第1章

始まり そして終わりへの序曲




 北でのゼロの扱いは、怖いくらい丁重なものだった。国王が彼に邸宅を与えたようとしたくらいである。結局それは彼が自ら辞退したのだが。だが、確かにゼロの北での活躍には眼を見張るものがある。3ヶ月前、北にやってきた当初は、疑いと嫌悪の眼で見られていた。スパイだ、工作員だ、と。しかし、北の上流貴族のデルトマウス家嫡子、シューマが言った言葉が人心に影響を与えた。
『スパイをこんなに堂々と送るか?だったら西は馬鹿の集まりだ。もしゼロがスパイと疑わしい行動を取ったならばオレがゼロを殺す。全ては、次の戦いで分かるはずだ』
 シューマは貴族の嫡子なのだが、学問や政治からは無縁のような男だった。粗野な感じ、というより“野獣”のような男なのだ。燃えるような性格とは対をなすような青色の髪を逆立て、鬣のように靡かせるその様相などが特にそう思わせた。血色の良い小麦色の肌も彼を貴族のイメージから欠け離している。本家本元の貴族のようなゼロとは一緒に居る事さえ疑わしい。しかし、そんな彼が前線に立つことにより士気が上昇していることも事実で、平民たちから好かれていることも事実である。国を助けることの出来る人物がすでにいる、というのは国の強みで、国の地盤を固める要素でもある。
 そしてゼロは次の戦いの際に、南の魔法小隊五個、西の虎狼騎士を八名撃破という、輝かしい戦果を記録した。普通、小隊一個を一人で撃破すれば栄誉勲章ものである。まして、ゼロは元々、虎狼騎士団の一員だったのだ。その彼が躊躇いもなく元同胞を倒した、と聞けば国民も彼を信用するというものだ。
 こうして、ゼロは北でも絶大な力を示し、絶大な国王からの信頼、国からの信頼、国民からの人気を手にしたのだ。
 今まで彼が倒してきた敵軍の総人数は207人、小隊数に換算するとだいたい52個分である。これまで北の英傑と呼ばれていた男、ルーファス・コースティルが倒した敵人数は、17年間で386人なのだから、その驚異的な実力は神がかり的である。故についた別名が、“死神”である。
 そして今日もまた、出撃の警報の鐘の音が鳴った。

「ゼロ!行くぜ!!」
 快活な、耳に良い声が響いた。そして声の主は、その声に相応しく爽やか、な人物ではなかった。野獣のような暑苦しい容姿が、彼の生き様全てを見せている。冷え切ったようなゼロとは全くの正反対。
「シューマ、分かってるよ。もう少し待ってくれ」
 凛とした、透き通るような美声である。まだ完全に声変わりしていないのか、少し高めの声だ。
「早くしねぇと、敵どもが逃げてくぜ!」
「ハイハイ。じゃあ、行きますか……」
 ゼロが準備を終え、シューマの横に並んだ。長身でがっちりした男臭い雰囲気のシューマの横にゼロが並ぶと、頭一つ分程の差がある。195センチのシューマと、168センチのゼロの差が、ゼロを貴族の令嬢に見せていた。黒一色装備のゼロもだが、シューマも動きやすい軽鎧で、身体の急所である部分しか守られていない。危なっかしいことこの上ない二人である。
 二人が足早に戦場へ向かう。もっと気苦しく、重々しい雰囲気こそ、戦い前に相応しい気もするが、二人には緊張感の欠片もなかった。

