長い夜


陣痛のたびにベッドサイドの夫の腕を握り締めた。そのとき彼が着ていたシャツの「Posh Boy」のタグが印象に残っている。夫にほぼ1時間ごとに時間を確認した。全然進まない…。早く子宮口開いて!でなければ、時間よ早く進んで!叫んでいた。夫は最初こそ優しかった。腰をさすってくれたり、汗を拭いてくれたり…通り一遍のことはしてくれた。しかし、ついに彼も切れそうになったのか、苦しみ弱音を吐く私の前で、忘れられない台詞を吐いてくれた
「○○たんにはお産は荷が重すぎたかな…」
そのときはガーンと思った。
私苦しみすぎ?そんなこと今言わなくたっていいじゃん!とがっかりした。でも反論する元気もなく、その後しばらくは黙って痛みに耐えた。
明け方、夫は脇でウトウトしているので隣のベッドに寝てもらった。私としては精一杯の理性で夫に睡眠を提供したのだ。
でもそれからも長かった。助産師はその後も湯たんぽを持ってきてくれたり、ベッドを整えてくれたり、優しく励ましてくれたり…脇でぐうぐう寝ている夫とは違い根気良く接してくれた。
「明日の朝から陣痛促進剤を使うことになると思うから」と言ったのに対し、私は「どうして今使うのじゃ駄目なの?」と聞いたら「こんな夜中じゃ赤ちゃんにストレスかかるでしょ」と言われた。その時はそんなものかな…と納得してしまったが(案外押しの弱い私)、後から友人に聞くと、そんなの病院の都合でしょと言われた。
私は一睡も出来ずに夜が明けていった。
人生で最も長い一夜はこうして過ぎていったのだった。
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