多ある今の録音物ではなく、今だに往年の演奏に機知を見出す人はたくさんいます。
作品に込める思いは深く、そこに何を見出すかを演奏者は全身全霊で表現すべきで、
その念いこそが真の芸術として聴きたいところなのです。






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最終更新日  2020.11.14 17:56:00
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