日記

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Sell in May and Go Away



ウォール街に"Sell in May and Go Away"(5月に売ってどこかへ行け)という格言がある。米国株式は例年6月から10月にかけてのパフォーマンスが悪いので、いっその事5月に売って暫くお休みしましょうという意味である。一見偶然の出来事のように見えるが、実はこの傾向は統計的にもはっきりと裏付けられている。

SP500指数でA. 10月末から5月末(7ヶ月)、とB. 5月末から10月末(5ヶ月)のパフォーマンスを比べてみた。すると過去50年間平均でA. は+7.3%なのに対しB. は+1.0%となっており、50年間のリターンの殆どは10月末から5月末の間に達成されている事が分かる。過去20年間を取っても A. +10.7%、B. +0.2%、過去10年間を取ってもA. +8.0%、B. +0.5%と同じような傾向が表れる。さらに過去50年間のどの10年間を取ってもこの傾向は変わらず、"Sell in May and Go Away"はウォール街関係者にとって無視できない格言となっている。

まず例年9月から10月末にかけて安くなる傾向があるのはミューチュアル・ファンドの決算が10月末に集中している事でほぼ説明がつく(詳細は昨年9/2号参照)。6月から8月は夏休みシーズンでもともとそれほど動かない事が多いのでこの5ヶ月全体のパフォーマンスも冴えないものになってしまうという事だろう。

それでは何故5月末に高くなる傾向があるのか?実はこれもミューチュアル・ファンドの動向で、ある程度説明できる。アメリカでは例年4月15日が確定申告の締切日であるが、4月15日までに個人退職年金の積み立てを行えばその金額を前年の所得から控除できる事になっている(額は人によって異なる)。退職金の運用先がミューチュアル・ファンドである必要はないが、アメリカ人は今でも退職金のかなりの部分をミューチュアル・ファンドで運用しているというのが現状である。

またボーナスの支給時期も影響していると言われる。アメリカでは日本と違って通常ボーナスは年に一回しか支払われない。12月末決算の会社が人事考課を終えて実際にボーナスを支給するのは12月から3月の間。退職金の積み立てとも相俟ってこのような資金が駆け込み的にミューチュアル・ファンドに流入し、その資金が5月くらいに市場に出てきて高値を付けるというパターンが多いという事であろう。こうやって5月末までには高値を付ける可能性が高いので、5月に売ってどこかへ行けというのがこの格言の教えである。

さて問題は今年はどうかという事である。結論から申し上げると今回の上昇局面は5月末を越える可能性が高いと思う。当コーナーでも、イラク戦争という不透明要因が払拭されれば、これまで3年間米国株式相場を覆ってきた「負のスパイラル」が逆転する可能性があると申し上げてきた。3月の安値がそのスタート地点であったとすれば、今回の上昇は最近の上昇局面でも長い方に当たる3ヶ月強となる可能性が高いと考えている。

この3年間、米国株式の負のスパイラルを招いてきた要因は大きく3つ、バブル崩壊、地政学的リスク、不正会計問題が挙げられる。バブル崩壊の影響を最も強く受けたのはハイテク業界であるが、ハイテクセクターが7割弱を占めるナスダック総合指数は既に昨年6月以来の1500ポイントを回復している。地政学的リスクはイラクだけではないが、イラクが最も大きなリスクであった事は間違いない。不正会計問題は今でも散発的には見られるが、社債のスプレッドを見ている限りワールドコム粉飾決算発覚以前の正常な状態に戻ってきている。

現在の相場水準はこのような状況の変化をまだ織り込んでいないように見える。ベア相場があまりに長く続いたものだから、投資家も慎重なのであろう。冴えない経済指標の影響もあって、最近の相場も石橋をたたいて渡るような上昇ペースである。しかし今後ミューチュアル・ファンドに流入した資金が市場に出てくるに従って次第に買い安心感が出てくるのではないかと見ている。即ち今回の上昇相場はまだ若いので、今年に限っては「5月に売ってどこかに行」ってしまうのはもったいないと思う。




堀古 英司
Horiko Capital Management LLC


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