「おぉ♪やってるやってる!!さぁ、ゼロ行こうぜ!今日こそオレが多く倒してやるぜ!!」
 シューマが駆け足で戦場に向かい、得物の大剣を振るい、敵兵を薙ぎ倒す。身長195の彼の振う剣は、長いリーチと合い重なって3メートルくらいの範囲に届くのだから、避けるのは困難で、新米兵などはいとも簡単に殺られるのが常である。不運にも、巻き込まれる味方もいるぐらいである。
―――相変わらず乱雑というか……猪突猛進をそのまま表した戦いだな……。
ゼロが苦笑する。
「シューマ!突出しすぎるなよ!」
 そう言い、ゼロも敵陣へと向かった。
 右手に持った黒刀が舞う度に、鮮血が飛び交う。少しずつだが、ゼロの戦闘服、鎧が赤の混ざった色となっていく。
 一人、また一人と南西連合軍兵が倒れていく。速く、優美で、華麗な死の舞。死神の鎌の代わりの黒刀が、死へと誘う。シューマの大剣とゼロの刀の奏でる死の旋律が、戦場に響いていた。
「余裕余裕!弱すぎるぜ!!手前等!!もっと骨のある奴はいねぇのかよ!!?」
 シューマが叫ぶ。その叫びを聞いてかは分からないが、敵兵は慄き、逃げ始めた。
―――ん……?おかしいな……撤退が早すぎる……。ここまで引き際……を徹底するものか……?もしや、この采配を振るっているのは……親父か……?!
 ゼロに、戦慄の予感が走った。





「シューマ!これだけ圧せば十分だ。一旦退いて軍を整えよう!!」
 ゼロがシューマに叫んだ。当の本人は聞こえていないのか無視して追撃しようと思ってか、単身敵陣に斬り込んで行く。それは肉食獣の狩りと似た光景だった。
「シューマ!!」
 ゼロの叫びも虚しくシューマの姿が敵陣の中に消えた。熱中するとほかのことに頭が回らなくなる猪突猛進の性格が仇となった。
 ゼロは付近にいたシューマの小隊員三名に彼を追うよう命じると本隊の待つ拠点へと引き上げた。薄情、ともとれる行動だが戦争は勝ってこそ意味があるのだ。負ければ終わりだ。北の国民とシューマは天秤にかけることなど出来はしない。苦渋の選択であった。
 ゼロとゼロの小隊員三名が引き上げて行く。
ゼロの足取りは、どこか重かった……。

「おぉ!ゼロではないか。どうした?」
 北軍戦闘部隊作戦司令官ナフト・ユーフォールがゼロに尋ねた。彼は正確で尚且つ確実・有効な作戦を考えうることの出来る天才だった。性格がそのまま姿に写し出されるように、彼は線の細い穏和な人物だ。だが、敵と相対したとき、彼は鬼となる。それが由来で付けられた別名は、ダブルフェイス、である。ゼロの、敵に回したくない男の一人である。
「シューマが単騎で敵陣に突撃しました。俺は一応止めたんですけどね」
「ふむ……だがいつも通りではないのか?」
「……憶測の域は出ませんが、此度の戦いは親父が……いえ、西の英雄ウォービル・アリオーシュが指揮しているように思われます」
 ゼロは慎重に告げた。ナフトは少し驚いたがすぐにいつもの冷静な表情に戻った。
「……その理由は?」
「第一の理由に、敵軍に虎狼騎士の姿が全く見当たりませんでした。きっと、突撃してきた敵を少しずつ、そして確実に、倒すための作戦です。そして二つ目は、引き際の良さです。あまりにも手ごたえがなく、すぐに撤退を始めました。これは、油断させ勢いを付けさせたところを奇襲するためだと思われます」
 ゼロは丁寧に説明した。ナフトは、全て理解したように神妙に肯いた。
「ならば、その旨を全軍に伝え、全軍で総力戦にするしかあるまい。そうであろう?ゼロ」
 ゼロはナフトに軽く笑顔を作った。
「流石。その通りです。北一の策略家の名は伊達ではありませんね」
「ふっ。言うな。よし!!全軍!敵本陣に斬り込むぞ!!!敵は虎狼騎士団とは言えこちらにはゼロがいる!臆することはない!!北のアイアンナイツの力を、見せつけよ!!!全軍!!進めぇぇぇぇ!!!!!」
 ナフトの指示で、全軍が突撃を開始した。それはさしずめ、人の波、であった。父対子、壮大な親子対決が、始まろうとしている……。

