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04話 【蜃気楼】
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04話 (潮) 【蜃気楼】―シンキロウ―
___01
残念ながら小売業に携わる誰しもが顧客対応を完璧にこなせるわけではない。
事務方に就けば、売場に一歩も踏み入れない日だってある。
お客様と会話をしないのは致命的だ。「習うより慣れろ」、この能力が全く育たないのだから。
お陰で、何年経ってもまともに接客できない社員だっている。――私、潮透子のことだ。
新入社員になりたての頃、あんなに叩き込まれたマニュアルも、多様化するニーズの前では通用しなくなってしまっている。
そんな、いつまでたっても若葉マークが取れない入社6年目のPOSオペレーターがお客様の対応をしたらどうなるのか?
答えは1つ。ただの足手纏いにしかならない。
___02
「ねぇ店員さん。この棚にあったはずのカンピョウがないのよ。どこに行っちゃったの?」
カンピョウ。ユウガオの果実をひも状にして乾燥させた食品。主要な生産地は栃木県。国内生産の8割を占めている。
(記憶では7番通路にあったはずだけど……。おかしいな、どこだっけ?)
お客様の仰る通り、干瓢があった場所にはいま、真っ赤な鷹の爪の瓶が置かれている。
「少々お待ち下さいね」
不安げな顔で「えぇ」と頷くお客様のためにも、早々に干瓢を見付けてさしあげなければ。
そうは思っても、どの棚を見ても目当ての商品は見当たらない。
じれったくなったのか、それまでハラハラと見守っていたお客様は、「もういいわよ!」と腹を立て始めた。
(しまった、やっちゃった……!)
この展開。私が最も恐れていたことだった。
「も、申し訳ありません。ただいま分かる者に訊いてまいりますので、もうしばらくお待ちを――」
「どれだけ待たせるのよ! もういいから」
「お客様」
背後から聴こえてきた涼やかな男の声に、お客様と私がそちらを見る。
(……!! うわ~、やだやだ! やっぱりこいつか!)
「カンピョウでしたら8番通路、あちらの棚に移動しました。お待たせして大変申し訳ございません」
よりによって会いたくない社員がそこにいた。入社3年目。若くしてドライ食品売り場のホープである不破犬君だ。
スラリとした肢体、清潔感を漂わせ艶やかさを放つ黒髪、眼鏡フレームから覗くシャープな瞳。
眉の手入れも悔しいくらい上手で、女の私から見てもその整ったパーツが恨めしい。
8番通路の方角を手を挙げて示してみせる。その手首にはシチズンの腕時計が光っていた。
「あら、ありがとう。助かったわ」
お客様は彼の容貌と接客態度にすっかりご心酔のようだ。私など歯牙にもかけていない様子。こちらとしては願ってもいないけれど。
(助かった……。でも――不破犬君! こいつとはあまり接触したくないのよね。隙を見つけてさっさと退散すべしだわ)
助けてもらったことに対しては、心の底から感謝している。でもそれはそれ、これはこれだ。
左足を一歩だけ下げてみる。静かにしたつもりだったのに、不破犬君はすかさず私に鋭い視線を投げかけてきた。
(うぐ、バレてる)
仕方がないのでその場でスタンバイすることにする。役に立たない私がここに留まっていたってどうしようもないのに、と思いながら。
一方不破犬君はというと、再び極上の微笑みを作り、お客様の方に向き直っていた。
「お客様、他に必要なものはございますか?」
「ピクルスの瓶はどこかしら。案内して下さる?」
「ピクルスですね。こちらです」
最上のおもてなし係、不破犬君が案内役を買って出てくれたお陰で、私はやっとお役御免だ。
やったー! と心の中で快哉を叫んでいると、すれ違いざま、彼は念を押してきた。
「潮さん、POSルームで待っててくださいね」
勿論これも、私にだけ聞こえる声で。
___03
案内を終えた不破犬君は言葉通り私の詰め所であるPOSルームへとやって来た。
パスワード制のドアも、この人物の前では意味をなさない。彼はこの部屋への出入りを許されているからだ。
