カレーうどん


あなたは長い睫毛を震わせながら、瞼をそっと閉じ、ぎこちない指使いで、私をやさしく、そのやわらかな唇へといざなう。
溜息ともつかない息遣いから、意を決したように硬くした唇で、私を捉えると上顎の皺壁に擦り付けるように、一気に喉の奥へと導く。
うなじに薄っすら汗を浮かべ、眉根にかるく皺を寄せ、あなたは少し苦しそう。
白い喉の動きが私をこれ以上ないほど熱くさせ、やけどをさせてしまいそう。
でも、私はあなたの成すがまま。ときにやさしく、ときに激しく。
やがて、終艶の時を迎える。
あなたの紅色の唇に、私との戯れの香りと飛沫を残して・・・。


カレーうどん

「さくらちゃん、もっと箸を上手に使わないと、うどんが跳ねて、カレールーが服に飛ぶよ。うどんをあまり高く上げないで、どんぶりを手元に置かず、口の方をどんぶりに近づけた方が安全だよ。」

「やだ、そんな格好。普段どんぶりは手に持って云々・・・とか言ってるくせに、全然違うじゃない。粋じゃないじゃん!!」

「仕方ないでしょう、カレールーの跳ね一滴のせいで、クリーニングに出すのは嫌だし、染みが取れないと、スーツが着れなくなっちゃうんだよ。」

「だから~、そんな事言うのが、もう粋じゃないの!セコイ!やっとお洒落なへ~ちゃんに戻ったと思ったけど、まだ、心まではお洒落じゃないわね。そんなこと気にするなら、男性だって、ハンカチを膝に掛けるとか、ルーが飛んでもいい格好してらっしゃいよ。」
「周りのお客さん、背広姿の人イッパイ居るけど、みんなそんな細かい事気にして食べてないよ。」

「さくらちゃん、だって、周りの客の殆どは、もう酔っ払って、どうにでもなれって感じの客ばっかりじゃない。あの人なんて、食べないで、箸、どんぶりの中に立てて、それにもたれて寝ちゃってるよ。」

「確かに、金曜の深夜に、錦で素面でカレーうどん食べてるサラリーマンって少ないわね。面白いのは、ここのうどん錦は男性が多くて、龍や百寿庵はアフターや着物姿のお姉さん同士も結構いるの。反対に若鯱屋はキャバ系の若いおね~ちゃんとおに~ちゃんのカップルが多いわね。」

「錦3の中に、何軒カレーうどんを食べさせてくれるお店があるんだろう?これはおじさんにとっては、大きな研究課題だな。でさ、今のカレーうどんって、ルーが小麦粉系のお店が多いけど、昔は、お蕎麦屋さんは片栗粉でトロミをつけて、透明感のあるカレールーが多かった気がするんだけど。ところで、カレーそばってあまり食べないよね?」

「そばって細いから、片栗粉のトロミの方が、麺に絡むルーの量が少ないし、くどくないからだと思うわ。細いスパにはオリーブオイルやサッパリのソースが合って、太いスパには濃いソースが合うのと同じよ。だから、うどんは太いから小麦粉系のルーが合うのよ。それから、おそばのカレーって、麺がすぐダラダラになっちゃうから好きじゃないの。やっぱり、さくらはもっちり極太麺のカレーうどんが好きだわ。」

「ただ、今夜、初めてへ~ちゃんとアフターしてるけど。普通アフターはね、お寿司つまみに行ったり、オカマバーで騒いだり、ワイン飲みに行って、まだ小腹が空いてたら、カレーうどんやおそばを食べに行くのね。お店終わって、最初からカレーうどんは食べに来ないの。まさか、これで帰るって訳じゃないわよね?」

「え~っ!!そうなの?折角、奥さんと仲直りできたのに。これで、また、明るくなる迄飲んでたら危険だよ~!!もう、おじさん帰らないと。奥さんが玄関に正座していたら怖いよ~!!」

「もう、本当に情けない男になっちゃったわね・・・。飲む時はとことん飲む!!仕事する時は、他事考えず目イッパイ働く!!奥さん大事にする時は、もう1回惚れさせるくらい大事にするの!!格好だけ元に戻っても中身は全然イケテナイ!!馬鹿っ!!こんなことなら、家で日清の若鯱屋カレーうどんか、寿がきやの濃厚旨コクカレーうどんを食べてたほうがマシよ!!」

「マッ、待ってよ~!!さくらちゃ~ん!!ワイン付き合うから~!!アッ、ア~!!」

ガッチャ~ンッ!!

「ごめんなさ~い!!」

慌てたへ~ちゃん、食べかけのどんぶりを落としてしまいました。
周りのサラリーマンさん達のズボンと靴にカレーの汁が・・・・・。
酔いが醒めたように、自分のズボンとへ~ちゃんを何度も見直してるサラリーマンさん達。
へ~ちゃん、箸持って、突っ立ってる場合じゃないよ~!!



カレーうどんは白い麺と黄色のルーと緑のネギのコントラストが綺麗です。
カレーうどんのルーは洋風のカレーをただ薄めているのではありません。
かけ汁が重要な役割を担っています。
多くの店が節系2~3種を中心に、好みで昆布や干し椎茸を加えてお出しを取っています。
この出汁の美味さがないと、うどんを食べ終わって、ルーを飲み干すことができません。
私は頼めるなら、残りのルーをご飯に掛けて食べたいです。
牛乳を混ぜるところもありますね。これでマイルドさが加わります。

もうひとつ、大事な物が水です。
カレーうどんを頼んで、熱いお茶しか出さない店は客のことを考えていないから、私は好きになれません。
カレーを注文したら、水だろ!!って言いたいです。
きりっと冷えた美味しい水を出してくれる所は、会計の時のご馳走様の一言に感謝の気持ちが入って、少し声が大きくなってしまいます。

ただ、あの跳ねが困り物です。
今日は酔っていても、上手に食べられたと内心ほっとすると、翌朝、重たい胃袋を抱えつつ、スーツを良く見れば、あるんです!!悪魔の一滴が!!袖に、パンツに。白いシャツについてると、もう絶対白いシャツの時は食べない!と固く誓うのに、酔って、小腹が空いた時に、あの食欲中枢を鷲掴みにするカレーの香りに出会うと、抗うことができません。悲しい・・・。



玉屋 052-751-5512 覚王山参道入り口
   名古屋市千種区山門町2-47 11:30~14:30 17:00~20:45 日休
   創業大正12年の老舗、いつ行っても混んでます。片栗粉タイプです。ルーは濃い目。
油揚げ、ネギ、豚肉にシャキシャキの玉ねぎがいっぱい入っています。
   大食いの人はカレーうどんの大盛りとカツ丼の大盛りを同時に注文してみてください。その量に笑えます。残さず食べたら、ご報告ください。

山田屋 052-951-7789
    名古屋市東区東外堀町10 10:00~20:00 日・祝休
    お店の外も中も、昔のまま、そういえば子供の頃こんな感じのうどん屋さんが近くに在ったな~と思えるお店。
    ネギ、豚肉のみの潔さ。片栗粉のとろみにかつお風味が気持ちよく、どんぶりの底まで見える透明感。うどんは赤ちゃんでも食べられそうな柔さ。カレーうどんの始まりの形がここに在ります。

うどん錦 052-951-1789
     錦3丁目で遊んでいて、ここを知らない人はいないでしょう。
     柔らかめだけど、歯を押し返すもちもち感の強い麺。マイルドな辛さのルーとの相性は抜群で、深夜のサラリーマンの帰宅前の集合場所


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