「ちっ!調子に乗って突っ込みすぎちまったか……。ゼロともはぐれちまったし、もしかしてもう西の領内なのか……?……おっ!ロール!スピール!チェール!お前ら無事だったのかぁ♪」
 シューマは自分の小隊員の顔を見て安堵の表情になった。ロールは寡黙な美青年で、21歳である。幾度となくシューマの危機を救っているデルトマウス家の旧臣である。スピールは14歳の少年で、シューマの世話係のような小姓である。チェールは幼い時にデルトマウス家に拾ってもらった少女で、今では北一の弓術士である。無論、みなシューマのことを大事に思っている。
「シューマ様!ゼロ様の忠告も聞かずに何先走っているのです!?一歩間違えば死んでいたんですよ?……まったく……僕たちの気も知らないで……」
「あ~悪かった悪かった!オレが悪かったから、泣くなよ?スピール……」
 シューマはまだ小さいスピールを慰めた。
「ゼロ様、呆れていましたよ?でも、シューマ様のことを追ってくれと頼まれたのもゼロ様なのですがね」
「若……一度引きましょう……」
 チェールと、ロールがそれぞれの言葉をシューマに言った。
 シューマは肯いた。
「あぁ、戻るか……といきたいところだが、囲まれちまったみてぇだな……。三小隊分か……。ロール!後ろ任せた!!チェール!援護を頼む!!スピール!死ぬな!!」
 気配で読んだシューマがそれぞれに指示を送る。的確かつ、早い対処。三人も了解と肯いた。
 しかし、最大の誤算は、それが西の虎狼騎士団二個小隊分と、南のフィートフォト家の魔法騎士団一個小隊分だったということだった。
 ゼロたち本隊は、まだ到着せず、シューマの危機に気付いてもいなかった……。





北の精鋭アイアンナイツと、一般兵一万二千が行軍している。ほとんど音はたっていない。静かに、冷静に、勝利を手にするための訓練の賜物である。その最前線を、ゼロと、元北の英傑ルーファス・コースティルが務めていた。ルーファスは当然のことながらゼロを快く思ってはいない。彼の存在がルーファスの存在をただの腕利きの戦士としてしまったのだ。無論、実力は北では五本指に入るくらいの猛者なのだが、人相もあまりよくなく、国民の支持は低かった。ゼロは、というと、実際あまりルーファスがどうこうとかは考えたりしたことはない。ナフトと違い敵に回ってもさして脅威、という理由でもないからだ。
「死神……シューマは無事なのか?」
 ルーファスが低い声で尋ねた。死神、のあたりに怨みの感情がこもっている。
「たぶんまだ無事……ですね。確証はありませんが」
 ゼロはルーファスの顔さえ見ずに答えた。そんなのは本人以外誰も分からないだろ?という感じである。
 実際、他人が無事なように見えても、強がりや、やせ我慢、迷惑をかける理由にはいかないから、などといって平静を装う者もいる。死よりも、自分のプライドや、忠誠を貫くのである。シューマも、プライドや忠誠に尽くすタイプであるから、ゼロも少々不安ではあった。
「……死神……お前はシューマ救出に向かえ……。ナフト司令官には、俺から言っておく。前線は俺が引き受ける。今シューマを失っては北の勝利が見えなくなってしまうからな。心配はいらん。だが、絶対に救出を遂げろ」
 ルーファスは、ゼロにシューマ救出を託した。ゼロは、その言葉を聞き、秘密裏に前線から離れ、シューマが行った方向へと走り始めた。
―――くくく……やはりまだまだ青いな……。勝手に救出頑張るんだな。まぁ、あの若造も貴様も、無事じゃあ済むまい。シューマが死ねばゼロ、貴様の戦歴にも傷が付く。そこでまた俺が英傑に戻るのさ。しっかり俺の手の内で戦ってくれよ……。
 ルーファスの手の内で踊らされるゼロとシューマ。二人はまだそのことに、気付いても、気付く気配さえもなかった……。

 ゼロは一人西と北の境に辺りを走っていた。地区の境目には、木々がたくさん生い茂っている。草の丈も高いので、足場も悪い。スピードがあまり出ないのだ。
―――シューマ……死ぬな……!頼む……死なないでくれ……!!
 ゼロは走り続けた。