そんな事実を恨めしく思いながら、私はいま、彼の説教をこんこんと受け止めていたのだった。
「潮さん。乾物と調味料の棚替についての本部通達、まだ読んでいないんですか?」
「誰も見せてくれないし、そんな紙があったこと自体、今初めて知ったわよ」
「いくらPOS担当だからって、全く関係ないわけじゃないんですよ。少しは他部門のことも気に掛けて下さい。
お客様は制服を着ている全ての従業員が店内のあらゆることに精通しているとお思いなんですから」
事務所付けのPOSオペレーター、それが私の職務だ。
POSとは販売時点情報管理のこと。主な仕事は店で取り扱う全ての商品の登録、値段の入力作業。
ひたすらPCのディスプレイを睨み、テンキーを叩き続けなければならない私に、売り場へ行く機会などそうそうないのが現状だ。
「売り場に行かない日が多いから、売り場の棚を全部覚えるなんてムリよ」
「せめて買い物をして覚えたる努力をしてみては? 潮さん、僕より先に岐阜店に配属されたんでしょう?」
後輩の言葉はもっともで、ここまで言われてしまうと先輩としての立場がない。
「……分かったわよ、覚えるわよ」
居心地が悪かった私は不破犬君から離れ、売り場へ赴く。
広告に掲載された商品の値段を入力するため珈琲缶のJANコードを調べに行く、いい機会だった。
売り場へと通じる最も大事な門、バックヤードの扉を開ける。
笑みをたたえ、3歩進んだ位置で斜め45度のお辞儀。すれ違う客にいらっしゃいませと声を掛けながら紅茶珈琲コーナーへ向かう。
辿り着いた先には棚を埋め尽くす数多の商品たち。その景色は圧巻だ。並べられた缶のラベルを、私の目が滑る。
「レギュラーコーヒーは、と」
棚の高い位置から順に調べていると、背後に人の気配を感じた。その瞬間、身体に何かが触れた。
それが手だと理解するのに時間がかかった。だって、触られた場所が場所だったから。手はあろうことか私の下半身を触っていた。
「!?」
「ねーちゃん、いいケツしてんな」
ネーチャン、イイケツシテンナ? 今この人そう言った?
振り返れば、三十路らしき男がニヤニヤと下卑た笑みを浮かべて私を見ていた。
「い、ら、っしゃいませおきゃくさま」
「んー? いらっしゃったぜー」
辺りを見回してみたものの、人の気配はない。
「あの、お客様。何かお探しでしょうか」
「何も探してなんかいねーよ」
「え、でもあの……お客様、失礼ですが、手が……」
「手が、なんだ?」
「えーっと……あの……困ります、本当に……。手をですね……」
放して下さい。
そう言いたかったのに羞恥心と恐怖が入り混じって頭が真っ白になってしまい、口ごもってしまった。
顔も耳も真っ赤だろう。お願い助けて。でも嫌だ、こんな姿、誰にも見られたくない。
こんな時、あの人が居てくれたら――。こんな時にこそ居て欲しいあの人。
「い、……さん……っ」
「ぁあ?」
男は、思わず口から洩れた私の言葉に反応し、その意味を考えていたみたいだった。
「ははぁん。なるほど、ソイツがあんたのナイトの名前か」
「!」
「残念だったなぁ、俺みたいなのに目ェ付けられてよ?」
耳元に男の吐息が掛かる。呼気は生温かく、嫌悪感を抱かずにはいられない。
「呼んでやれよ。ソイツの名前呼んでやれ。きっと息せき切ってやって来るぜ、あんたのナイトとやらがさ」
本当に? 私が名前を呼べば、彼は来てくれるの?
だったら来て。今すぐここへ来て。私を助けて。あの時のように。私の大切な――。
「い……」
「お客様」
きっとデジャヴュに違いない。
背後から掛けられた声はさっきと全く同じ。柔らかいのに自信に満ちた声だった。
笑みを浮かべた入社3年目、期待のホープ。『いぬくん』と書いて『いぬき』と読む――不破犬君だ。
「お客様、そちらをお気に召されましたか」
彼は微笑みながら大きな歩幅で近付いて来る。
「いやはやお目が高い。しかし申し訳ありませんが彼女は商品ではありませんので、その手をお放し頂けると幸いです」
「俺はこれが気に入ったんだがなぁ~」
痴漢はあろうことか手に力を込めてくる。まずい。行為がエスカレートしているような気がする……。
と、次の瞬間お尻を鷲掴みにされ、その乱暴さに私は顔をしかめた。お客様の神経を逆撫でしないでよ不破犬君!
