べんとう屋のつぶやき

 



休息



ミュージカルも終わってまた慌しい日常へと戻ってゆく。
舞台は体力的にきついこともあったし、疲れすぎて食事も喉を通らないことも
あった。けれど、毎日規則正しく流れてゆきそれなりのリズムが出来ていた。

 舞台が終わって半日、1日のオフは貰ったもののスケジュール的にはたい
してゆっくり出来なかった。 それでも変に時間があっても色々な事を考えてしまうよりは、
仕事に忙殺されている方が余計な事を考えなくて済むから
精神的には良かったのかもしれない。
しかし、舞台が終わったことで必然的に2人での仕事も増えてゆくのは確かな事。
新曲の発売に向けて各メディアでのプロモーション。雑誌各誌のインタビュー、
TV出演、離れていた時間が長くて少しだけ息苦しくなる。
息苦しい・・というよりは隣にいる人の体温を感じてドキドキしてしまうだけなのだが。

 少し早めに到着した収録スタジオ。
俯きがちに楽屋へと向かう。するとそこからギターの音が流れているのが聞こえて来た。
「ガチャリ」
静にドアを開ける
壁に凭れるようにして座りギターを抱えてる剛の姿があった。
手を止めずに顔を上げるといつものように少しぶっきらぼうに挨拶をしてくる。
「おはようさん。今日は早いねんな」
「-ん・・おはよ。」
「どないや?オフ貰えたんか?」
「ないわそんなん。半日や1日じゃゆっくりやすまれへんて」
言いながら楽屋に上がりこむと隅に積まれている座布団を一枚手にとると横になる。
「アナタは仕事好きですからねぇ~。眠るんやったらギター止めとくか?」
「ええよ、そのまんまで。子守唄代わりに聴いたるわ」
そういってる間にも光一は眠る体制を整え、ゆっくりと目を瞑る。
「疲れてる光一さんの為にむっちゃよう寝れる歌うたったる」
静かにギターを弾き始める剛の触れてなくても分かる体温を感じながら
つかの間の眠りに落ちてゆく。

 舞台中は帰ってくると一秒でも早く眠りたいと体は要求するけど、
どこか、そう、頭の中は妙に冴えていたりしてなかなか寝付けないこともあった。
だけど舞台が終わって剛の傍でこうやって横になってると本当に疲れが取れる気がする。
気がするって言うのは、リラックスしてるんだけどまた別の意味で落ち着かなかったりもするんだよなぁ~
と、ギターの音を聴きがならつらつらと考えていたが、
やはり剛の傍は何をおいても落ち付ける場所で、いつしか寝息を立てていた。

 いつしか眠ってしまった光一の寝顔を見ながらギターの音はやさしく包むように流れてゆく。
「いくら光一が仕事好きだからっていうたって、
あんなん長い間舞台やったあとくらいは休ましたってええんとちゃうか?」
ここにはいない社長にむかって呟く。
「それに・・・顔もこんなん小さくなってもうて、もうちっとふっくらしてる方がかわいいんやけどな」
聞こえないことをいい事にいろいろと呟く。
「光ちゃんも寝てる時くらいこんなコワ~な顔せんといてもええのになぁ~
でも、ホントにかーいい寝顔を知っとるのはオレだけや。んふっ」

剛の奏でるギターの音と呟きでつかの間の休息は流れていく。







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