「くっ!やるじゃねえか!虎狼騎士さんよ。この北のライオン、シューマ・デルトマウスを苦戦させるなんてよ!!」
 シューマたちは苦戦を強いられていた。最初は人数的に12対4。だがスピールは戦力外のため12対3のようなものだった。そして現在は9対3。魔法騎士団を3人倒したのだ。
「若……。こやつ等は、虎狼騎士団内でも精鋭部隊の筈です。……私がなんとか退路を作ります……。その隙にお逃げください……」
 ロールがそう言った。つまり、自分が死んでもシューマたちは逃げろ、というのである。実際、かなり難しいことであろう。だが、魔法騎士3人のうち2人はロールが倒したのである。彼以外の誰にも務めることはできないだろう。
「……ヤダ……」
 シューマはそう言った。なんとも私情を挟んだ言葉である。生きねばならない状況で、生きるための作戦を棄てたのだ。
「シューマ様!私たちの代役などたくさんおります!しかし、シューマ様はお一人なのですよ!?私情を挟まないでください!」
「そうです!チェールさんの言う通りですよ!?」
 三人が説得を試みるもシューマは頑固だった。
「オレは……今まで何度もお前等に助けてもらった。だから、オレが今以上成長するにはここはオレの力で切り抜けなくちゃいけねえんだ!!」
 もう、三人はなにも言わなかった。こうなってしまってはどうしようもない。
―――全く、貴方という人は……。
「……若……生き抜きましょう……」
「シューマ様。帰ったらお父上様に報告しますからね」
「シューマ様。戻ったら一から兵法を学び直してもらいますよ」
 三人が三人、シューマに告げる。シューマは大きく頷いた。
「よっしゃ!オレたちは、勝つぜ!!」
 シューマがそう叫んだ。
「やっと作戦会議終了かい?まぁ、君たちの死に変わりはないけどさ」
「そうつぁどうだか?」
「変わらないよ。本来ならボクたちはゼロを連れ戻すために来た部隊なんだから。あっ、申し遅れたね。ボクは虎狼騎士団第七小隊隊長ファル・ヘルティムだよ」
 シューマ、スピール、チェールはピンとこなかったらしいが、ロールに戦慄が走った。
「若……第七小隊が相手では……かなり厳しいですよ……」
 普段シューマたちが戦っている虎狼騎士は全て第十小隊以上の数の部隊なのだ。だが、第一から第九までの小隊は明らかに実力が異なる。一個小隊で戦況を揺さぶることもできるという。
「へっ!どう見たってオレと同じか下のガキに、負ける理由なんてねえぜ!臆することはない!」
「馬鹿はいいねぇ。気楽で。でも……現実実力の違いってのは存在するし、けっこう残酷なものだよ……?」
 ファルの姿が消えた。いや、眼で追いつけないほど速く動いたのだ。その標的は、スピールだった。
 悲鳴もなにも無しにその場に倒れる。もはや生きているスピールはなく、もう二度と動かない、以前は“生きていた”スピールとなってしまった。
「ね?」
「なッ!!!……てめぇ!!殺す!!!」
 シューマが動いた。大剣を恐ろしい速さで振り回す。精神が肉体を凌駕したのだ。それは正に野獣だった。美少年のファルがそれを紙一重のところでかわし続ける。余裕の表情のようだ。
「……ふぅん。この程度か……。こっちはボク以外手を出さないから、殺してみなよ」
 ファルがそう言う。流石にロールとチェールも怒りの頂点にきた。シューマの小隊員になってから二年。苦楽を共にしたスピールの仇討ちである。
 だが、シューマの大剣が足を狙い、ロールの斧がファルの顔を狙う連携も、着地前を狙ったチェールの弓も、一つとしてファルに掠りさえしなかった。
 虎狼騎士になるために血を吐くような訓練を積んだ者と、貴族の子として趣味の域で訓練した者の違いである。
「遅すぎるんだよ……。そんな奴らとゼロが組んでいたなんて……彼を汚さないでくれ……。ゼロは西に必要な者なんだ。皆がゼロの帰りを待っている……。だから、君たちには死んでもらう!」
 ファルの曲刀が舞った。左右上下と、生きているかのように刀が踊る。それは、シューマを狙ったものだったが、ロールが壁になった。鮮血が宙を舞う。ロールは、その場に倒れ伏した。名誉の死、シューマを護って死ねたのだから本望の死であろう。
「立派な忠義だね。でも、こんどは邪魔されないためにも、先にそこの女から死んでもらおうかな」
 ファルの刀がチェールを襲う。チェールには反応することさえ出来なかった。
 だが。
 ガキィィィィン!!
 シューマの大剣が、彼女の命を繋ぎ止めた。
「黙って殺させるほど、落ちこぼれちゃいねえんだよ!!」
 シューマは鬼の形相だった。近寄れない、触っただけで殺されそうな雰囲気がある。
ファルのイラつきが極限に達した。
「……100%でいくよ……」
 ファルが呟いた。刹那、チェールが倒れる。最早動くこともない屍と化した。シューマには、反応さえ出来なかった。
大事な仲間を3人も失い、シューマは悔しさに涙した。
「……くしょう……!!畜生……!!殺れよ!もう、オレに勝ち目はねぇ……殺れ……」
 シューマが俯いた。声が、死んでいる。
「……人間、諦めが肝心って言うけど、エルフもまた然りだね」
 ファルが刀を振り上げ……振り下ろした。
 瞬間!シューマが左腕を上げ、曲刀を一瞬止める。だが、その一瞬で十分だった。
「くっ!!」
 その一瞬でシューマの大剣はファルの腹部を貫通し、鮮血が零れ落ちた。だが、シューマの左腕からも、いや、左腕のあった部分、切断面からも多量の血が流れ出している。生と死を賭けた一瞬の攻防。一寸の迷いも許されない攻防は、相打ちだった。
「……窮鼠……猫を噛む……か……」
 ファルが無理やり下がり大剣から抜ける。また多量の血が流れた。シューマの大剣は、力なく地に落ちた。
「もう放って置いても死ぬだろう。……撤退だ」
 ファルたちが引き上げて行く。シューマはバタッ、と倒れた。最早、風前の灯火のような状態である。
「へへ……一撃……くれてやった……ゼ……」