カシャ。
この場にふさわしくない音に、私と痴漢が気を取られる。見れば、不破犬君がスマホを構え、写真を撮っていた。
「現行犯です」
もう一度、カシャ。その後は間髪入れずに音が続く。連写モードに切り替えたのだろうか。
「このガキ……っ!」
「ありがとうございます、手を放して下さったんですね」
カメラから発せられた音には犯罪者を狼狽させ、焦燥感を煽り、行為を抑止させる効果があったのだろう。気付けば痴漢から解放されていた。
心底安堵したものの、痴漢男の拳の行方に驚いた私は目を瞠った。
握りしめられた大きな拳が不破犬君の頭上めがけ、今にも振りおろされようとしている――。
「だ、だめっ……!」
「すみません。手加減できそうにないので御容赦を」
言うなり、痴漢の腕を掴み、不破犬君はそのまま背負い投げを決める。
受け身を取れなかった痴漢は、まともに床に叩きつけられたのか、暫くは息をするのも辛い様子だった。
何事かと周囲に人が集まり始める。私も、そして不破犬君も、この時ばかりは溜息しか出てこない。
___04
かくして痴漢男は警察所へと連行されて行った。行為が収められたスマホの画像データも警察官に譲渡済みだ。
上司に呼び出された私たちは事情説明後、満身創痍のていでPOSルームへと戻ったのだった。
「私が売り場に行くと、ろくなことがないような……」
「そうですね」
思わず漏れた私のボヤキに、ミネラルウォーターを口に含んだ不破犬君が素っ気なく賛同した。
「……」
この男には感謝している。でもなぜか私は不破犬君に対して素直になれない。出会った日からずっと。
(でも助けて貰った。それに不破犬君にとっては怒られ損だったわけで……)
良心の呵責に耐えかね、珍しくも自分から声を掛けることにした。
「さっきのあれって背負い投げだよね? 柔道経験者?」
「えぇ、まぁ」
もっと詳しい説明が続くかなと思っただけに、「えぇまぁ」だけで終わってしまった。これでは彼がどれだけ強いのか分からない。
とは言え、茶帯と黒帯どちらが上段なのかもあやふやな私だ。教えて貰ったところで「そうなんだ」としか返せないだろう。
「せっかく助けてくれたのに、青柳チーフから『もっと上手に立ち回れなかったのか』って叱られちゃったね。ごめん」
「別に」と、不破犬君はまだ素っ気ない。……謝ったのに。なに、その態度。
「もしかして、怒ってる?」
無言の視線は明らかに私をバッシングしていた。沈黙に耐え切れなくなりそうなほど長い間を置くと、不破犬君はようやく口を開いた。
「僕だってまだ大好きな潮さんの身体に触れていないのに。あの痴漢マジ最悪」
「永遠に来ないわよ、そんな日!」
「時間の問題です」
「それと人を茶化さないで! ほんとに怖かったんだから。あなたは知らないのよ、女の非力さを! 襲われるかと思っ……」
と同時に、恐怖がにじり寄る。今になって震えだす肢体。思わずその場にへたり込みそうになる足。
やばい……。やばい、どうしよう、今になって涙が出そう。駄目だってば。引っ込んで、お願いだから。
「潮さん、すみませんでした……! お願いです、泣かないで下さい」
今まで見たことのない焦り方に、彼にもこんな一面があるのかと驚く。
(……そうだ。今回は不破犬君が私を助けてくれたんだ……)
彼が来てくれなかったら、どうなっていただろう? 考えるのもおぞましい。
(少なくとも……『ナイト』は来てはくれなかった……)
泣きそうな顔を見られないように背け、私は「助けてくれてありがとう」と礼を述べた。
素直にお礼を言われるとは思わなかったのだろう。どうやらまじまじと私を見つめているようで、私はさらに困惑する。
「いえ。どう致しまして!」
弾む爽快な声に、今度は私が目を丸くして彼を見つめる番だった。
その満面の笑み。そして微かに赤みが差した頬――。……あぁ、苦手だ。
不破犬君に振り回される。こんな生活は疲れるから御免だ。
たじたじとなった私は小さく溜息をつき、さてこの部屋から一体どうやって彼を追い出そうかと使い慣れない頭をフル回転させたのだった。
改稿 2018.11.22
改稿 2025.12.09
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