 ゼロは、倒れているシューマと、もはや屍のシューマの小隊員三人を見つけた。全力でシューマの下に駆け寄る。
「シューマ……?シューマ!!」
 ゼロが抱き上げた。だが、体格の良いシューマをゼロではしっかり持つことは出来ない。
「ゼロ……か……?わりい……オレ……死ぬわ……。ははは……わりいな……マジ……で。一緒に……統一……するんだ……たのに……。くしょう……く……しょう……。わりい……ほんとに……わりい……な……」
 ゼロの眼でも、もうシューマが助かる見込みは無いように見えた。出血が多すぎる。ただ、最大の友の言葉を、しっかりと聞き、忘れないでいることしかゼロには出来なかった。
「……ゼロ……お前は……西……に……戻れ……。やっぱ……家族……のとこ……もどれ……よ……。北の……心配は……いらねえ……。西なんざ……余裕よ……余裕……へへへ……。お前は……アリ……オーシュ……だ。やっぱ……ここにいちゃ……いけねぇよ……。ヤベ……もう……何も見えねぇや……。オレ……最後に……お前に会えて……よか……た……」
 そこでシューマは息絶えた。ゼロの眼に涙が溢れていた。最強の剣士でも、哀しいものは哀しいのだ。留まることなく溢れる涙を、ゼロには止めることもできなかった……。
 シューマ・デルトマウス、以下三名。虎狼騎士団との戦闘により、戦死。北の民全員が深い哀しみを負うこととなった。
 ゼロは、西にある自分の家へと重い足を進めていた。
 戦いは、永久の別れを呼ぶものである…………。












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